ケンドール空軍長官は米空軍のF-35Aに次世代戦闘機向けエンジン技術(AETP/アダプティブエンジン)統合するかどうかは手頃な価格の実現=海軍がAETP統合に同意するかにかかっていると明かした。
参考:Air Force Wants New Engine for F-35—If It’s Affordable
参考:Adding New AETP Engine to F-35 Means Air Force Alone Would Pay for It
アダプティブエンジンは米空軍のF-35A以外には提供されない、米軍以外のF-35にはF135の強化オプションが提供される
下院軍事委員会はF135の問題はP&W単独供給の体制自体に問題があるので空軍が次世代戦闘機向けにGEとP&Wが開発中だった「アダプティブエンジン(GE製XA100/P&W製XA101)」をF-35Aに統合することで競争状態を作り出すことを望んでおり、F-35ジョイント・プログラム・オフィス(JPO)のフィック中将も「F-35のアップグレードバージョン(Block4のこと)で追加される最初の3つの能力増加分は既存のエンジンでも機能するが、以降の能力増加分はエンジンの強化(発電能力や熱管理能力の向上)が伴わなければ能力を完全に引き出せない」と主張してF135改良や代替エンジンの検討を約束した。
F135の能力向上バージョンの開発かアダプティブエンジンの統合かで議論が繰り返されたが、最終的に下院軍事委員会は「アダプティブエンジンを2027年までにF-35Aへ統合するための計画を提出せよ」と2022年度の国防権限法案(下院案)に盛り込んだため空軍はアダプティブエンジン統合に動く必要が出てきたというのが前回までの話だ。

出典:GE Aviation XA100
この話の経緯を1から説明すると本当に文章が長くなるため、過去のアダプティブエンジンに関する記事を読んで頂いている前提(もし記事の意味が分からない場合は過去記事を参照してほしい)で話を進める。
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基本的にF-35プログラムは新しいこと(アップグレードの開発など)に取り組む場合、その費用を米空軍、米海兵隊、米海軍、プログラム出資国、F-35導入国で負担する決まりになっているのだが、F-35JPOのフィック中将は「米空軍のF-35Aにのみ統合されるアダプティブエンジンの開発費用を各パートナーにも負担しろというのは不公平なので米空軍が全ての費用を負担する必要があり、パートナー向けにもBlock4のアップグレードに求められるF135の強化オプションを提供しなければならない」と述べている。
つまり米空軍のF-35Aのみ次世代戦闘機向け技術を使用したアダプティブエンジンを統合して、米海兵隊、米海軍、プログラム出資国、F-35導入国向けにはF135の強化オプションを開発して提供するという意味なのだが、今月20日に開催された空軍協会主催のカンファレンスに登場したケンドール空軍長官は「米空軍のF-35Aにアダプティブエンジンを統合するかどうかは手頃な価格の実現=海軍がAETP統合に同意するかにかかっている」と語った。
アダプティブエンジンのGE製XA100やP&W製XA101は基本的な構造が異なるF135-PW-600(F-35B向けのエンジン)を置き換えるのは技術的に不可能だが、米海軍が使用しているF-35Cにはアダプティブエンジンの統合が条件付きで可能らしい。

出典:U.S. Navy photo by Chief Mass Communication Specialist Shannon E. Renfroe
