米国関連

米陸軍が力を入れる戦場の認識力拡張、RQ-7Bの能力向上に600億円以上投資

米陸軍の戦術無人偵察機に大きな動きが2つあり、戦場状況の認識力拡張にどれだけ労力と資金を投じているのかよく分かる話を2つ紹介したい。

固定翼機タイプの垂直離着陸機が抱える問題を斬新な方法で解決してきたマーティンUAVのV-Bat

参考:TEXTRON SYSTEMS AWARDED CONTRACT BY THE U.S. ARMY TO UPGRADE SHADOW® AIRCRAFT

まず1つ目は米陸軍の旅団レベルで使用されている戦術無人偵察機「RQ-7Bシャドー」のアップグレードに6億700万ドルを投資すると発表した点だ。

テキストロン・システムズ傘下のAAIコーポレーションが開発したRQ-7Aの導入は2000年頃に始まり、何度かのバージョンアップやアップグレードを経て米陸軍は500機以上(正確な数は不明)のRQ-7BBlockIIを保有しているのだが、同機は雨天時の運用を想定して設計されておらず搭載しているEO/IRセンサーも雲で遮られた場所を観測できないなど制限が多い。

出典:public domain RQ-7B

そのため同時期にRQ-7を導入した米海兵隊は2018年までに同機を退役させ、新たに導入したボーイング製の戦術無人偵察機「RQ-21 ブラックジャック」に乗り換えたが、米陸軍は雨天時の運用能力を強化して高性能なL3Wescam製のEO/IRセンサー「MX-10(トルコのバイラクタルTB2が採用していたEO/IRセンサーと同じシリーズ)」を搭載したRQ-7BlockIIIの開発をテキストロン・システムズに依頼。

完成したRQ-7BlockIIIは米陸軍の要求を十分満たしたため保有する全てのBlockIIをBlockIIIにアップグレードするため約661億円の契約(アップグレード費用の他に同機の維持に必要な保守部品の供給や技術的なサポート費用も含まれている)を与えたという話なのだが、米陸軍がどれだけ戦場状況の認識力拡張に資金を投じているのかが伺える例だ。

2つ目は600億円以上の資金を投じてアップグレードを行うRQ-7Bの後継機選定が佳境を迎えているという点だ。

参考:US Army heads into future tactical unmanned aircraft rodeo next month

RQ-7Bの後継機選定は2019年から始まっており最終選考に残っているのはマーティンUAV提案のV-Bat、テキストロン提案のAerosondeHQ、L3Harris提案のFVR-90、Aerovironment提案のJump20の4機種で全て垂直離着陸に対応しているのだが、頭一つ飛び抜けているのがマーティンUAV提案のV-Batで「戦術的な無人航空機の運用に革命を起こす」と言われている。

通常、垂直離着陸に対応した固定翼機タイプのUAVは上昇用と水平飛行用に異なる推進装置を採用するか推進装置の向きを変更して垂直離着陸を実現するかを選択する必要があり、前者の場合はデットウェイトが飛行性能の妨げに、後者の場合は推進装置の向き変更する機構が複雑になりやすく保守や信頼性の妨げになる問題に直面する。

勿論これは「垂直離着陸」という特徴を得るためのトレードオフなので致し方ないのだが、マーティンUAVが開発したV-Batは非常にユニークな方法でこの問題を解決してきた。

V-Batは機尾に搭載された1つの推進装置だけで垂直離着陸を実現しているためデットウェイトが発生せず、推進装置も構造が非常にシンプルな固定式なので保守や信頼性の妨げになる箇所が少ないという正にコロンブスの卵的発想の無人航空機だ。

V-Batの垂直離着陸は既存のUAVとは全く異なり、どちらかと言うとスペースXの「ファルコン9」に近いのだが同機は垂直離着陸だけでなくホバーリングにも対応しており、発射準備や運用も2人で十分だとマーティンUAVは説明している。

※L3Harris製のFVR-90

※Aerovironment製(Arcturusを買収したため)のJump20

RQ-7を開発したテキストロン提案の「AerosondeHQ」は推進装置の向きを変更して垂直離着陸に対応、L3Harris提案の「FVR-90」とAerovironment提案の「Jump20」は上昇用と水平飛行用に異なる推進装置を搭載して垂直離着陸に対応しているため、斬新なV-Batを見た後だと霞んでしまうというのが正直な感想で難易度の高い姿勢制御さえクリアできれば垂直離着陸に対応した無人航空機のゴールドスタンダードになる可能性を秘めた機体だ。

