英国のEconomist紙は1日、ゼレンスキー大統領のインタビュー記事の中で「彼は敵の成功やウクライナ軍の進歩のなさでもなく同盟国や国民の離反に苛立っているのだ」「この激しい戦いを維持するためには西側諸国の支援以前にウクライナ自身が追加動員を行なう必要がある」と指摘した。
参考:A New Year’s interview with Volodymyr Zelensky
2022年の名コミュニケーターが『その信念』を共有するよう他の国々を説得できるかどうか
Economist紙のゼレンスキー大統領のインタビュー記事の中で「彼が怒りを顕にしているのは敵の成功(彼は何も見ていない)でも、戦場におけるウクライナ軍の進歩のなさでもなく、同盟国や国民の離反に苛立っているのだ。ゼレンスキー大統領は戦争のプレッシャー、ネガティブな見出し、あれだけ2023年初頭に約束していた反攻作戦の失敗によって余裕を失い、以前のような明るさとユーモアをなくしていた」と報じており、この記事の興味深い部分を要約すると以下のようになる。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE
ゼレンスキー大統領はロシア軍が侵攻を開始した翌日、我々はここにいると述べた32秒の動画で世界中を奮い立たせ、国民を動かすことに成功した。彼は今でもキーウの広大な政府施設に留まり、ロシアもキーウ、ドニプロ、ハルキウ、オデーサなどを攻撃し続けているが、世界は以前ほど熱心に彼の話に耳を傾けておらず、コミュニケーションのプロも2年前のようにシナリオをコントロールできなくなっている。ウクライナ国内でも倦怠感が漂い、西側諸国の見出しはプーチンが勝利に近づいているかどうかを問い、欧米ではウクライナ支援が政治的な駆け引きの対象になっている。
現状についてゼレンスキー大統領は「西側諸国もウクライナ人も危機感を失った」「2023年は世界が望んでいたような成功が出来なかったかもしれない」「しかしプーチンが勝利しているという考えも感覚的なものに過ぎない」と訴えたが、国家資源を総動員する戦争に発展したため支援国の間で「ウクライナが勝利を収めるのが難しくなった」という考えが広まった。これは戦争に必要な資金や武器をウクライナから奪っていく危険性があり、運命論は自己充足的予言に陥るかもしれない。

出典:ПРЕЗИДЕНТ УКРАЇНИ
それこそが2024年を重要な年に位置づける理由だ。ウクライナの戦争資源が枯渇する中でロシアは戦争努力のギアを上げ、選挙イヤーを迎えた欧米諸国の関心は戦争から国内政治に移りつつある。世界からの支持を集めなければならないゼレンスキー大統領の任務は嘗て無いほど困難で掛け金が高騰している。
ゼレンスキー大統領は「ウクライナを支援することで欧州はロシアの侵略から守られる」と訴えているものの、同時に「何かが欠けている、もしくは誰が欠けているのかもしれない。ウクライナを守る必要性を語れる人物が居ないのかもしれない。幾つかの欧州諸国では自国がロシアから攻撃を受ける可能性を検討し始めている。旧ソ連に属していなかった国々でさえもだ。欧州諸国は自国の為にも米国にウクライナ支援を働きかけるべきだ」とも述べたが、2024年にウクライナが何を達成できるのかについては口を閉ざした。

出典:Крымский ветер
それでも「クリミアと黒海の戦いが戦争の中心になる」「クリミアを孤立させロシア軍の影響力を低下させることが出来れば同方向からの攻撃を減らすことが出来る」「この作戦が成功すれば世界への模範になるだろう」「同時にプロパガンダの目玉を失えばプーチンの野望のため何千人ものロシア軍将校が無駄死にしたことを示せる」と主張し、約240年間も維持してきた黒海艦隊の基地を失うことはプーチン大統領にとって「政治的な一撃になる」と考えているようだ。
東部戦線や南部戦線に関する目標については何も語らず、1991年当時に国境線に戻すという戦略方針に変わりはないものの、もはやゼレンスキー大統領は時間軸の設定を行わず、2024年にどれだけの占領地を解放できるかも約束していない。恐らく東部と南部の主要都市と重要なインフラを守ることが当面の目標だろう。

