ブルトン欧州委員は9日「欧州防衛投資計画には1,000億ユーロ規模の資金が必要だ」「実現すれば24ヶ月以内にEUはロシアと同等の兵器生産能力を獲得できる」と述べ、トランプ氏の大統領復帰の可能性を念頭に「自分達のことは自分達でやるしかない」と訴えた。
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トランプは戻ってくるかもしれないため、今まで以上に自分達のことは自分達でやるしかない
ブルトン欧州委員(域内市場と防衛政策を担当)は9日、ブリュッセルで「まもなくEuropean Defence Investment Program(EDIP=欧州防衛投資計画)を発表する。これは加盟国間の共同調達を促し、加盟国の武器・弾薬の生産を拡大することでEUをより戦争に適した状態にするための資金調達計画だ。防衛産業界を強化するのに恐らく1,000億ユーロ規模の資金が必要になる」と明かし、EDIPの枠組みが実現すれば「18ヶ月から24ヶ月以内にEUはロシアと同等の兵器生産能力を獲得できる」と述べて「これはEUにとって極めて重要だ」と強調した。
さらに興味深いのは「フォン・デア・ライエン委員長との2020年の会談でトランプ元大統領は『欧州が攻撃を受けても我々は助けないし支援も行わない』『NATOは死んだ』『欧州は我々に4,000億ドルの借りがある』『ドイツ人は国防費として負担すべきものを支払わなかった』と述べた」と当時の緊迫した様子を明かした点だろう。
ブルトン欧州委員は「あの出来事は我々が目を覚ますための大きな警鐘で彼は持ってくるかもしれない。だからこそ今まで以上に『自分達のことは自分達でやるしかない』と思っている。何が起きても対応できるようにするには防衛産業を強化する以外に選択肢はない」と述べ、米ディフェンスメディアも「ドイツの防衛産業界は大規模戦争に適応し始めている」と報じている。
因みにPoliticoはブルトン欧州委員の発言を受けて「トランプ氏の大統領復帰をブリュッセルは恐れている」と報じており、トランプ氏が国防費を増やせと迫ったのは「米軍の負担軽減」とは別に「欧州諸国が増やした国防支出が米国製兵器の購入や欧州での兵器開発に対する米企業の関与に繋がる」と考えていたためで、欧州の加盟国は国防費の増額に応じたものの「米国の手が届かないEUの防衛基金」に資金を移し、この基金を活用した兵器開発や調達に関与できるのを「欧州企業」に限定したためトランプ氏は不公平だと憤慨していた。
自立した防衛産業の存在は独自の安全保障政策に欠かせず、ここを抑えられると外交上の独自性が保てなくなるため、多くの国は効率性が悪化しても「防衛産業の育成」や「調達先の分散」を選択しており、トランプ氏の大統領復帰は西側諸国、特に欧州大陸の安全保障政策に大きな変更をもたらすかもしれない。
本物の戦争では顧客の要望に応えるカスタム仕様ではなく生産スピードが重要
米ディフェンスメディアの取材にヘンソルト、タレス・ドイツ、ローデ・シュワルツの広報担当者が応じ、ドイツの防衛産業界は何千項目にも及ぶ独自の要望に応え、生産途中でも要望を追加してくる顧客に対応することから「標準構成による大量生産」にシフトしつつある。
ヘンソルトの広報担当者は「我々の生産哲学には根本的な変化が生じている。顧客毎に異なる要望への対応から『如何にシステムを早く戦場に届けるか』にシフトした。年間5基以下だった大型レーダーの生産数は15基以上となり、この数字は2025年までに20基以上になるだろう。当社が生産するレーダーの約半分はウクライナに向かう予定だ」「需要に対応するため過去2年間で従業員を15%増やし、シフトを追加し、レーダーの納品スピードは契約締結から1年以内に短縮されたが、未だに正確な納品時期は『適用の必要性』に左右される」と述べた。
