北米/南米関連

カナダが防衛政策を発表、GDPに占める国防支出はNATO基準を下回る

カナダはNATO加盟国から国防支出が少ない=2.0%基準を達成する計画がないと懸念されていたが、8日に発表した今後20年間の防衛政策の中で「2030年までに2.0%基準を達成しない」「基準達成に関する具体的な計画も提示しない」と公言してしまった。

参考:Our North, Strong and Free: A Renewed Vision for Canada’s Defence
参考:Canada’s 2030 Defense Spending Plan Falls Short of NATO Target
参考:Defence policy update falls short of NATO 2% spending target
参考:Liberal government defence policy boosts military spending, commits to new purchases of helicopters, missiles, aircraft

強気なカナダは「2030年までに2.0%基準を達成しない」「基準達成に関する具体的な計画も提示しない」と公言

NATO加盟国は国防支出をGDP比2.0%に引き上げることを目標にしており、加盟国の2/3が2.0%基準を達成し、残りの加盟国も2030年までに基準をクリアする計画を持っているが、カナダは具体的な計画も方針も示せておらず、米国は「カナダが2.0%基準を達成することはないと非公式に伝えてきた」「同盟国はカナダ軍の即応性の低さを懸念している」と懸念、カナダ軍の退役将軍も「我々の戦争準備は同盟国から非難を浴びている」と訴えていた。

出典:Justin Trudeau / CC BY 3.0

そのため8日に発表される今後20年間の防衛政策(Our North, Strong and Free: A Renewed Vision for Canada’s Defence)に注目が集まっていたが、カナダ政府は「今後5年間の国防支出として新たに81億加ドル、今後20年間の国防支出として新たに730億加ドルを投資する」「この追加投資によってカナダの国防支出は2030年にGDP比1.76%に到達する」「これは2.0%基準の達成に向けた重要な前進だ」と述べ、正式に「2030年までに2.0%基準を達成しない」「基準達成に関する具体的な計画も提示しない」と公言した格好だ。

政府関係者は「2030年度の国防予算が495億加ドル=364億ドル、他の省庁の国防関連予算を合わせると国防支出の総額が580億加ドル=420億ドルになる」と予想しているが、海外メディアは「カナダの国防支出がNATOの目標を下回る」と失望感を示しており、もしトランプ前大統領がホワイトハウスに復帰すれば「カナダがNATO体制維持の足かせになっている」と批判されるかもしれない。

出典:public domain ヴィクトリア級潜水艦

因みに今後20年間の防衛政策の中で「国内の弾薬生産に95億加ドル、早期警戒機に3.07億加ドル、空中発射型もしくは海上発射型の長距離攻撃兵器に27億加ドル、衛星通信能力に55億加ドルを投じる」「主力戦車と装甲車輌のアップグレードもしくは更新、砲兵能力を近代化するためのオプション、潜水艦戦力の更新及び拡張に関するオプションを検討する」と言及した。

追記:現実問題としてカナダ政府の手続きには「プロジェクトを迅速に処理して必要な部隊に届ける」という特別なプロセスがなく、いきなり予算を増額しても軍が消化しきれない=国防上の作戦要件や調達装備の要求要件を直ぐに策定し「資金を投資するプロジェクト」の承認を得られないため、単純に資金だけ増やしてもカナダ軍の即応性改善には繋がらないという指摘もある。

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※アイキャッチ画像の出典:Canadian Army

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コメント

    • 無印
    • 2024年 4月 09日

    一瞬レオパルド2A5かと思ったら、A4に増加装甲を付けたカナダオリジナル仕様だった

    7
    • k.ziro
    • 2024年 4月 09日

    さすがトルード、俺達には言えないことを平然と言ってのける

    12
    • YA
    • 2024年 4月 09日

    20年の防衛政策の発表の中で5年間で達しないのは分かったけど、20年の間に達成する見込みがあるとは言っていないの?

