ウクライナ戦況

英国、ウクライナに戦争の方程式を変える軍事訓練プログラムを提供

英国のジョンソン首相は2ヶ月ぶりにキーウを再訪問、ゼレンスキー大統領と会談して前例のない軍事訓練プログラムの提供を発表した。

参考:Boris Johnson offers training to thousands of Ukrainian troops
参考:Стали известны детали разговора Зеленского и Джонсона

戦いが長期化すればするほど英国の軍事訓練プログラムは効果を発揮してくるだろう

ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、イタリアのドラギ首相、ルーマニアのヨハニス大統領がキーウを訪問した翌日にジョンソン首相もキーウに到着、ゼレンスキー大統領と会談して防空システムや重装備の提供について協議を行い、特に重火器の供給量を増やす必要性について集中的に話し合いが行われたらしいが、会談後の記者会見で具体的な装備提供の発表は行われなかった。

出典:President Of Ukraine

しかしジョンソン首相は「戦争の方程式を変える可能性のある前例のない軍事訓練プログラムをウクライナに提供する」と明かしており、これは2015年から英国がウクライナに提供してきた「Operation Orbital」を拡張したもので、ウクライナ軍が直面している訓練問題を解決するものだと思われる。

ウクライナは総動員を発表したものの動員した人々への軍事訓練に必要な教官役、機材、施設が圧倒的に不足、ロシア軍が首都方面から撤退後すると西側諸国(米国を除く)のサポートがキーウに戻ってきたが、それでも動員に応じた人々への訓練は「待機期間=訓練待ち」が発生しており、訓練内容にもバラツキが発生して射撃訓練すら受けられない前線に送られる兵士もいるらしい。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

英国が2015年から提供してきた「Operation Orbital(ウクライナ侵攻を受けて停止)」は計22,000人以上=年平均3,100人のウクライナ人に訓練を提供してきたが、今回提供される軍事訓練プログラムは「120日毎に1万人のウクライナ人へ訓練を提供=年平均3万人の兵士を量産」という前例のない規模で、装備提供に比べれば地味な支援に聞こえるかもしれないが戦いが長期化すればするほど英国の軍事訓練プログラムは効果を発揮してくるだろう。

因みに今回の会談結果として「具体的な装備提供」は発表されなかったが、当然水面下では新たな装備提供に向けた調整が行われているはずなので、西側諸国はウクライナの軍事的勝利を信じるだけでなく、これを実現するための方策に取り組んでいると解釈するのが妥当だと思うが、一般人に小出しに発表される情報が全てなので「本当にウクライナがロシアを打ち負かせるのか?」については評価のしようがない。

追記:スロベニアのシャレツ国防相は「ウクライナに歩兵戦闘車(恐らくBVPM-80)を35輌提供した」と明かした。

15日のラムシュタイン会議で決まった武器提供と15日以降に各国が発表した武器提供の一覧
提供国種類数量
米国M77718門
牽引車輌18輌
155mm砲弾36,000発
HMARS向け弾薬数量不明
車載用ハープーンシステム2セット
軍事用無線機数千個
暗視装置数量不明
赤外線センサー数量不明
回収車輌4輌
各種スペアパーツ数量不明
人道支援2億2,500万ドル
カナダM777の交換用バレル10セット
155mm砲弾(韓国と交渉中)100,000発
英国M10920輌以上
   
フランスCaesar6輌
   
ドイツM270(MARS-II)3輌
M270向け弾薬数量不明
M270スペアパーツ数量不明
  
ギリシャBMP-120輌~30輌
   
スロバキアMi-174機
 Mi-2
1機
BM-21用のロケット弾数量不明
スロベニアBVPM-8035輌
   
オランダ砲兵装備数量不明
ポーランド砲兵装備数量不明

追記:今月末にスペインで開催されるNATO首脳会議には日本の岸田首相とオーストラリアのアルバニージー首相が出席予定で、この機会にウクライナを訪問するようゼレンスキー大統領はアルバニージー首相に要請(労働党が総選挙で勝利した5月に招待状を出していたらしい)、アルバニージー首相も「ウクライナの主権を守るためためオーストラリアはNATO以外で最大の貢献国であり、これがNATO首脳会議に我々が招かれた理由の一つだ」と明かしてキーウ訪問を前向に検討しているらしい。

