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トルコ大統領、F-16V売却は米国側からの提案でF-35プログラム追放に対する補償

どうやらトルコが米国に要請しているF-16Vの売却はバイデン政権からの提案で、エルドアン大統領はF-35プログラム追放に対する補償だと明かした。

参考:US proposed to sell it F-16 fighters

F-35プログラムへのトルコ投資分14億ドルを補償するため「米国側がF-16の一括売却を提案した」と明かすエルドアン大統領

トルコはF-35プログラム出資国(レベル3)でF-35Aを100機調達することを表明して2012年1月にひとまず2機を発注、2018年に完成したトルコ空軍向けのF-35A(ブロック3F構成)はルーク空軍基地に配備されトルコ人人パイロットの訓練機として使用を始めた直後、ロシア製防空システム「S-400」の問題が浮上して米国がトルコをF-35プログラムから追放してしまう。

問題はトルコがF-35プログラムに出資した資金やトルコに所有権があるF-35A×2機の行方で、エルドアン大統領は「代金を支払い済みだったF-35Aを引き渡すかF-35プログラムに投資した約14億ドル/約1,600億円を返還しろ」と米国に要求している。

出典:U.S. Air Force photo by J.M. Eddins Jr.

支払い済みだったF-35Aを引き渡せというのは「F-35プログラムへのトルコ復帰」を意味しており、F-35プログラムに投資した「約14億ドル/約1,600億円の返還」とはルーク空軍基地に保管されていたF-35A×2機の代金+新たに発注していたF-35A×4機分の代金+F-35プログラムへの出資金の合計額を指しているものと思われるのだが、米議会は昨年の段階で2021年度の国防権限法に「トルコ向けのF-35Aを米空軍が使用することを認める」と盛り込んでいたためF-35プログラムへのトルコ復帰は絶望的だ。

関連記事:トルコ反発は必至、米議会がトルコ発注分F-35Aの米空軍使用を承認

トルコ側もすでにF-35プログラムへの復帰を望んでおらず、この問題の焦点は「トルコの要求する補償にどのように対応するか」で単純に14億ドルを返還すれば問題が全て片付くという簡単な話ではない。

恐らくエルドアン大統領は米国が支払い済みの14億ドル返還に応じれば今度はF-35部品製造に関する補償問題を持ち出してくるのは火を見るよりも明らかで、米国は単純に14億ドルをトルコに返還するのではなくF-35プログラム追放問題に関わる諸問題を包括的に解決する提案が必要で、ここでアプローチを間違えればトルコとの関係が更に悪化して米国のコントロール下から外れる=ロシア製装備品購入に拍車がかかり安全保障問題でトルコが制御不能になってしまう。

出典:スホーイ設計局

エルドアン大統領もロシア接近を再三演出して二国間の防衛産業協力やロシア戦闘機購入を匂わせるなど米国側に圧力を加えており、この過程で登場したのがトルコのF-16V売却要請(F-16V×40機+既存機をV仕様位へアップグレードするための改修キッド×80機分)だ。

これはトルコ側が米国にFMS(対外有償軍事援助)経由で申し込んでいるのだが、エルドアン大統領は17日「F-35プログラムへのトルコ投資分14億ドルを補償するため米国側がF-16の一括売却を提案した」と明かして注目を集めており、これが事実ならバイデン政権はF-35プログラム追放問題に関わる諸問題をF-16V売却許可で相殺することを狙っているのだろう。

トルコのF-16V売却要請は約60億ドルの価値があると言われており、トルコがF-35プログラムに投資した14億ドル分は60億ドルから引かれる形で相殺されるため値引き販売されるという意味ではない。

恐らく米国は計160機分のF-16Vを現地で製造・改修することを認めることで「F-35部品製造をトルコ企業から取り上げる補償」として提案、これに納得したトルコ側がFMS経由でF-16Vの売却を要請した可能性が高く、海外メディアも「米国とトルコのS-400問題は一段落するのではないか?=今月末にイタリアで開催されるG20で会談が予定されているバイデン大統領とエルドアン大統領が何らかの声明を発表するかもしれない」と予想している。

出典:ロッキード・マーティン

米国にとってもF-35プログラムからトルコを追い出したのは明確な法的根拠(S-400とF-35Aの同時運用はできないという話はF-35プログラムに参加するための当初条件に明記されおらず後付の主張)がなく、黒海と地中海を結ぶ「ボスポラス海峡」や戦術核兵器B61を約50個保管してある「インジルリク空軍基地」が存在するトルコは米国の安全保障政策にとって切り離せない重要な国なので、これ以上の関係悪化は望んでいない。

ただF-35プログラム追放という制裁と対ロシア制裁(敵対者に対する制裁措置法/CAATSA)は別なので、果たしてS-400導入に関連したCAATSAに基づく制裁も緩和されるのかは謎だ。

しかしイタリアでバイデン大統領がトルコに対する2つの制裁に何らかの答えを出せば、懸案だったインドのS-400導入に対する制裁(CAATSAに基づくもの)にも話し合いの余地が生まれる。

出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0

ロシアも中国もCAATSAのジレンマでバイデン政権が苦しむ方が都合が良く、東地中海問題でトルコと軍事的に対立するギリシャも両国が和解してしまうことを望んでいないかもしれないが、日本にとってはインドのS-400導入(12月末に到着予定なのでタイミング的にはギリギリ)で米国が制裁を発動すればクアッドにヒビが入りかねないので管理人的にはトルコのS-400問題=CAATSA制裁が緩和されることを願っている。

