米国関連

小躍りする中国、米軍事委員会が外交を活用した国防戦略への転換を要求

米議会の下院軍事委員会で委員長を務めるアダム・スミス議員(民主党)は次期バイデン政権に対して国防戦略の見直しを要求した。

参考:HASC Chair Smith Calls For New National Defense Strategy, Nuclear Policy Review

中国は嵐のような4年間が終わりを迎えると小躍りしているに違いない

次期大統領に就任する予定のバイデン氏が所属する民主党内では過度な軍事力拡張は新たな冷戦を生むだけとの認識が強く、トランプ政権が進めた様々な軍事的アプローチはロシアや中国との対立を悪化させるだろうとスミス議員は指摘して「敵を軍事競争に巻き込む以外にも敵を抑制する方法は幾らでもある」と述べた。

スミス議員の主張をまとめると以下の通りになる。

米国は堅牢な抑止力を維持しなければならないが、これは「費用対高価の高いアプローチ」で提供されなければならない。堅牢で費用対高価の高い国防を実現させるのに武器と資金は役に立つが、これは唯一の答えではなく外交も重要な要素で次期バイデン政権は中国を枠組みに組み込み新技術に対応した形の新戦略兵器削減条約(新START)を延長しなければならない。

出典:public domain

さらにイラン核合意に米国が復帰すればイランの核開発を抑制することができるが、幾つかの制裁(金融制裁や原油取引制限など)が解除されリシア、イエメン、レバノンなどで活動するための資金をイランは手にするかもしれない。しかし少なくも制裁解除で得た資金の一部は状況の悪い国内経済や新型コロナウイルスとの戦いに使用しなければならず、イスラエルとスンニ派の安全保障上の協力関係が高まっているためイランは資金を得ても活動を思うように拡大させることは不可能だろう。

最後に米国は非核化された北朝鮮を望んでいるが、この問題を簡潔に解決する策はなく実現するとは思えない。そのため当面は北朝鮮を封じ込める政策を続けるしかなく2ヶ国間の同盟強化と日本と韓国の関係改善を促して北朝鮮に「この問題から逃げ出さない」という姿勢を示すことが重要だと言っている。

要するにスミス議員の主張はバイデン氏が「国際的な枠組みの中で諸問題はコントロールが可能」だと主張したのと同じ趣旨であり、中国の脅威を個別に言及しない点は特筆するべき後退と管理人には映ってしまう。

関連記事:バイデン氏の大統領就任後、日本のインド太平洋戦略は存続可能か?

そもそも新STARTの枠組みへの中国組み込みは非現実的で中国自身も「参加しない」と言っており、仮に中国が参加してもトランプ政権が「時代遅れ」と指摘する現行の新STARTは抜け穴が存在するため事実上、戦略兵器削減により核戦争を抑制するという意味や効果は殆ど期待できない。

トランプ政権が問題視したのは新STARTで規制されていない極超音速滑空体の取り扱いについてで、新STARTで明確に制限を受けるのは飛行経路の大部分が弾道コースを辿って核兵器を運搬することが可能なミサイルなので揚力を発生させ大気中を滑空して航空機のように飛行コースを変更する極超音速滑空体は制限を受けない点だ。

出典:public domain 米国が研究していた極超音速試験飛翔体 Falcon HTV2

これについてロシアは制限内容を変更しない無条件延長を頑なに主張していたが、一般的にロシアが譲歩する形で極超音速兵器「アバンガルド」を新STARTに含めることを提案したが米国に拒否されている。これはアバンガルドが極超音速滑空体の運搬にICBMに使用されているブースターを使用しているためで米国側が当初から新STARTの制限を受けると主張していた部分であり、ロシアはアバンガルドを新STARTに含めることに同意しても極超音速滑空体を新STARTに含めることは認めていない。

要するに弾道ミサイルに使用されていない新しいタイプのロケットに極超音速滑空体を搭載してしまえば新STARTの制限を回避することが可能で、幾らでも制限外で核兵器を運搬する兵器を増やしていくことが出来るという意味だ。

