米国はウクライナが必要とする155mm砲弾の増産に取り組んでいるものの資金が枯渇し、米陸軍も「議会承認の遅れで155mm砲弾の購入・増産資金が手に入らない」と訴えた。この資金はバイデン政権が要請した「1,000億ドルを越える緊急予算」に含まれている。
参考:US Army says it needs $3 billion for 155 mm artillery rounds and production
米防衛産業は契約書のない希望的観測だけで投資を行うほどお人好しではない
AP通信は4月「米企業がひと月で生産する155mm砲弾(約1.4万発)をウクライナ軍は2日(1日あたり6,000発~8,000発)で消耗する」と報じたことがあり、単純に30倍すれば「ウクライナ軍は月18万発以上の155mm砲弾を消費する」という意味で、この数字は欧米企業がひと月に供給可能な155mm砲弾の数(約4万発)を越えている。
そのため米国は「155mm砲弾の生産量を2025年までに月4万発まで引き上げる」と、米陸軍も増産計画を前倒して「2年以内に500%増=2025年までに月9万発を生産」と主張していたが、国防総省の調達担当者は9月「155mm砲弾の増産ペースは予定よりも早く進んでいる」と、陸軍の調達担当者も「2024年春までに月5.7万発、2025会計年度までに月10万発を達成するペースで増産が進んでいる」と明かしていた。
米陸軍も先月5日のプレスリリースで「155mm砲弾の生産能力と在庫を増やすため9月末に15億ドル相当の契約を締結した。この契約は2025年第4四半期までに月8万発を達成するのに必要な主要部品、材料、生産能力を調達するもので、国内企業6社と海外企業3社(ポーランド、インド、カナダ)の計9社に契約を授与した」と、陸軍の調達担当者も「2024年度までに月6万発、25年度までに月8万発、26年度までに月10万発台の生産を計画している」と明かしたが、砲弾増産に必要な資金が枯渇している。
ウクライナへの武器支援に使用されている「大統領権限(PDA)=米軍在庫から引き出した装備・弾薬を当該国に提供する権限」の口座には約50億ドルの資金が残っているものの、ウクライナ向けの155mm砲弾購入や増産に不可欠な設備投資は「ウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)=ウクライナ軍が必要とする装備、弾薬、サービスを産業界から調達する権限」から資金が供給されており、現時点でUSAIの口座残高は0だ。
陸軍のブッシュ次官補は7日「ウクライナやイスラエルへの供給分を迅速に埋め戻すため155mm砲弾の購入や生産拡大に31億ドルの資金が必要だが、この資金を手に入れるには議会承認を必要している」と述べ、この資金は「バイデン政権が要請した1,000億ドルを越える緊急予算に含まれている」と付け加えた。
要するに緊急予算に含まるウクライナ支援資金=600億ドルに「USAIへの資金補充が含まれている」という意味で、この影響で需要が逼迫しているパトリオットシステムの迎撃弾増産(年550発→年650発)に供給される資金も止まっているらしい。
米防衛産業は契約書のない希望的観測(何れ議会が緊急予算を認めるだろう)だけで投資を行うほどお人好しではなく、資金供給が遅れれば遅れるほど155mm砲弾や迎撃弾の生産や増産は遅れることになり、ウクライナ人は血で代償を支払うことになるだろう。
追記:ラインメタルは8日「約10万発のウクライナ向け120mm迫撃砲弾をドイツ政府から受注した」と発表、米国と異なりドイツは約束した支援を実直に履行している印象を受ける。
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
自衛隊の155ミリ砲弾の購入価格は20万円でしたっけ、ウクライナが18万発以上使うなら砲弾だけで360億円ですか。
