米国関連

米国とサウジが合意した武器販売の中身、最大200機のMQ-9B購入を交渉中

サウジアラビアを訪問したトランプ大統領は「約1,420億ドルの武器販売が含まれる6,000億ドルの対米投資」で合意、GA-ASIはBreaking Defenseの取材に「両国の政府と無人機売却について長い間協議してきた」「このパッケージにはMQ-9Bが200機程度含まれている」と述べた。

参考:Boeing and Qatar Airways Announce Historic Order for up to 210 Widebody Airplanes
参考:Joint Press Statement on U.S.-UAE Major Defense Partnership

参考:US and UAE ink agreement formalizing Major Defense Partnership
参考:Saudi Arabia in talks to buy as many as 200 MQ-9 drones, General Atomics says

サウジアラビアが200機規模のMQ-9売却を要求する裏には地政学的なメッセージが含まれている

CNNやBBCなどの海外メディアは「今週予定されている中東訪問でトランプ大統領は豊富な資金をもつ湾岸諸国が大規模な対米投資を引き出す見込みだ」「新しい米大統領の海外訪問は伝統的に英国、カナダ、メキシコから始まるが、トランプ大統領は最初の訪問国にサウジアラビアを選んだ」「ムハンマド皇太子は今後数年間で6,000億ドルを米国に投資すると公言している」「トランプ大統領は新たな防衛装備品の売却と合わせて対米投資額を1兆ドルに引き上げたい考えだ」と報じていた。

出典:The White House

サウジアラビアを訪問したトランプ大統領とムハンマド皇太子は「約1,420億ドルの武器販売が含まれる総額6,000億ドルの対米投資」で、カタールを訪問してタミーム首長と「2,000億ドル以上のBoeing製航空機(787×130機+777-9×30機+50機の787と777の追加発注オプション)の発注」「KC-46AやMQ-9などを含む420億ドルの武器販売」で合意し、アラブ首長国連邦への訪問では首脳間で特に大きな発表はなかったものの、バイデン政権が発表したUAEの主要同盟国=主要非NATO同盟国指定に関する正式な意向書に署名し「二国間関係の格上げ」を発表している。

この動きについてアナリストらは「最大の関心事だったF-35A売却に進展はなかったものの、両国間の軍事的緊密が深まり、武器輸出の承認が迅速化され、最先端の武器システム取得への道が開けた」「それでもUAEがF-35Aを取得するには追加の努力が必要だ」「米国はイスラエルに対する質的軍事優位性=Qualitative Military Edgeの維持に注力しているため、UAEがF-35Aを取得するにはイスラエルを含めた交渉が必要になるだろう」「それでもダウングレードされたF-35Aしか入手できないという懸念は取り除かれる可能性が高い」と見ているのが興味深い。

出典:The White House

トランプ大統領はサウジアラビアとカタールから8,000億ドル以上の対米投資を引き出し、ホワイトハウスも「UAEと2,000億ドル以上の対米投資(787及び777Xへの28機発注、米アルミニウム製錬所開発への投資、石油・天然ガス生産拡大への投資、ガリウム生産への投資など)で合意した」「これはUAEが約束した今後10年間の1.4兆ドルに及ぶ対米投資の一部だ」と発表したため、3ヶ国から引き出した対米投資の総額は1兆ドルを超え、CNNやBBCが報道した通りの額に達した格好だ。

問題は合意した内容、特に武器販売の内容が明かされていない点で、米シンクタンクは「これまで表明されてきた武器販売の可能性を積み上げただけ」「最も高額な見積もり時の金額を積み上げただけ」「1,420億ドル売却の可能性の内、一体どれだけが実行に移されるのか?」と疑問を呈しているが、GA-ASIはBreaking Defenseの取材に「サウジアラビア政府やホワイトハウスと無人機売却について長い間協議を行ってきた」「この武器販売パッケージにはMQ-9Bが200機程度含まれている」「取引の規模を考えると推定4.6万人分の新規雇用を創出して米経済に大きな影響を及ぼす」と述べている。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class William Rio Rosado

