米国関連

ザルジニーとは対称的なゼレンスキー、来年に向けた具体的な計画があると主張

ゼレンスキー大統領はReuters NEXTに出席した中で「我々は年末までに戦場で結果を残すため努力しており、来年についても具体的な計画がある」と発言、ロイターは「ゼレンスキー大統領の口調はザルジニー総司令官の悲観的な評価とは対称的だ」と評した。

参考:Ukraine can still deliver battlefield results this year, Zelenskiy says
参考:Зеленский: У нас есть очень конкретный план на следующий год
参考:Україна планує продовжувати боротьбу, попри складнощі контрнаступу, – Зеленський

ウクライナ軍が左岸からクリミアやメリトポリに向けて前進すれば世界中の人々が驚くことだろう

The Economist紙のインタビューに応じたザルジニー総司令官は(ロシア軍を消耗させればプーチンを止められるという思い込みは)私の間違いだった。ロシアは少なくとも15万人もの戦死者を出し、これほどの犠牲者が出れば一般的な国は戦争を止めていただろう。しかしプーチンが想定している(消耗戦の規模)は数千万人を失った世界大戦レベルだった」と述べ、ロシア軍が覚悟している消耗戦の規模を見誤ったと示唆して「反攻作戦が膠着状態に陥っている」と認めた。

出典:ArmyInform/CC BY 4.0

これに対してゼレンスキー大統領は4日夜の演説で「前線の状況は膠着状態ではない」と、NBC Newsのインタビューにも「私は現状が膠着状態だとは思わない。我が軍はより速く前進し、ロシアに予期せぬ打撃を与えるため様々な作戦を検討している」と主張、NBCは「ゼレンスキーとザルジニーの発言は対称的だ」と評していたが、Reuters NEXTに出席したゼレンスキー大統領は「ウクライナ南部の反攻作戦が遅々として進んでいない」と認めた上で2024年の計画をアピール。

ゼレンスキー大統領は「我々には計画があり、ウクライナ軍は進むべき具体的な都市や方向性がある。今はまだ詳細を話すことはできないが、南部や東部でも我々はゆっくりと前進している。さらにヘルソンでも良いステップを踏んでおり、たとえ困難だったとしても最終的にウクライナが勝利すると確信している」と述べ、ロイターもNBCと同じように「ゼレンスキー大統領の口調はザルジニー総司令官の悲観的な評価とは対称的だ」と評した。

出典:GoogleMap ヘルソン周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

因みにヘルソンでの良いステップとは「ドニエプル川左岸への上陸」を示唆している可能性が高いが、上陸したウクライナ軍部隊は比較的小規模(300人前後)で、兵站も小型ボートによる輸送に依存しているため、右岸に展開する砲兵部隊の支援範囲を越えて前進することは不可能に近く、左岸に上陸したウクライナ軍部隊の狙いについてはアナリストの間でも意見が別れている。

ゼレンスキー大統領はReuters NEXTで「反攻作戦は見せ物でも映画でもなく世界中の人々を驚かせる必要もない」と言及したが、もしウクライナ軍が左岸からクリミアやメリトポリに向けて前進すれば世界中の人々が驚くことだろう。

関連記事:米メディア、ゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官の発言は対称的だ
関連記事:ゼレンスキー大統領と軍の不協和音、ザルジニー総司令官に知らせず司令官交代
関連記事:ザルジニー総司令官が反攻作戦の評価に言及、私が間違っていた
関連記事:ドニエプル川の戦い、ウクライナ軍が装甲車輌を右岸から左岸に移動?

