総額52億ドルと噂されるインド海軍の通常動力型潜水艦(AIP機関/プロジェクト75-I)入札にドイツと韓国が名乗りを上げているが、新たにスペインの入札参加が発表されたため一騎打ちではなく「三つ巴の戦い」になる見込みだ。
参考:L&T and Navantia sign a Teaming Agreement for Project 75 (India) submarine program
ドイツと韓国の一騎打ちになると見られていたが、新たな挑戦者が登場したため三つ巴の戦いへ
インド海軍は通常動力型潜水艦のカルヴァリ級(スコルペヌ型潜水艦)を建造中だが、この後継プログラムとしてAIP機関を搭載する潜水艦の取得準備=プロジェクト75-I(P75-I)も進めており、ドイツのティッセンクルップはマザゴン・ドック造船所(MDL)と手組んで入札に参加、韓国のハンファオーシャン(旧大宇造船海洋)も提携する印企業は不明なものの入札参加を表明済みで、総額52億ドルの契約はドイツと韓国の一騎打ちになると見られていたが、新たな挑戦者が登場したため三つ巴の戦いになる見込みだ。
インドのラーセン&トゥブロは10日「P75-I入札に参加するためスペインのナバンティアと契約を締結した」と発表、両者はS-80ベースの設計を提案すると明かしており、入札に参加するための絶対条件=AIP機関についてはS-80Plus向けに開発した国産システムを採用する予定で、現在1番艦のアイザック・ペラルが就役に向けてテストを行っている。
ティッセンクルップが提案する潜水艦についてはイスラエル向けに建造しているドルフィン級潜水艦(209ベースのカスタムバージョン)、以前提案していた214型、シンガポール海軍が採用した218型などが噂されているものの公式な情報はなく、インド海軍は計30発の巡航ミサイルと魚雷を搭載できる弾庫容量を要求しているため218型ベースの潜水艦になる可能性が高い。
218型(シンガポール海軍のインヴィンシブル級潜水艦)の大きさは約2,000トン、魚雷発射管8門、ドイツが得意とする燃料電池方式のAIP機関を搭載して4週間~6週間(シュノーケル不使用)の連続潜航能力を備えているが、最大の売りは水平式の多目的チューブ(Horizontal Multi-Purpose Lock=HMPL)と圧倒的な省力化技術だ。
HMPLはバージニア級原潜で採用されているバージニア・ペイロード・チューブ(VPT)に類似したアイデアだが、垂直のVPTとは異なり水平(艦首方向)に搭載され巡航ミサイルやエアロック・チャンバーなどを収納することができ、最新の省力化技術が採用された218型の乗組員数はたったの28人で通常時の運行は約9人(3交代勤務)で行えるらしい。
ハンファオーシャンが提案する潜水艦はKSS-III BatchIIをベースにしたDSME3000(燃料電池方式のAIPを採用/SLBM10発搭載)で、BatchIIは鉛蓄電池からリチウムイオン蓄電池に変更されているため「連続潜航能力が大幅に向上している」と主張しているが、最大の売りは何と言っても潜水艦発射型弾道ミサイルを10発搭載できる点だろう。
インド海軍はP75-Iに採用するAIP機関の運用実績を重視しているため、果たしてテスト段階のAIP機関でドイツや韓国と勝負になるのかは謎だが、ナバンティアはNavalGroupと共同でスコルペヌ型潜水艦を開発した経験を持ち、インドでのカルヴァリ級建造にも関与しているため現地企業との協力方法や仕事の進め方でドイツや韓国よりも優れている可能性があり、誰が総額52億ドルの契約を受注するのか注目が集まる。
因みに日本はP75-Iへの参加を見送っており、米ディフェンスメディアは「日本が入札参加を見送ったのはそうりゅう型潜水艦がインド海軍の要求に応えることができなかったためで、独特な運用体制に対応している関係で他国の潜水艦よりも設計寿命が短い=長期間の運用やアップグレードを前提した設計ではなく、複雑な入札方式にも参加した経験がないため、新規プレーヤーの日本は経験やノウハウを確保して輸出方法を確立する前に国産兵器の評判を落としたくなかったのだろう」と指摘している。
