ウクライナ戦況

ゼレンスキー大統領、西側製防空システム「NASAMS」を受け取った

米CBCが25日に放送した番組の中でゼレンスキー大統領は「NASAMSを受け取った」と発言して注目を集めているが、NASAMSがウクライナに到着して運用が始まっているのかは明かされていない。

参考:Full transcript: Ukrainian President Volodymyr Zelenskyy on “Face the Nation,” Sept. 25, 2022

広域防空に向かなくても特定の都市や拠点を保護するのには十分役に立つ

バイデン政権がウクライナ支援パッケージの中で提供を予告していたNASAMSはレイセオンとコングスベルグが共同開発した防空システムで、AIM-120の地上発射バージョンと言うべき存在だ。

出典:Soldatnytt/CC BY 2.0 NASAMSランチャー

NASAMSはAIM-120を搭載するランチャー、目標を検出・追尾するためのAN/MPQ-64(もしくはGhostEye)、これを制御するためのFire Distribution Center、弾薬を補充するための補給車両の4つで構成され、第三世代のNASAMS向けに開発されたAIM-120の射程延長版「AMRAAM-ER(AIM-120C-8のシーカーとノルウェー企業のナーモが新規に開発したロケットモーターを組み合わたもの)」はAIM-120C-7と比較して交戦距離と交戦高度が50%以上拡張されている。

さらに第三世代のNASAMSランチャーはAMRAAM-ERに加え、AIM-9XやIRIS-Tといった特性の異なる空対空ミサイルを混載運用することも可能なり、柔軟性の高いマルチミサイルランチャー化しているのが特徴だが、ウクライナに提供されるNASAMSの詳細は不明なのでAMRAAM-ERが使用できるのかは謎だ。

出典:diehl 中央がIRIS-TSLMで左がIRIS-TSLS

米国(NASAMS)、ドイツ(IRIS-TSLM)、スペイン(アスピーデ)がウクライナに提供する防空システムは基本的に近距離もしくは中距離をカバーするタイプなので、長距離・高高度をカバーしているS-300の代わりにはならないという指摘もあるが、NASAMSで使用されるAIM-120などは米軍備蓄から大量に提供できるため迎撃弾の供給に不安がなく、広域防空に向かなくても特定の都市や拠点を保護するのに十分役に立つだろう。

因みにNASAMSを扱うための訓練が6月末に開始されていたという話もあるので、NASAMSがウクライナに到着して運用が始まっていたとしても不思議ではない。

追記:AMRAAM-ERについては「レイセオン、AIM-120C-7よりも射程距離が50%向上したAMRAAM-ERのF-35A統合を検討」を参照して見てください。

追記:ゼレンスキー大統領がCBCのインタビュー中に「NASAMSを受け取った」と発言したが、ウクライナ政府は26日「まだ物理的にNASAMSを国内に到着していない」と大統領の発言を修正した。

関連記事:バイデン政権、ドイツに続き西側製防空システムをウクライナに提供か
関連記事:スペインがウクライナ支援を発表、M113、防空システム、野戦砲を提供
関連記事:ドイツ首相、ウクライナへ防空システムと対砲兵レーダーの提供を発表

 

※アイキャッチ画像の出典:Raytheon

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コメント

    • 匿名
    • 2022年 9月 26日

    関連ない話で申し訳ないけれど、イタリア総選挙で親露派が勝利とは…
    まーた引っ掻き回されるのかイタリアに

    15
      • bbcorn22
      • 2022年 9月 26日

      イタリアは最初からどうでもいい。
      それより独仏はもうちょっと頑張ってもらわないと
      逆にポーランド、バルト三国は十分すぎるぐらい

      24
      • ブルーピーコック
      • 2022年 9月 26日

      昔から仲がいいというか、西側最大の共産党がイタリアに居たので、その名残りがあるというか。
      ロシア人観光客の多かったイタリアを含めた地中海諸国(スペイン、ギリシャ、フランス、キプロス)などの国は8月末でもビザ発給禁止に反対してました。

      12
    • ido
    • 2022年 9月 26日

    NASAMSはホワイトハウス周辺の防空兵器として配備されていた経歴があるので迎撃率は高いと思われます。さらに多種多様なミサイルを使えるので活躍が期待されますね。

    23
    • むし
    • 2022年 9月 26日

    自衛隊の装備で例えると中SAMと短SAMの間ぐらいのやつ?

    まあロシアにとってはなおのこと航空優勢が難しくなるし
    ドローンやミサイルが効きづらくなるだろうな

    16
    • L
    • 2022年 9月 26日

    AtAミサイルの地上発射型とは面白いな
    やはり汎用性とコストダウンが鍵か

    13
    • ゆくらいな
    • 2022年 9月 26日

    かなり狭い範囲でしか防空できないけどどこを守るんだろうか?