砲弾はミサイルに比べて安いですけど、ここまで大量だとすごい高いですね。忌憚のない意見ってやつっス。
世界的な資材高騰で、西側での調達価格はウクライナ戦前の3倍に跳ね上がってるという話ですね。
はっきり言って、砲弾は先進国で生産するのに向いてない製品ですよ。規格も技術も半世紀前のものですから、家電製品に例えれば今からテレビ用のブラウン管作れって言われるのと大差無いです。よっぽどの好条件を出してもらわないと,とても投資する気にはならない製品ですね。
エストニア軍諜報機関「ロシアの砲弾生産量は侵攻前と同じ生産水準=月150万発だ」
米陸軍「2024年度までに月6万発、25年度までに月8万発、26年度までに月10万発台の生産を計画している」
生産量桁違いで笑えない、さすがこれは量より質とか言えない状況だろ
152mm砲弾に限ってもロシアは今年だけで200万発(月16〜17万発)ですからね。しかも北朝鮮やイランからの輸入分も加えると更に増えるという…
正直西側がここまでやる気が無いとは思いませんでしたね。1年半前には今頃は砲弾、兵器の大増産をしてウクライナにどしどし送り込んでいるだろうと思っていましたが現実は非情ですね。
155mm砲弾のアメリカの生産量は2022年で20万発以下だったからね
進行前と同じ水準ならともかく進行前の4倍以上ってのは頑張ってるよ…
ロシアの152mm、155mm砲弾の生産コストは1万~2万円(西側の1/10)らしいですが
西側の155mmの価格が4倍になってるならロシアとのコスト比って1:40ぐらいになってるんですかね(ロシアが原料を自国で賄うことで生産コストが変わらない場合)
東側が一般人の車代も削って砲弾作ってるとしたら、西側は一般人の車と車どちらも大切だからそうしてるだけ。
資源リソースを全部ぶっこめる東側のペースに持ち込まれたら西側は社会秩序が持たなくなる。
ウクライナは負けるかもしれんが、ロシアは確実に弱体化してる。
ここらで損切りしようと考える奴がいてもおかしくない。
だからこそウクライナは必死で支援アピールしてるんだと思う。
ちなみに北朝鮮が砲弾増産でウハウハの特需状態だそうで。
あそこは国家ぐるみで軍事最優先ですから,今年の時点で年間200万発作れるそうです。うち100万発はロシアに販売分を埋め戻すとしても、半年後には追加100万発が供給可能だそうですよ。
それな必要な鉄も石炭も火薬原料も全部ロシアが格安で供給してくれるそうで。
旧ソ連規格の強みはここなんですね。ちょっとの工業力があればどの国でも大量生産できてしまう。
完全に東側の得意な戦場に引き摺り込まれてますね。
単純比較はできませんが、ロシアの10倍人口が居る中国は本気出せば1500万発作れるんですかね。
そうでなくても、若者の就職難がヤバすぎる状態なので、失業対策の公共事業を兼ねて徴兵ならぬ
徴工みたいなことをやらないと貧困による犯罪多発で治安が崩壊してしまいそうな状況ですし。
といっても、量を供給しているロシア側にとっても同じく膠着状態ですので、
この戦争は装備の質や量だけの話では簡単には動かないということが、双方の弾薬消費量からだけでも読み取れます。
互いに十分な決め手がないので消耗戦はまだまだ続くでしょう。
化石燃料から持続可能エネルギー(笑)とやらに切り替えれば切り替えるほど、レアメタルを生産する中国依存になるのは確かだから、其の懸念は正しい
ウクライナに直接供与される弾薬費はともかく設備投資費もウクライナ関連予算に入ってるんですね
最終的に自国や同盟国資産への投資になるから建付けが違う気がするけど、別枠建てて審議するより纏めて通したほうが当時は早かっただろうから仕方ないか…
他国の支援で、戦争を行う厳しさを感じますね。
日本も他人事ではなく、一般に分かりやすい形で、工廠を保有する是非を幅広く世論に問うべき時期と考えています(岸田首相の支持率を考えれば難しいかもしれないですが…)。
日本も慌てて国有の工場作ってます。記事には今年中に稼働予定とあります。順調に立ち上がってるのかな?
