アルメニアとイランの国境沿いに建設が予定されているザンゲズール回廊を巡ってアゼルバジャン、アルメニア、イランの3ヶ国は一触即発の状況で、全ての国が国境沿いに軍を配備し始めている。
参考:Further strain in Azerbaijan-Iran relations
参考:Azerbaycan, İran ve Ermenistan hattında gerilim artıyor!
参考:Armenian Prime Minister: we lost the 2020 war in Nagorno-Karabakh because of “fifth column” in armed forces
ザンゲズール回廊に反対するイランが国境地域で軍事的緊張を煽り、これに対応するためアゼルバジャンもアルメニアも軍を動かす
ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦協定にはアルメニアとナゴルノ・カラバフを結ぶ「ラチンを経由しない新ルートの建設と提供」が盛り込まれており、この新しい回廊には検問が設置されないためアルメニアとナゴルノ・カラバフ間の自由な往来が保障されているのだが、この停戦協定にはザンゲズール回廊の設置も盛り込まれている。
ザンゲズール回廊とはアゼルバイジャン本領と飛び地のナヒチェヴァン自治共和国を結ぶ道路や鉄道のことを指しており、この回廊も検問が設置されないためアゼルバイジャンとトルコはナヒチェヴァン経由で自由に往来が可能になる上、国境に沿って回廊が設置されるとアルメニアとイランの交通が分断される=恐らく回廊の管理権限がアゼルバイジャンに与えられるため「ザンゲズール回廊の設置はアルメニア国境の変更だ」とイランは主張。
イランの最高指導者ハメネイ師も「ザンゲズール回廊が設置されると非友好国のトルコとアゼルバイジャンに囲まれる」と難色を示し、アルメニアは停戦協定で義務付けられた回廊設置を半ば放棄、停戦協定の履行を保証したロシアも何の措置も講じないため「自力でナヒチェヴァン自治共和国までの道を確保する」とアゼルバイジャンは公言していたが、両国は「領土の相互承認」が含まれる和平条約の締結に向けて動きだしたためザンゲズール回廊の設置が現実味を帯びてきた。
この動きを阻止するためイランはアゼルバジャンとの国境地域で軍事的緊張を高めており、昨年10月にはアゼルバジャンとの国境から数mしか離れていないアラス川周辺で大規模な軍事演習を実施、両国の国境として機能するアラス川の渡河訓練は「アゼルバイジャン領への侵攻=アルメニア国境の変更を強行するなら武力を行使してでも阻止する」という意味なので、アゼルバイジャン側も「アルメニアとの国境策定交渉に何の権利があってイランが干渉するのか?今回の演習は我々に対する力の誇示=事実上の脅しなので容認できない。演習がやりたければインド洋沿岸やキーシュ島でやれ」と鋭く反発。
さらにイランはザンゲズール回廊の建設が予定されているアルメニアのシュニク地方に総領事館を開設、総領事に任命されたバラミン氏は「アルメニア国境の変更は絶対に容認できない。アルメニアの安定のために我々はここにやって来た」と述べ、イラン議会のサファイ議員もIRNAに対して「シオニスト(ユダヤ民族主義者)は南コーカサスや中央アジアにおけるイランの影響力を弱体化させようとしている。特にアルメニアの国境変更はイランの国益に反するので絶対に容認しない。今回の演習は我々の利益を損なおうとする行為に大きな犠牲が伴うことを伝えるために実施した」と言及。
پیام ما برای علی اف و حامیانش واضح است؛
ما روزی خواهیم آمد… pic.twitter.com/R4w4BdGDLK
— رضا عباسی | Reza Abbasi (@RezaAbbasi23) March 21, 2023
今年1月にはテヘランのアゼルバジャン大使館で銃撃事件(1名が死亡/2名が負傷)が発生、アリエフ大統領は「大使館を襲撃した実行犯や襲撃を指示した者が裁判にかけられない限り両国の関係正常はない」と語っていたが、イランは国境上空で軍用機による強行偵察、ナヒチェヴァン自治共和国を含む全ての国境検問所を閉鎖、イスラム革命防衛隊に近いメディアがアゼルバイジャンの標的に向かうShahid-136の動画を公開してアゼルバジャンを挑発。
これに対応するためアゼルバジャンはイランとの国境近くに軍を配備し始めており、無関係ではいられないアルメニアもアゼルバジャンとの国境に軍を配備し、イラン、アゼルバジャン、アルメニアの3ヶ国は一触即発の状況だと言われている。
一方でロシアのプーチン大統領は「アゼルバイジャンやイランが南北輸送回廊の建設加速に同意した」と明かしており、モスクワ~アゼルバイジャン~イラン~インドを繋ぐ全長7,200kmの複合輸送網(道路、鉄道、船舶)の実現に力を入れているが、現在のアゼルバジャンとイランの関係を考えると南北輸送回廊が実現するとは到底思えない。