イラン核合意への復帰については核兵器開発を抑制する効果や地域の安定に繋がるかもしれないが、これは国連の武器禁輸措置とセットだった場合の話だ。イランへの禁輸措置は今年の10月に解除されているためイラン核合意への復帰で金融制裁や原油取引制限を解除され国際市場から資金を獲得できるようになれば、この資金はロシアや中国からの武器輸入に向けられ最終手段である軍事力行使に伴うコストは高くつくことになるだろう。

さらに北朝鮮への対応は完全に有効な手段を見失っており、北朝鮮の背後にチラつく中国をどうにもできないジレンマから抜け出すことを放棄したとも受け取ることができ全般的に中国が喜ぶような内容ばかりだ。

出典:public domain

確かに問題の解決は軍事力や資金だけではなく外交力も重要な要素であるという指摘は一理があるが、経済や軍事的な裏付けのない外交力に相手をコントロールする力は伴わないという事実にも留意すべきで、まさに中国の暴走を米国が外交力でコントロール不能なのは経済力、外交力、軍事力のバランスを欠いているからだろう。

果たして次期バイデン政権はどのような費用対高価の高いアプローチを示してくるのか注目されるが、これまでの内容を見ると相当穏やかなアプローチを採用してくる可能性が高く、オバマ政権に近いものになるのではないかと管理人は予想している。

恐らく中国は攻められっぱなしで嵐のような4年間が終わりを迎えると小躍りしているに違いない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Greg Hall

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    正直このことを米国民はどう思っているのだろうか。

    4
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      国民は目の前のご飯しか見ませんよ

      49
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      じゃあトランプが本気で中国と戦争するかってこと
      しょせんパフォーマンスだって
      何を期待してるんだか

      4
      • 匿名
      • 2020年 12月 16日

      アメリカ人にとってchinaなんて、遠くにあるやたら人口の多いオリエンタルな国ってのが正直なところでしょう。

      1
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    戦争前の数年の融和期がやってきたね。
    香港も台湾も韓国も捧げてパワーアップさせて、
    それでもなお止まらない中共との世界戦争かな

    結局核は持ったもん勝ちなのかね?
    北朝鮮首脳部がやってきたことを
    完全肯定するわけだが、
    民主党も世界もそれでよいのかね?

    28
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    Cyka Blyat! やっぱり「民主党」はダメだな!

    17
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    もう何も言葉がでてこない。
    日本は将来、単独で中国と領土紛争することを想定して、準備するべきだと思う。

    36
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      どんな政権が現れても振り回されないアメリカ以外の枠組み、インドやオーストラリア、東南アジアとの結び付きの強化が必須ですね。

      21
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    単純な事実として近い将来米国はGDPで中国に抜かれる
    つまり資金力で抜かれることを意味する。軍備や工業力はもちろん、研究開発に割ける資金も中国が上回る

    これは米国が相対的に弱者の側になることを意味する
    正面から武力で競い合っても負けるのだ
    外交を駆使するのは弱者の戦略なので合理的といえば合理的

    どちらにしろ世界最大の大国が人権を屁とも思わない一党独裁国家になるのは人類の悪夢だ…

    27
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      今の中国は、「一党」独裁よりも「個人」独裁に向かっている。
      しかも、その独裁者の価値観は、中華民族が偉大であって、他の民族は従属または淘汰されるべきと考えている。
      そんな相手に話し合いなんて、通じるわけない。悪夢はもう始まってるわ。

      21
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      GDPで抜かれるかどうかは諸説ある
      このままの成長が続けられれば勿論逆転するが、中国の経済活動は国営企業中心でどこも莫大な借金を抱えてる。俺はむしろバブル崩壊して停滞コースに陥ると思うね、あっちも高齢化が進んでるから

      11
        • 匿名
        • 2020年 12月 14日

        そもそも西側の枠組みを都合よく利用することしか考えていない中国なのに、そこから上がってくる数字を西側同等の信頼性で扱うことが無理なので、参考数字程度の別枠で扱うべきだと思います。それを今回のコロナ禍で西側諸国はいやという程に理解したでしょう。

