欧州関連

フランスがウクライナに対する軍事支援の内訳を公表、総額38億ユーロ以上

ドイツ政府は「ウクライナ支援に消極的だ」という批判に対応するため支援の詳細を1週間毎に公表しているものの、その他の国が支援の詳細を明かすことは殆どない。しかしフランスが2023年末までに支援した内容を公表して注目を集めている。

参考:Ukraine : la France dresse le bilan des équipements militaires livrés

個人的には6,000億円を超える軍事支援(ここに財政支援や人道支援は含まれていない)を多いと感じている

ドイツ政府は「ウクライナ支援に消極的だ」という内外からの批判に対応して2022年6月に支援リストの機密を解除、1週間毎に「どの様な支援が決定され」「その支援の進捗がどの様に進んでいるのか」「この1週間でウクライナに何がどれ位到着したのか」を詳細に公表しているが、ドイツ以外の国が支援の詳細を明かすことは稀だ。

出典:und Informationsamt der Bundesregierung

米国は「ウクライナ支援パッケージの中身」を公表しているものの「支援状況」や「支援の進捗率」については非公開で、チェコだけは2023年2月「我が国のウクライナ支援の内容を国民は知る必要がある」という理由から支援リストを公開し「無償・有償を合わせた軍事支援額は780億チェコ・コルナ=約4,700億円」「戦車や装甲車を300輌以上、榴弾砲や自走砲を38門、弾薬150万発を提供済み」「これだけの支援はチェコ単独ではなく同盟国からの資金援助があって成立している」と明かした。

結局、西側諸国が何をどれぐらいウクライナに支援しているかは「関係者の証言という形で漏れ伝わる情報」しかないのだが、遂にフランスが2023年末までに支援した内容を公表して注目を集めている。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

フランスの軍事支援額は38億ユーロ以上(直接提供は26億1,500万ユーロ/欧州平和ファシリティ経由で12億ユーロ)で、主な提供装備・弾薬にはCaesar×30門、TRF1×6門、LRU×4輌、Crotale NG×2セット、Mistral×2セット、SAMP/T×1セット、AMX10×38輌、VAB×250輌、VLTT P4×120輌、Camions GBC×180輌、小口径弾薬×110万発、12.7mm弾薬×174万発、AMX10用105mm砲弾×9000発、155mm砲弾×3万発、対戦車地雷×3,600個、偵察用ドローン×160機などが含まれているが、防空システムで使用する迎撃弾(Crotale、Mistral、ASTER)やSCALP-EGの提供数は公表されていない。

フランスの軍事支援を「多いと感じるか」「少ないかと感じるか」は人によって様々だと思うが、フランスの支援は3つの基準(エコシステム=供給、保守、訓練が確立できるもの、自国の安全保障に影響を及ばさない範囲、戦争のエスカレーション制御)の満たす必要があると説明しており、個人的には6,000億円を超える軍事支援(ここに財政支援や人道支援は含まれていない)を多いと感じている。

出典:PRESIDENT OF UKRAINE

因みにフランスはウクライナと締結した安全保障協定の中で「2024年に30億ユーロの軍事支援を行う」と約束、22ヶ月間の軍事支援額が約38億ユーロなので「2024年/30億ユーロ」という数字は軍事支援の増額と解釈するのが妥当だろう。

関連記事:ウクライナ支援に消極的だと批判されるドイツ、詳細な支援リストを公開
関連記事:チェコがウクライナ支援の内容を国民に公開、軍事支援の合計額は約4,700億円
関連記事:独仏がウクライナと安全保障協定を締結、2024年に101億ユーロの軍事支援を約束

 

※アイキャッチ画像の出典:Ministère des Armées

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コメント

    • 名無しの悪夢
    • 2024年 3月 04日

    え、支援内容って機密だったんスか?
    普通に〇〇何機送ったとか報道出てたのでそういう認識なかったッス

    6
    • 774
    • 2024年 3月 04日

    革命不可避

    3
    • 歴史と貧困
    • 2024年 3月 04日

    6,000億円を超える軍事支援で、2023年の結果が「反転攻勢は失敗しました」だと、翌年以降に躊躇いが出るというか、国内で揉めるのも分かりますね。
    26億ユーロの支援で結果がああだったのに、30億ユーロにしたところでアメリカが出し渋っている状況では好転する目がない。