    2
    • 名無し三等兵
    • 2024年 4月 09日

    カナダの場合は地政学的にも外敵脅威は少ない、賢明だと思う
    ウクライナ戦争で浮かれすぎなNATO諸国、台湾有事で頭がいっぱいのアジア勢に
    付き合う必要は無い

    12
      • ブルーピーコック
      • 2024年 4月 09日

      北極挟んだ先にロシアがあるんですがそれは。

      39
        • 戦略眼
        • 2024年 4月 09日

        其の辺には、イヌイットしかいないからなあ。

        1
        • 名無し三等兵
        • 2024年 4月 09日

        逆を言えばロシアしか無いんですよ
        そのロシア軍はウクライナ戦争で陸海空軍と大きくすり減らして、どう決着が付くかは
        まだ分りませんが、あの戦争が終わっても当面は再建に精一杯でカナダの脅威にはならんでしょう
        戦略ロケット軍は依然として脅威ですが、それは核武装でもしない限りはアメリカに依存ですしね。

        2
          • ブルーピーコック
          • 2024年 4月 09日

          温暖化もあってか北極海に中国が進出してきている現状を防衛省やアメリカのシンクタンクはおろか、あのプレジデントオンラインですら警鐘を鳴らしている中でその認識は甘いのでは。

          9
          • 牛丼チーズ
          • 2024年 4月 10日

          なぜ中国の存在を丸々忘れてるんですか?

          3
      • 極右
      • 2024年 4月 09日

      カエサルもむき出しなんですがそれは

      1
        • ブルーピーコック
        • 2024年 4月 09日

        なんでやハゲ関係ないやろ。むしろ月桂冠で隠しとるやろがい

        5
    • 58式素人
    • 2024年 4月 09日

    仮に戦争が近づいているとして。
    カナダのやっていることは”投資” であって、”動員?” ではないのでしょうね。
    簡単に言うと、”他人事” なのでしょう。きっと。
    他人事といえば、隣国の米国もその可能性はあるのだけれど、少なくも、
    米国はそんなことは言っていないですね。
    いざ、欧州と東アジアで戦争が起きたら、他人事ではないと思うのだけど。
    英連邦を離脱する?かな。そうすれば、今のブラジルくらいの立場にはなれそうな。

    1
    • ブルーピーコック
    • 2024年 4月 09日

    多過ぎる移民によるサービス悪化&住宅価格高騰による移民政策への反発と、インフレのせいで支持率低いから、軍事に金を出すけどそこまで支出しないギリギリのラインを狙った(つもりなんだろうな)って感じのパーセンテージ。

    9
    • ホテルラウンジ
    • 2024年 4月 09日

    カナダは湾岸戦争の時に日本が選択した一国平和主義の選択をしつつありますね。
    もし湾岸戦争で自衛隊を派兵していれば、第二次日米半導体協定ももっとマシな内容になってた可能性はあり、
    その結果、日本の半導体産業がここまで壊滅的な衰退をする事が無くなっていたかもしれません。
    「自分には危険が及ばないが西側の安全保障に関わる問題」には、このカナダや湾岸戦争時の日本のように我関せずの態度は可能ですが、それをやると別の問題の交渉時に容赦の無い対応を受ける事になりますので目先の利益を追った愚かな選択と思います。
    逆にそこで協力をすれば、別の問題が発生した時に「あの時に俺は協力したよな?」という交渉カードが使えますので極端な妥協をせずに済みます。

    20
      • ih33
      • 2024年 4月 09日

      半導体産業は米の核心的利益なのに妥協するわけないでしょ
      100兆円以上の規模の差が出るのにたかが湾岸戦争に参加したくらいで、はいあげますなんてあり得ないですよ

      4
      • Authentic
      • 2024年 4月 09日

      その程度の事でアメリカが自国の直接的な経済利益が関わる領域で手心を加えてくれるとかナイーブにも程がある

      4
    • たむごん
    • 2024年 4月 09日

    北米大陸は、アメリカ・カナダ・メキシコの3か国に集約されており、地政学的に攻めてくる国は考えにくいですからね。
    カナダは、陸上国境を仮想敵国と接している国ではないため、人口の割に陸軍が少ない事にも特徴がありますね。

    NATO諸国と言っても、安全保障上の脅威が、地政学的にバラバラですね。

    兵力約66,500人(陸軍:約22,500人、海軍:約12,600人、空軍:約12,100人、その他:19,300人、このほか予備役約34,400人)(ミリタリーバランス2023)

    (カナダ基礎データ 外務省)

    3
    • DEEPBLUE
    • 2024年 4月 09日

    まあ日本と違って301条で潰されるような産業はない上でアメリカと広く地続きなので完全に断絶も出来ませんからねカナダ。潜水艦もたぶん30年くらいかかる

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