管理人には何をどうすれば状況を打破できるのかさっぱり思いつかない
アルメニアのパシニャン首相は14日「2020年の戦争でアゼルバイジャンに負けたのは我々の軍隊に第五列がいたからだ」と述べて注目を集めている。
パシニャン首相は「多くの事実を分析してそう確信した。この事実が近い将来公開されれば私の発言が正しいと証明されるだろう。真実は我々自身を傷つけるかもしれないが目をそらす方が遥かに有害だ」と述べており、50人以上の陸軍将校などがスパイ行為や反逆罪で告発されているらしい。
但し、パシニャン首相はナゴルノ・カラバフの状況を打開するため「アゼルバイジャンとの再戦」を望んでおらず、アルメニアの安全を保証するためアゼルバイジャンとの和平交渉(戦争に負けたもののアゼルバイジャンの要求を丸呑みすることは拒否するとも言及)や周辺国との関係改善が必要だと主張しており、ロシアが主導する集団安全保障条約機構(CSTO)が機能しないことも分かっていると述べている。
アルメニアは2022年9月に勃発した軍事衝突で領土の一部をアゼルバイジャンに不法占拠(両国は互いの領土を承認していないため国境が策定されていない)されており、ロシアはウクライナ侵攻に手一杯、他の加盟国も同問題に関わるのに消極的だったためCSTOは問題解決に動かず、アルメニアは安全保障の後ろ盾をロシアから米国に変更する動きを見せている。
エレバンを訪問したペロシ米下院議長は「アルメニアの領土保全、主権、民主主義は我々にとって価値のあるものだ」と述べ、この訪問に随行したパローン議員も「アルメニアの安全保障がロシアとの取り決めの一部であることは承知しているが、米国はアルメニアの安全保障を非常に懸念している。我々に出来ることは何でもしたい」と主張しているが、アゼルバイジャンとの紛争を法的に解決しないかぎり米国と安全保障に関する協議を行うことは出来ない。
アゼルバイジャンとの紛争を法的に解決するには和平条約を締結する必要があり、そうなるとザンゲズール回廊の建設問題でイランと衝突することになり、南コーカサスで影響力を維持したいロシアもアルメニアが米国に乗り換えることを容認するはずがなく、そもそも国民が領土の相互承認が含まれるアゼルバイジャンとの和平条約(ナゴルノ・カラバフがアゼル領の一部であることを承認するという意味)締結に反対してるため、八方塞がりの状態だ。
アゼルバイジャンとの和平条約締結を進めればザンゲズール回廊の建設を巡ってイランとアゼルバイジャンの戦争に巻き込まれる可能性が高く、和平条約を締結しなければ軍事的に優位なアゼルバイジャンの脅威に晒され続け、ザンゲズール回廊の実現のためアゼルバイジャンが武力に訴えてくる可能性があり、安全保障の後ろ盾を役に立たないCSTOから米国に乗り換えるためにはアゼルバイジャンとの和平条約を締結する必要がある。
管理人には何をどうすれば状況を打破できるのかさっぱり思いつかない。
関連記事:アルメニア国境の変更を認めないイラン、アゼルバイジャンの背後にイスラエルの影?
関連記事:イランがアゼルバイジャンとの国境で大規模な軍事演習、焦点はザンゲズール回廊
関連記事:アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフがアゼル領だと認める協定に署名か
関連記事:アルメニア、ナゴルノ・カラバフをアゼル領と認め和平条約に署名する方針
※アイキャッチ画像の出典:Tasnim News Agency/CC BY 4.0
ウクライナから一気に南コーカサスに話題が飛ぶ、この振りは幅に頭がついていかん。
さじを投げちゃいましたね。
アルメニアが負けたのはドローン等の新型兵器に対応できなかったからだと思っていましたが。第五列は関係あるのかな。
そうでも言わないと、パシニャンが国内を掌握して和平合意を実施できないからじゃないすか。知らんけど。
イラン側の対応は徒にテンション煽るだけで軍事的な対応で封じ込め可能に見えます。
問題はアルメニアに負けを認めさせる条約を結ぶことですが、客観的に他国に負けを認めさせろと指摘してるのが少々酷い内容だと思ってます…
>今年1月にはテヘランのアゼルバジャン大使館で銃撃事件
え、そんなこと起きてたの?めっさまずいじゃん。改めて考えると、この問題もあるからイランはロシアに肩入れしているのかも。
しかしまあ状況が複雑すぎる。
アゼルバイジャンの後ろにはトルコがいて、NATOの一員ながらウクライナとロシアの仲介を実施しつつEUを牽制、アルメニアはアメリカとEUに接近、アゼルバイジャン•アルメニアに対してロシアの影響力は減少中。イランは中国の仲介でサウジアラビアと関係改善し、EUにも関係改善希望の談話を発表、イスラエルはEUともアメリカとも関係悪化。じゃあトルコとイスラエルの仲は?
