欧州関連

英海軍の新型早期警戒ヘリが就役、空母打撃群の極東派遣に間に合ったクロウズネスト・マーリン

空母クイーン・エリザベス用に開発を進めていた早期警戒ヘリ「クロウズネスト・マーリン」の就役が英空母打撃群の極東派遣に滑り込みセーフで間に合った。

参考:NAVY’S NEW ‘EYES IN THE SKY’ ENTER SERVICE READY FOR CARRIER MISSION

極東派遣の準備が整ってきた英海軍の空母打撃群、最後のピースと言われてきたクロウズネスト・マーリンが就役

戦後、通常型空母を廃止した英国はSTOVLタイプのシーハリアーを開発してスキージャンプ勾配を採用したインヴィンシブル級軽空母を建造したが、このタイプの空母は米海軍や仏海軍が採用している固定翼の早期警戒管制機の運用が不可能でフォークランド紛争で高い授業料を支払う羽目になる。

1982年に発生したフォークランド紛争時、英海軍は航空機による早期警戒の代わりとして水上艦による早期警戒網を敷いたがレーダーピケット艦を務めていた駆逐艦「シェフィールド」がアルゼンチン海軍による攻撃で撃沈され航空機による早期警戒の必要性を再認識、そこで開発されたのが専用の早期警戒管制システムを搭載したシーキングAEWだ。

出典:Tim Felce / CC BY-SA 2.0 シーキングAEW

シーキングAEWは米国製「SH-3シーキング」に吊り降ろし式のレドームを搭載、専用の早期警戒管制システムと組わせて360度の探索・管制が可能な機体だが就役から30年以上が経過しており、新たに建造したクイーン・エリザベス級空母でも固定翼機の早期警戒機が運用が出来ないため新しい早期警戒型ヘリ開発を決断、開発を請け負った米国のロッキード・マーティンは新しい早期警戒システム「クロウズネスト(Crowsnest)」を搭載した「マーリンHM.2」を空母クイーン・エリザベスの本格運用が始まる2021年までに届けると行っていたが上手く行っていない。

当初の予定では2018年にクロウズネストのテストを開始して搭乗要員の訓練に使用されるシミュレーターや機体を2019年6月に引き渡す予定だったのだが同システムのセンサーが敏感過ぎて調整に手間取っており、2020年になっても英海軍のシステム操作員は未だにクロウズネストを見たことも触ったこともなかった。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

問題のクロウズネスト開発はフランスのタレスが請け負っており、この状況を英国防省もロッキード・マーティンも把握していなかったため事態の深刻さに気づいたときには完全に手遅れ(=開発遅延)で国内から批判されていたが2020年夏以降に遅れていたシミュレーターが引き渡され急ピッチで要員の訓練が進められ、完成した機体も引き渡され今月25日に英海軍が正式な運用が始まったと発表している。

中国のグローバルタイムズ紙(環球時報の英字版)は「準備の整っていない空母クイーン・エリザベスを極東に派遣しても欠点を露呈するだけ」と馬鹿にしていたが、現地メディアは今年5月予定されている地中海、中東、インド洋、太平洋地域への展開にギリギリ間に合ったと報じており着々と英空母打撃群の極東派遣は準備が整ってきた。

出典:Royal Navy / OGL v1.0

因みに英海軍は英空母打撃群の運用に欠かせない海上補給用の船が不足しており、この問題を解決するため計画されていた3隻の新型補給艦の競争入札は国外での建造を許容してる点が問題視され白紙化、老朽化した補給艦の退役が始まる2028年までに調達が間に合うのか危惧されている。

補足:なぜ大型補給艦の競争入札を初めから国内に限定しなかったのかと言うと、まず各種補給艦や揚陸艦などの補助艦艇は伝統的に英海軍ではなく英海軍補助艦隊(形式上、国防省が保有して海軍本部が責任を持ち民間人によって運用される船団と定義されている)に属する決まりになっているため形式上「軍艦」ではないことになっている。そうなるとEUの規則(EU加盟国が発注する軍艦以外の艦船建造は国際競争入札を実施しなければならない)に引っかかるため国際競争入札になったのだ。

英国は大型補給艦の受注を英国企業に限定した競争入札を2021年春に実施する予定で英企業ハーランド・アンド・ウルフを主体するコンソーシアムにはスペインのナヴァンティアが参加を決めており、イタリア、韓国、日本の造船企業も新しい約15億ポンドの大型補給艦入札に関心を示しているらしいが、まだパートナーとなる英国企業が見つかっていないらしい。

白紙化された前回の入札にジャパン・マリンユナイテッドが参加を表明していたので、今回も英国企業と組んで入札に参加する可能性が高いので今後の動きに注目を集まる。

関連記事:中国、英国が準備不足の空母を極東に派遣しても軍事的意義は皆無
関連記事:英国が進める総額15億ポンドの補給艦建造契約、日本企業も再び挑戦か?