    投資と見ても融資と見ても、損失しか生まないならば、次年度で撤退を検討するのは当然のこと。実際に撤退するかの判断は別儀ですが。

    13
      • 名無しの悪夢
      • 2024年 3月 04日

      武器が足りない、戦車が足りない、戦闘機が足りない、資金が足りない、砲弾が足りないと言ってきて
      これら全ての要求に答えて支援送って、現在兵士が足りないと言ってるわけですからね。
      本当に引き際を見極めてほしいもんです。

      21
        • 名無し
        • 2024年 3月 06日

        ロシアが侵略止める気ゼロなんだけど?
        ウクライナが降参したらロシアが引くと本気で思ってるの?

        1
          • 犬の〆
          • 2024年 3月 06日

          もちろん、ロシアがウクライナで止まるかどうかは分かりませんが、同じく、止まる可能性もあります。止まらない場合はその範囲も検討する必要があるでしょう。その可能性については、色々な意見があるでしょう。しかし「ウクライナが降参したらロシアが引くと本気で思ってるの?」というからには、何か確度の高い情報をお持ちだと思いますので、できればご教示いただけないでしょうか。

          私は、現在のNATOにはまだそれなりに抑止力があると考えています。なので、戦争の範囲がウクライナに限定され、これ以上欧州の状況が変わらなければロシアの西進はないんじゃないかと「現在は」考えています。しかし、プーチンが望む勝利の条件やウクライナの今後に加えて、欧州はどこまで支援するのか?アメリカの選挙後の体制は?中国は?北朝鮮は?世界経済の行方は?などなど、様々な要因が絡んできますので「全くわかりません」が本音ですね。

      • たむごん
      • 2024年 3月 04日

      結果論になるのですが。
      防衛線構築が甘かった、反転攻勢の見積もりが甘かったとなっていますから、仰る通りですね…。

      政府が何か稼いでるのではなく、税金を注ぎ込んでいる訳です。
      納税者が、より効果のあるように使ってくれと願うのは自然な話ですよね。

      5
    • 歴史と貧困
    • 2024年 3月 04日

    >フランスの人口が6700万人だから
    問題はそのうちの1割以上が今やアルジェ系、移民系が占めており、彼らは南部に割合が多く、フランス系との貧富の差が拡大する一方ということですね。
    例えばですが、年間所得1000万円にとっては負担感が然程ではない支出でも、100万円のラインでの生活を余儀なくされる層にとっては死刑宣告に等しいこともあります。「税金で1人あたり年間100万円寄付」を求められれば、徴税請負人を殺すことを選ぶでしょう。

    まして、ウクライナからの避難民には一年当たり300万円が支給されるなどとあっては、『殺してでもうばいとる』に転じる者すら出かねません。オリンピックに乗じて観光客を襲う者も増えるでしょう。

    • Easy
    • 2024年 3月 04日

    ちょっとややこしい問題として。
    こういう支援実績リストのうち,例えばカエサルやAMX-10は使い古しの退役直前の機体を譲渡しているのに、新品調達価格で換算計算して発表してる形跡があり。
    実質的には発表額ほどの費用負担は発生していないのではないか、と。
    いやまあ支援には違いないし,じゃあそれを減価償却して引き直すのかとか中古市場価格をどうこうなんてやっても混乱するばかりですから,調達時の価格がコストの基準としては妥当なのでしょうが。
    しかし、ミスリードにつながるので注意して読まねばならない数字でもあります。
    アメリカの膨大な支援実績も,中身は廃棄予定の武器ばかりで実質的には非常に安く済んでいる、どころか処分費用が丸々浮いて黒字の武器すらある,という話もありますね。

