ショルツ首相は1,000億ユーロを投じてドイツ軍の再生を試みようとしているが、英Times紙は「資金不足だけではなく行き過ぎた官僚主義をドイツは改める必要がある」と指摘している。
参考:Germany’s military defeated by an army of bureaucrats
国防予算による調達プロセスの迅速化が実現されればドイツ軍の再生は可能かもしれないが、、、
現在のドイツ軍は在庫からPzH2000やM270をウクライナに数輌提供するだけでNATO派遣部隊や自国の防衛に支障を来すほど脆く、これは冷戦終結後の国防予算削減とメルケル政権時代に採用した新しいドクトリンが影響している。
新しいドクトリンの下で高い準備率を維持する必要があるのは「海外に派遣される部隊だけ」で、何時でも動かせる状態の装備を異なる部隊間で共有、メンテナンスも専門の企業に委託、スペアパーツや砲弾も必要なときに必要を量を発注する方式に切り替えたため「装備品の半分近くが保管状態」に近く、ウクライナに提供するPzH2000やM270を数輌用意するだけで大騒ぎになったのだ。
ランブレヒト国防相や軍上層部も現在のドイツ軍に東欧のNATO加盟国を保護する能力は勿論、効果的に自国を守るだけの装備がないことを認めており、ショルツ首相も1,000億ユーロ(年間国防予算の2年分)を支出してドイツ軍再生のための基金を創設、この資金を戦闘機、艦艇、武装可能な無人航空機、ミサイル防衛システム、弾薬調達などに投資する計画を進めているが、ドイツ軍の再生は資金を注ぎ込めば解消するという類ではないと英Times紙が指摘している。
現行法では1,000ユーロ以上の費用がかかる調達はドイツ連邦軍調達局(BAAINBw)の精査が必要で、これこそがドイツ軍を蝕む元凶である可能性が高い。
目玉装備の主砲弾を失った米海軍のズムウォルト級駆逐艦、乗組員の健康に害を及ぼす英陸軍のAjax歩兵戦闘車など現代の装備調達には少なからず「ミステリー」がつきものだが、欧州外交評議会のグレッセル氏は「無数の馬鹿げたルールが存在するドイツ軍だけは別格」と述べており、BAAINBwは1,000ユーロ以上の費用がかかる調達が発生すると「300ページに及ぶ緻密な法的文章」を添付してEU全域を対象にした入札を実施しなければならず、ドイツ外交関係評議会のメリング氏は「残酷なまでに入札規制をBAAINBwは遵守している」と呆れ顔だ。
さらにメリング氏によればBAAINBwは「必要な装備調達を安価に早く入手するため」働くのではなく、徹底的な法令遵守と入札後に入札者から訴訟を起こさせないため「万全の事務処理に全力を尽くす」のが至上命題で、例えば空挺部隊向けに調達を進めている米国製ヘルメットはBAAINBwが綿密にデータを収集して検証を進めているが10年経過しても「平均的なドイツ人の頭部にフィットするかどうか」の答えが出ていないらしい。
プーマ歩兵戦闘車の開発でもBAAINBwは大気汚染に関する規則変更を満たすことに気を取られ、30mm機関砲の命中精度や航空輸送に対応できない重量オーバーが後に発覚、これを修正するため再設計を強いられたプーマ歩兵戦闘車は4年半の開発遅延とプログラムコストの高騰を招くことになる。
ドイツ陸軍の要求モデルとは無関係の訴訟問題でG-36に代わる新型小銃の調達はストップしており、訴訟に直面したBAAINBwは「遅れる、引き伸ばす、取りやめる」がモットーだが、ドイツ国防省の関係者は「誰も責任を取りたがらない我々の文化に根ざした問題だ」と述べ、長年ドイツの国防政策に携わってきた元議員のバルテルス氏も「これは政治や法律ではなく社会学的な問題だ」と主張しているのが興味深い。
つまりソ連の脅威が消滅したため「欧州で戦争が再び発生すると誰も思っていなかった=有事に即した軍隊の維持に掛かるコストを正当化できなかった」という意味で、メルケル政権時代に採用した新しいドクトリンが「正しい」と多くのドイツ人が信じていたのだろう。
ランブレヒト国防相もドイツ軍の調達システムが抱える欠点に気づいており、入札実施の金額を1,000ユーロから5,000ユーロに引き上げることでBAAINBwの介入を制限する法案を議会に提出、さらに企画から調達まで10年もかかるカスタムメイドではなく市場からの調達を優先するルール作りも進めている最中で、国防予算による調達プロセスの迅速化が実現されればドイツ軍の再生は可能かもしれない。
ただグレッセル氏は「ランブレヒト国防相が提出した法案にはドイツ軍のCO2削減など環境対策も盛り込まれている」と指摘して、アフガニスタンに派遣されたオーストリア人の友人は「道端に停車したままのIFVをどうして使用しないのか」とドイツ軍兵士に尋ねると「エンジンのコンピューター制御に問題があってドイツの排ガス規制をクリアしていない」と回答、友人は言葉を失ったと明かしたグレッセル氏は「(ドイツ軍の再生は)どうなることやら、、、」と付け加えている。
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※アイキャッチ画像の出典:Bundeswehr/Stefan Petersen
軍事関係に限ったことではなく、〇〇が諸悪の根源だとか、私の友人がこう言っていたとか、まあ話半分に聞くのが良いでしょう。
環境対策や平均的なドイツ人の頭部にフィットするかどうか等パワーワード大杉でしょ
でもね‥本質に迫らないどうでもいい議論といい、同じ敗戦国にしかわからない苦悩みたいなのを感じ取れて親近感を感じる(ノ´∀`*)
「敗戦国にしかわからない苦悩みたいなの」って、どんなのですかね?
