米空軍は「将来の低コスト巡航ミサイル(射程926km/取得コスト15万ドル)」に関するプロトタイプ設計を開始したが、米海軍も産業界に「低コストと長射程を両立した巡航ミサイル(取得コスト30万ドル以下/年500発以上の大量生産)」を要求した。
参考:Navy seeking to rapidly prototype new air-launched, stand-off missile
米海軍は「MACEの取得コストは1発30万ドル以下」「最低でも年500発の生産が出来ること」を要求
米空軍研究所は5日「AFWERX(イノベーションを促進する空軍プログラム)が先端兵器の技術開発を目的にしたデザインスプリント・アンド・チャレンジイニシアチブを開始した」「最初の目標は将来の低コスト巡航ミサイルに関するプロトタイプ設計だ」と明かし、射程926km、亜音速飛行、目標コスト15万ドル(大量発注による1発あたりの取得コスト)といった課題を掲げ、さらに「このチャレンジに参加するチームは兵器能力の強化と同時に手頃な価格での大量供給も考慮しなければならず、この課題に対する解決策は拡張可能でパートナー国や同盟国が利用出来るものでなければならない」と付け加えている。
空軍の取り組みなので「将来の低コスト巡航ミサイル」は空中発射方式である可能性が高く、現行のJASSMシリーズ(AGM-158B-2の射程推定1,900km/推定コスト128万ドル)と比較すると目標射程は半分だが取得コストは圧倒的に安価で、課題に対する解決策への言及も踏まえると「共有可能な技術レベルで作れ」「低コスト実現のため既存技術を最大限活用せよ」と言ったところだろう。
この取り組みはイノベーションの促進が目的なので「目標を達成したプロトタイプの実用化」は約束されていないが、米海軍も産業界に対して「現行の対艦巡航ミサイルと同等の性能」を備えながら「大量生産が可能なほど安価な対艦巡航ミサイル(Multi-mission Affordable Capacity Effector)の試作・実戦配備」について協力を求めている。
米海軍はMACEについて「低コストと長射程の実現に加え、実績のあるペイロードと成熟度の高い推進システムを統合しなければならない」「これはF/A-18E/FやF-35Cから発射可能な長射程・ネットワーク対応の兵器システムを迅速に試作し、試験し、実戦配備できる能力とノウハウを持つ調達先があるかどうかを判断するためのもの」「MACEはロッキード・マーティン製の長射程対艦ミサイルを補完する存在」と明かしており、ロッキード・マーティン製ミサイルとはLRASMの後継ミサイルのことだ。
太平洋艦隊の緊急要請に応えるため米海軍は2009年に新型対艦ミサイル(OASuW:Offensive Anti-Surface Warfare)の開発に着手、AGM-158 JASSM-ERをベースに長距離対艦ミサイル「AGM-158C LRASM」を開発して初期運用能力を2018年に獲得、2021年2月に4億ドルを超えるLRASMを発注して本格的調達に乗り出したばかりだが、同年4月には新型対艦ミサイルの開発に関する通知を発表していた。
OASuW Increment1(LRASM)だけでは進歩を続ける中国の能力に対応しきれなくなるため「交戦距離を延長したOASuW Increment2が必要になる」と主張していたが、米海軍はレイセオンとロッキード・マーティンにOASuW Increment2の開発計画を授与したと発表、この新型対艦ミサイルは「Hypersonic Air-Launched Offensive Anti-Surface Warfare=HALO」と呼ばれており、スクラムジェットを使用した空中発射型の極超音速巡航ミサイルになるらしい。
HALOは2029年以降に実戦配備が予定されており、開発資金を要求しているLRASMの能力向上型=AGM-158C-3でHALO配備までのギャップを埋める予定だったが、海軍航空システム・コマンドはMACEの初期バージョンを2027年までに実戦配備したいと考えている。
因みに米海軍は「MACEの取得コストは1発30万ドル以下」「最低でも年500発の生産が出来ること」を要求しており、Breaking DefenseもMACEについて「米空軍主導の低コスト巡航ミサイルに類似している」と指摘している。
関連記事:米空軍が低コスト巡航ミサイルに関する取り組みを開始、目標は1発15万ドル
関連記事:米海軍、2029年にLRASMの後継として極超音速巡航ミサイル「HALO」を配備予定
※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン LRASM
産業として考えれば、どれだけ調達(量産)できるのかにより、価格が変動しますからね。
100億円の固定費を、製造原価に割り振ると考えれば分かりやすいと思います。
(1)1億円賦課 100個調達
(2)100万円賦課 1万個調達
変動費もありますが、調達量が価格に及ぼす影響は非常に大事ですね。
ミサイル製造のラインは、民生品に転用できるものでもないでしょうし。
JASSM-ERとトマホーク・ブロックVaの合いの子みたいのが出来るんかね。
人件費が高騰している国内ではこの価格で製造は無理なので中国に発注します仕事早いし
結局そういう話しになるよね(もちろん、無理だけど)。
今のアメリカの物価では、安く作るは、とてつもなく厳しいのでは?