リンク
岸田内閣の支持率とは別に、世論は既に軍拡やむなしでしょう。
仰る通りです。
政府や防衛省が、世論の追い風を考えれば、もっと積極的に発表してもいいと思うんですよね。
軍事費=防衛費であり、日本人が大好きな保険のような性格がありますからね。
数千兆円損失発生のリスクがあるため対応している、といった数字で分かりやすく言えばいいと思っています。
>155mm砲弾(約1.4万発)をウクライナ軍は2日(1日あたり6,000発~8,000発)で消耗する
これ冗談抜きに戦場一帯が薬莢だらけになってない?地雷とか不発弾とかじゃなくて、
踏んづけた際にすっ転びやすくなるから歩兵が物理的に進軍しにくそう。
砲兵は後方なので歩兵の進撃はあまり関係ないのでは? ゼーロウ高地の戦いでは、ソ連軍は4万の火砲を用意しており最初の1日だけで120万発(約100万トン)の弾薬が降り注いだとジューコフの回想録には述べられている(そして準備砲撃の20分後に攻勢開始)のでこの程度では作戦に支障をきたすことは無いと思います。
くだんないことだけど、砲の薬莢って回収してリサイクルしたりするのかな。
米国だと銃のハンドロードは趣味的にやってるけど。
世界最強の覇権国家も民意と財源が無ければロクに他国の軍事支援もできないということが今回の事例でよく分かったね
砲弾の提供が遅れてウクライナがやられたら政府を批判するんだろ
アフガン撤退のときみたいに
管理人さんが以前から書いている通り、欧米の政治家は自由のための戦いがどうのこうのと美辞麗句は口から出てくるけど、ウクライナを本気で助ける気はないから、設備増強の資金は一切出さないんだよなあ
ラインメタルだけは前のめりだけど
日本ではパレスチナ問題でイギリス三枚舌外交けしからんの論調が強いけど、それは日本人が12歳の少年なだけで、あれが彼等の政治文化のデフォルトだと理解しないとまたハシゴ外されて右往左往する羽目になりそうだが
国連負担金だって,真面目に払ってるのなんて日本とドイツくらいのもんですから。
権利は主張するが義務は果たさないってのが世界のデフォルトなんですね。
本当に仰る通りですね。
国連分担金を真面目に払って、貧乏な独裁国家から批判されてるのを見ると、外交下手でアホらしい事をしてるなあと。
ユネスコの拠出金を一時停止したら、すぐに泣きついて日本の言う事を聞いていましたし。
IWC・国際捕鯨委員会(国連ではないですが)も、日本が脱退したら、金もデータもなくなって崩壊して、これまた戻ってこいと泣きついているわけです。
国民から金を巻き上げるために、官僚は美辞麗句を並べてきたということでしょうね…。
<<権利は主張するが義務は果たさない
我が国のアレな人たちの事だと思ったら
国レベルでもそうなんですねー
にしても我が国はお上品すぎる。
良くも悪くもね
国際社会では騙された者が悪い、という意識を持つ人が多いのは確かでしょうね。
大国が揃いも揃って独りよがりの外交をし続けてきたのが今の国際社会な訳で、文句を言われても詭弁で返すぐらいの性根が無いと他国に体よく使われるだけ。
図々しく、サイコパス気味の人間のほうが社会的には成功しやすいのと同じですね。
>米陸軍、議会承認の遅れで155mm砲弾の購入・増産資金が手に入らない
うーん、小さな政府思考の共和党は、こういうのは好かんのかねえ・・・?
ウクライナ支援だろうが、イスラエル支援だろうが、国内企業に金を落とすということは、それだけアメリカの景気回復に資すると思うんだけどなあ・・・?
