欧州関連

ギリシャ国防相がF-16とミラージュ2000売却に言及、争奪戦に発展する可能性

ギリシャのデンディアス国防相は25日「F-16Block30とミラージュ2000-5Mk.2を売却する」と発言、この機体が売りに出されれば新造機に手が届かない国、旧ソ連機の更新時期が迫っている中東欧諸国、同型機を運用する国(スペアパーツ需要)の間で争奪戦になるだろう。

参考:Defense Minister hails ‘radical changes’ to Armed Forces

売りに出された機体をウクライナに与えるというのは簡単な話ではない

ギリシャのデンディアス国防相は25日「ギリシャの主権と独立を守るためには軍の構造や兵器システムなど全てを変える必要がある」と述べ、史上最大の改革と称する「軍の抜本的な改革が進められている」と公式に認めたが、この改革の中で最優先事項にリストアップされているのが空軍の近代化と戦力整理で、デンディアス国防相がF-4E/AUP、F-16Block30、ミラージュ2000-5Mk.2の売却に言及したため大きな注目を集めている。

出典:HAF Spokesman

ギリシャ空軍の戦闘機戦力は2018年までF-4E/AUP、F-16Block30/Block50/Block52、ミラージュ2000EG/BG/5Mk.2で構成されていたが、対トルコ関係の悪化を受けてF-16 Block70へのアップグレード、ラファールやF-35A(交渉段階)の導入を進めたため、デンディアス国防相は「互換性のない複数の戦闘機を維持するには莫大な費用がかかる」「F-16Block30とミラージュ2000-5Mk.2を売却し、可能性であればF-4E/AUPも売却(無理なら退役)したい」「残りのF-16はBlock70に統一してラファールは30機まで増強したい」「勿論、F-35A Block4も導入する」と述べた。

ミラージュ2000BG(練習機バージョン)は2021年に退役済みで、運用維持コストの問題でミラージュ2000-5Mk.2が売りに出されるなら、ミラージュ2000EGだけを残すというのは不自然なので売りに出される可能性が高く、耐用年数の延長が施されたF-16Block30も飛行可能な時間が残っており、この手の戦闘機が売りに出されると複数の国で奪い合いになることが多い。

出典:HAF Spokesman

現行機と比べて性能が劣っている中古戦闘機でもF-16Block70、F-15EX、タイフーンTranche4、ラファールF3等に手が届かない国、特に旧ソ連製戦闘機の更新時期が迫っている中東欧諸国にとって中古戦闘機は非常に魅力的で、演習等で顧客国に訓練サービスを提供する民間軍事会社も各国が手放す中古戦闘機を狙っており、同タイプの運用を続けている国にとっても入手性が悪化したスペアパーツを剥ぎ取るチャンスと映るため、中古戦闘機市場は非常に旺盛だ。

F-4E/AUPはAN/APG-65や新型のMCCに換装され、AIM-120B、AIM-9M、PavewayIII等の運用も可能だが、F-4の運用維持に必要なインフラ自体が時代遅れなのでF-4E/AUPを取得して運用しようという国は現れないだろう。

出典:HAF Spokesman

恐らくギリシャが売りに出すF-16Block30やミラージュ2000-5Mk.2(恐らくミラージュ2000EGも)も争奪戦になる可能性が高く、これをウクライナが狙っていると予測するディフェンスメディアもあるが、その場合は「誰が費用を負担するのか」という問題を解決する必要があり、さらにF-16Block30とF-16AMとでは仕様が異なるため追加のインフラが、ミラージュ2000は一からインフラ整備を行わなければならず、売りに出された機体をウクライナに与えるというのは簡単な話ではない。

因みに米軍がアリゾナの砂漠=デビスモンサン空軍基地に保管している航空機について「必要があれば現役復帰できる」という伝説が存在するが、このボーンヤード(第309航空宇宙管理および再生グループ)で管理される航空機は概ね4つの状態に分けられ、Type1000に指定される航空機は高い確率で現役復帰が予想されるため、空調の効いた倉庫で飛行可能な状態を維持したまま保管されるものの、Type1000指定を受けるのは米軍が必要(機密保持も含む)とする一握りの機体のみだ。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Christopher Quail