    1
      • ido
      • 2022年 9月 26日

      普通に都市を守れるくらいの防空範囲はカバーできますよ。

      18
    • ブルーピーコック
    • 2022年 9月 26日

    「(AMRAAM-ERは)AIM-120C-7と比較して交戦距離と交戦高度が50%以上拡張されている」ということは射程は約150kmくらいか。S-300から逃れた敵への第二の矢としては充分充分。
    海外の紹介記事だとAMRAAM-ERの最大高度は70%増加と書かれていたけど、軍事機密なのか、どこにもAMRAAM各型の最大高度は書かれていなかったわ。

    4
      • もり
      • 2022年 9月 26日

      AMRAAMC-7の50%アップと言うが空中発射の射程では?(120km~140km+50%)
      地上発射型ではもっと射程短くなるのではないだろうか
      陸自最大射程のSAMが50km超なの考えるとさ

      9
        • きっど
        • 2022年 9月 26日

        元が空中発射のミサイルを地上発射した場合の射程は、シースパローを例に取れば3分の1程度の射程になると見るとよさそうです(55km(30海里)が19km(10海里)に)
        AIM-120C-7だと公称射程が約100kmですから、約30km程度かと
        それの50%増しとなると、約50km程度でしょうか。ESSMと同等と見るべきかと

        7
        • ブルーピーコック
        • 2022年 9月 26日

        仰る通りでAMRAAMの空中発射型の射程と勘違いしていました。

        グローバルセキュリティというサイトでAMRAAM – ERの射程が書かれており
        『AMRAAM – ERの最大高度は約25km。最大射程は約50km』
        となっていました。勘違いしてしまい申し訳ありません

        7
      • TDNトーシロ
      • 2022年 9月 26日

      AMRAAM-ERって書いてあるけど確かコレって海軍向けのESSMブロック2だったハズ。射程は海自も使ってるブロック1では50km前後だと言われてるんで弾体が大きく変わってなければ、ほぼ同じだと思う。ただ最近中東の国が導入しようとしたら売却が拒否されたってのを見た気がするんで最新のミサイルは許可されんのではと思う。
      あと思うんだけど、ウクライナ空軍機のIFFってどうなってるんだろうか?今回の戦争前に米空軍と共同訓練してるし、いつの間にかHARMを運用してるから最新のモード5に対応しててもオカシくないかな?
      宇・露軍とも元が同じ戦闘機使ってるから西側の対空レーダーシステム上は同じ敵性の戦闘機に識別されるんでは…と思ったり。IFFのモード違いで誤射されるのはイラク戦争やその前のサザン・ウォッチ中にもあった気がする。

      1
    • 2022年 9月 26日

    防衛兵器だから、戦闘機や戦車みたいなリミッターなしに、じゃんじゃん送ってほしいな。
    ウクライナ軍の人的損害なしに、ロシア軍を削れる仕組みを確立してほしい。
    湾岸戦争みたいなワンサイドゲームに。。。

    5
    • しろうと
    • 2022年 9月 26日

    今回の紛争で話題に上がった装備は携帯型対戦車ミサイル、移動式防空システム、多連装ロケット砲、ドローンなどですが、我が国はこれらの装備を十分に持っているのですか?どなたか教えてください、

    3
      • 通りすがり
      • 2022年 9月 26日

      まずはご自分で調べられてみてはいかがでしょうか。
      防衛白書なども今はネット上で閲覧できますよ。

      18
      • 無責任
      • 2022年 9月 26日

      携帯型対戦車ミサイル→01式軽対戦車誘導弾1073門
      移動式防空システム→91式携帯地対空誘導弾356門
      多連装ロケット砲→MLRS99両
      ドローン→グローバルホーク3機、スキャンイーグル数不明、災害用小型ドローン200機等

      01式と91式、ドローンは正直少ない
      MLRSは結構あるけど老朽化してる

      17
        • 匿名
        • 2022年 9月 26日

        01軽MATは既に調達終了してラインも消えてるんでしたっけ…

        3
          • きっど
          • 2022年 9月 26日

          発射装置の調達が終わっただけで、弾体の方は維持生産されているかと

          4
      • ido
      • 2022年 9月 26日

      ほとんどは保持しております。

      2
      • 2022年 9月 27日

      持ってはいても、ウクライナほど効果的な使用は出来ないでしょう。
      どれも使い出したらほぼ終わりな盤面なので。

      1
    • zerotester
    • 2022年 9月 26日

    昨日のウクライナ軍の発表によれば、1日で航空機を4機も撃墜しています。無人機とは別で。クピヤンスク付近で超低空を飛んでいたSu-30SMが、ミサイルか何かで撃墜されている映像がありました。高価なSu-30SMにしては無茶なことをしていますが、プーチンから空軍も支援して拠点を死守しろと言われているのかもしれません。

    NASAMSが来たということで、航空優勢がさらに強固になるでしょうし、無理を承知で突っ込んでいるロシア軍機のためのキルゾーンを作れるといいですね。効果が明らかになればさらに送ってもらえるかもしれないし。

    4
    • AAA
    • 2022年 9月 26日

    防空システムはウクライナの命綱の一つだからどんどん送ってほしい
    ウクライナで戦果を上げれば世界中から注文が殺到するだろうしな

    5
    • 名無志野
    • 2022年 9月 26日

    NASAMSの配備は目出度いのですが初代だと自爆ドローンにチープキルされないか少し心配です
    NASAMS2か3も供与してほしい

    1
    • XYZ
    • 2022年 9月 26日

    S-300は大丈夫なのでしょうか?
    ランチャーもですが、ミサイル自体もそろそろ在庫が無くなってくるのではないかと心配しています。
    西側製で代替になりそうなシステムは少ないですが、そろそろ提供しないといけない時期にきていると思います。

    4
    • ざんねん
    • 2022年 9月 26日

    なんかここ数日じゃんじゃんロシア側の航空機が撃墜されまくってる(1機は勝手に墜落した)けど、まだ運用できる余裕あるんですかね?
    ウクライナ側の発表がある程度盛られているとはいっても、視覚的裏付けのある撃墜シーンが毎日見られるのはちょっと異常。

    1
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