絶賛円安中の日本に外部構造だけ発注して、重要部分だけ自国でつくるとか、トンデモ手段じゃないと難しそう。
ついでに言うと、近年アメリカは、サービスやITに重きを置いた産業なので、製造業で「実物」を作るノウハウすら怪しいのではと思っちゃう。
アメリカは経営者が優秀だから、ロケット開発競争してるイーロン・マスクやジェフ・ベゾス辺りに発注すれば、なんとかしてくれそうだけど。
アメリカでもっともストレスフルな職場は1位スペースX、2位テスラ
もちろんアマゾンもかなり劣悪な環境(肉体労働以外も)
結局人材を使いつぶしてるので限界もあるのでは
今のアメリカでこのような経営は厳しくなっていくかと
最近のアメリカの製造業の設備投資は猛烈に増えているようですよ。
アメリカ国勢調査局(USCB)のデータによれば、2023年時点で製造業の設備投資は前年の2倍程度らしいです。もちろん、全ての業種をカバーしているわけではなく、政府がバックアップしている半導体やクリーンエネルギーが強いらしいですが、それでもトランプが主導した製造業の国内への回帰の流れは着実に進んでいるようです。
ただ、人材不足(技術レベルの高い人材)は深刻らしくその部分が伸びないと頭打ちする可能性も指摘されていますね。
こういうのって将来のインフレ考慮してるのかなあ?
アメリカって基本高インフレだし
ドルの価値は大体20年で半分ぐらい?
数年後
そこには当初の想定額の倍以上になり、結局は不採用(もしくは導入数が大幅削減)になったMACEの元気な姿が…!
最近の米軍の兵器開発のアレっぷりをみてると、どうしてもネガティブな想像しか浮かんでこないっすよ…
アメリカ政府HPで要求仕様が書いてあり、F-35A/Cに4発も内部搭載とかできるのとか、
おそらく海面高度(MSL)で射程30km or 55kmは母機が無事で済むのか、とか思いながら読んでます。
Desired Requirements:
Aircraft Employment: MACE shall be compatible with carriage on F/A-18E/F, as the threshold platform. MACE should be designed for internal carriage of 4 AURs in F-35A/C to enable future integration. MACE shall be compatible with existing internal carriage racks and/or mounting points approved for use on F-35A/C.
Launch Envelope: Range achieved from 30,000 MSL, 0.8 Mach delivery
Support Equipment: MACE shall be designed to utilize common support and test equipment
Payload: 75lbs.
Guidance: MACE shall incorporate a guidance system that detects and targets moving surface combatants and surface targets.
Cost: Under $300,000 USD per AUR
Production: A minimum of 500 AURs per year
EOC: Fiscal Year 2027
極小の弾頭で軽くて細いならばわかりますけど、今までと同じスペックでコストだけ削減は物理的に無理な気がしますね。
割と古くって維持費とかに金がかかるやつ使ったりしているからそのあたりの統廃合近代化できれば落とせる可能性はあるけど
結局は開発費の問題に
ペイロードの「75lbs (34kg)」は炸薬量のはずですが、これはトマホークの1/10以下です。
射程も含めて考えると、おそらく米海軍が目指しているのは長射程巡航ミサイルではなくて、短距離対艦ミサイルという認識が正しそうです。
類似スペックで例えると、ペンギンミサイル。
報道で「巡航ミサイル(cruise missile)」と言っているのは、高度な自律飛行能力を持たせるという意味合いなのかもしれません。
Launch Envelopeは海面高度30,000フィート(9000m)で発射しマッハ0.8で目標到達ということではないでしょうか。
「MACEの取得コストは1発30万ドル以下」「最低でも年500発の生産が出来ること」を要求
5年後
そこには所得コストが当初の想定額の倍以上になり、結局は不採用(もしくは導入数が大幅削減された)MACEの元気な姿があった。
いや、最近の米軍の兵器開発のアレっぷりをみてるとね、どうしてもネガティブな想像しか浮かんでこないっすよ…
米空軍の激安対地ミサイルが要求通りに出来上がるのならステルス戦闘機じゃなくてもよくね?年500どころか5000ぐらいの生産力&備蓄を確保しとけば大体の国に勝てそう。
数年後
そこには導入コストが当初の想定額の倍以上になり、結局は不採用(もしくは導入数が大幅削減)になったMACEの元気な姿が…!
最近の米軍の兵器開発のアレっぷりをみてると、どうしてもネガティブな想像しか浮かんでこないっすよ…
管理人様へ
多重投稿になってしまったようですので、このコメントは削除していただけないでしょうか。
お手数をおかけして申し訳ありません。
>「Hypersonic Air-Launched Offensive Anti-Surface Warfare=HALO」
そのまんまの名前を略してHALOとか、こういうセンスは結構好き
たしかイランの新型ジェット型シャヘドが時速800km/hくらいで弾頭30kg、価格1000万円くらいという噂でしたでしょうか(間違っていたらすみません)?そうなると15万ドルでできるミサイルはこのレベルがかなり限界な気がします。
艦を沈めるミサイルというよりは、ドローン的な飽和戦術で敵の迎撃システムや艤装を麻痺させて、その後虎の子のトマホークや超音速ミサイルで一撃必殺を狙うのでしょうか?
トマホークは時速900キロ弱の亜音速ミサイルですよ。
戦いは数ですからね、良い事です
けど北米トヨタ自給五千円とかなってるから難しいと思いますね
多分兵器が高いというよりも、民生品が安すぎるんだと思う
民生品が安いのは中国のおかげだから、それに慣らされてると兵器が馬鹿高く見える。世界の工場を掌握した中国の戦略が効いてる。その中国に勝たないといけないというのに。構造問題だ
AIM-120空対空ミサイルの弾頭が44ポンドと言われているので、
・AIM-120より少し大きい程度であること。2000ポンドJDAMより小さいこと (でないとウェポンベイに4発入らない)
・弾頭量は1.5倍
・速度は求めないけど航続距離は10倍以上必要
とハードルが高そうですね。
ロシア戦、米中戦争シミュレーションにおいて亜音速巡航ミサイルの数が重要であることが判明したのも亜音速巡航ミサイル増強に働いているのでしょうが、「戦いは数だよ兄貴!」路線が本格化しそうです。