 

※アイキャッチ画像の出典:Royal Navy / OGL v1.0

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コメント

    • ソソソナス
    • 2021年 3月 26日

    ハーランド・アンド・ウルフって倒産したはず。リンク

      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      その後、イギリスの企業に買収されて生き残ってるよ

      8
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    固定翼の早期警戒機と回転翼の早期警戒機で能力にどのくらいの差が出るの?

    3
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      一番の差は「発電能力」では?
      なので、ヘリの方の性能(時間、出力など)が落ちるだろうけど、
      艦隊防衛としての早期警戒機なら問題にならないのかもね。

      7
        • 匿名
        • 2021年 3月 26日

        滞空時間や運用高度の面でもかなり不利ですよね。
        固定翼のAEW(≒E-2D)が運用できないところがいわゆるSTOVL空母の大きな問題点なのかな。
        こんな認識でよろしいでしょうか?

        3
        • 匿名
        • 2021年 3月 26日

        上昇限度が全然違う、大体のヘリだと3000-4000mも高度とればアップアップでこいつの原型AW101もホバリングの限界が3300m位。
        艦載レーダーよりはるかに遠くまで見えるけどね。

        9
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      レーダーのサイズや出力にも差が出るが、一番大きいのは最大運用高度の差からくる見通し線距離の差ではと
      ヘリでは上がれる高度が3000~4000m程度にしかならないから、いくら大型で強力なレーダーを積んでも200km先の地表しか見えないので。近年の長射程SAMならばアウトレンジされますね
      それに対して、E-2やE-3にE-767といった固定翼早期警戒機ならば高度1万m程度まで上がれるので400km先の地表まで見通せると
      その上で速度や航続距離・時間の差まで考慮すると、前進配置出来る距離や時間にも大差が出てくるから、固定翼早期警戒機よりも圧倒的に狭い範囲しかカバー出来ないと

      15
        • 匿名
        • 2021年 3月 27日

        となると、V-22に載せるしかない。

        1
          • 匿名
          • 2021年 3月 28日

          V-22は与圧キャビンじゃないから上昇限度はヘリと変わらなかったはず。勿論、上がろうと思えば上がれるけど今度は人間が持たないからね。

          3
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      F-135エンジンを使ってドルニエDo-31みたいなVTOL輸送機を開発してAEW型を作るのがいいのでは?
      無理か・・

    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    アメリカや日本なら絶対に採用されないデザインw
    英国って素晴らしい

    15
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    いずもやかが用に欲しい所

    4
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    日本もAW101ベースのAEW入れないと。

    1
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      何処で空母や艦隊を使うかにもよる
      公式に出ている日本列島太平洋側の防衛用で有れば、E-767でほとんどカバーできるかと
      さすがに南シナ海やインド洋となると無理だけれども

      6
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      日本はオスプレイベースとかにしそう。

      3
        • 匿名
        • 2021年 3月 26日

        たしかインドが空母用に早期警戒仕様のオスプレイを検討してたな

        1
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      やっぱりUS-2ベースのES-2をだな…

      6
        • 匿名
        • 2021年 3月 27日

        で、その支援の為に秋津洲を建造すると。

        3
        • A
        • 2021年 3月 27日

        沼ですね。
        素晴らしい!

      • 匿名
      • 2021年 3月 29日

      イタリアのカブールやスペインのフアン・カルロスに何より米海軍の強襲揚陸艦群等、早期警戒機を運用しない軽空母・強襲の方が多数派だから海空自も其処までしないんじゃないかな?予定でも陸上発信の早期警戒機に任せるって言ってるし本格的な実戦任務は日本近海でしかしないからね。(小笠原や硫黄島方面に回られると大変かもだが可能性低そう)まぁ、入れたとしてもいずも型での運用を見定めて強襲揚陸艦導入するときじゃない。

      • 匿名
      • 2021年 3月 29日

      イタリアのカブールやスペインのフアンカルロスに何より米海軍の強襲揚陸艦群等、早期警戒ヘリ運用して無い方が多数派だから海空自もそこまでは求め無いんじゃないか。防衛省も陸上発進の、早期警戒機に頼るって言ってるし本格的な実戦は日本から離れないだろうからね。(太平洋側に回り込まれると困るかもだけど)導入するならいずも型で運用の所見得た強襲揚陸艦じゃない。