最近退役したB-1BでさえType1000扱いではなくType2000扱いで、現役復帰の可能性を残すため解体が禁止されているものの同型機維持に必要な「部品取り」が認められており、Type3000扱いは飛行可能状態を維持して一時的な保管を行う場合、Type4000扱いはスクラップとして業者に売却される場合に指定されるため、墓場送りの大半はType2000扱いで「ボーンヤードはスペアパーツの供給地」と解釈するのが妥当だろう。

米空軍は2016年の事故で失われたB-52Hを補充するため、ボーンヤードからB-52H(Type2000指定機)を引っ張りして現役復帰させたが、飛行可能な機体を見つける検査とテストだけで4ヶ月間、バークスデール空軍基地に運ばれた当該の改修にも1年以上の時間を要しており「Type2000指定機からの現役復帰は時間と資金があれば可能」と実証されているものの、この手段を実行に移したのは「再入手が不可能なB-52H」と「訓練時の適役を演じているF-117(Type1000扱い)」だけなので多用できる選択肢では無い。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air National Guard photo by Master Sgt. Becky Vanshur)

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コメント

    • たむごん
    • 2024年 3月 27日

    航空自衛隊のF15戦闘機も、部品不足で共食い整備が発生しており、部品が貴重になっています。
    F16・ミラージュも、ロングセラーの機体ですから、欲しがる国は多そうですね。

    国家予算節約・防衛予算節約の美名により、耐用年数ギリギリ・超えるまで使われるというのはよくある話と思います。
    その結果、関連産業が衰退・生産停止して動かなくなったり、コストがより高くなってしまったというのは、公共事業でもよく聞く話ですね。

    5
    • 58式素人
    • 2024年 3月 27日

    多分ですが、トルコは困っているでしょうね。
    自国のステルス機とF35とでは、多分、比較にならないし。
    しばらくの間、無人機が頼りになるのでしょうか。きっと。
    仮にギリシャ側のレーダーが進化すると、それ(無人機)
    の効果も怪しくなりそうな気がします。

    2
      • 幽霊
      • 2024年 3月 27日

      無人機の利点は数で押せる事なので、いくらレーダーが進化しても数に対抗出来るだけの防空能力が無ければ無人機の効果が怪しくなる事はまず無いと思いますよ。

      4
    • 黒丸
    • 2024年 3月 27日

    イランのF4はまだ元気なのかな?
    ギリシャからスクラップ名目で部品がイランに流れるかも。

    1
      • kitty
      • 2024年 3月 27日

      F-14を40機も現存させている国ですから、なんとかしているんじゃないでしょうか。
      しかし、トップガン・マーベリックで、敵国の名前を出さないのに最後にアレ出したら名指ししているようなものでしょうにw。

      8
        • バーナーキング
        • 2024年 3月 27日

        ???「あれは『アスラン』という中東の架空の国家であの機体はとある革命のドサクサで返却されるはずの機体が流出したものです(キリッ」

        11
    • ルイ16世
    • 2024年 3月 27日

    ギリシャといえば経済破綻してるイメージですがここ数年は経済成長とインフレで債務残高を対GDP比で2割くらい圧縮に成功したので少し余裕が出来て軍の改革に踏み切ったようですね
    改革終了まで今の経済成長が続けばいいのですが…

    5
    • 匿名希望係
    • 2024年 3月 27日

    F-16C/DのフレームにAM相当ならいくらになるのかは気になりますね。

    • daishi
    • 2024年 3月 27日

    自動車の新車供給が滞って現行モデルの中古市場が加熱する、25年落ちでUSに輸入できるようになった過去の名車(BNR32 スカイラインGT-Rやランエボなど日本専用モデル)が激上がりしてるのと似たような感じを受けました。
    新造機が行列待ちで安くない状況では程度の良い中古機も部品取りやリプレースに需要が高いでしょうね。

    3
    • チャンコロスケ
    • 2024年 3月 27日

    F4をスクラップにするなら私に売ってほしい。。
    300万円なら買うー!退役した元自衛官に100万円位でギリシャからフェリーお願いできないかな。法的にはどうなの?武装外せばプライベートジェットと同じ??

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