 

※アイキャッチ画像の出典:ПРЕЗИДЕНТ УКРАЇНИ

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コメント

    •  
    • 2023年 11月 09日

    これまで戦力で劣るロシア軍は静的防御で対応することが多かったが、自信を深めて動的防御を試みてくればウクライナ軍が橋を確保し東岸に進軍することも可能だろう
    その場合用意された打撃軍を打ち破ることが出来ればそのままクリミアの根本まで至れるかもしれない

    3
      •  
      • 2023年 11月 09日

      クリミア橋破壊とザポリージャ方面で進んでヘルソンのロシア軍が補給から切り離されていない限り渡河できてもしんどいでしょ。

      15
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2023年 11月 09日

      橋を確保と言われても、ドニエプル川にはもう大きな橋は何も残ってないんですよ。ヘルソン奪還の時に全部壊しちゃいましたから
      だからこそ、現状ではちまちまとしたボートでの渡河しかできずにいるんです
      橋が無いと装甲車輌を渡せませんし、十分な補給もできません

      20
    •  
    • 2023年 11月 09日

    RDRに出てきたダッチみたいな事言ってるな

    余程素晴らしい計画なんだろ

    6
    • n
    • 2023年 11月 09日

    メディア向けにこう発言してるだけならいいけど
    自分を騙すための嘘を信じて作戦に反映させるようになったら終わりだと思うけどね
    この渡河作戦は政治的には意味があっても軍事的には悪手だよ
    バフムトに兵を送り続けて溶かしたのと同じことをしようとしている

    37
      • kame
      • 2023年 11月 09日

      同じ印象を持ちました。
      バフムトの死守命令同様に、軍部の反対を押し切って政権側が命令しているようだと成功する目は少なそうです。まあ、自信(虚勢?)ありげに語っているようなので、一応の勝算はあるのかもしれません。

      22
      • 朴秀
      • 2023年 11月 09日

      立場上現実を認められないんだろうな
      口先だけならともかくゼレンスキーの願望の実現しようとするのは
      ウクライナ兵の犠牲を伴うから止めてほしいな

      4
    • Easy
    • 2023年 11月 09日

    かのチョビ髭大総統閣下も、ベルリン陥落直前ぐらいまで超新兵器を使った超反撃計画を練りまくってたらしいですからね。
    問題は、それが可能かどうかであって。。。

    21
      • TKT
      • 2023年 11月 09日

      日本軍、大本営でも終戦の玉音放送の直前まで、回天、秋水、桜花、橘花、震洋、剣、伏龍、風船爆弾、震電・・・、などの兵器で一発逆転、一撃講和を狙った本土決戦計画を考えていました。

      近衛師団の反乱なども、
      「神州不敗」
      を観念的に確信する一部の将校によって行われたのです。厚木航空隊事件を起こした小園大佐も
      「斜銃があれば戦争に勝てる」
      と主張していました。

      13
        • たむごん
        • 2023年 11月 09日

        近衛師団の反乱成功(玉音放送中止)、上層部も追随していたら、戦争の被害拡大はさらに酷い事になっていたのでしょうね(原爆を10発くらい落とす計画もありましたし…)。

        大日本帝国について色々言われてきましたが、ウクライナ戦争を見ていると、国家間戦争が一度始まれば止め時は本当に難しいものだと感じます。

        14
    • 2023年 11月 09日

      >「ゼレンスキー大統領の口調はザルジニー総司令官の悲観的な評価とは対称的だ」と評した。

    そら、ゼレちゃんがザルジニーみたいに「もうダメポ」なんて言ったら、欧米からの支援も打ち切られちゃうでしょ。(さっさと和睦しろって)

    この記者は、その程度の創造力もないのか?

      >もしウクライナ軍が左岸からクリミアやメリトポリに向けて前進すれば世界中の人々が驚くことだろう。

    そうなれば良いのになあ・・。さてどうなるか・・・。

    勝ってくれれば良いが・・・。

    18
      • kitty
      • 2023年 11月 09日

      ホント、ただのポジショントークで現状の厳しさをちゃんと理解していればいいんですけどねえ。
      ただ不機嫌なのは事実だとすれば、現状認識自体はしていそう。

      20
      • M774A6
      • 2023年 11月 10日

      ウクライナは支援打ち切られたら現状ラインでの停戦すら不可能と見るべきですからね。
      ただし現状維持をするためにすら口では大反攻・大進撃・大奪還を謳わなければならないとしたら、かなり厳しいですね。。