タレス・ドイツの広報担当者も「正確な納品時期に拘らないという時代があったのは事実だ。以前は生産スケジュールに余裕を持たせて契約を結んでいたが、現在は担当が異なる従業員を必要なところに割り当てなければならなくなった」「我々は納期と従業員の訓練についてより現実的になった」と、ローデ・シュワルツの広報担当者も「新たに約2,000人の従業員を雇い入れて第3シフトを追加した」と明かし、米ディフェンスメディアは「タレスの言葉は需要への対応に特定の基準緩和が必要だと示唆している」と指摘。
さらに興味深いのは取材に応じた全企業が「現在も業界はCOVID-19によるサプライチェーンの混乱から脱していない」と述べている点で、ローデ・シュワルツの広報担当者は「必要なコンポーネントを自ら管理することは混乱が続く中で納期を守ることに繋がり配当をもたらした」と、ヘンソルトの広報担当者も「当社は契約の履行に必要なコンポーネントをその都度発注してきたが、物流分野に投資して自前の倉庫と配送センターを建設した。以前の生産哲学なら『在庫を持つ』というのは考えられないことだ」述べている。
因みにヘンソルトの広報担当者は「以前の顧客は契約書に何百ページもの、何千項目にも及ぶ独自の要望を提示してきた。生産に入っても要望の追加や変更は日常的な光景だったが、短期間で大量に生産するには顧客にも一定の抑制が必要となる」と主張しているが、取材に応じた全企業が新しい生産哲学を共有しているわけではない。
それでもヘンソルトは「これこそが新しい時代の正しいやり方だ。ペースが加速した世界での成功は提供に意欲を見せるだけでなく本当にシステムを提供できることにある」と述べ、米ディフェンスメディアも「ウクライナでの戦争は顧客の要望に応えるカスタム仕様より生産スピードが重要だと企業に気づかせた」と指摘した。
標準構成の中身は吟味される必要があるものの「平時」と「戦時」では生産への取り組み方に根本的な違いがあり、凝った作りよりも量を要求される消耗戦では「顧客別に仕様を変更している暇はない」とでも言いたいのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Monica Roybal
トランプのお陰で自主防衛が捗るのなら、それは良いことなのではないか?
同感ですね。防衛に金を費やさずに、経済に大部分費やせていたのは単にアメリカや一部のNATO加盟国に負担させていただけですし、トランプ前大統領にどんな意図があったにせよ、正論にしか感じませんでした。
ドイツなんかは自国の防衛力が壊滅的な状況になってても米軍におんぶにだっこでしたからね。
そりゃトランプもキレます。
本来なら国力に合わせて相互に負担すべきところをアメリカ一国に背負わせるような状況でしたから、トランプじゃなくてもアメリカ大統領なら主張すべき問題だったでしょう。
トランプは大統領時代ウクライナに対してジャベリンやミサイルの売却許可をしていますし、NATOに対して分担金を増やせとしつこく迫っていましたからロシアの侵攻にも事前に気付いていた節があります。
NATO脱退発言はロシアと対決するつもりが無いからではなく、自衛をサボり続ける欧州に対しての脅しの意味が強いのではないかと思います。
これに関してはトランプの暴挙云々を言い訳に用いているだけで、EUがあまりにも国防をアメリカ頼みにしていたという批判が結局はそのまま事実だったことのツケを今払っているようにしか見えませんが
NATOの外にある欧州で戦争が始まった時にどうするかはアメリカのプレゼンスと関係なく欧州自身の問題だったでしょうに
ドイツなんかが分かりやすいですよね。
NATOというかアメリカ頼りで軍縮しその分を経済とかに回して、ロシアからの安いエネルギー輸入して中国市場で依存して、EUトップの経済大国ってのを謳歌してましたし。
ロシアが侵攻後やらかして思った以上に弱体化したの笑ってたけど、他のNATO加盟国もドイツ程じゃないにしても軍縮してて、NATO式訓練受けたウクライナ軍は通用しなかったりとかその後の支援やらの遅れやら、ロシアもだけど欧州諸国も弱体化したんだなってなりましたし。
まあ、その頼りのアメリカが弱体化して、影響力とか減ってきてるから今の世界になってるとこある気もしますが。
「自分の城は自分で守れ」 石田退三トヨタ自工元社長