記事からは、わからなかったです。
どっちにしろドイツ軍が再生するのに10年はかかりそう。
けどまぁ、隣のポーランドが仕事してるから大丈夫でしょ(ドイツ脳)
装備だけですら10年でも厳しいかも、なにせここまで破壊したのでドイツ国内の
軍事サプライチェーンが壊滅してる
なので、予算がついても簡単な部品すら年単位で時間がかかるし、意味不明の規制で調達できないとか
そもそもドイツの軍人一人辺りの予算は、自衛隊と変わらないどころか多いぐらいなのに、この有様
しかも金食い虫の大規模海軍とか持ってないのに、予算の半分以上がどっかに消えてる現実
致命的なのが、メルケル政権下で軍リストラして、士官の首を切りまくって定員から2万名以上足らない
兵士を増やしても指揮する指揮官が足らないのが、ドイツ軍
単に平時での供給に最適化した結果、供給能力が最小化してしまっていて「軍事サプライチェーンが壊滅してる」わけじゃないと思うよ。
有名なところだとドイツ軍のタイフーンの稼働率の低さは、
撤退されたり、中国企業に買収されたりしちゃって部品調達が出来ないから
(どうやら在庫すらしてなくて、逐次発注してたぽい)
じゃあ調達企業を国内外から探して変えれば良いんだけど、今度はドイツの官僚主義でそれも上手く行かずにあのありさまのまま
イギリスも同じ事態になったけど、調達企業を変更してタイフーン稼働出来てるので
タイフーンの問題ではなく、国の体制の問題
ドイツは世界有数の武器輸出国ですが
兵器を輸出すれば投資資金を回収して開発に再投資でき生産基盤を強化できるというのは命題化できませんね
輸出用なので、とにかく利益最優先でパーツなども出来るだけ安いところを探すでしょうし、
結果、ドイツ国内の高コスト部品では競争力がなくなり・しかも逐次注文出荷では量産効果もでにくく商売にならない
まあ、部品作ってるところは撤退しますわ
組み立てるパーツ単位どころか、細かい部品単位で世界中に分散注文する事になり、
軍事なのに緊急時の対応力がなくなってしまうという
10年で復活できたいいがな、汚職に横領とかで20年くらいかかりそう。
沈没船ジョークのドイツ人を海に飛び込ませるには「飛び込むのがこの船の規則となっています」 を現実が超えてきた感じだな…
似たような調達手続きの煩雑さは日本でもありそうな話ではありますね。そして入札周りの煩雑さが企業の参入障壁を高めていて、結果的に応札する企業が固定化するという。この辺りは下手に緩めると汚職の原因になるから難しいですが。
といってもドイツは厳しすぎやしないかと。日本だと物の調達は一千万円を超える政府入札になって、これはWTOのルールと聞いてますが、ドイツは軍装備に限ってはさらに制限をかけているという話なんですかね。よっぽど軍を信用してなかったんだなって。
>結果的に応札する企業が固定化するという。この辺りは下手に緩めると汚職の原因になるから難しいですが。
それで最終的にはその固定された企業が要求性能を達成できなくて撤退っていう、あのいつもの流れ。
汚職を気にすると(本当に気にしてるのか不明)今度は不正が蔓延るという悲しい現実。
まあ要求性能を達成できないのは不正か?という疑問はありますし、入札しようと起こることですが・・・。
発注する側は自分が真に欲しいものを理解すること自体難しいし、インフレする要件に答えられる企業はどんどん減ってきますからしゃあ無い所がありますし、GAFAMが強いっていうのも、世界中から上澄み人材をかき集めているから、色々な問題に対応できるという側面もありますし。
水を差すつもりはないんですが、今回の場合ドイツに差し迫っている危機が存在しているとそういう訳では無いですし(少なくともロシア軍の戦車がドイツに到達する可能性はほぼ皆無だと今回証明されたようなもの)、欧州が直面するほぼ唯一の脅威であるロシアはむしろ崖っぷちだったりするので、この改革が成功したとしても軌道に乗ったあたりで脅威の根本が消えて元の鞘に戻っていってしまうんじゃないかなあという気もするんですよね。それがロシアとの和解なのかロシアの崩壊なのか分かりませんが。もちろん平和になるのは良いことですが。
ドイツはNATO加盟国だということを忘れては困ります。