      2
    • ak
    • 2023年 11月 09日

    多分これを聞いた100人中、300人が思っただろう事

    「私には腹案がある」「それは言えない」「最低でもクリミア」

    10
      • 匿名
      • 2023年 11月 09日

      最近のゼレが旧民主の鳩山元総理と重なって見えるのは、自分だけでは無かったのか…

      4
    • 花粉症
    • 2023年 11月 09日

    まあリーダーが弱気を見せるわけにもいかんし…
    スポンサーの反応みつつ内部との折衝もやりつつだし、辛いね

    左岸上陸についてはやはり陽動の域をでないと思うけど、ロシアがそう看破して泳がせて来るなら、ウクライナにとっては短期的にアピールできる戦果のチャンスになるかもね
    長期的に見た戦果だけじゃ、戦争継続の支持は得られまい
    これもまた辛いところね

    17
    • 暇な人
    • 2023年 11月 09日

    15万もの損害は出ていないと思うのですよね。
    負傷者なら三倍は出ますから、死傷者なら50万ほどになります
    ロシアのウクライナへの派兵はむしろ最初の15万から増やされて45万ほどといわれて三倍になってます。。
    動員した予備役は30万ほどでは足りない、軍の規模も150万に増やしてますが、
    50万うしなっているならこの程度の動員や契約兵の募集ではどうみても足りない。

    19
      • zeema4
      • 2023年 11月 09日

      ロシアの場合、バフムトとか今回のアウディーウカを見ても非人道的で無謀な突撃をかなりやってるからNATO基準で負傷者が3倍とは限らないと思う。
      攻撃スタイル的に死亡率が一般的な軍隊よりかなり高い可能性がある。

      5
    • たむごん
    • 2023年 11月 09日

    過去の結果として、この地域にも塹壕掘削機などを使って、塹壕・地雷・ドローンを組み合わせた主防衛陣地があると考えるべきです。
    塹壕掘削機1台で、毎時数百メートルも掘れるわけですから。

    ドニエプル川両岸は、沼沢地ですから、本格的な塹壕を掘るには適していません(個人的な意見です)。
    ロシア軍が、主防衛陣地をか河岸から、どのくらい下げているのかという話でしょうね(衛星写真がでれば、すぐ判明すると思います)。

    ザポリージャ・トクマク方面、装甲部隊や部隊を集中して、マスコミも煽って期待値を上げましたが、数か月で10km~20km程度の前進です。
    現状は、ゼレンスキー大統領の発言をかなり割り引いて見るのが、無難かと思います。

    8
      •  
      • 2023年 11月 10日

      話は違うけど、今回のアウディーユカのロシア軍は数か月で10km~20km程度の前進より早いのかな ?
      ロシア贔屓が多いからかザポリージャは遅い遅いの大合唱だったけどパフムトもアウディーユカも誰も言わないな。
      そこへ行くとイスラエル軍は仕事がはやい。

        • たむごん
        • 2023年 11月 10日

        仰る通り、イスラエルの仕事は早いですね。
        正規軍相手ではないうえに、民間人の犠牲は多くなっていますが…。

        ゼレンスキー大統領が、クリミア奪還を政治目標、戦争を続ける事を掲げていますからね。
        南部攻勢の前線から、トクマク・メルトポリ・クリミア北端と進む必要があるため、注目されるのは仕方ないかなあと。

        自分は、ウクライナ贔屓が多いように感じてるんですよね。
        ロシア贔屓と言われている方も、現場の情報を欲していたり・戦況分析されている方が多いだけ(軍事ブログですから)なのではないでしょうか。

    • ポンポコ
    • 2023年 11月 09日

    ゼレンスキーとザルジニーの間に隙間ができているようだ。

    ゼレンスキーは10月にゴルロフカ(ウクライナ読みでホルリフカ?この掲示板では7月下旬に記事が出たところ)侵攻を命じたが、軍が無視したようだ。
    また、南部の反撃もゼレンスキーが総攻撃継続を命じているが、現在、軍がそれほど動かない。(ウクライナ軍と言っても一枚岩ではないが)
     