ただしF-35Cへの統合には大規模な改造作業が必要なので海軍はアダプティブエンジンの統合計画に興味を示しているものの決断を下すには至っておらず、ケンドール空軍長官は手頃な価格の実現は海軍の参加が不可欠=アダプティブエンジンの統合費用や運用コストの削減には海軍が参加してアダプティブエンジン採用機の規模を拡大させる必要があり「すでに海軍長官とアダプティブエンジンの統合について議論をおこなっている」と語っている。
まだまだ不確定な要素ばかりで何も断言することは出来ないが、F-35JPOのフィック中将は「もし空軍がアダプティブエンジンを採用すると技術的に全く異なる2種類のエンジン(AETPとF135)を管理して維持していく必要があるため運用コストが大幅に上昇するが、アダプティブエンジンを採用したF-35Aは4万5,000ポンド以上の推力(10%の推力向上)と低燃費(25%の燃費向上)性能が手に入れるため魅力的だ」と述べているので運用コストの上昇と引き換えに手に入る性能向上を天秤にかけているのだろう。
どちらにしても今回の件でハッキリしたのはアダプティブエンジンは米空軍のF-35A以外には提供されない、米軍以外のF-35にはBlock4のアップグレードに対応するためF135の強化オプションが開発される、米空軍、米海兵隊、米海軍、プログラム出資国、F-35導入国はF135の強化オプション開発にかかる費用を新たに負担する必要がある、米空軍のF-35A(アダプティブエンジン統合機)とそれ以外のF-35A(F135強化オプション機)の間には推力、航続距離、発電能力、熱管理能力などの面で性能差が生じるという点だ。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Codie Trimble
まぁ米空軍がF-35Aを計画通り1,763機導入(現時点での保有数は283機)する可能性は非常に低いが、それでも同機の最大顧客(米国以外の国が導入を予定しているF-35Aの総数は最大で574機)の座から滑り落ちるようなことは恐らくないので、A型導入国はアダプティブエンジン統合機の数がF135強化オプション機を上回り運用コスト等に悪影響が出ないことを祈るしかない。
追記:下院軍事委員会や米空軍が運用コストの増加が分かりきっているアダプティブエンジン統合に動くのは、米空軍のトップが「中国空軍に追いつかれるのは時間の問題で我々に余裕はない」と訴えるほど危機的な状況にある航空戦力の質を少しでも向上させて「時間を稼ぐ」ことを狙っているのかもしれない。
もし中国空軍の脅威が差し迫ったものでなければ下院軍事委員会や米空軍もF135の強化オプションで満足していた可能性が高いのではないだろうか?
関連記事:米空軍トップ、中国空軍に追いつかれるのは時間の問題で我々に余裕はないと訴える
※アイキャッチ画像の出典:U.S Air Force photo by Airman 1st Class Jacob Wongwai
やっぱりこうなったか…
>米空軍、米海兵隊、米海軍、プログラム出資国、F-35導入国はF135の強化オプション開発にかかる費用を新たに負担する必要がある、米空軍のF-35A(アダプティブエンジン統合機)とそれ以外のF-35A(F135強化オプション機)の間には推力、航続距離、発電能力、熱管理能力などの面で性能差が生じるという点だ。
金食い虫の上に、性能差のせいで米軍と他国との共同作戦は複雑になりそうだな。
面倒くさい。
導入国っていうか、開発参加国に負担なんじゃないのこれ?
FMSでアメリカ政府から購入する国は良くも悪くもアメリカ仕様で購入できそうだけど
開発参加国もFMSでエンジン購入するなら、アダプティブエンジン買ってよいって仕組みだと思われる
その場合は、開発参加国に約束されていたワークシェアの外にあるエンジンだから、産業的な旨味が全くなくなってしまうけど
開発プログラムに参画してた国々は、これ納得するのかなこれ
エンジンの製造が割り当てられてる国なんかは、大口の米空海軍からの発注がなくなってキレそうなもんだけど
アメリカ以外の「エンジンの製造が割り当てられてる国」って、具体的にはどこですか?
