欧州関連

ギリシャとフランスと締結した相互防衛協定、トルコと対立しているEEZ問題には非対応

ギリシャとフランスは2ヶ国の相互防衛協定を締結したと先月29日に発表して注目を集めていたが、ギリシャは「相互防衛協定に排他的経済水域(EEZ)の保護は含まれていない」と明かした。

参考:“Greek-French defense pact does not protect the EEZ,” says Development Minister

ギリシャが宣言もしていないEEZの主権を守るためフランス人はやってこない

深刻な対立に発展しているギリシャとトルコの東地中海問題とは両国が主張する排他的経済水域(EEZ)が重複するために発生しており表面的には東地中海の海底資源を巡る争いに見えるが、この争いの本質は欧州へのエネルギー供給ラインの支配権を巡る戦いだ。

トルコとロシアは鋭く対立する局面も多いがエネルギー分野に関しては手を組んでおり、ロシアにとってウクライナを迂回する天然ガスのパイプライン建設は安全保障上の重要な意味を帯びている=つまり黒海から欧州へ伸びる「トルコ・ストリーム」とバルト3国やポーランドをスキップして直接ドイツに繋がる「ノルド・ストリーム」が完成すればウクライナルートの戦略的な価値が相対的に低下、欧州(NATO)にとっても安全保障上におけるウクライナの価値が変化するという意味だ。

出典:mapchart / CC BY-SA 4.0

一方のトルコは独自にリビア沖を経由して欧州に直接繋がる天然ガスのパイプライン建設を計画中で、ロシアのトルコ・ストリームと合わせて東地中海におけるエネルギー供給ラインの支配的地位を確立しようと動いているのだが、東地中海のガス田利権に絡むイスラエル、エジプト、キプロス、ヨルダンなどの国は天然ガスの輸送ルートをトルコに支配されることを嫌いイスラエル~キプロス~ギリシャの海底を経由して欧州に繋がる別のパイプラインの建設を計画している。

つまりトルコ~リビア沖~イタリアルートもイスラエル~キプロス~ギリシャルートも東地中海沖の海底を経由するため、ギリシャとトルコは当該海域の管轄権を巡り争いがヒートアップしているのだ。

問題はギリシャとトルコの排他的経済水域(EEZ)が策定されていない点でギリシャは自国領基線からのEEZを理由に東地中海沖の管轄権は自分たちにあると主張、しかしトルコは自国の沿岸から伸びる大陸棚上にあるので東地中海沖の管轄権は自分たちにあると主張しており、ギリシャは「トルコ側が大陸棚の主張を引っ込めない話し合いに限り応じない」という姿勢を貫いてEEZ策定交渉は事実上放置されていた。

出典:Millî Savunma Bakanlığı

この行き詰まり打開するためトルコは自国の大陸棚上(東地中海沖)で石油の掘削調査を昨年実行、ギリシャは「自国のEEZが侵されれば武力行使も辞さない」と強行に反発したが、最終的にEUやNATOは両国に話し合いで解決するよう提案(ゴリ押し)したためギリシャを交渉のテーブルに引きずり出すことに成功したトルコの狙い通りになったと見るべきだろう。

この状況に大きな変化を与えたのが先月29日にギリシャとフランスが締結した相互防衛協定で、フランス側は「ギリシャが仮にNATO加盟国から攻撃を受けたとしてもフランスが即座に軍事支援を行う」と語っていたが、ギリシャのアドニス・ゲオルギアディス開発相は現地メディアの取材に対して「相互防衛協定に排他的経済水域(EEZ)の保護は含まれていないことを確認した=ギリシャの主権が及ぶ全権利を保護するようにはできていない」と明かし注目を集めている。

なぜ相互防衛協定にEEZの保護が含まれていないのかについてはゲオルギアディス開発相は「ギリシャのEEZはまだ確定(周辺国との調整が済んでいない)していないからで、我々が宣言もしていないEEZの主権を守るためフランス人はやってこない」と語った。