この大規模なMQ-9B売却について中東のシンクタンク=Rabdan Security and Defence Instituteは「サウジが空軍力と監視体制の強化を計画していること示唆している」「200機という数字は戦術的任務のニーズを遥かに越えており、これは戦略的な野心を示していると思う」「広大な領土を隅々までカバーし、地域の脅威を抑止し、個別に運用されている軍の無人システムを統合して階層化されたISR能力と攻撃ネットワークを開発するのが目的だろう」と述べ、さらに「サウジアラビアの地政学的なメッセージも含まれている」と言う。

米国は他国に先駆けて無人航空機の軍事利用に取り組み、継続的な投資のお陰で関連技術が成熟し、MQ-1やMQ-9といった武装可能なUACVを実用化したものの、この分野の輸出市場では中国やトルコに圧倒されているのが現実で、ミッチェル航空宇宙研究所は2020年に発表した報告書の中で「なぜ同盟国は米国よりも中国から無人機航空機を購入する方が簡単なのか?」と自問し「米国は拘束力のないミサイル技術管理レジーム(MTCR)の合意に縛られているからだ」と指摘したことがある。

出典:Mztourist / CC BY-SA 4.0 

ミッチェル航空宇宙研究所は「MTCRは核兵器の運搬手段である弾道ミサイル(技術)拡散を防止する規制する国際的な合意で、米国は無人航空機を核兵器を運搬可能な兵器に分類しているため簡単に輸出することが出来ないのだ」「そのため中東の同盟国は規制に引っかかる無人航空機を中国から調達している」「このような取引を通じて中国は米国の同盟国に影響力を構築し始めている」「無人航空機は航空機であり巡航ミサイルや弾道ミサイルとは異なるため航空機と同じ扱いにするべきだ」と訴えたが、米国は特に規制を緩和せず、実戦で評価を高めたTB2の市場参入によってGA-ASIの国際的な立場は更に苦しいものになった。

さらに中国やトルコは技術移転や現地生産にも寛容で、サウジアラビアはトルコから技術移転を受けてVestel製UACV=Karayel-SUの現地生産に乗り出し、2023年にはBakyarが開発したMQ-9に匹敵するAkinci購入契約を締結、アラブ首長国連邦もTB2を20機購入し「120機の追加購入を交渉している」と噂されているが、同国は独自の防衛産業能力育成にも力を入れており、25を超える企業を合併させる形で誕生した巨大な防衛産業グループ=EDGEは既にTB2の代替システムを開発済みだ。

要するにサウジアラビアの地政学的なメッセージとは「無人航空機分野で軽視してきた米国製システムに回帰する」という意味で、この取引を米国が承認すれば「同じ基準」がアラブ首長国連邦にも適用されるかもしれない。

因みにGA-ASIはフーシ派に対する空爆作戦中、6週間で7機のMQ-9が失われたことについて「基本的にMQ-9は対空システムに脆弱」「このシステムを敵空域の奥深くで使用するには対抗手段(電子戦、赤外線センサー、サイバーの脅威等)のアップグレードが不可欠」「イエメンでの損失は戦術的に重大でもプラットフォームの有効性を損なうものではない」「ハイエンドの無人機であっても敵空域で使用するなら何からの保護が必要という事実を浮き彫りにしているに過ぎない」「これは非ステルス機以外の全無人機に当てはまる」と述べている。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Victoria Nuzzi

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コメント

  • コメント (3)

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    • 病まんと
    • 2025年 5月 22日

    まぁ無人機なんて撃墜されるかもって状況で人的損耗回避する目的で突っ込ませるものという側面もあるのでイエメンでの撃墜自体は大きな事案ではないんですよね
    それこそスペック的にはF-16どころかF-4より戦域での残存性は低いでしょうし

    8
    • たむごん
    • 2025年 5月 22日

    敵地・低速・長時間対空しているのは、無人機だからこその極めて危険な任務であり、武器は消耗するものですからね。

    トルコが現地生産に寛容なのは、極めて賢明な判断であり、それほど高い工業力が不用で競合があるものは、さっさと取り込んだ方が得策だからです。

    オープン化戦略=クローズド戦略は、メリットデメリットがあるわけですが、代替しやすい製品で親密な安全保障関係まで築けるのですから現地生産のメリットは大きいなと感じています。

    10
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 5月 22日

    米・サウジの関係を良好にする事でイランを抑えて、さらにイスラエル潰しをなくしたいのでしょうけれど、ここまで急速にサウジとの関係を改善するとは思いませんでした

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