恐らくV-Batは陸軍よりも海軍の狭い艦艇から運用するのに適しているので陸軍採用を勝ち取れば海軍からの発注も見込めるかもしれない。

今のところ後継機の選定結果や実用化に向けたスケジュールなどは発表されていないので直ぐに垂直離着陸対応の戦術無人偵察機が登場する可能性は低いが、600億円以上の資金を投じてRQ-7Bのアップグレードを行うのに後継機選定を既に進めている時点で無人航空機が戦場状況の認識力拡張にどれだけ欠かせない装備なのか良く示している事例だと言える。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    なんだこの変態…
    推力重量比高いラジコンだと垂直に立てて上昇、下降できるやつは結構多い
    けど普通VTOLの場合プロペラとか推進機は前・上に置くんですよね…そうでないと倒立振り子みたいに力学的に不安定になりますからね
    なのにわざわざこんな構造にするとは
    ダクテッドファン、偏向フィン付きだ一見空気抵抗が大きくなると思うかもしれないがプロペラの誘導抗力と回転流を消せるので意外と効率がいい 特に低速の場合
    騒音も小さく抑えられる
    プロペラが人にあたって怪我するのも防いでくれる
    着地中は重心が地面に近いので倒れにくい、少ない力で垂直に立てられる
    まさに低速小型のUAVにピッタリな機体構成だ

    23
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      >普通VTOLの場合プロペラとか推進機は前・上に置く
      近年の偵察用UVAの場合、機首はセンサー用の特等席なんで、逆にエンジンを後ろに置いた配置がほとんどですね
      センサーを飛ばすのが最優先事項だから、飛行機としての能力は機体形状で対応すると

      10
      • 匿名
      • 2021年 3月 21日

      なるほど、この形状は色々意味があるんですね。
      シコルスキーのサイファーの延長線上ぐらいにしか見えなかったです。

      2
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    陸自ってこういう無人機ってどのくらい持ってるのかしらん

    8
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    機首が上を向いての垂直離着陸は、VTOL黎明期に盛んに試されたイメージがあるな
    有人VTOLは結局エンジンの向きを変える方向に進化したけど、UAVとしてかつてのアイデアが生かされるのは感慨深いものがある

    17
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    かつてポシャったテイルシッター機がまた脚光をあびるとは、面白いもんだ
    アイデアに技術が追いついたと言うべきか

    19
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      有人では無理でも、無人なら無理を効かせやすいよね
      もっとも、垂直状態だと直立していて横風とかの外乱に弱そうな気もしますが

      15
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      無人なのも大きいね。
      有人機だと高い位置にある操縦席への出入りが難点だったから。
      結構前からテールシッターは無人化で有望だって言われてたけどやっと現物が出てきたか、と。

      16
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      ホルテン兄弟とノースロップの夢(全翼機)に続いてハインケルさんの夢(ラーチェ)もついに実現か

      8
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    アメリカが採用したら、日本でも採用される可能性が高くなりそう

    10
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      艦艇に搭載して洋上警備に適してる、雨天に強いというのも気象的に合う。
      大きさとか航続力など、まだまだ延びしろがありそう

      8
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    V-BATが航空機として優れてるのは分かる。
    が、センサーや通信システムなど航空機以外の部分がどうなってるのかわからず、そこが気になる。

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      ホバリング状態だと、機首に配置されていると思われるセンサーの視界が厳しそうに感じる
      とはいえ、ホバリング時よりも低速巡行時の方が安定していて燃費も良い(=滞空時間も長い)だろうし、そこまで問題では無いと見るが

      3
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    最近のアメリカ兵器の形状はわくわくしない。性能は担保できているのだろうけれど。
    中国兵器のほうが悔しいがわくわくする形状。
    アメリカに追い付け追い越せで資金は投入されているし開発陣は楽しいのかもしれない。
    羨ましい

    4
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    翼があるぶん横風に弱そう。機体を風に対して横向きにしたら平気か?