開発参加国全部
部品の製造点数は、出資比率に応じて分配される仕組み
例としては、参加国だけど排除されたトルコは、F-35の全部品2万4000点の部品の内817点。
内F135の部品約3000点のうち188点を製造
オランダではエンジンの部品製造はGKNフォッカーがやってる
製造分配については、部品点数のよる分配ではなく、部品総量による分配なので、
担当部品製造が重複するものも数多くある。
このせいで、ある部品製造を一か所で大量生産するというわけではなく、全参加国があっちこっちでやる方式になってしまっている。
中には技術不足、投資不足によって、部品の精度が足りなかったりしてるとこもあって、納品された部品の精度がまちまちで、これがF-35のコストを増大させる要因に
粗大ゴミを高値で売り付ける簡単なお仕事です
粗大ゴミだとしても匹敵する能力を持つ戦闘機がない不思議
なんか最近またで出したよねf-35粗大ゴミ論者
燃費の向上は航続距離に直結するから航続距離の問題でシミュレーションで負けたと認識してるなら多少高価でも導入する気がする
管理人さんも書いてる様に導入しないなら中国の脅威は本気にしてない可能性がある
けどF22のエンジン選定時は類似エンジンが高性能だったけど導入コストとメンテの複雑さを理由にはじかれていたからなぁ
現行のエンジンでさえメンテ時間とコストが予想以上でメンテサイクルが遅れているのに、それ以上に複雑なエンジンとなると完成しても本当に導入するかどうか怪しい気がする
当時は冷戦終結直後の平和な時代だったから高性能な兵器なんていらなかった
今とは状況が違う
「和平は戦争の一時的中断にすぎない」
「和平ボケも至福のうちさ」
F-22は冷戦時に開発開始されているので、時系列が合わないかと。
どちらかと言うと、F-35が冷戦後の計画
開発開始は冷戦時代でも量産開始は冷戦終結4年後の1995年。
開発期間は冷戦~冷戦後ですよ。
これ、ほかのF35導入国をないがしろにする、というよりアダプティブエンジンが新しい技術過ぎて数が出せず、米軍向けにしか供給できないからという側面もありそうですね。そしてアダプティブエンジンがやっぱダメでしたー、てなったときは、米軍もおとなしく強化型F135使うという感じで。その意味ではバックアッププランを用意しているから大分進歩したともいえそうですが。
一方でF135の方は、エンジン全体、あるいは部品レベルで別の国でライセンス生産とかしてるんですかね。強化オプション用意するって言っても数が出なきゃ、導入国全体に供給できないんだろうから、強化オプションに必要なものもライセンス生産すると思うが。
ラ国はしてないけどイヒがサプライヤーやってるよ
空自向けF-35Aのエンジン部品はアメリカ企業からの下請けと言う形で一部国内製造してますね。
共同開発国を増やし過ぎた結果、金もなければ技術もない国が入ってしまった
せっかくの大量調達もワークシェアの分担で、ミニマムな生産現場が多数発生して、大量調達のメリットを活かせない
四方八方に散ってしまった生産現場で、輸送コストの増大、管理業務が切迫
これらによってワークシェアが煩雑になり過ぎたところで、トルコへの制裁が加わってしまった
だから共同開発枠とは全くの別枠、独自のアメリカ生産での大量調達で、調達を簡便化してやろうって目論みなんでしょう
F/A-XXをAETPを採用したF-35C発展型にすれば
新規開発よりは開発費は低減出来るだろうし海軍も採用するのでは。
20%以上のの航続距離延伸は魅力的ではありますね。
海軍的には双発じゃないと主力機としては使いにくいしそれは無理
主力機として使いにくいという理由ぐらい書いたらどうだ?単発の信頼性を危惧しているのか積載や航続距離を目的とした双発なのかイマイチ分からない。
次世代機に関しては航続距離増・攻撃力増・消費電力増の対応考えると双発の方がマッチングはしていると思う。F-35Cベースにするとしても統合の妥協された機体を海軍仕様にすべくレガホからスパホ以上の変化は避けられないから安く付くかだよね。あと次世代エンジン双発でのコストがどれ位になるかで方針変わってくるかもな。
これその内、米軍調達向けF-35(国内完結)とそれ以外の国に生産ライン分けられるんじゃね
アダプティブエンジン搭載F-35A(の発電や廃熱性能)が優秀になっても通常エンジン版F-35とアビオニクスやメカニクスを共有する限り性能をいかしきれないってことだから、数年後にはさらに分断がすすんだF-35が登場しそうな予感
ス○夫「スマンナの○太、これは米国専用なんだ」
日本の様な後から買った組はしょうがないけど、プログラム出資国は納得するのかね. いずれにせよアダプティブ機とF135強化機の2体制での開発ならBlock4のアップグレードがまた遅れますな. 時間稼ぎどころか時間を与えかねない.