プーチンロシアの野望が明らかになった中で、NATO加盟国への侵攻の蓋然性が高まれば相応の戦力を当該国に展開し、実際に侵攻があればNATO軍として戦う義務が生じます。現時点でも実際にリトアニアに部隊を派遣しています。
ロシアの野望がウクライナ問題解決後にも続くか否かは現時点で判断できないのが客観的状況でしょう。
楽観論一辺倒で事を進めれば今回の二の舞どころか致命的義務違反を招きかねませんので、Times紙の指摘はもっともと思います。
おっしゃる通りです。
ただ、冷戦後のNATOヨーロッパ諸国は「何がどれくらいの脅威なのか」を判断するのは各国の自由裁量に委ねられてきましたし、NATOが加盟国に課していたのは国防費のGDP比を高める努力の要請だけです。その結果イギリスのように欧州本国で戦う常駐兵力を削減して長距離展開部隊を創設させた国も現れたし、兵力をひたすら削減し続けて終わったドイツのような国も出たということです(この結果この二国は欧州正面作戦では役に立たなくなっています)。つまり、欧州の東方(対ロシア)防衛が経済力や人口比でドイツより小さいポーランドやバルト三国頼りになっている構図自体がドイツの過去の選択に基づくということです。
この間、西欧視点ではロシアはEU加盟が議題に上がるほど雪解けが進んでいましたが、同時にチェチェンやグルジアで再征服のための戦争を行っていました。ロシアという一つの国に対して欧州内で平和的なパートナーとしての評価と危険な覇権国家という評価が併存していた訳です。ウクライナの戦争は長期化の様相ですが、永遠に続く訳ではありません。結末はどうあれ戦争が終わった後、ロシアを「ヨーロッパの終生の脅威」とするか「戦争をやめて欧州の経済パートナーとして戻ってきてくれた偉大な国」と評価するかでまた欧州は割れるでしょうし、その時ドイツは絶対に後者側についてるんだろうという気がするんですよね。
>戦争をやめて欧州の経済パートナーとして戻ってきてくれた偉大な国
偉大な国と考えるかどうかは分かりませんが、「経済パートナーとして戻ってきて欲しい」のは多数のドイツ国民が思うところのようです。
文春のインタビューを受けたドイツ公共放送日本地域プロデューサーの言ですが、
ウクライナ侵攻前までの対ロシア安全保障政策は、経済的人的交流による相互依存度を深めれば戦争にならない、というものだったとか。結果的に見通しが甘かったわけですが。
侵攻当初の「ロシアを徹底的に叩け」という意見は沈静し、現在は「ドイツにとってベストな戦争の終わらせ方」を考える国民が増えているそうです。
一方で、実は軍事的にボロボロだったことが世界にバレたという認識もあるそうで、BAAINBw改革と軍の立て直しは国民の支持するところでしょうか。
>経済的人的交流による相互依存度を深めれば戦争にならない
独露にのみならず米中でも同じ文脈で経済評論家やリベラリストが語ってましたね。
ただ、そもそも誰が言い出したんですかねこれ。確かにそれに沿った事例があるというだけだった、と言う話なんですかね。
「国際的なサプライチェーンが存在しているから世界大戦は起きない」という話はナポレオン戦争の頃には既にあった言い回しだそうです。結果は真逆でむしろ国家間の大規模戦争や総力戦が増えている訳ですが、それでも戦争のたびにこの手の意見が経済人やアナリストから出てくるのは(投機で商売する)彼らの願望バイアスが普通の人より強く働いて認知を歪めているという事なのかなと思ったり。
この論法18世紀から言われてるんですか。そしたら経験則にすらならなそうですね。勉強になります。
遅過ぎレスで読まれることはないと思いますが、
リベラリズムの見解の一つに「国際主義」があります。
「独立した各主権国家の存在を前提に、相互の協調に基づいて世界の平和と共栄を実現しようとする主義主張」のことを言います。
リベラリストが理想とする政治的・道徳的哲学の一つですね。
公正さの過剰追求
良いことも悪いことも突き詰めすぎるドイツらしいっちゃらしいけど
正直、複数の企業が競争しても十分なパイがある超大国でもなければ、軍事分野は公平な入札なんて要らん
日本やドイツみたいな、超大国未満の大国で公正さ求めたって
ろくに儲からないのに半ばボランティアレベルまで価格下げたり、公正な競争とやらで撤退したり共倒れになるのがおち