あとは、イラク戦争の時に盛況だった、軍産複合体とかいうやつも、あれから20年こっち、もう目も当てられない状態なのかねえ。
これを見ると、議会への影響力とかもはやかけらも感じんねえ。
アメリカの景気は、不均衡ではあっても基本的に好景気ですよ。だからこそ砲弾作るのに金がかかるのです。
アメリカの景気、リーマンショック前のあんときみたいに、世界経済を牽引するような力は感じないんだよなあ・・。
あと、砲弾つくるのに金がかかるのは、グローバル経済の停滞(物流の停滞)によるインフレの影響も大きいんじゃね?
(各国もそれの影響でインフレ気味だし)
景気がよければ、トランプやケネディみたいのがもてはやされないと思うんだよなあ・・。
仮にあれが好景気だというのなら、景気の良し悪しの判断の物差しをかえた方がいいんじゃないかと思う。
元々、そんな物幻想だったのでは……?
兵器なんか作るよりハンバーガーとコーラ売る方がずっと儲かるんですから
そもそも紛争地帯でジェノサイドに使われるのは西側のハイテク高級兵器ではなくてローテク東側兵器だったわけですし
そもそも西側に優位性のある第5世代戦闘機や精密兵器を一切供与しないというセルフ縛りで戦争するから独ソ戦仕込みのレトロな消耗戦にズルズル引き摺り込まれているという。
こんな特殊な状況で大規模投資で砲弾生産とか筋が悪すぎるやろ。いっそのことアフリカ、アジアのダブついてきた縫製工場を砲弾工場に転換する投資でもしたらどうだ。
基本的に人手不足とインフレで米国の政策は恐らくほぼ9割失敗します
アメリカは利払いだけですでに毎年一兆ドル(150兆円)という笑えない話になってますからね。
借金大国といわれる日本ですら10兆円以下なのを考えればどれだけのことかわかるはず
これ以上やると財政が厳しいというのは事実
しかも資源国側が資源ナショナリズムになっており高めで売るようにしている。
だからどんどん価格が高騰していく。
イスラエルの事もあって下手するとストライキなども起こりかねない状況
参考情報がないので感想になってしまうがウクライナを本気で助けないのか?という問いに対して答えるとアメリカは対中国(東アジア)、イスラエル(中東)、ウクライナ(欧州)にそれぞれかなり金をかけないといけないんでウクライナに肩を入れすぎては正直すぎますが日本人としても困るものなんで何とも言えないですね。
”ウクライナの件に関して限って”言えば東側って言っても欧州で正直当時者は見える表面的な範囲ではロシア・ベラルーシしかいないんで西側vs東側って構図っていってもそんな大した表現しなくていいと思いますけどね。
(中国・北朝鮮自身はもっぱら太平洋面を意識しないとですしイランもご覧のごとく対イスラエルです。仮に現状を西側vs東側と表現すれば人口比では押されますが資源総量で西側が負けているかというと果たしてそうかとも思います。インドをどう見るかでも変わってきますし砲弾や電子部品に使用されるレアアースのサプライチェーン(オーストラリア、カナダを忘れてはいけないですし米国、欧州内で最近鉱山が復活しました)は割と脱東側に向けて着実にアメリカでも進んでますしエネルギー資源はそもそも東側にだけ頼ってきた訳でないんですから。戦略物資の比較論では体制が整えばロシアと変わらない砲弾生産もできるでしょうが現状アメリカ自身が戦争している訳でないのでここら辺が限界かと)
アルメニアからロシアは手を引いたんでそれほど双方も余裕がある訳でないですし、砲弾数だけで戦地を比較できるなら何故ウクライナは未だ粘っているのかという説明にもならんので砲弾の支援は計画通り進めつつ時間を掛けながら精度が高く射程距離が長い兵器をウクライナに送って行ければウクライナが完全に敗北することも無いと思いますが、誰か専門家の方居ればこの考え方がどうか意見が欲しいところです。