米国関連

同一機種「F-35」採用から一転、米海空軍が別々に「第6世代戦闘機」を開発する理由

米国、海空軍で実現した同一機種、ステルス戦闘機F-35の採用が、次世代機=第6世代機では、なぜ実現しなかったのか?

再び別々の戦闘機を開発する道を選んだ理由

1960年代、空軍と海軍の戦闘機を統一するという名目のもとF-111の開発が行われたが、当時の技術では空海軍の要求を同一機種で達成するのが難しく計画が頓挫してしまった。

出典:public domain

半世紀の時を経て、念願の同一機種の採用が実現し、空海軍のみならず、海兵隊までがF-35を採用しているが、現在、進められている次世代機戦闘機では、空軍と海軍の要求が異なり、再び別々の戦闘機を開発する道を選ぶことになった。

空対空戦闘よりも、空対地攻撃に重点を置いたF-35の調達を進める中、空軍と海軍の次世代戦闘機=第6世代戦闘機は、基本に立ち返り空対空戦闘=制空任務に重点を置いた戦闘機になると言われているが、運用方針や要求するステルス性の程度に違いがある。

空軍は、現在開発中のステルス爆撃機「B-21」を護衛するための長距離飛行が可能で、敵の空域へ侵攻し、敵の戦闘機や、地上に配備された防空網を貫通できる能力もった戦闘機を、海軍は、空母艦隊を敵の攻撃機や、巡航ミサイルなどから守るための迎撃性能に特化した戦闘機を求めている。

そのため、空軍が「FX」に要求するステルス性能は、非常に高度なものになることが予想されるが、海軍は莫大なコストを負担してまで「F/A-XX」に、高度なステルスを要求する気はなく、迎撃機としての性能を高めることに関心がある。

ステルス性能を重視する空軍の「FX」

米空軍の「FX」は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)空域でも活動ができるように、高度なステルス性と、高度に進化したセンサー類を搭載し、長射程の空対空ミサイルと、指向性エネルギー兵器を搭載し、攻撃機ではなく、純粋な戦闘機として開発されるため、ステルス性を維持したまま、今以上の機動性確保も必須条件に入るだろう。

注目すべきは接近阻止・領域拒否(A2/AD)空域での活動を前提に掲げているため、ステルス性能を重視した設計になるだろう。

しかし、中国やロシアの低周波を利用したレーダー開発や、各種センサー技術の進化によって、第5世代機のような高周波のみ対応したステルスでは、いずれ限界が来るだろう。

だからと言って、低周波レーダーに対するステルス性を獲得するには、B-2爆撃機や、現在開発中のB-21爆撃機のような、極端な凹凸のない平べったい曲面で構成するか、何十センチもステルス塗料を厚塗りする必要があるため、低周波レーダーに対応したステルス戦闘機の開発は非常に難しい。

出典:public domain A-12アヴェンジャーII

以前、米海軍がA-6攻撃機の後継機として開発していた、A-12アヴェンジャーIIの機体形状なら、低周波レーダーに対してもステルス性を発揮することが可能かもしれないが、空対空戦闘に重点を置いて開発される次世代戦闘機=第6世代戦闘機に、全翼機形態を採用すれば、肝心の機動性が損なわれるだろう。

果たして、高周波のみ対応した第5世代のステルス性を、米空軍の第6世代戦闘機「FX」では、どの程度まで引き上げてくるのか?

もし米空軍が、何らかの新しい技術や発想で、低周波レーダーにも有効なステルス性をもつ第6世代戦闘機を登場させれば、現在、欧州や日本で研究・開発が進む第6世代戦闘機は、第5.5世代機に格下げになるかもしれない。

迎撃能力を重視する海軍の「F/A-XX」

一方の海軍は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)空域での活動を空軍に任せ、必要があれば巡航ミサイルで対応する方針なので、「F/A-XX」に高度なステルスは必要ないという方針で、空母艦隊を敵の航空戦力やミサイルから守る事ができる戦闘機を必要としている。

もっと具体的に言えば、長距離索敵が可能な大型レーダーを搭載した戦闘機で、空母や早期警戒機などをミサイルで攻撃しようと接近してくる敵機を、射点に到達するまえに長射程の空対空ミサイルで迎撃してしまうと言う、F-14とAIM-54で行っていた艦隊防空の再獲得を目指している。

出典:public domain AIM-54を発射するF-14

最近、その存在が明らかになった新型空対空ミサイル「AIM-260」は、AIM-120よりも大きな射程を実現していると言われているが、F-22やF-35のウェポンベイのサイズの制限があるため、AIM-260はAIM-120からサイズを変更することが出来ず、弾頭部分を小型化し、ロケットモーターの固体燃料を増やしたに過ぎず、中国やロシアの長射程ミサイルに対抗できるのか未知数だ。