    21
      • のー
      • 2024年 3月 04日

      とはいえ、今、同じようなものを調達しようとしたら、その時の金額では買えない気がします。
      時価評価したらかなり高額になるかも。
      戦時の今なら、圧倒的に時価>>>簿価じゃないですかね。
      ただし戦争が終わったら時価は暴落しますが。

      14
      • nachteule
      • 2024年 3月 05日

       こんな兵器の値段なんてあってないようなもんでしょう。使い古しの兵器でも需要があるなら価値は高くなるのは当たり前じゃないですか。減価償却を加味するにしても、渡すタイミングで整備して部品交換や改造までしているとしたら、価値は高まる訳だし。

      3
    • たむごん
    • 2024年 3月 04日

    金額の多寡は非常に難しい判断ですね。
    独仏米英は、独仏はミンスク議定書の仲介人、米英はブタペスト覚書に関わるメンバーです。

    日本の2兆円支援は、上記に何の関係もない・ウクライナと関係が浅い・ロシアが隣国・対中対北朝鮮リスクが激増する、これらを考えればかなり踏み込んだと感じています。

    7
    • a
    • 2024年 3月 04日

    金額としてはかなり多いしフランス頑張ってるなとは思うが、
    本当の意味での投資ならともかく、軍事国防の分野の話なんだから、撤退だの損失だの引き際だのというあなた達の発想は根本的な知識と理解が浅いというか間違ってますよ
    ウクライナ支援に限らず、そもそも軍事って無駄なんですよ
    金を投じたって軍そのものの利回りは0だし、満期になって償還されることもない
    安全保障の必要経費なのであって収益目的の投資商品ではない
    いやもちろん、ウクライナが負けて併合されても自国の安全保障への影響が軽微なら支援やめるのは合理的ですけどね
    とはいえヨーロッパの安全保障なんて大半は対露なんだから、ロシアを削れてるうちはウクライナにとっての戦果(領土奪還)がなくても、(安全保障を収益投資商品と勘違いしている)国民感情はともかく安全保障上の支出としては合理的かと

    28
      • 名無しの悪夢
      • 2024年 3月 04日

      私も対露戦争への支出としては妥当なもの、むしろ割安くらいに思ってますが
      問題は公にはロシアとの戦争としてないところにあるんでしょう。
      このあたりはNATOやEU内部でも様々な駆け引きがあるようで、先日のマクロン大統領の軽率とされてる発言も「みんながどうしたいのか立場をハッキリさせて、出せるなら出すもん出してさっさと終わらせてしまおう」という意図の発言ではなかったかと考えています。

      3
    • 戦略眼
    • 2024年 3月 04日

    少なくとも直接武器を供与していない我が国は、何も言えない。

    3
      • 匿名
      • 2024年 3月 05日

      その点だけ(正面装備を渡さなかった)については、日本政府の判断は正解だったと思いますがね
      何だかんだで公金を援助へ垂れ流しそうな塩梅ではありますが

      2
        • のー
        • 2024年 3月 05日

        同じ金額を使って感謝される度合いから言えば、現金より現物つまり兵器の方でしょう。
        素人目線ですが、大規模地上戦が起こらなそうな日本では、牽引式のFH70なんかはあげても良い気がします。
        その代わり援助する現金を、19式自走砲の増産へ回す方が良くないですかね。
        ただし紛争当事国への武器の直接援助は政治的に難しいので、トコロテン方式でなんとか。

        1
        • kitty
        • 2024年 3月 05日

        日本の扱いの困るような兵器を渡されてさらに運用にストレスがかかるくらいなら、真水の現金で民政に使うべき予算を軍事費に突っ込めるようになった方がウクライナもありがたいでしょう。

        弾薬ならまだしもだけど、韓国に5.56㎜弾を供与した事案からもう10年かあ…。何も進んでいないですねえ。

        3
    • 2024年 3月 06日

    ウクライナの引き際?なにそれ
    それを言うならプーチンの引き際でしょ
    ロシアが撤退すれば戦争は終わりますよ

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