        13
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      中国は中国で日本以上に急激な高齢化が進行中であと10年ほどで人口減少が始まり人口面での経済ボーナスを失うから今までのように成長できるかは微妙でむしろ今後10年ほどで停滞や衰退が始まるのではという見方もある
      また海軍を短期間急拡大したツケで同じく10年後くらいから軍艦が一斉に寿命を迎えだすので経済状況次第ではあるものの海軍の規模を維持できない可能性が高い

      問題は経済の衰退により軍備の維持が困難になった時に軍備が縮小する前に軍事的な賭けに出る可能性があること

      14
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    まるで成長してない‥‥‥

    19
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    しばらく、「米議会は超党派で対中共強硬派だ!」って論説が多かったけれど、当選すれば対中共融和。単なる選挙運動だったことがはっきりしてくるんかな?

    44
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    北朝鮮にこうまで簡単に屈するなら
    もうフセインやカダフィに謝らなきゃならんな

    彼らは
    「文明的でありすぎた」
    「国民思いでありすぎた」
    「正直でありすぎた」ゆえに
    易々と交渉に乗ってしまって殺されたってことだろ

    米国内の世論が今後どうなるかはわからないが

    41
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    また甘やかして拗らせて悪化させて、結局共和党路線に復帰の悪夢コースになるのか…

    27
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    軍事においても神の見えざる手はあるのでしょうか?

    5
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    話して駄目だからオバマは路線変更したんだろうが、身内の事なのにもう忘れたのかよ

    23
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      一応オバマはバイデンの後見人みたいな立ち位置にいるっぽいから、進言ぐらいは…(ゴニョゴニョ

      4
        • 匿名
        • 2020年 12月 14日

        するわけないじゃん。自分が追い求めた理想よ再び、ってなもんだ

        16
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    役職は外交関係ではないもののバイデン政権がスーザン・ライスを起用している時点でそうなるだろうな・・・と予想していました。
    実際に目の当たりにするとひどい絶望感です。

    22
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    これをみてもまだ「中国に甘い」なんて生温い認識の人が多いのかぁ…。
    こんなん「中国のためにやってる」と解釈した方が実情に近いと思うけどね。

    34
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    まあバイデンがそう思ってるかまだわからんが
    米民主党ってまあこんな方針やろなあみたいなのが並んでるな
    いつもの民主党政権やね

    10
    • にわかミリオタ
    • 2020年 12月 14日

    こうして、また元来た道を引き返すのか。

    14
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    軍事的抑止力に裏打ちされない外交は、強者に対する譲歩でしかないことを学んでいないのでしょうね。
    中国・北朝鮮・ロシア・イランに対する戦略的忍耐の復活は、米国の凋落を加速させるだけなのに。
    おそらく格下の同盟国=日本には強気で出てくるでしょう。
    バイデンが任期中に死亡したり、認知症で職務遂行不能になれば、米国は社会主義国になる予感が。
    サンダースの思惑通りかも。

    13
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    本当に残念
    なぜ成功した冷戦体制を築くことに否定的なのか。

    16
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      赤い悪の帝国ソビエトを世界大戦せずに打ち破った輝かしい歴史を再び!

      7
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      実は、冷戦体制は西側にも致命的な経済的ダメージを与えた事を考慮しないと行けないよ(冷戦後、米欧が極端な軍縮に走った理由がそれ。その後遺症が中国を大国の地位に押し上げてしまった)

      9
      • HY
      • 2020年 12月 16日

       地政学的背景に起因。アメリカにとってソヴィエト連邦(ロシア)は隣国でしたが、中国はそうではありません。

    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    もうこれちうごくの工作員やろw
    発言内容が酷すぎるぜ…

    22
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      親中や中国に甘いの程度じゃないよねコレ
      隠れ共産党員と言われても信じるわ

      10
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    なんかこのままバイデン政権になったら日本がTPPの次はアジア版NATOも主導する破目になりそう

    途上国向け低金利融資で巡視船ばらばらばら撒いてるのも過去アメリカが世界大戦でやったのと全く同じ手口(金=「借り手が滅んだら回収できなくなるという事実」はどんな思想よりも信用される)だという点がなんとも不気味である
    こっちゃWW2アメリカほどの生産チカラはないんだがなぁ