特に、最大射程400kmを誇るロシアの長射程空対空ミサイル「R-37」を搭載したロシアの戦闘機に空中給油機や、早期警戒機を狙われれば、恐らくAIM-260では太刀打ち出来ないだろう。

そのため、早急に新型の長射程空対空ミサイルを開発する必要があるが、射程を伸ばせば伸ばすほど、ミサイルの本体を大型化する必要があり、F-22やF-35のウェポンベイには収まらなくなるため、海軍が単独で開発するしかないだろう。

海軍の「F/A-XX」は一応、ステルス機らしいので、この大型空対空ミサイルをウェポンベイに収めるには、従来とは比較にならないほど大型のウェポンベイを設けるか、F/A-18E/F ブロックⅢで不採用になった「ステルスウェポンポッド」の携行を検討する必要も出てくる。

この様に、海軍の「F/A-XX」は防御的な運用に特化しているため、「敵空域を貫通」し「奥深くまで侵攻可能」な戦闘機として開発されている「FX」とは、全く異なる次世代戦闘機=第6世代戦闘機となるだろう。

もし両機を区別するなら、「FX」はステルス戦闘機、「F/A-XX」はステルス迎撃機と呼ぶのが妥当かもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:US Air Force / Heide Couch

欧州、ユーロファイター・タイフーンを「第6世代戦闘機」相当までアップグレード?前のページ

いずも空母化、第6世代戦闘機開発、英国BAEが狙う日本の防衛産業市場次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    特殊部隊の作戦支援向け? 米軍の無人航空機RQ-21が小型ドローンの運搬能力を獲得

    米海軍や米海兵隊が採用している無人航空機「RQ-21ブラックジャック」…

  2. 米国関連

    米メディア、ウクライナ侵攻を防ぐには非対称な軍事的オプション採用が効果的

    米最大の政治専門紙The Hillは12日、ロシアとの正面対決を避けな…

  3. 米国関連

    ロッキードもボーイングも参戦! 米空軍の無人戦闘機「Skyborg」計画は大混戦か

    米空軍は無人戦闘機プログラム「Skyborg(スカイボーグ)」のため今…

  4. 米国関連

    順調に開発作業が進むB-21、国防総省が低率初期生産にゴーサイン

    ノースロップ・グラマンが開発を手掛ける新型ICBM「LGM-35A S…

  5. 米国関連

    米国のウクライナ支援、Mi-17、榴弾砲、装甲車、無人水上艦などを提供

    バイデン政権は13日、Mi-17、155mm口径の榴弾砲、数百輌の装甲…

  6. 米国関連

    米海軍がF-35C動画流出で乗組員5人を起訴、ただし別件の2件は起訴見送り

    米海軍は11日、F-35Cの着艦失敗に関連した動画を無許可で外部に流出…

コメント

    • シリウス
    • 2019年 6月 27日

    ステルス戦闘機が駄目では無く両方必要
    領空侵犯に対してスクランブルする機体はステルスでは逆に意味が無い
    相手に認識させてこその警告
    そして相手の射撃レンジ外からの攻撃にはウエポンベイの狭さと搭載数がネックになる
    後続距離が長く射程の長い大型ミサイル含め多数のミサイル搭載でき、ドックファイトもこなす超高速飛行が出来る機体が防空の為には必要で、ステルスの為にそこ犠牲にしたら本末転倒
    そもそも3種の機体でトラブルに対処する必要もあり、F-35だけあっても足りない

    1
    • 匿名
    • 2019年 8月 01日

    F-3が完成後にスクランブル対応する場合には敢えて増槽や外部にミサイルを搭載しレーダーに映りながらの作戦行動を常に行い
    イザ 有事となればステルスモードにて敵に情報を与えない事が肝要。

    • 匿名
    • 2020年 1月 19日

    単純にF35みたいに、通常型・艦載型・垂直離着陸型・対地戦闘型を
    全て同じ設計でやろうとして、大失敗した経験がそうさせてるだけだろう。
    それに国際分業開発・生産ってのも各国の要求をドンドン盛り込んだ結果、開発が遅れに遅れた原因だし
    国際分業生産も、トルコの離脱で問題が顕になった。
    結局、空軍・海軍がそれぞれ要求を満たす戦闘機を開発した方が合理的。
    そういう結論に達したのではないかと思う。

    3
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  2. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  5. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
PAGE TOP