    ザルジニーは、副官の1人で自分に近い特殊戦司令官の解任や親友であった少佐の爆死を、ゼレンスキーの意思表示と考えているかもしれない。

    両者の対立は、権力はゼレンスキの方が強い、ザルジニーは実行力(一部の忠誠部隊)を持っているが、アメリカが認めないうちは反逆は不可能である。ザルジニーは消極的反抗しかできないし、飾り物にされたり解任される可能性もある。

    この隙間の原因は、他の人たちの人間関係やいきさつもあるだろうが、根本は、戦況の停滞・戦況の見通しが良くないことであろう。会社でも業績が悪くなると内部がギスギスしてくる場合が多いのと同じである。

    なぜ、戦況が良くないのか。もちろんアメリカから期待された援助が少ないこともあるだろう。ロシア軍側の改善もあるだろう。

    しかし、少数意見かもしれないが、最大の原因は、ウクライナの兵士の供給力に影がさしたことだと私は考える。

    これまで、ウクライナ軍を支えたのは、西側の援助もあるが、最大のパワーは強力な動員力による豊富な兵力であった。その優勢が航空や砲撃や車輌の数の劣勢を補って余っていた。兵士の損失に強かった。

    その元になるウクライナの強力な動員力が、3ヶ月くらい前から落ちている。その影響が徐々に出てきて、ウクライナ軍のパワー・元気が落ちている。

    個人的な試論にすぎないが、当たっている部分もあると思う。

    8
      • ミカ
      • 2023年 11月 09日

      ザルジニーはNATOの制服組との信頼関係が深いからクビにしたらNATOとの作戦面の調整が難しくなると思うけどな。
      NATOやザルジニーの思い描くような作戦ができないのは軍事音痴のゼレンスキーやシルスキーのような旧ソ連体質の将軍たちが足を引っぱってる。

      5
    • ウルフリック
    • 2023年 11月 09日

    ゼレンスキーとサルジニーの「見解の相違」は単にポジションの違いでしかないね
    プーチンの戦争目的=ウクライナの実質的な無条件降伏、を阻止するのを前提に戦争を継続するならば

    ゼレンスキーが総司令官だったらサルジニーと同じようにぼやいただろうし、
    サルジニーが大統領だったらゼレンスキーと同じように強気な姿勢を見せて叱咤激励するだろう

    安泰に見える独裁者プーチンも傭兵隊長に謀反されたり、それに軍部の一部が協力したり、反乱に青ざめてクレムリンが逃げ出したり、更にそれら不満分子を粛清したりと相当に問題を多く抱えているが、公式では強気な姿勢を崩していないもんね

    だから問題なのは何でサルジニーが「ぼやき」を戦後では無く今、公言したのかという点だね
    サルジニーになにか政治的な意図があったのか、それとも政治センスが無い者の失言なのか、あるいは戦争指揮が過酷すぎて心身が消耗しきったのか、その点が重要だと思うね

    5
      • たら
      • 2023年 11月 10日

      おっしゃるとおりでポジションの違いを鑑みずに隙間風のように報道する記者は,ただのアクセス数狙いとしか思えません。

    • 名無し太郎
    • 2023年 11月 09日

    ただ私には、この二人は似通ったことを言っているような気がする。発言の背景にある政治的な思惑が違うだけで、現状認識は同じなような気がする。
    マスコミは二人の発言の違う部分のみを大々的に取り上げるけど、詳しく解説してあるニュースや記事を読むと、驚くほど発言の内容が似ている。違う部分も、政治家と軍人の立場の差を考慮すると、納得できる範囲内に収まっている。
    だからザルジニー総司令官とゼレンスキー大統領との間に対立があるというのは、部外者の思い過ごしではないだろうか?もちろん対立はあるだろうけど、政治家と軍人とでは視点が異なるので、そこから生じる対立は、どの国にもあるはず。つまり、そういうレベルの対立でしかない。

    5
    • ゼレンスキー司令
    • 2023年 11月 09日

    私にいい考えがある

    3
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