    7
      • 匿名
      • 2021年 3月 20日

      サンダーバード1号みたいな可変翼にする手もあるが

      1
        • 匿名
        • 2021年 3月 21日

        サンダーバード1号型は、ヘリ格納庫に目一杯入るから海軍仕様だろうけど、
        船からすれば、レーダーもソナーも対空ミサイルも何でも載せて飛ばしたがるだろう。
        なのでサンダーバード1号の形でサンダーバード2号のように中身の入れ替え式。

        1
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    この分野だけでも自衛隊とは予算規模が一けたか二けた違うのか
    この敵側に立てば、やはり米軍は飛び抜けて強大な脅威なんだよな

    4
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    V-BAT面白いなー、クアッドコプターより速度、高度、航続距離と全てにおいて高そう。

    6
    • 匿名
    • 2021年 3月 20日

    UAVの世界はカンブリア爆発のように多様なタイプが出現してますね。1950年代のセンチュリーシリーズの再来みたい。夢とロマンの量は一桁くらい少ないですが。

    5
    • 匿名
    • 2021年 3月 21日

    まぁ、人には制御しきれなかったというだけの話で、無人なら
    テイルシッターは合理的ですよね。

    ただ、横風が強い時の制御は途端に難しくなるけど、どうなのかな・・・。

    6
    • 匿名
    • 2021年 3月 21日

    うはww気持ち悪いwwUAVにはこういうのを求めてたんだよな

    2
    • A
    • 2021年 3月 21日

    V-BATって扇風機みたいなんだよなぁ。

    2
    • ゆう
    • 2021年 3月 21日

    正常に垂直着陸できる割合は?
    UAVに垂直離着陸能力って必要なのか、と思う。
    離陸→カタパルト使用
    着陸→パラシュート使用
    でOKでは?
    UAVに求めるものにより違いがあるだろうが、垂直離着陸のために高価(製造、維持、修理など)にする価値があるか。

      • 匿名
      • 2021年 3月 21日

      動画で着艦してみせてるけど艦上に正確に下ろすにはパラシュートじゃ無理。
      甲板で転ぶ可能性はあるが着艦拘束装置や、なんだったらスカイフックで解決可能。
      あと、着陸機能があると出先で待ち伏せや休憩が出来るので運用の融通性が広がるよ。

      3
      • 匿名
      • 2021年 3月 21日

      毎回毎回数人がかりでカタパルトに機体をセットして
      パラシュート付け替えるの?
      基地外での運用にはカタパルトも運ばなければいけない。
      これでは少人数での運用は無理だし
      全然OKではないと思う。

      • 匿名
      • 2021年 3月 22日

      横から人が力加えてもバランス取ってるしジャイロとか積んでいるだろうから姿勢制御に関しては問題ないのでは?ハリアーやF-35みたいな明らかにその機構が機体価格や性能に影響を及ぼすような物じゃ無いからアリでしょ。

      自分が一回一回カタパルト設置するか使用してパラシュートも畳むか交換を運用ごとにするのを面倒だと思わないのかね。カタパルト使用するなら構造強化必要だろうし、パラシュートで破損しないような着陸するならパラシュート制御が必要で面倒じゃん。これの良い所は機体を立てるスペースあれば極端に場所は選ばない。コストが安かろうが現場に多大な苦労を強いるなら多少コスト高でも現場が楽に出来るようにするのが仕事の基本。

    • 匿名
    • 2021年 3月 21日

    V-BATを見た中国は、これをパクるに違いない。
    中国人には独創性が皆無だからな。そのくせ、他人のアイデアを無断でパクる能力だけは世界一だ。

    7
    • 匿名
    • 2021年 3月 21日

    カタパルト不要ってのは大きな利点だよ
    カタパルトそのものにも維持費修理費はかかるし、それにカタパルトがあると今度はカタパルト利用前提が無人機を構造的、機能的に制約してしまう。
    これから更にどう変化していくのか読めない無人機の運用のためには、カタパルトの要らないほうが柔軟だと思います

    10
    • 匿名
    • 2021年 3月 22日

    どっかで見たことあるような形状だな
    ナチスドイツのおもしろ兵器にこういうのがあったような

    1
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