バイデンは国内のインフレや南部の国境からの大量の不法移民の問題で支持率落としてるみたいで、トランプ支持率的に再選普通に可能性高いんですよね。
正直共和党も民主党も人材もっといないのかなって気もしますが。
まあ、防衛に限らず自国の産業を守ってないといざという時に困るもんですけど。
アメリカやフランスが自国の農業支援して保護してるのとか、何かあった時国防上自国は飢えないようにもあるでしょうし。
自国で資源も食料も何とかなるロシア見てると正解な気はしますが、エンジンとか一部の軍需に関してはソ連崩壊での独立時にウクライナの東部に工場あってロシアに無かった話聞いたから、それ手に入れる為ってのもあったんでしょうかね。
ウクライナの勝ち確すね
ロシア軍にはウクライナを屈服させるだけの能力がない事は明白
いくら空から攻撃したところで第二次大戦の空襲の規模にも到底追いつかず、結局のところ歩兵で占領せねばならないのも変わらない
ロシア軍にはそれが困難てか無理難題
大損害を出しながらの遅々とした進軍ではプーチンの寿命が尽きて時間切れ
いずれアフガンのように撤退するしかなくなりますな
ウクライナにとっては苦しい戦いが続くでしょうが、粘り強く耐えれば勝ち
大局的には結果見えてる
敵野戦軍の撃滅という目標に真摯に取り組んできたロシア軍はウクライナに50万人規模の追加動員が必要になるほどの損害を与えています
開戦以前の均衡状態がロシア軍の全面投入によってロシア優位に傾いて各方面を失陥させたように、その後の総動員によってウクライナ優位に傾いてロシア軍に撤退を強いたように、現在の均衡状態も早晩崩れて戦場は再び流動性を取り戻します
現在のウクライナに一度傾いた天秤を再び戻せる要素は存在しません
また、プーチン大統領が死んだとしても戦争は終わりません
アフガンとは違いこの戦争は総力戦です
粘り強く耐えれば勝ちと言いますが、それが困難に直面しつつあるのが現在です
何か勘違いしてるようですが
追加動員が必要なのは兵員を交代させる為ですよ
確かにそうですよね。
ウクライナ側は、防衛戦争長期化への対応という側面で、当初から戦っている兵士の交代、不公平の払拭が課題だったはず。
偏った見方に凝り固まると、評価も真逆になるから危ない
何か勘違いしているようですが
50万人動員はローテーション問題とは別に兵員不足解消のためです
リンク
>ウクライナにとっては苦しい戦いが続くでしょうが、粘り強く耐えれば勝ち
現状では、「苦しい戦いに耐えられなくなり負け」の可能性が8割を超えているように見えます。
・半年にわたる反転攻勢は何の成果も挙げられず失敗
・欧米の支援が3ヶ月以上も遅れており、今も目処が立っていない
・ゼレンスキー政権の支持率の急激な低下、およびザルジニー総司令官との対立
・兵力の枯渇が深刻、50万人の追加動員を進める資金がない
>大局的には結果見えてる
その通りではあります。外国からの援助ありきで戦争計画を組んでいた国家が、梯子を外された場合どうなっていくかは誰でも分かります。
ウクライナが耐えられて勝てるという想定は、日本国民も「実質賃金が20か月連続のマイナス」という状況があと数年続くのに耐え、岸田政権が選挙で大勝利できる、という想定と同義のものでしょう。
ちなみに大日本帝国という国は、太平洋戦争で粘り負けして降伏しました。言うは易く行うは難し
大日本帝国には、頼りになる味方はいませんでしたしね。
”梯子を外された場合どうなっていくかは誰でも分かります。”
梯子が外される様子はないように見えます。
そりゃ外されるその瞬間までは見えないでしょ。
本人(?)に判らなくても。
その為(?)に外野はいるような気がします。
まーた精神勝利始まった感じすか?
米軍のプレゼンスの有無に関わらず、今のNATOに現実的な脅威なんてあるか?
ロシアはNATOとの直接的ないざこざだけは絶対に避けるように動いてるし、イランもNATOに向ける武器があるならイスラエル等に割きたいだろう
>米軍のプレゼンスの有無に関わらず、今のNATOに現実的な脅威なんてあるか?