アダプティブエンジンの開発は、ちゃんと進んでいるのだろうか?
ボーイングよろしく、予想外のところで躓いてやっぱりF135にしますー、でも驚かないが。
見切り発車の悪癖はなおったかな?
>アダプティブエンジンの開発は、ちゃんと進んでいるのだろうか?
ほんとにね。
アダプティブエンジンの性能が良くても、F35用に開発し直すわけだから、何年かかるんだよって思う。
まあ、F35B型抜きだから、難易度は相当下がるとは思うけど。
過去記事見れば分かるがアダプティブエンジンの地上テストはすでに成功していて、順調と言える
あと最初っからサイズや規格はF135と同じだから作り直すような手間はない
と、GEが言ってるんですか?
どこまで信用できるのか。
折角関連記事があるんだから読んでごらんよ。
アダプティブエンジンについても書いてあるから
もうダメダメ感が漂っている。
F-135の強化パッケージで良いのでは。
F-35B/Cでエンジン変えたら、海兵隊が怒るよ。
ハイリスク•ハイリターンのアダプティブエンジン
ローリスク•ローリターンのF135
どうなるかなぁ?
選択肢があったとしても日本は後者を選んだかな。
選べるなら前者でしょ
速力、航続距離も空自が求めるモノだし
日本がリスクを選ぶかな、と思ったので。
上手くいけば最高ですし、やっぱり実現してほしいですねー。
これ過去記事見るとP&WのF135強化パッケージ案の内容はアダプティブエンジン開発で得た技術をF135にフィードバックする、なんだよね
それに対し空軍幹部は「アダプティブエンジンと既存のエンジンは構造が違うから技術を流用できる余地が無い、パワープラントの後付けも不可能」と言ってる
言っている事が正しいならP&WのF135の強化パッケージなんて絵に描いた餅でしかないって事になるがはたして…
このアダプティブエンジン開発で得た技術は必ずしもアダプティブエンジンの要素を指してるわけじゃないと思う
開発の過程で得た燃焼技術や素材開発のことでも同じ表現になるよね?
それに対して空軍幹部はF135にアダプティブエンジンの要素を後付けすることを前提に話してるように見える
この認識の齟齬が矛盾に見えてるんじゃないかなと
過去記事を見る限りF135の改良はP&Wが提案するアダプティブエンジン技術をフィードバックした案と、空軍が提案している既存の技術による改良案があるみたいよ。
しかしですよ
XA101をF-35Aに統合するのはブロック4、Tech refresh3以降のソフトウェアの能力を最大限引き出すためとあって、じゃあF-135強化パッケージではそれを成すには不十分なのか?不十分だから米空軍は選択しないのか?という疑問が…
上の方がコメントしてる通り、P&W提案は「F135強化パッケージ」であって「F135アダプティック化パッケージ」ではないという解釈で良いのかと。アダプティック化を含まないXA101技術のF135へのフィードバック性能向上改修てこと。
空軍幹部は「F135アダプティック化」の可否について述べているとすれば矛盾はない。
海軍と海兵隊のF-35Cに搭載するF135-PW-400はF-35AのF135-PW-100エンジンを塩害対策したモデルです。
塩害対策だけなら難しくなさそうに見えるのですが、高温と塩分の影響がどれくらいあるのか予想できていないところがあるのでしょうね
アダプティブエンジンって巡航時にバイパス比上げて燃費稼ぐ方法だから当然に速度が下がる。
タービンの温度上げないと結局最大出力は稼げないから
今よりもタービンに負担がかかる気がするけど大丈夫なんだろうか?
F135問題はせっかく部品交換がしやすくモジュール化が進められているエンジンなのに
中露よりも長いオーバーホール間隔に固執しすぎなだけな気がする。
単発だから多少多めにエンジン使っても双発よりはコストは低いと思うんだけどな…