※欧州諸国以外の首脳がキーウを初訪問すれば国際的なウクライナ支援の結束をアピールできるため、NATO以外で最大の貢献国であるオーストラリアとして要請に応えたいという意味。

出典:Prime Minister’s Office

但し、キーウへの移動ルートはポーランドからの鉄道輸送のみなので「安全保障上の懸念もある」とアルバニージー首相は言及しており、NATO首脳会議でキーウを訪問した経験のある国からアドバイスを聞いてから最終的な決断を下すと述べている。

仮にアルバニージー首相のキーウ訪問が実現すれば、欧州諸国以外の首脳が初めてウクライナを訪れることになるので政治的なインパクトは小さくないだろう。

関連記事:ウクライナはクリミアを含む全領土解放を主張、フランスも軍事的な奪還を支持
関連記事:英仏が自走砲提供を発表、まもなくウクライナ軍は東部で大きな前進を遂げる

 

※アイキャッチ画像の出典:President Of Ukraine

エンブラエルのC-390、宿敵C-130Jを破りオランダ空軍採用を決める前のページ

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コメント

    • NATTO
    • 2022年 6月 18日

    イギリス:歩兵の戦闘力向上にSA80を供与。

      • ミリオタの猫(やっぱり、アンツィオ…いや、ロシア軍は強い?)
      • 2022年 6月 18日

      >SA80
      止めろ、戦闘力低下に繋がる(迫真)

      7
        • 戦略眼
        • 2022年 6月 18日

        じゃあ、89式で。

        • NATTO
        • 2022年 6月 18日

        弾薬が必要無い小銃ですよ。

    • ido
    • 2022年 6月 18日

    流石にSAS級の訓練はないだろが、これは案外良い支援なのかもしれませんね。というか射撃訓練は銃の使い方以外に何をするんでしょうか。戦車の運用方法とか、スターストリークの使い方などでしょうか。

    6
      • G
      • 2022年 6月 18日

      特殊部隊の育成も案外否定しきれないかと
      といいますのもロシア軍が突出部隊を作らずロケット砲や火砲による面制圧による正面戦闘を主とした侵攻を続ける以上、ウ軍の兵力ではいくら支援があってもこれを押し留めることはできません

      ですので少数精鋭な部隊を用意し、連絡網の破壊や指揮官の暗殺など後方かく乱による敵前線の機能マヒや侵攻遅滞を狙うという可能性はゼロではないと思われます

        • クゼルエルマ
        • 2022年 6月 20日

        特殊部隊員の養成には膨大な時間と資金と機材が必要なので最悪間に合わなくなる可能性が高いですし、選抜されるような兵士はもうすでに前線に配備されてるでしょう。
        高価で準備に時間のかかる武器より大量生産ができる武器のほうが求められてる現状では一般兵の養成プログラムと考えるほうが妥当でしょう

    • 四凶
    • 2022年 6月 18日

     ふと思えばこういうトレーニングこそ日本が入り込める余地があるんじゃないだろうか。訓練用のブルーガン・エアソフトガン・MANTIS X(米国製だが)とか提供する。殺しに繋がる訓練ではあるが武器にはあたらないだろう。

     室内戦闘訓練された兵員増えればまだ都市の奪還もし易くなり無理に都市を維持して犠牲を増やす事もなくなる可能性はあると思う。

    2
      • 無無
      • 2022年 6月 18日

      余地ないと思う
      日本はむしろ実戦経験ある欧米軍から指導される側
      これは平和国家として痛い面である、実戦を知らないのに教えてもな

      19
        • 四凶
        • 2022年 6月 18日

         訓練機器の提供でどこに日本が訓練だと取れるの?全ての訓練に実銃は使えないし実績はあるだろう、実弾撃つ事だけが訓練じゃないからね。構え方、室内でどう立ち回るとかダミーガンで十分出来ると思うが。

        7
          • 無無
          • 2022年 6月 18日

          これが適切な例えかは自信無いんだが、剣術と剣道の違いだよ
          同じように見えても別のものだと
          剣道は殺人を避ける前提だもんな

          5
            • 四凶
            • 2022年 6月 18日

             いや良く分からないが構えの練習するのに実銃である必要は?仮に実銃に近いダミー使ったとしてそれが殺人出来るかどうかへの差が発生する率のデータを見せて貰いたいのだが。