・アフリカからの難民増加
・中東からの移民が国民の10%を超えつつあることによる国論分断
・セルビアとコソボの紛争懸念
・極右の台頭による政権奪取とリビアやシリアのような内戦の可能性
・イスラエルがレバノンと軍事衝突し、NATO加盟国であるトルコも出兵することになった場合
このくらいですかね、スペインのバルセローナや北部アイルランドなど、分離独立の種は尽きない土地なので、経済が停滞しアメリカの影響力が弱まると、蠢動する勢力があちこちから出るのが懸念されます。
確かにそれらは欧州が抱えてる課題ではあるけど、NATOという軍事組織が強大であることを訴求する根拠にはならないような
まあ、NATOが強大であろうとすることで潜在的な脅威が未然に防がれてるという見方もできるが
NATOは対ロシアの備えているのは間違いありません。過去記事で何度もNATO軍の交換が行っている通り2030年までにロシアと戦闘する可能性を考えています。安全保障条約があるから〜と言うのも正しいですがNATOはそれを加味してもロシアと戦闘になる可能性があると考えていると思います。
もし米国が抜けたら、今のNATOは瓦解するでしょ。
特に核戦力は英仏を足してもロシアには全く叶わないです。
先制攻撃で壊滅しかねない。
自立した防衛産業の存在は独自の安全保障政策に欠かせず、
ここを抑えられると外交上の独自性が保てなくなるため、
多くの国は効率性が悪化しても「防衛産業の育成」や「調達先の分散」を選択
↑何度も反芻したい教訓ですね。我が国のお買い物も見直して欲しい
翻って本邦も「ペースが加速した世界」から脱落しないことを祈ります。
……財務省、お前らのことだぞ。
EU=ユーロブロック経済圏を作って、アメリカに対ロシアの安全保障丸投げしてましたからね。
ロシア権益で、天然ガスを享受して、日本に化石賞まで贈ったり説教をしていたわけです。
ヨーロッパが、まともになってきたということですね。
共和党もトランプさんでなくても勝てそうなので、バンデンさんが3月に降りたら処分されそう気がします。
まあロシアも中国も残念なことになっているので非対称戦の方が重点な世界に戻りそうですがねえ。
どうなんでしょうかね?これ。
大陸の複雑さを無視すれば、個々が防衛する形というのは良いのかもしれませんが、そういうわけでもなく。。そもそも、アメリカが余計な事をしなければ、よろしくやっていた可能性もけっこうある。
個人的には、内ゲバにならないようにとしか言いようがありません。
いきなり「欧州が攻撃を受けても我々は助けないし支援も行わない」、「NATOは死んだ」、「欧州は我々に4,000億ドルの借りがある」、「ドイツ人は国防費として負担すべきものを支払わなかった」と発言するのはヤバいなぁ。
まぁ、日本と韓国の米軍駐留経費を大幅増額させるために、「全ての米軍を撤退させると脅せ」と言う人だからなぁ。
軍事同盟国の信頼を損なったら対中で足並みが乱れると思うけど、そこまで考えていないよなぁ。
欧州は国力が低下して対ロシアに専念せざるを得ないから、アジアで紛争が起きても欧州はアジアに戦力を指向できなくなる。
戦後欧州の対米姿勢は
1.「新興成金国家アメリカへの侮蔑」
2.「経済大国アメリカへの輸出奨励と経済対抗と(米資本からの)欧州経済防衛」
3.「軍事大国アメリカへの安全保障提供の要求」
の3つで説明できます。といってもお情けでアメリカが欧州を防衛していた訳ではなく、米国にも相応の見返りや利益があった訳ですが。ただ、EUとして欧州の経済部分が統合され相対的な発言力が向上したことと、トランプ氏のような経済界出身の米大統領がヨーロッパに厳しい要求を突きつけることは無関係ではないでしょう。トランプ氏は常軌を逸した人であることは事実ですが、この点においての彼の発言は突飛な妄言というより伝統的な米国の対欧州観をなぞっているのではないでしょうか。トランプ氏が来なくてもいずれ誰かが言うことですから、いい機会だと思ってぎっちり議論するのがいいでしょう。