イランとアゼルバイジャンの紛争が勃発したら、イランはロシアに兵器を送る余裕が流石に無くなるでしょうから、ウクライナ侵攻だけを考えれば悪い話じゃないが、それはそれで問題だしなあ。
露はks国家だけどアレはアレで一応、重しの役割を担っていたんだよなぁ・・・
ウクライナで忙しいため、ロシアの重しが取れると色々出てくるね。
そして、アメリカもウクライナや台湾に注力したら、中近東や中南米で色々ありそう。
もし、中国が台湾に侵攻したら、東南アジアでも中国やアメリカの重しが取れて、えらいことになりそう。
軍事強国って世界平和にとっては、必要悪なのかも知れませんね。
ご指摘の通り、地域覇権国は必要だと思います。
ただ、紛争は予期できないレベルで政策担当者レベルでは突然起こるのが嫌なとこです。。。
パワーバランスの崩れや、力の空白が地域情勢を不安にさせる一因ですからね。
ろくな軍事力の無い国や、まともな政府を持たない国や地域が平和なのかというと、そうでもないという。
1.商取引だけして基本好きにさせる
2.諸部族を抑えつけられる強大な帝国が出来るのを待つ
3.イギリスに責任をとらせる
思いつくのがこれくらい
このへんは、イギリスが際立って悪いわけじゃないので•••。200年位のスケールならロシア帝国やオスマントルコだって原因の一つになりますし、さらに遡ればティムールとかイスラム帝国といった国も出て来るはず。確かシーア派の帝国もあったような。
要はそういった巨大帝国が現れては分裂するを繰り返している土地なんで、外野ができるのは、
1.商取引だけして基本好きにさせる
何じゃないでしょうか
ロシアの周辺諸国に対する影響力の低下が一因でしょうね
ひとたび大国による戦争が起きれば影響はその紛争にとどまらないと言う事ですね
アルメニアに肩入れする利が米国にない、で尽きてしまう。
アゼルバイジャンはカスピ海沿岸、
イランがサウジアラビアとの関係改善、それによるイランに対する米国警戒増。
そのカウンターパートとしてアゼルバイジャンの存在感が増す。
となれば、アルメニアよりもアゼルバイジャンとなってしまう
人権問題といったイデオロギーだけでは理由としては弱すぎる
確かアメリカでアルメニア人コミュニティが結構大きいんじゃなかったでしたっけ。それこそユダヤ人コミュニティの次くらいに。
だからアルメニア人虐殺の非難決議とかで、アメリカとトルコが定期的に対立してたはず。
アルメニア派の議員が居るだけで、アメリカ政府としてはイランの重要な味方のアルメニアを利する理由0だからなぁ
ましてやアルメニアのロシア回廊なんて、容認すら出来ないレベルでしょ
ソ連崩壊で誕生したコーカサス三国をロシアが再び呑み込んで平定、一つの国に成れば良いんじゃないかな(適当
そのロシアが飲み込める力をウクライナなで浪費したから困ってるのよ。
まだロシア軍神話があった時は落ち着いていた。崩壊した今となってはもう無理よ
サウジと関係改善して、やっとイエメン紛争が落ち着くのかなと思ってたら、もう次を始めるのか。忙しい連中だな。
とはいえ、ロシアの次は自分たちの番かもという懸念もありそう。
あと、ペロシはまた煽りに行ってるのか。
平和の使者のように振る舞ってるけど、火薬の匂いを嗅ぎつけているだけじゃねぇのか。
逆に、これがあるからサウジと手打ちしたとも考えられるのでは。2正面作戦はキツイですから。
それもあるのでしょうね。
それにサウジ側もUAEとの関係がぎくしゃくしてきていただろうし、
関係修復の機会を伺ってたのかもしれませんね。
サウジとイランの関係は、宗派対立が根っこにあるだろうから、
傍から見れば、関係修復できるのかわからないけど。
東西が冷戦ムードというタイミングで、中東が団結ムードになるのは、
なんだかんだ言っても、オイルマネーでつながった共存共栄の関係は固いとみるべきか。
