NATOとスウェーデンはトルコに「テロ対策の継続」「テロ対策ポストの新設」「EU加盟に対する積極的努力」を約束、これを受けてエルドアン大統領も議会にスウェーデンの加盟議定書を送付して「速やかに批准手続きを進める」と約束した。
参考:following the meeting between Türkiye, Sweden, and the NATO Secretary General
参考:Biden applauds Turkey’s agreement to back Sweden’s NATO entry on summit eve
フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を通じてトルコは政治的な成果を達成、そろそろ政治的な駆け引きは潮時を迎えている
バイデン大統領は電話会談でエルドアン大統領とスウェーデンのNATO加盟問題を協議、この会談についてサリバン大統領補佐官は「約1時間に及んだ会談の中でF-16の売却についても話し合った」と明かしたが「スウェーデンの加盟を認める見返りとしてF-16の売却を約束したのか」という記者の質問には直接的な回答を控え、バイデン政権はトルコへのF-16売却を支持しているという従来の立場を繰り返したものの、議会がブロックしているF-16Vの売却(新規40機+アップグレードキット80機分=バイデン大統領がトルコに提案したF-35プログラム追放の補償)で何らかの保証を与えた可能性が高い。

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この会談後にNATOのストルテンベルグ事務総長、トルコのエルドアン大統領、スウェーデンのクリステルソン首相の3者がリトアニアのビルニュスで会談、この中でクリステルソン首相は「トルコが要求するテロ対策についてNATO加盟後も継続する」と、この取り組みを支援するためストルテンベルグ事務総長も「NATO内にテロ対策特別調整官のポストを新設する」と約束、さらにスウェーデンとトルコは経済協力の強化で合意し、スウェーデンはトルコのEU加盟プロセスの再活性化のため積極的に努力することも約束。
エルドアン大統領もスウェーデンのNATO加盟議定書を速やかに議会へ送付することに同意したため、膠着状態だったスウェーデンのNATO加盟が実現に向けて動き出した。

出典:NATO
ただトルコ議会の批准手続きがいつ完了するのかは未知数で、エルドアン大統領率いるAKPが参加する連立与党は議会で支配的な地位にあるため、批准手続きを終えるまでエルドアン大統領がスウェーデン加盟のキャスティングボードを握り続ける格好だが、ハンガリーのオルバン首相もスウェーデンの批准手続きを先延ばししており、夏休暇に入る前の審議予定に批准手続きが含まれていない。
それでもエルドアン大統領が加盟議定書の議会送付に同意したのはポジティブな要素で、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を通じてトルコは政治的な成果(PKK支援の禁止、PKKの資金調達や組織の拡張活動の禁止、PKKを含むテロ組織の活動阻止、PKK関係者の身柄引き渡し、トルコに対する禁輸措置解除、EU加盟プロセスの再開に対する支援、F-16売却など)を幾つも実現したため、そろそろ政治的な駆け引きは潮時を迎えているとも言える。