    • 新・にわかミリオタ
    • 2021年 3月 26日

    極東派遣は本当にありがたいな
    今はできるだけ、数がほしい

    7
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    英国面溢れる見た目

    18
      • A
      • 2021年 3月 27日

      ならば紅茶用の給湯器は必須ですね。

      1
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    いずも級に対してはE767でカバーしているが
    やっぱり専用のレーダー警戒機が欲しいな
    ヘリベースでは監視範囲が狭いから
    オスプレイを元に警戒機が欲しいけど
    開発はどうなったんだろう?
    日本に導入したら使い勝手が良さそうだけど購入金額も高いし
    うるさい奴も居るし導入はしないだろうな

      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      オスプレイをAEW化しよう→大きなハッチがあるので貨物室に人がいる状態ではヘリと同じくらいの高度しか飛べないので没。
      ハッチくしたAEW専用オスプレイを作ろう→開発費用が掛かる、荷物運べないオスプレイはいらないで没。
      普通のオスプレイの貨物室に詰めるAEWオプションを作ろう→それヘリAEW大差なくないで没。

      結局現状ではヘリAEWが最適解と落ち着いた。

        • 匿名
        • 2021年 3月 26日

        貨物室に人を乗せなければよい。
        AEW専用オスプレイを作ろう→AEF専用なので荷物を運ぶことはない。

        支離滅裂ですな。

          • 匿名
          • 2021年 3月 26日

          コックピットは二人分のスペースしかないので、AEWオペーレータが乗るには貨物室を使うしかない。

          水上艦は搭載機数も運用設備も限られるので、AEWにしか使えないオスプレイはいらない子されてしまった。逆に普通のオスプレイにオプションで追加できる空中給油機キットの方は開発発注があった。

          6
            • 匿名
            • 2021年 3月 27日

            AEWユニットと共に、貨物室にオペレーター用の気密室コンテナを積むというのはどうかな。
            イスラエルのAEWの様に、レーダーが側面に積めればいいのだが。

            2
              • A
              • 2021年 3月 27日

              いい案ですね。
              検討・研究して見るのは良いことです。
              元々オスプレイは荷馬が役目なので多用途仕様は問題ないでしょう。
              もちろん機数に余裕持たせるのは必須ですね。
              案外海外輸出案件になるかも?

    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    これって実際の運用時は1機が空母の上空でホバリングするの
    それとも、E-2みたいに空母から距離をおいて、進出して監視するの?

    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    日本もこれを輸入することになるのかな。

    1
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

     せっかくイギリスが開発したんだから、いずも用に試しに1機(または2機)日本も調達してみれば?
    日本近海ならほかの人も書いてるけど、E767でカバー可能なんだけど、カバーできないタイミングや遠方に出張っていくときにはあった方がいいんじゃない?
     一から開発したら、費用がめっちゃ掛かるし、有効かどうかも未知数だからね。
    これがいいのか、ドローンがいいのか試してみるもの悪くないんじゃない?
    意外とヘリ空母(日本ではひゅうが型)には今後のマストアイテムになるかもよ?

    2
      • 匿名
      • 2021年 3月 26日

      開発費の上乗せがどんびくほどありそうだな
      あとそれやるんならE-2D完済できる母機を作った方が良いと思う。

    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    米強襲揚陸艦には、この手の装備品は載っていないみたいだから
    F-35Bを海兵隊と同じ使い方をするのつもりなら要らないのかね。>いずも型
    変に色気を出して、肝心のF-35Bの搭載数が減りましたってのもね。

    1
      • 匿名
      • 2021年 3月 27日

      アメリカの強襲揚陸艦の場合、空母のE-2C・Dが警戒してくれているので個別に持つ必要がない。
      強襲揚陸艦のみの遠征打撃群の場合は、もともと相手の航空戦力が気にする必要がないぐらい貧弱だったり、敵の航空機の殲滅後なので。

      6
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    完成してたのか!
    頓挫してF35Bのセンサーとオスプレイによる空中給油でどうにかするのかと思ってた

    1
    • 匿名
    • 2021年 3月 26日

    この手のヘリは艦隊防空の手段の一部であって
    艦載機による敵地攻撃支援の為ではない。ということ?
    であってますか?

    • 匿名
    • 2021年 3月 27日

    “センサーが敏感過ぎて”
    波を拾うぐらい精度が良いとも言えるが、単純にシークラッターの除去プログラムに失敗しただけの話だろ?

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 27日

    そのうち無人機のAEWとか出てきそうだけど、そうなったら「これもレガシー!」とか言われてお払い箱になったりして。

    • 匿名
    • 2021年 3月 30日

    >まず各種補給艦や揚陸艦などの補助艦艇は伝統的に英海軍ではなく英海軍補助艦隊(形式上、国防省が保有して海軍本部が責任を持ち民間人によって運用される船団と定義されている)に属する決まりになっているため形式上「軍艦」ではないことになっている。

    日本の話だったら、兵站齧ったつもりのニワカから『輜重輸卒も兵ならば ちょうちょとんぼも鳥のうち』とか言われそう。

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