             戦争における「人殺し」の心理学とかだと実際に人に向けて殺意ある射撃出来るのは良くて全体の20%とかのデータもあったはず。それがRubber duckみたいなダミーガン使う事で10%以下になりますとかおもちゃで訓練したら悪影響が出た何かしらデータを見せて頂きたい。

             むしろそれで何かしら心理的変化が起きるなら、そもそも戦う意欲があったのかの方を疑うべきでは。

            2
              • 無無
              • 2022年 6月 18日

              日本からの申し出も無いし、ウクライナからも声はかからないよ
              そこはお互いにわかってるから
              もう遊びや研究実験の段階じゃないんだよ

              11
    • kojima
    • 2022年 6月 18日

    いや、いい発想だと思う。
    確かに訓練用兵装なら武器には当たらないし、今後ずっと効果を発揮し続ける。
    コストもほぼ気にしなくていいだろうし、何なら市民にモデルガンを大量配布するだけでも露軍への嫌がらせにはなるだろうし。

    9
      • 伝説のハムスター☆☆☆
      • 2022年 6月 18日

      市民にモデルガンなんて持たせたら、ロシア軍が疑心暗鬼になって攻撃対象になるから危ないでしょ

      11
      • 匿名
      • 2022年 6月 18日

      …それ、露軍に民間人の大量虐殺する理由を与えるだけなのでは…??

      13
    • kwsm
    • 2022年 6月 18日

    塹壕の掘り方なら陸自にもノウハウあるんじゃなかろうか…

    1
      • ido
      • 2022年 6月 18日

      土嚢の置き方なら世界一…

      1
      • NATTO
      • 2022年 6月 18日

      陣地の作り方と偽装のやり方も教えれば死人の数は減る。
      教官、助教ができる人の余裕が無いんじゃ?

    • WSO
    • 2022年 6月 18日

    ジョンソンは、仏独伊の翌日にウクライナ入りね…大丈夫かよおい

    足並み?知らんがな 結束?知らんがな という何か落ち着かない気分である…

    • jiro.siwaku
    • 2022年 6月 18日

    前回,電撃訪問した直後にモスクワが撃沈された。
    今回の訪問後に,また何が起きるのかも。
    ちょっと気になる。

    1
      • NATTO
      • 2022年 6月 18日

      男、5人首脳会談
      何も起きないはずがなく・・

    • ななし
    • 2022年 6月 18日

    つまるところ、これって米英はこの戦争が長期化する事を支持してるって事だよね。
    独仏なんかは妥協点があればすぐにでもやめさせたい感じだったけど。

    2
      • G
      • 2022年 6月 18日

      米英は独仏ほどロシアに依存しているものがないため、対ロシアを見据えて準備してきた今までのものを自国を危険にさらすことなく目的通り使えるわけですからね
      そしてロシアが弱体化させることができればできるほど今後の自国の安全保障に余裕ができますし

      3
    • 成層圏
    • 2022年 6月 18日

    平和を愛するハト派の岸田総理はキーウ入りしたほうがいいと思う。そこで平和を訴えると国際的に評価上がるよね。
    ロシアもさすがに狙って来ないだろうし。
    (仮に殉死されても、歴史に残るしね。)

    5
      • 無無
      • 2022年 6月 18日

      けっこう酷いこと言うな、まだ何も仕事してないのに殉職かよ
      しかし今さら思えば、ポーランドの首脳兄弟搭乗機墜落事故は、ありゃ事故じゃないよな
      プーチンはとっくに始めていたとしか思えん

      1
        • G
        • 2022年 6月 18日

        ポーランド空軍Tu-154墜落事故でしたら国際的な調査により、悪天候やその中をろくな着陸支援設備もない小さな軍用空港に強行着陸させようとしたポーランド上層部による操縦士への圧力などが判明しており、犯罪性は航空機・空港・管制いずれにも確認されませんでしたよ

        5
        • 成層圏
        • 2022年 6月 19日

        いや、もしもだよ。
        もちろんそんなことは起こって欲しくないし、ロシアもわざわざ自国に不利なことはやらないと思うから、可能性はほぼ0だと思うよ。

        ただ、平和平和っていうんだったら、いざという時こそ規範(模範)を見せて頂きたい。もとより戦争を望む人なんてほぼいないんだから。
        口だけ平和主義の野党とか、個人的には嫌いなので。

        1
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