出典:Генеральний штаб ЗСУ
ゼレンスキー大統領が2023年の反攻作戦前に膨らませた期待は失望感を生み出す要因の一つだ。昨年11月にザルジニー総司令官は同紙のインタビューで「戦場の膠着状態」を認めて大統領の怒りに火をつけたが、これは立場を変更するきっかけにもなった。この激しい戦いを維持するためには西側諸国の支援以前にウクライナ自身が追加動員を行なう必要がある。しかし動員ルールの改正案に含まれる「動員対象年齢(27歳→25歳)の引き下げ」や「動員猶予を認めるカテゴリーの縮小」は国民から人気がない。
それでもゼレンスキー大統領は「動員は誰が前線に行くのかという問題ではない。これは動員対象者だけでなく私たち全員の問題だ。総動員だけが国を守り、ロシア軍による占領状態を解除できる唯一の方法だ。正直に言おう。我々は国内政治(政治闘争の再開という意味)に切り替えたのだ。これはウクライナ人が選択すべき問題だ。もし国内政治を重視し続けるのであれば選挙を行なう必要があり、法律や憲法も変わるだろうが反攻作戦や占領地の解除を忘れる必要がある」と訴え、動員ルールの改正案が政治闘争に利用されるなら選挙を行なう必要があり「そんな事になればロシアとの戦争を棚上げしなければならない」という意味だ。

出典:Zelenskiy Official
因みにEconomist紙はゼレンスキー大統領から以前ほどの活力はなくなったが「ロシアを倒す計画から引き返すことは出来ないと強く主張し続けている」とも指摘している。
ゼレンスキー大統領はインタビューの中で「現時点でウクライナ人が出来る最も重要な貢献は国内に留まることで、西側諸国のパートナーはウクライナと共にあり続けることだ。我々は絶対に後退しない」と熱弁したものの、Economist紙は「問題は2022年の名コミュニケーターが『その信念』を共有するよう他の国々(国内のウクライナ人を含む)を説得できるかだろう」と書いて記事を締めくくっている。

出典:The White House
本ブログでも前線の状況だけでなく「欧米のウクライナ支援や防衛産業の状況」「ロシアとの戦争に対するウクライナ国内の雰囲気」「動員に関する諸問題」などを現地メディアを通じて観察してきたが、ウクライナが直面している問題は大きく分けて「欧米の支援不足」「動員の行き詰まりによる人員不足」の2点だ。
2022年11月に実施された米中間選挙後に「バイデン政権がウクライナ支援資金の調達で問題を抱える(共和党は白紙の小切手を認めないと主張していた)」と予想されていたが、この時点では誰も現在の状況を想像しておらず、バイデン政権が資金獲得に動きだした今年8月頃には「揉める」という声が多くなっていたものの、ウクライナ側が「バイデン政権(民主党)との協力だけに集中するのはリスクが高い」と気づいたのは秋以降のことで、この辺りの対応からも「反攻作戦が成功する=戦争が短期終結する」という前提で動いていたことが伺える。