あのアメリカですら名の通った軍事企業が幾つ消えたことか
大枠だけ決めて、後は軍と請け負いたい企業で話し合って決めさせときゃ良いのさ
戦争の無いときほど、軍の事務管理部門だけは肥大するって研究がなされていたが、これも同根だろう
長い平和は本質から目を剃らさせてしまう、軍による環境対策なんて全体のどんくらいだよ、馬鹿げてる
スペアパーツや砲弾も必要なときに必要を量を発注する方式、というのは、おそらく日本の
「トヨタ方式」
であり、ドイツのダイムラー・メルセデス・ベンツや、ポルシェなどはみんなトヨタ方式を研究して、見習っているので、伝統的に自動車会社を兵器開発の中心としてきたドイツでは、兵器開発全体がトヨタ方式になってしまったのだろう。
また過度のアウトソーシング、民間委託では、民間の会社が倒産した場合は、すぐに修理、整備が不可能になる。
またそもそもドイツ経済は中国や東欧への依存が大きくなり、ドイツの自動車会社も中国との合弁企業への投資が増えていて、逆にドイツ国内の工場への投資は減っている。
かつてはドイツ国内の自動車工場で働くドイツ人社員が、そのまま兵器、武器の開発、整備に転用できたが、今は中国や東欧へ工場を移転させてしまったため、ドイツ国内で働ける自動車会社のドイツ人社員が減っている。これは日本の自動車会社、あるいは三菱重工、三菱自動車なども同じと言える。
今のトヨタのス―プラはBMWのエンジンを搭載しているが、生産しているのはドイツではなくオーストリアだ。こういうようなことが、ドイツ軍の兵器の開発や整備、編成にも大きく影響している。
しかし今は自動車の生産でさえも半導体不足で停止するくらいであり、またカーボンニュートラル、脱・炭素などの影響で、戦車や装甲車両の生産はなおさら難しくなる。
スープラを例に出すのが適切かの疑問は有る。趣味性が高くタマ数が少ないメーカー仕様にも差が結構有るスペシャルモデルを信頼のおける企業に任せるのは合理的な判断でしかない。
そうしなければ価格高騰して販売に影響すら出るし、元々トヨタの企画が無ければ作っていなかったジャンルの車のために自国内にライン開設しなかったのはおかしい事だろうか。
スープラやZ4が無くても国が危機に陥る事も無ければ国防に大きな影響を及ぼすことも無い。
スープラの話じゃなくてエンジンの製造国の話だと思う
>現代の装備調達には少なからず「ミステリー」がつきものだが、欧州外交評議会のグレッセル氏は「無数の馬鹿げたルールが存在するドイツ軍だけは別格」と述べており、
ここでわろた
ただ、ドイツのこの辺の所がなんか悪い意味で親近感を覚えるなあ
下世話な話ですが、今話題のAVについても日本はモザイク規制があります。
で、それを遵守する為にチェック機関とかあるんですが、そもそもモザイク規制をかけてる意義なんかもう誰も知らないと思います。
あと、車の走ってない夜中の住宅街の小さな交差点の赤信号でも律儀に待ってる歩行者とか
日本人はそもそもの所に立ち返らないのは、ルールはお上が決めるもの、又は声がデカい活動家みたいなのが決めるもの(学歴エリートが決めるもの、又は関わりたくない、声を上げると変な奴と思われそう)という意識から来てそうですが
ドイツ人がそもそもの所に立ち返らずにルール順守に暴走しだすのはどういう所から来てるんでしょうね?
近隣国の適当な気質の国と俺らは違うという意識からでしょうかね
モザイクに関しては自主規制だぞ
余所から横やり入れられる前に事前に我々の業界には自浄作用があるんです!って示すものに過ぎない
ドイツで問題とされているのは、管理側の事なかれ主義。
モザイク規制は、製造側の自主規制。
夜中の赤信号遵守の理解は「お天道様はいつでも見ているぞ」だと思う。
ドイツ人はルール順守、とは思えない。
日本に対し求めていた、脱石炭、脱火力。今はどうなっている?
ルールは、自分たちの都合で作り、自分たちの都合よく運用する、のでは。
>「海外に派遣される部隊だけ」
要するにドイツにとってウクライナは「陸続き」なので、「海外」ではないという意味だ。
そういや数年来gdgdしてたG36の後継小銃がようやくHK416A8で決まりそうですね。
HKの銃をHKの銃で置き換えるという結末(-_-;)