    11
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      第二次安倍政権以前の日本を見るに言える資格はありませんが、しかしこうもアメリカの外交政策に安定性がないのを目の当たりにすると、やりたいやりたくないに関わらず、やらなきゃならないでしょうね。

      7
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      その代わ中国の脅威に直接さらされるメインプレーヤーが日本・インド、それに準ずる立場がオーストラリア・ロシア、それ以下だが不倶戴天の関係が台湾・ベトナムと味方になり得る国は多い。勿論今すぐ多国間同盟という訳にはいかないけど、それこそ貧者の防衛力である外交の真価が試される時じゃないですかねぇ。

      11
      • 匿名
      • 2020年 12月 14日

      いや、日本の場合親中派の数はある意味米国以上だから、アジア版NATOを主導する代わりに親中政権が出来かねない
      そうなったら「人類は中国に滅ぼされました」と言う冗談が現実になりかねない

      10
    • 匿名
    • 2020年 12月 14日

    アメリカがこけた所で果たしてロシアが黙っているだろうか

    すでに激おこな気もするけど

    1
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      ロシアは以前から中国と共同演習をする仲だから、むしろ中国の派遣のおこぼれを狙う可能性が高いよ

      2
        • A
        • 2020年 12月 15日

        一時的にはそうかもしれない。
        でもダマンスキー島の恨みは忘れていないと思う。

        2
          • 匿名
          • 2020年 12月 15日

          そのダマンスキー島事件ですが、2004年に事実上ロシア側が譲歩する形で中露は国境画定に合意、2008年に確定していますから、恨みはともかくロシア側はもう争うつもりは無いのでしょう
          ついでに言うと、この国境画定をした時、既にロシアはプーチンの時代でしたから、この合意の重みが伺い知れます

          あと、上の方で「中国の派遣」と書いた所は「中国の覇権」の誤りです、申し訳ない

          3
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    なぜトランプが負けたって?
    中国の危険性を
    政治家だけが気づいていて
    米国民が気づいてないから

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      逆だろ。
      政治家やメディアが気づいてないか気づいていつつも我欲が保身で目を瞑り
      国民の声を抹殺した。

      2
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    民主党員が国務省に巣くっていて、過去4年間爪弾きにされていたから、バイデンが政権を獲ったら、
    国防総省ではなく、オバマ時代のように国務省に対中国政策の実権を握らせたいのだろう。

    4
    • Nothing_man
    • 2020年 12月 15日

    戦前の帝国軍部が聞いたら喜びそうな発言ばかりで呆れる。

    3
      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      ホント、日本はアメリカと戦った時期が悪かったね(笑)
      向こうの民主党は歴代「敵に間違ったメッセージを送る」事が多い。

      6
        • B
        • 2020年 12月 15日

        わざとやってる?っていうくらい多いね。

        1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    金をもってる取引相手に本気でケンカしかける奴はいない
    そこんとこをとっくに中国に見透かされてるのが痛いよ
    トランプが継続してても、最終的には妥協してるです

    2
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    観測気球(アドバルーン)を上げて国民の反応を確認するのは何時もの事。大統領選挙の行方次第では中共によるトカゲの尻尾切り(例・秋元)が年末頃から始まるだろうし、台湾占領を円滑に進めれる機会は来年の序盤だけしかない。

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    そうしなきゃ破局が待ってると思わせなければ
    本当の話合いは始まらない

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    とりあえず次期戦闘機の支援企業はBAEにしてくれ。
    インターオペラビリティは4年後からでも何とかなるだろ。

      • 匿名
      • 2020年 12月 15日

      思い返せば、空自F22導入計画のときも中国から米国に、アジアの軍事バランスが崩れるって猛抗議があってたのが断られた遠因だもんな
      バイデンの考える国際的バランスがどんなもんか、かなり不安要因

    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    中共が今この瞬間滅べば良いのに!(悲鳴)

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 15日

    21世紀は中華秩序の時代となる(確信)

    1
    • 匿名
    • 2020年 12月 16日

    実質的な台湾をはじめ極東地域の同盟国見捨てます宣言

    2
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