関連記事:東地中海問題に新たな動き、トルコが米国にF-16×40機と近代改修キット80機分の売却を要請
関連記事:バイデン政権はトルコへのF-16V売却を容認か、但し米議会が取引を承認するかは別問題
関連記事:ロシアがバイデン政権に突きつける究極の2択、S-400導入開始が迫るインドへの制裁問題

 

※アイキャッチ画像の出典:SAC Helen Farrer RAF Mobile News Team / OGL v1.0

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コメント

    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    ロシアとトルコの関係は打算的な友情とでも言うべき類のものなんだろうけど、それでも指導者二人はお互いにお互いの支持を必要としているので、米議会が兵器プログラムをどうこうしたくらいで以前の欧州の中のトルコに戻ることはあり得ないよなぁ。
    シリア内戦絡みでは直接戦火を交え露戦闘機まで撃墜していたり、ナゴルノ・カラバフでは代理戦争に近い状態で対立してるにも関わらず相互に訪問して経済協力やワクチン供与、パイプライン建設まで進めるカオスな均衡状態の下では、トルコもF-35のような最先端機材よりも気軽に実戦に投入できる戦力を欲しているのでは。

    13
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    日本の文化や感覚から言えば不義理で節操がないと感じるけど、あっちの方の国家同士の交渉なんて欲しいものを手に入れるためなら何でも利用するのが当然という感覚なんだろうね。

    どっちが正しいかなんて国や立場が違えば異なるから論じるだけ無駄だと思うけど、トルコのしたたかさとしぶとさは日本の外交にはないね。

    いちおう言っとくと、日本の外交にトルコのしたたかさとしぶとさがないのが駄目と言ってるんじゃないから。

    24
      • 匿名
      • 2021年 10月 18日

      日本の常識から外れると直ぐレッドチーム入りだと騒ぐ人達には理解不能

      9
        • 匿名
        • 2021年 10月 18日

        赤でも青でもいいけどラブコールが片想いの肉まんくんに届かないのは悲しいね。

        4
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    懐柔策とはいえ、米国が160機分相当のF-16Vかアップグレードキットをトルコに提供すれば、
    米国は今度はギリシアとの間に大きな利益相反を生じさせるのは必定だろう….
    と思っていたら、先週末に米国はギリシアと首都ワシントンで新たな防衛協定を結んでいた。
    ギリシアが(トルコによる)脅威に晒されたら、いつでも米軍がギリシア防衛に馳せ参じますよ、
    という話らしい。さすがは米国である(棒
    リンク

    19
      • 匿名
      • 2021年 10月 18日

      ギリシャにはF-35でしょう
      販売許可そのものは、正式に許可がでたわけではないにせよ可能だし
      納期の問題でラファールが導入されたけれど、F-35の取得を目指すとギリシャは言っていたはず

      6
        • 匿名
        • 2021年 10月 18日

        国力の問題からトルコほど数揃えられないだろうしF-35で質を高めるのがギリシャの選択になりそうだね

        6
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    TF-X用エンジン選定との絡みもありそうで複雑微妙な駆引きの感じ。

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    CAATSAとかいうアメリカ国内の法律で自由に制裁出来るという
    悪法を作ったはいいが、逆にがんじがらめになったのが全ての原因やろ

    24
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    愛情は冷めきってるけど離婚はできない夫婦みたいになってるな

    10
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    ぶっちゃけトルコがロシアと接近したらしたで今のアメリカとの関係以上に摩擦がありそうだけどな
    EUが肩入れするギリシャとの対立もあるし最悪トルコは孤立しかねないはずなのにアメリカが足元を見られてる

    5
      • 匿名
      • 2021年 10月 18日

      そりゃトルコが難民問題というEUへの大規模ダメージリソースを抱えている以上、下手にトルコに西側を見限らせるようなことをしたらEU、ひいてはヨーロッパ圏におけるアメリカ同盟国にでかい爆弾落とされかねないからな

      ただでさえ対中で面倒なことになっているのに、その上EUを弱体化させられるようなことになればアメリカ(西側)がパンクしかねず、東西のバランスが一気に崩れかねない

      15
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    この外交取引をバラしちゃうのって
    トルコとしての国益を考えてたらマイナスだらけなのに、
    エルドアン個人の利益を優先したって事なんだろうな

    これ対アメリカだけじゃなくて、どの国からもトルコとはまともな外交できないって判断されるやつでは

    7
    • 匿名
    • 2021年 10月 18日

    >ここでアプローチを間違えればトルコとの関係が更に悪化して米国のコントロール下から外れる=ロシア製装備品購入に拍車がかかり安全保障問題でトルコが制御不能になってしまう。

    1
    • 匿名
    • 2021年 10月 19日

    >ここでアプローチを間違えればトルコとの関係が更に悪化して米国のコントロール下から外れる=ロシア製装備品購入に拍車がかかり安全保障問題でトルコが制御不能になってしまう。

    日本のようにお行儀のよい同盟国はそうそういないのだから、ちゃんと大事にするんだよ。>米国

    (上コメントは誤爆)

    4
    • 匿名
    • 2021年 10月 19日

    そろそろ、暗殺されるかな?

    • 匿名
    • 2021年 10月 19日

    F-16VなのかF-21なのか、海外サイトだとF-16 block72じゃないとヒットしないし
    名前がややこしい

    7
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