出典:Presidency Of The Republic Of Turkey
因みにトルコと対立するギリシャは米議会に対するロビー活動を通じてF-16売却の阻止に動いており、ギリシャはスウェーデンのNATO加盟に反対していないものの、この動きが同国の加盟に影響を与える可能性も残されており、国際外交は本当に一筋縄ではいかない。
追記:トルコ議会は来週中にもスウェーデンのNATOが加盟を批准する可能性があると報じられているが、米議会の一部議員はギリシャ問題を理由にF-16のトルコ売却をブロックすべきだと主張している。
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※アイキャッチ画像の出典:NATO
ひとまずこれでバルト海周辺国が全てNATO加盟に進めそうで安心しました。
NATOの東進を防げなかったというプーチンの政治的失点にも繋がりますし、ウクライナ政府の西側への取り込みもほぼ確実になっていますので西側諸国の目標の大半は達成されたのではないでしょうか。
あとはどこまでロシアを弱体化させつつ対中路線を拡大させられるか、ですね。
「ロシアを批判しない中国政府は次の侵略戦争の準備を進めている」という位置付けで独仏などの対中政策でふら付く国を含めてNATOを対中戦略に取り込めるか、バイデンやスナクに期待したいですね。岸田さんも何か出来るのでしょうか。。
ロシアを批判しない(賛成もしない)国は中国以外にもいます(グローバルサウスの国々)。
「ロシアを批判しない中国政府は次の侵略戦争の準備を進めている」の路線で進むと、グローバルサウスの国々が非協力的になりますので注意した方が良いですね。
んー「グローバルサウス」という括り自体が雑な気がしますね、かなり発展してるところも有れば最貧国に近い方も有る、政治体制も権威主義も有れば民主的なところもあると、外交姿勢も国々の事情で決まりますから。
痛烈なロシア批判で注目 ケニア大使の国連演説には「もう一つのメッセージ」があった
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あと独裁者が自分の正当化の為に「反植民地主義」を利用するのも定番ですね。
物凄く、重要です>岸田さんも何か出来るのでしょうか
外交辞令を超えた追悼の言葉が次々と アフリカの人々が安倍元首相の死を深く悼むわけ
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これで米議会がf16売却をブロックしたりしたら、トルコブチギレ→🇸🇪が攻められても守らない、とか言いそう
トルコって実際どんな現状なんだろうか。
軍事的にはイケイケだけど、国内は激しいインフレ。
一応、エルドアン大統領は何とか過半数越えで信任されてるけど、トルコ国内のニュースはあんまりないから分からないなぁ。
一応NATO加盟国だけど、トルコ人はウクライナ・ロシアどっち派なのかな?
トルコはNATO加盟国だけど、わりにロシアとも繋がりがあります。
来月にプーチンはトルコに行ってエルドアンと話をするようです。
日本人からみれば、世界は色々と複雑怪奇ですね。
トルコの国民感情的には反ロシアだね
侵攻当初にロシアの外交使節がトルコを訪れた際、大規模抗議集会で出迎えた
同じく侵攻当初にウクライナでのトルコ人労働者問題もあり
最近では戦争支持のトルコ在住ロシア人が、傲慢な態度をとりボコボコにされ病院送りに
コイツロシア人だと言われてた
まぁ議会で拒否したら大統領には関係ないもんな。
スウェーデンが加盟したところでバルト海は既にNATOの海なので、実質的な意味は少ないですね。
ただ瑞・土両国にとっては政治的成果と言えるでしょう。
対して露にとってはエルドアン再選、コーラン焚書が続いていた中で青天の霹靂でしょうね。
EU加盟プロセスについては真剣な進展があるとは期待できない。2021年のトルコの一人当たりGDP(USドル)はあのギリシアの半分程度でありインフレもひどい。シリアなどから来た大量の移民難民はトルコに留まっている。トルコが加盟すればEUは難民からの壁を失う。EU加盟国のトルコ嫌悪も確実にある。
エルドアンがどこまでNATO加盟問題を引きずるのかはわからないが、ポピュリズム的にEUのイスラム嫌悪を糾弾することで国内問題から目を逸らし、統制を図る狙いもあるのかもしれない。
NATO の結束とウクライナ支援を高らかに謳い上げる祭典になるかと思いきや。ゴリゴリの各国利益の鍔迫り合いでウクライナそっちのけなところに、冷徹な国際政治の姿を垣間見る思いですね。
そもそもあれだけウクライナを先頭切って焚き付けといたアメリカがウクライナの加盟に難色を示している、ってのも流石だなと思いますね。
アメリカがウクライナを焚きつけたとかいう固定観念、今のうちにソースとファクトチェック含めて頭洗い流した方がいいと思いますよ
戻ってこれなくなる
なるほど、そういう見方もあり得ると思います。
しかし、まず基本は、ウクライナがNATOに加盟するのはかなり困難で、特にウクライナ戦争をやっている間は加盟はないといのは、まず確定でしょう。
そして、それを前提に、ウクライナの加盟に関してあっちこっちしているバイデンの発言を考えるべきだと思います。
>そもそもあれだけウクライナを先頭切って焚き付けといたアメリカがウクライナの加盟に難色を示している、ってのも流石だなと思いますね。
そもそもアメリカは戦争前から短期的にはウクライナをNATOに加盟させるつもりなど毛頭無く、ロシアを挑発していただけでしょう。「ブッシュ時代からのウクライナを舞台にした挑発に乗ってしまったロシア」という形をどう評価するかは人によって分かれるでしょうね。
アメリカの策略を疎ましく思う人もいるのかもしれませんが、私は「アメリカは上手くやり、挑発に乗ったプーチンが愚かだった」と思いますね。
欧州とロシアがイデオロギーの違いを棚に上げてエネルギーで結びついて共存していた世界では、欧州と中国もより経済的な結びつきが強くなっていたでしょうから、イデオロギーの違いは経済的な結びつきでは乗り越えられないと欧州に認識させて対中戦略に引き込める可能性が高い現在の方が日本にとっても好ましいでしょう。
トルコは捕虜として預かっていたアゾフ連隊の指揮官たちをウクライナへ返しましたし、ノルウェーのNATO加盟承認とウクライナのNATO加盟を支持するなど、ここに来て西側への接近とロシア離れが顕著になってきています。
さらにロシアが黒海の穀物輸送協定からの離脱を表明したことを機にトルコは自国の自走砲T-155(K9のトルコ型)のウクライナへの販売を認めたのでトルコはロシアと決別したといっても良いでしょう。
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ウクライナ軍参謀本部主要作戦総局のグロモフ副長官によると自走砲T-155の供給についてトルコと協議中とのこと。
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ウクライナは、トルコ製のフィルティナ T-155 155mm 装軌自走榴弾砲の納入を待っていると述べた。
バルト海の出入り口を完全にふさがれるし、ノルエー、フィンランド、スェーデンへデンマーク経由でヨーロッパからの兵站線が便利に利用できるようになりますね。
まぁ、どうでもいいよ!みたいな態度してますがロシア的には極めて面白くない話でしょう。
いろいろとお得に立ち回れて、ロシアにはトルコ的には撃墜事件でいじめられた分のうっぷん晴らしにちょうどいい感じ?
まぁ、基本的にエルドアンとプーチンがそこまで仲良しとは考えられません。