出典:Naval Group 中型フリゲート/FDI

つまりギリシャのEEZが確定しないとフランスとの相互防衛協定の範囲に含まれず、東地中海沖問題が武力衝突に発展してもギリシャの領土や領海に直接な被害が及ばない限りフランスは軍事介入しない=両国のEEZ策定交渉においてギリシャに肩入れせず中立を保つという意味だ。

現段階でEEZを相互防衛協定の範囲に含めないのは非常に現実的な線引ともいえるが、これではギリシャが期待していたものとかけ離れているのでギリシャ国民は落胆していることだろう。

まぁギリシャとトルコの間にはエーゲ海の領海問題もあるのでフランスとの相互防衛協定が全く効果がないとは思わないが、、、

関連記事:フランス、ギリシャがNATO加盟国から攻撃を受けても即座に軍事支援を行うことを約束

 

※アイキャッチ画像の出典:Remi Jouan / CC BY 4.0

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    流石おフランスさんや。
    例外規定はちゃんとあったんやな。

    ま、現実的に戦闘機やフリゲート購入は破格の扱いして貰えるから良いんじゃないの?

    16
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    これはひどい。領土紛争の衝突の後ろ盾を除外して何が相互防衛条約なんだ(そもそもギリシャはNATO加盟国なんだから領土領海に累が及ぶ戦争に巻き込まれたら頼まなくてもNATO枠組みで支援されるだろう)。こんな中身のない条約を付加価値にしてフリゲート買わされたギリシアの立場がないやん?

    4
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      EEZは領土・領海では無いのでは?
      そもそも記事にある通り確定して無いですし。

      17
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      領土・領海の外にあるのがEEZですよ…

      9
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    あいまい戦略という手口もあることはあるから。
    これでもトルコには効果がある、というか実力行為に出ると対抗してギリシャが宣言してフランスが肩入れするという構造になるから自粛しなさいって暗に脅しね

    4
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    きたない、さすがフランス、きたない(褒めtます)。

    6
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    仏らしいイイ話ですね〜、豪は訣別して正解かも.

    7
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    とってもおフランスな約束事ですわ!

    6
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    EUが脱炭素に加速している中で10年しない間に天然ガスのパイプラインの意味は薄れ、しこりだけが後世に残りそうではある

    2
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      EUがロシアにガスの元栓を握られなくなることが吉と出るか凶とでるかね

    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    流石にフランスだなー、まあ、ギリシャが勝手に期待してただけで、いわゆる後頭部を殴られた、て言っているのと同じな気もするが。
    まあエーゲ海の方だけでも意味があるんじゃないか?あっちもそれなりに火種だから。

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    この協定を逆手に取れば、トルコ以外に因縁をふっかけて、その尻拭いをフランスに押し付けて、対トルコに専念する、っていう手もあるな。

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    ギリシャとトルコ双方に抑止的効果がある、という意味で巧妙。

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    この後の展開は、ドイツとイギリスがトルコの肩持つんだよな。知ってる知ってる

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 05日

    よく知らないんだけど、天然ガスのパイプラインってそこまで重要なの?

    ここまで揉める必要があるのか理解できないわ

      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      一週間電力がなくても、快適に生活できて経済活動が回れば、天然ガスはなくても大丈夫ですね(白目)

      3
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      それ、原油タンカーってそこまで重要なのって言ってるようなもんだと思うぞ

      1
      • 匿名
      • 2021年 10月 05日

      ブラックアウトっていう海外小説があるけど
      エネルギー危機と停電の恐ろしさがよく分かるよ

      1
    • 匿名
    • 2021年 10月 06日

    ギリシャとトルコが武力衝突した時に、トルコがギリシャ領土内の基地に攻撃しないとか
    軍事戦略で無理があるから、結果的に同じぐらいの抑止力はある

    トルコがギリシャ領土への攻撃しない縛りプレイするなら別だけど

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