その和平の機会を、中東にとって最重要顧客の中国に花を持たせたと考えれば、
アラブ人もなかなか隅に置けないですが。
長々語りましたが、自分でも何が言いたいのかわからなくなりました。。いじょ。
ロシア・イランの交易ルートは、アゼルバイジャンルートの他に船舶を用いたカスピ海ルート、カザフ・トルクメニスタンを経由する鉄道・道路を用いたカスピ海東岸ルート、大回りになるけどスエズ運河ルートとあるので代替は何とかなりそうだ。
イランとアゼルが交戦状態になると、イランの対露軍事交易が減少しウクライナは楽になるかもしれないが、イランのドローン攻撃でバクーの原油ガス施設やパイプラインが破壊され、世界(特に欧州)の原油ガス不足が一層深刻になってしまいそうで恐ろしい。
・ザンゲール回廊割譲を始めとする国境確定など公式な和平条約の締結をアルメニアとアゼルバイジャンで締結
・(アルメニアの黙認下で)即イランがザンゲール回廊に侵攻占拠
これでこの地域は(戦争一歩手前で)安定する
アルメニアはザンゲール回廊をアゼルに割譲する事で紛争地域を抱えない状況になるのでフリーハンドを手にする
また、イランを和平を邪魔する敵国扱いにする事でアゼルバイジャンとの和平条約締結の敷居を下げる国内説得力を持たせる事が可能
イランはトルコとアゼルの接続を阻止出来るし、ロシアに恩を売ってるので将来的な支援も期待出来る
アゼルはイランに太刀打ち出来ない
トルコは元々イランは敵対国
イランの国力・軍事力を弱めたい側からすればアセルバイジャンとの開戦を望みたいですね。
イラン国内のアセルバイジャン人が蜂起するような環境下に置かれているのであれば混乱を増しロシアの介入もなく長期化するのですが。
あーもー
あっちもこっちもめちゃくちゃだよ
本格的に大戦前夜感出て来たよ
改めて考えるとイスラム共和制のイランが同じイスラム教国のアゼルバイジャンやトルコを差し置いてキリスト教国のアルメニアを守護しようとしているのは面白いですよね。隣人を憎んで遠くの友を頼るというのが外交の基本といえばそうですが。
個人的に気になるのはイランの動向です。ご存知の通りイラン国内では昨年から女性や若者を中心とした政府への抗議行動が続いており、先般成立したサウジアラビアとの和解もこういった国内情勢の悪化を受けての事と見る向きもあります(イランの脱孤立化は20年以上前から少しずつ進んでいた話ではあったのですが)。イランは一概に独裁国家とは言えない体制ですが、強権的・父権的なイスラム指導部や好戦的な軍部の体制は否定しようがありませんし、そういう意味で国内の問題とバランスを取るために外交的には融和方向に動くと思っていただけに、コーカサス情勢への強気な態度は腑に落ちないですね。まぁロシアがああなっている今ここでアルメニアを助けないとアメリカが出てくるし、来年の米選挙で共和党が復権すれば対イラン強硬派の政策が再び盛り込まれてくるのは自明でもありますから、それなら自分が今から参加するほうがマシと考えているのかもしれませんね。
あるいはアゼルバイジャンとの小規模な衝突で勝利できると踏んでいて、国内の諸問題を勝利で洗い流してしまおうという考えを革命防衛隊あたりが考えているのかもしれませんが、それは考えたくないシナリオですね。
先般、サウジアラビアとイランが手打ちしたじゃないですか。繋がってそうですね。このタイミングですんなり和睦が成立したというのも。
後背地の安全を確認したうえで、イランはアゼルバイジャンとの開戦に踏み切るかもしれません。
イランの国内にいろいろ女性問題やら戒律問題なんやらで不満が溜まっていて、ガス抜きするには外に敵を作って逃がすというのは、言わずと知れた政治家の常套手段ですしね。
はっきり言ってこの問題でアルメニアはまるで支持出来ないからさっさと武力で奪った領土をアゼルバイジャンに返せ
虐殺の危険とか言われても先に殺して植民したの自分らなんだから自業自得