北米/南米関連

米国との統合に否定的なカナダ、利益が見込めればGolden Domeに協力

トランプ大統領は20日「カナダがGolden Domeへの参加を要請している」と言及し、カーニー首相も「カナダと米国の協議は事実」と認めたものの「米国との統合を無条件で深化させることはない」「今後は必要に応じて協力を行う」「カナダの利益が見込みる場合のみだ」と述べた。

参加:Canada wants to join Golden Dome missile-defence program, Trump says
参考:Canada has discussed a role in U.S.-led Golden Dome missile defence for ‘a few years,’ prime minister says
参考:U.S. Golden Dome among ‘options’ for Canada’s defence, Carney says

カナダはフランスのように独立性や自主性に関する部分で米国と一定の距離を取るつもりなのかもしれない

トランプ大統領は20日「Golden Domeの初期費用として250億ドルを支出する」「これが完成すれば世界の何処からミサイルが発射されても迎撃できる」「任期満了前までに完全稼働する」と発表、さらに「カナダがGolden Domeへの参加を要請している」と明かし、カナダ国営放送=CBCも速報で「トランプ大統領が『カナダが電話を掛けてきてGolden Domeに参加したと言ってきた』『費用負担についてはカナダと協力していく』と述べたが、今のところ政府のコメントは得られていない。トランプ大統領の発言が何を意味するのか極めて不明瞭だ」と報じていた。

出典:The White House

カーニー首相の事務所はトランプ発言から3時間後「安全保障問題について首相と閣僚らは米国側と建設的な協議を行っている」「この協議には当然、NORADやGolden Domeなどに関連した計画が含まれている」と声明を発表し、カーニー首相自身も記者団に対して「カナダはそう遠くない将来、宇宙から発射されるかもしれない兵器を含むミサイルの脅威に直面している」「カナダ併合発言や関税問題など対米関係が緊張しているにも関わらず、Golden Domeへの参加を検討してきたのはそのためだ」と説明。

“Golden Domeに関するカナダと米国の協議は軍関係者や安全保障当局者の間で何年も続けられてきた。トランプ大統領ともGolden Dome構想について直接議論したし、北朝鮮、ロシア、そして中国からの脅威に備えるのは良い考えだ。問題はカナダが単独でミサイル防衛システムを構築するのか、それとも米国と協力して構築するのかだ。カナダは半世紀に渡って米国との関係、安全保障と二ヶ国間経済の統合を着実に深化させてきたが、もはや統合をさらに深化させるプロセスは終わりを告げ、今後は必要に応じて協力を行い、もう無条件で協力する気はないという立場だ”

出典:The White House

“我々は欧州再軍備計画の完全なパートナーとなることを目指したEUとの協議、F-35A契約の継続的な見直しを進めており、これが「米国以外の選択肢」を模索している実例だ。今後はパートナーシップ、安全保障、経済の面で過去とは非常に異なる状況が見られるだろう。はっきさせておきたいのは米国と協力、米国の関係、特に弾道ミサイルに対する防衛のようなケースについてカナダの利益、これが最善の利益になる場合、最善の選択肢になる可能性があれば協力するかもしれない”

カーニー首相は「これまでの対米関係に対する発言とGolden Domeにおける協力の可能性は矛盾しない」「変化したのは将来の協力を妨げる溝ではなく統合に対する深化だ」と述べ、Golden Dome参加で得られる利益とは「ミサイル攻撃に対応する軍事的能力」だけではなく「出資に見合うだけの雇用や産業界への恩恵」「カナダの政治的立場や今後強化していく自立性との兼ね合い」など複合的な利益のことで、さらに米国だけでなくカナダでも「3年間で完成するわけがない」と懐疑的な意見が多く、Golden Domeの実現性や政権交代による計画の持続性も参加判断を左右するだろう。

因みに「Golden Domeに関する協議が何年も続けられてきた」という発言は「MD計画不参加に起因する米国とカナダの継続協議」を指しており、NORADの役割強化やMD計画への参加協議が「Golden Dome参加協議にスライドした」と意味なので注意が必要だ。

どちらにしても「カナダのGolden Domeに対する立場」は緊張した対米関係の改善を示すものではなく「カナダにとって利益が見込める協力」と「これまでのような安全保障や経済関係の統合深化」は別問題で、フランスのように独立性や自主性に関する部分で米国と一定の距離を取るつもりなのかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Mark Carney

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コメント

  • コメント (3)

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    • XYZ
    • 2025年 5月 22日

    51番目の州になれと言われた相手と特に軍事面で仲良くできるはずがありません。
    欧州も脱米とまでは行きませんが減米にシフトしてきていますし、一体アメリカは何がしたいのでしょうか?
    アメリカが特に経済面でジャイアンしていても同盟国が何とか付いてきていたのはウクライナのような状況となった時に役に立つと信じていたからこそです。
    それがアテにならないとなれば、軍事面ではもちろん経済面でも米ドルや米国債の価値も低下することなります。
    世界の警察という役割にかかるコストはアメリカという国家の存在意義を高める必要経費でした。

    12
      • マミー
      • 2025年 5月 22日

      トランプのアメリカは世界覇権を放棄したいのだろ。

      今のアメリカは、どう見ても共和制ローマ末期の様相だし、
      このままだと歴史上の覇権国と同じ轍を踏む事になる、それを回避する為に、拡大政策から縮小政策に転換して、他国からの影響力を北米大陸に引きこもる準備をする。

      まぁその前に内戦になると思うけどね、資本主義が自由民主主義を飲み込み、格差が拡大し続けてるから、ガラガラポンするなら戦争が一番手っ取り早い手段だからね。

      6
    • daishi
    • 2025年 5月 22日

    トランプが大好きな「ディール」のお時間ですが、ほとんどのビジネスは「代わりがいるから強気で交渉できる」のに対して、政治的な交渉は「代わりがいない」ことも吹っかけできない理由の一つになっています。
    カナダもNORADのシステム運用から外れることは無いでしょうから情報システム的な統合は今まで通り継続になりそうです。
    問題は「51番目の州になれ」ショックでトランプのディールが貫通しやすくなってる可能性もある点ですが、カナダも「自国に利益のないディールはお断り」と明言したことでブレないように周知させた、という認識です。

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