欧州関連

英国、AS90提供のギャップを埋めるため暫定的にArcherを取得か

英国のスナク首相は「ウクライナに提供した装備・弾薬の埋戻しに19億ポンドを投資する」と発表、これを受けて「AS90提供のギャップを埋めるため暫定的にBAEのArcherを6輌~8輌調達する」と報じられている。

参考:UK set to acquire Archer for interim artillery requirement

次期自走砲にArcherと同じ装輪式を提案する仏Nexterや独KMWはハラハラすることになるだろう

英陸軍のAS90は39口径155mm榴弾砲を採用しているため、52口径を採用する西側諸国の自走砲(PzH.2000、K9、Archer、Caesar)やロシアの自走砲(Musta、Koalitsiya-SV、А-222)と比べて通常弾の射程距離が短く、52口径155mm榴弾砲への換装計画「AS90 Braveheart」も被弾した際の誘爆を防ぐ要求要件が満たせず、防衛計画の見直しで「AS90退役」と「次期自走砲の調達計画」が発表された。

出典:Ibaril/CC BY-SA 3.0、KMW、©Marie-LanNguyen/CC-BY 2.5、Republic of Korea Armed Forces/CC BY-SA 2.0

まだ次期自走砲に対する要求要件が決まっていないので調達計画は動き出していないものの、米ディフェンスメディアは情報筋から得た情報を基づき「英国の次期自走砲の入札に関心を示す企業は最低でも4回の情報提供要請に応じた」と報じており、英BAEのArcher、仏NexterのCaesar、独KMWのRCH155、韓HanwhaのK9A2が入札に応じる可能性が高いと予想(契約は2025年~2026年に締結され、引き渡し開始は2028年頃らしい)している。

しかし英国はウクライナにAS90提供したため陸軍の自走砲戦力にギャップが発生、英国のスナク首相は12日「ロシアと中国の脅威に立ち向かうため国防予算を2年間で50億ポンド増やし、内19億ポンドをウクライナに提供した装備・弾薬の埋戻しに投資する」と発表していたが、防衛市場の動向を報じるShephardも「まもなく暫定的な自走砲として6輌~8輌のArcher取得に関する英国とスウェーデンの政府間協定が発表される」と報じているのが興味深い。

出典:Richard Watt / OGL v1.0

Shephardは「Archer調達の目的は次期自走砲を導入するまでのつなぎ=暫定的な能力の獲得だ」と、BAEの担当者も「英国防省の情報提供要請に応じてArcherの能力を説明したが、次期自走砲に関するセレクションについては英国防省の決定を待っている」と述べており、緊急要件としてArcherを導入しても「次期自走砲の選定自体をキャンセルすることはない」という意味だ。

ただArcherを本当に導入するなら「次期自走砲の方針に何らかの影響を及ぼす」と考えるのが妥当で、特にArcherと同じ装輪式を提案する仏Nexterや独KMWはハラハラすることになるだろう。

関連記事:英陸軍の次期自走砲、英Archer、仏Caesar、独RCH155、韓K9A2が競合か
関連記事:ロッキード・マーティン、英陸軍にK9A2提案するTeam Thunder参加を決定

 

※アイキャッチ画像の出典:Ibaril / CC BY-SA 3.0

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コメント

    • samo
    • 2023年 3月 14日

    イギリスは今後、さらにスウェーデンとの関係強化を重視するでしょうね。
    オーレスン・リンクの重要度を考えれば当たり前だけれど。
    オーレスン・リンクの継続的な連絡と使用が平時でも有事でも重要だし、その使用の了解がスウェーデンに委ねなれることになるのだから。
    フェーマルンベルトトンネルの完成すれば、なおさらオーレスン・リンクがボトルネックになる可能性がある。

    1
    • 自走砲の未来
    • 2023年 3月 14日

    射撃から退避→陣地変換が素早い装輪式自走砲が、今後増えていくかもしれません。
    半自動でも完全自動でも省力化されてる面では一緒ですし。
    もちろん装軌式を否定するわけではないですが、無人機の脅威があり、それへの対策を施すとコストが上がってしまい数を揃えにくくなると思います。

    7
    • あばばばば
    • 2023年 3月 14日

    もうコンペなしで本決定でよくなーい

    • ブルーピーコック
    • 2023年 3月 14日

    車体をボルボから19式と同じHX2にしたのを試作してたから、それを採用したらええんでないの。イギリスはHXシリーズの最大カスタマーだったはずだし。重量的にグローブマスターでしか空輸できそうにないけど。

    5
    • nachteule
    • 2023年 3月 16日

     流石に130mmのА-222ベルグに射程で負ける物なんだろうか。130mmにRAP弾は無いし各国155mm39口径の通常弾射程は大体23km前後で同等以上だと思うんだが、M109で39口径21kmとのデータもあるけどそれなら1~2km負ける感じではある。

     将来導入計画への影響とかそこまで深読みが必要なのかな?アーチャーが選ばれたのは実績にある兵器で即応出来る物がそれしか無かった位の考えでも良いのではないか。新しいカテゴリの兵器を早々に運用して知見を得たいとか有るんじゃないかな。ハリアー運用していてもF-35B導入後に新しい運用方法とか考案されてるんだし実際に使う事でしか分からない事もある。
     この場合だとまず装軌か装輪を選ぶ判断材料になると思うから装輪の可能性が開ける考えだって出来る訳だし、そこまでNexterやKMWがハラハラするだろうか。

     実際にウクライナやポーランドみたいに最短スケジュールでの戦力増強のために効率的な選択をしているかと言えばそうでも無い訳で選択理由は意外と単純だったとかあり得そうだけど。

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