出典:Visegrád 24
さらに多くのウクライナ人は「大きな損失が前線で発生している」と薄々感づいており、ゼレンスキー大統領の支持者も「自分も軍に加わって前線で戦う」とまでは考えておらず、動員の対象者が拡大するルール改正が不人気なのもそのせいだ。
どちらにしても戦争継続には「欧米からの支援」と「ロシアの戦いに参加するという社会的合意」が不可欠で、もし合意の形成に失敗すれば「一方的に新動員ルールを導入する」もしくは「大統領選挙を実施して選択を迫る」の2択になり、この問題を2024年に乗り越えられるかがウクライナの将来を大きく左右するのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:PRESIDENT OF UKRAINE
ウクライナの選択としてまず停戦と継戦があり、現段階では停戦への選択が政治的・軍事的に無理となると、どのように継戦するかになりますね。
今後方にいるウクライナ国民が「ロシア許すまじ、我が軍反撃せよ。でも自分は徴兵されて前線に行きたくない」という思考回路の方が多数の場合、ウクライナ軍の可能な行動は著しく制限されます。(仮に日本が侵略された際、自分自身もこの様な思考になる可能性はあるため責められないです…)
実際、民主主義国家でこれは大きな課題になるのではないでしょうか。
国全体の利益のためには誰かが損をしなくてはいけないが、誰もその損をする役を負いたくない…
日本でも、社会保障費を
どう工面するかって話で
すでに同じジレンマになってますね
医療費削るな、子育て支援は足りない
負担増はけしからん、てなもんで。
物方は何でもそうですが
何を得るため、何を捨てるかの議論なんですが
個人主義が行き渡ると合意形成は困難になる。
命のやり取りなら、尚更でしょう。
戦争で優位に立つロシアにとって単純な戦闘の凍結等の停戦案に応じる意思はないだろうし、
欧米諸国からの支援が途絶えて徴兵も進まないまま領土を削られ続けるというのがウクライナにとっての現実的な展望じゃないかな
ウクライナの『同盟』という表現も、非常に難しいものがありますね(同盟=都合のいい相手ではありません)。
ウクライナにとって、主語は『ウクライナ戦争・ウクライナ人』だと思います。
世界各国の主語は、『自国・自国民』であるため、ウクライナがいつまでも喜捨に頂かれると考えるのはリスクが高いわけです。
ウクライナは、キエフなどの大都市在住者・エリート層などに負担を求めたとして、戦争を継続できるのか注目したいと思います(個人的には厳しいと考えています)。
まあ誰だって前線に行きたくないのはわかる。そこに死が待っているとするのなら尚更。
しかし今ウクライナは支援もなく、人も足りず、前線は崩壊しつつある。
ゼレンスキー支持者までが行きたくないというのであれば、今後支えられなくなることは明白なのだから停戦か降伏しかない。
武器は取りたくないがロシアに屈したくもないなんてことは出来ないんだからね。
今となってはゼレンスキーが開戦劈頭にリヴィウなり国外に逃げるなりしてたほうが結果的にはウクライナ国民は幸せだった気もするなぁ
ゼレンスキーのアウディーイウカ前線訪問がほとんどニュースで取り上げられなかった事には驚いた。もう世間の関心からウクライナは忘れられているのね。
日本人にとっても、自衛隊員にとっても、能登半島地震のニュースのほうが圧倒的に重要ですからね。
巨大地震の際に一般国民を救助してくれるのは、自衛隊の方々であって、ゼレンスキーではありません。
仰る通りです。
ゼレンスキー大統領は、イスラエル襲撃は速攻の支持でしたが、能登半島地震に対してはtwitterでお見舞いの言葉などはないですね。
日本が2兆円支援しても(イスラエルは10分の1以下支援・ロシアに配慮)、言葉一つなく所詮そんなものであり、日本が困った時は自衛隊や保安関係者などが頼りになるわけです。
事業を継続できない無能経営者に待つのはクーデターなんだよなあ
ウクライナ株式会社のCEOとして実績を問われると、株主総会で罷免される段階でしょうね。(統治と経営は別物ということは前提としても)
損失ばかりで成果が丸1年上がっておらず、負債が積み上がるばかりの事業(領土全奪還)になおも固執するなら、能力なし、資質なしと非難する声は絶対に組織内部や外部の投資家から出ざるを得ない。
ウクライナはマイダン革命ってクーデターやった前例ありますし、普通にありえるのでは?
まあ、あの革命はアメリカが関与したの当時大統領だったオバマも明言してましたが。
選挙するしかないんちゃうか
日本を含め西側諸国は力による現状変更を認めてはいけないって壊れたレコードみたいに繰り返してるけど
力による現状変更が当たり前だった戦国時代ですらこれ以上戦い続けても状況が悪化するだけなのが分かれば領土を割譲してでも和睦してたのにね
それが人権を尊重するはずの現代の民主社会では1ミリの領土も手放さないために全国民が死んでもいいかのような思考が正論のように語られるんだから妙な話
力による現状変更って我が国以外で言ってます?
諸外国との会談等でコミュニケ出すときに含んでるのも日本が絡んでるときしかないような。
米国なんか一貫して力による現状変更をやってますし、西側諸国にも冷笑的に扱われていそう。
細かい言い回しはともかくロシアを勝たせたら~云々みたいな話は言ってるでしょ
本音と建て前を平気で使い分けるのが西洋人だからどこまで本心かは分からないけどね
一般的にchange the status quoで「現状変更」という表現はよくありますが、by ~と続くのは見たことないですね。検索でも日本語記事を基にしたものしか見たことないです。
そもそも「力による」をつけないでも外国の干渉による現状変更は認められないものなので事足ります。まあ、日本語らしい敢えての修飾語か、米国との同盟関係を忖度して外国の干渉という括りではなく「力による」という枕詞をつけてるのでしょう。
どちらかといえば中国に対する配慮では?
力によらない台湾の民意による中国化は暗に認めつつも軍事力に頼った変更はダメよっていう