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※アイキャッチ画像の出典:NAVANTIA S-80Plus
>他国の潜水艦よりも設計寿命が短い=長期間の運用やアップグレードを前提した設計ではなく
米空軍の目指す未来(デジタルセンチュリーシリーズ)は日本の海に沈んでいたらしい
元々20年で寿命を迎える予定だしこの方が安上がりだろうね
カートリッジ商法止めて、最初から製品寿命分のインクを積んだプリンタが発売されたのを思い出しました>デジタルセンチュリーシリーズ
インド企業と合弁で潜水艦作るとかメンテするのは、相手が過去に深く関わったパートナー企業とかじゃないとハードル高いよね…
ドイツは自国の潜水艦どげんかせにゃんらんような気がしますが…
スペインの参戦は驚いたね、てっきりフランスから輸入しているのだと思ってたよ。
フランスの”閉サイクル蒸気タービン”とドイツの”燃料電池”
のどちらを選択するのかを決めるつもりなのかな、と思います。
先の記事の”自国で研究中のもの”は、多分、フランスのものが基と
思いますが、今時点ではAIPの本命技術の見通しをまだ付けていないのかな。
それにしても、自国で原潜を作る国が、いったい何をしているのだろう。
まあ、今の政権が輸出商戦で政治協力するのはアメリカ案件だけだろうし
日本の潜水艦は「独特な運用体制に対応している関係で他国の潜水艦よりも設計寿命が短い」
戦後のいつごろからこのような設計思想になったのですか?
米軍が通常動力潜水艦を作らなくなった為でしょうか
それとも、米国での原子力潜水艦の能力向上の余波でしょうか。
あるいは記事のこの解釈が間違っているいて、潜水艦の2社建造体制の維持が最大目的?
乗る立場からすると設計寿命が短い方が安全面でも良い気がします。
しかも潜水艦はアップグレードの為にバラすのも困難ですし、バラす=船体切断ですからコスパはもちろん稼働率の面でも日本の運用方針は悪く無いと思いますが、輸出には不利になるようです。
「独特な運用体制に対応している関係で他国の潜水艦よりも設計寿命が短い」ってのは、自衛隊の潜水艦がハンターキラーに特化している事を指していると思うんですが、スピードの遅い通常型潜水艦の場合、基本的にチョークポイントでの哨戒活動がメインな筈で、対象からの被探知を避けながらとなると大深度での待ち伏せになるのかもしれないですね。必然的に金属疲労は蓄積しやすいでしょうし、船殻の寿命が短いのであれば、他の機材の寿命を長くする理由も無いですしね。
日本は22隻体制もそうですが、まず保有潜水艦数を決め、国内技術維持のために製造間隔を空けない前提で設計耐用年数を設定している面があり、結果的には現行だと22年前後の耐用年数でしか設計をしていません。
メーカーは顧客を海上自衛隊のみと想定してきましたし、例えば耐用年数が30年あると説明すると約10年間は予算化されないリスクがあったので。
今回のインドは航空万能論GFさんの他の記事を見ても30年以上の使用を前提とされれいると。
もちろん外部の構造物等は日本の現行品でも耐用年数は20年以上ありますが、内装設備等は30年使用だと大幅に換装する必要が出るでしょうし、ソフトウェア周りはアップグレードが必須なので、外部の米ディフェンスメディア的にはこの記事のような指摘になると思いますよ。
ただ、自衛隊とメーカーが換装やアップグレードを本当に想定していないかは不明な気もします。
いずもの空母化と同じで技術的には本当は織り込んであるけれど、建前的には織り込んでいないことになっている可能性もあろうかと。
ですのでこの米ディフェンスメディアの指摘自体が本当に正しいかはまた別のお話かもしれません。
海自潜水艦は前回の定期整備や改修工事等から3年後の定期整備を標準としています。
その際に疲労度等の検査・評価を行い交換の必用な部品類は交換しますし、二次電池は6年間隔を目処に交換しています。細かな改修も必要と判断されるものはその際に行われています。
定期的に検査・補修及び必要に応じた改修等を行うのは他国海軍も同じで、その間隔や内容に違いがあるだけかと。
海上自衛隊または防衛庁は、潜水艦の耐用年数は20年と公表しているのでしたっけ?
ちなみに「うずしお」「まきしお」「なるしお」は竣工20年超でも現役ですね。