欧州関連

英海軍、空母向け早期警戒ヘリの後継機としてMQ-9Bを検討中

英海軍はクイーン・エリザベス級向けに導入したばかりの早期警戒ヘリ=Merlin AEWを2029年に退役させる予定、この能力のギャップをどう埋めるのかについて関心が集まっていたが、イーグル閣外大臣は「後継機候補としてMQ-9Bを検討している」と明かした。

参考:MQ-9B considered for new carrier early warning aircraft

英海軍は英国が加盟するMQ-9国際パートナーシップを通じ、この無人機をクイーン・エリザベス級で運用するための改修が可能だと確認

英海軍は後継機を取得することなく1978年にGannet AEW.3を退役させたため、空中早期警戒(AEW)能力が欠如した状態でフォークランド紛争に突入し、水上艦による早期警戒網を敷いたもののアルゼンチン海軍の航空攻撃でレーダーピケット艦を務めていた駆逐艦を失い、急遽開発されたのが吊り下げ式のレーダーと早期警戒管制システムを搭載したSeaKing AEWだ。

出典:Nilfanion/CC BY-SA 3.0

この機体は何度もアップグレードが行われて運用が続けられていたが、クイーン・エリザベス級建造に合わせてMerlin Mk2とCrowsnestを組み合わせた新型AEWを開発することになり、約2年の遅延が生じたものの2021年の極東派遣にギリギリ間に合い、2026年に完全運用能力の獲得が見込まれているにも関わらず2029年に退役予定だ。

ジョンソン首相が実施した国防政策の見直しはCrowsnestシステムの維持・拡張に資金を供給しなかったため耐用年数が延長されず、スナク政権下でCrowsnestシステムの2029年退役が確認され、スターマー政権下でも退役スケジュールに変更はなく、この能力のギャップをどう埋めるのかについて関心が集まっていた。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

英海軍が作成した将来の海上航空部隊に関するプレゼンテーション資料では「空母運用が可能な無人機=Vixen」の開発が予告されており、この無人機にはAEW任務を実行するバージョンが設定されているため「Merlin AEWはVixen AEWで更新される」と予想していたが、イーグル防衛装備担当閣外大臣は「Merlin AEWの後継機候補としてMQ-9Bを検討している」と明かした。

イーグル閣外大臣は議会での質問に「無人機による早期警戒任務について積極的な評価を行っている最中だ」「この評価は自律的システムの統合で防衛力を近代化する取り組みの一貫だ」「現在の無人機は主に陸上と海上の監視任務に使用されているが、今後の開発によってAEW任務への活用が可能になるかもしれない」「英海軍は英国が加盟するMQ-9国際パートナーシップを通じ、この無人機をクイーン・エリザベス級で運用するための改修が可能だと確認した」「そのためMQ-9はMerlin AEWの後継機候補として検討されている」と回答。

英海軍は2024年、強力な短距離離着陸能力を備えたMojave(MQ-1Cベースの無人機)をクイーン・エリザベス級空母でテストし「スキージャンプ勾配や特別な着艦支援整備を使用せず運用可能」と実証済みで、GA-ASIは強力な短距離離着陸能力を備えたMQ-9B STOL構想も発表しており、MQ-9に統合可能な超広域センサーの存在(この超広域センサーの作動範囲は非常に広大なため少数のMQ-9で米本土をカバー可能らしい)にも言及している。

仮にMQ-9に統合したレーダーでAMTI能力を確保できても「BMC2能力をどうするのか」が問題になり、戦闘管理指揮統制をクイーン・エリザベス級空母の艦内で行うことになるのかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:GA-ASI

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コメント

  • コメント (5)

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    • 無印
    • 2025年 5月 20日

    Crowsnest、短命でしたが、ヘリでAEWは無理があったんですかね、10年も使わないとは
    MQ-9B STOL AEW(仮)が現実になったら「いずも型にも載せよう」って話は出てくるんでしょうか
    いずもの改修が終わり、F-35Bの運用に「AEWが必要だ」となったらの話ですが

    1
      •  
      • 2025年 5月 20日

      韓国の独島で Gray Eagle STOLの発艦試験の映像を見ましたが、かなり狭く、発艦できても着艦は甲板のクリアランスが足りなくて危ないんじゃないかと思った印象があります(その時の試験も、着艦せずにそのまま陸上基地へ行っているし)。

      F-35Bの翼幅は11mなのに対して、Gray Eagle STOLの翼幅は16mもあり、それほど数を載せられない いずも では、F-35Bと MQ-9Bを両方乗せると 虻蜂とらず になるんじゃないでしょうか。

      1
      • のののの
      • 2025年 5月 20日

      海自はシーガーディアンを23機導入予定なので一部をSTOLに改造というのはありえるけど、記事にもあるとおり管制を何処でするかが悩ましい。島嶼防衛の範囲であればE-767に出張ってもらえば足りそうですし。

    • 58式素人
    • 2025年 5月 20日

    海自独自のAEW機材は、無いですよね。E-2は空自の所属だし。
    現状は、P-1の側方レーダーに頼るのかな。P-1の数も問題になりそうな。
    海洋監視衛星の数もまだ少ないみたいだし。
    米艦隊が同行できない場合も考えた方が良いのでは?。
    海自には、ヘリ空母は4隻しか無いから、MQ-9だけでは不足なのでは?。
    MQ-9は滑走路が必要だし。
    カタパルト発進で、総重量5t未満の固定翼機、が必要になるのでしょうか?。
    ヘリだと、高度は3,000mくらいが限界だし、10,000m以上は行動できる機材。
    回収は、現状ではキャッチネットくらいなのでしょうか。
    そんなふうに思ったり。

    1
    • kitty
    • 2025年 5月 20日

    BMC2って何の略だったっけなって検索してたら、JASIの面白いレポートを発見しました。

    >早期警戒管制機撃墜をめぐる評論の意味

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