欧州関連

ウクライナ軍、BM-30で使用する射程100km以上のVilkha-Mを実戦投入

ウクライナ防衛産業協会のイワン・ヴィンニク会長は「2022年5月にVilkha-Mが初めて戦闘で使用された」と明かし、HIMARSが届かないロシア軍占領地域での爆発は射程100km以上のVilkha-Mによる攻撃だった可能性が浮上した。

参考:Ukraine Is Using Guided Rockets With More Range Than HIMARS-Launched Ones

射程を150kmまで延長した改良型の開発作業も進行中で「アゾフ海方面の反攻作戦に間に合えば良いのだが、、、」と付け加えている

ウクライナではHIMARSのGMLRS弾が届かないロシア軍占領地域(クリミアやアゾフ海沿いの都市や拠点)で爆発が起こることがあり、最近ではウクライナ支配地域から80km以上離れたマリウポリが何らかの方法で攻撃を受け、GLSDB(地上発射型小口径爆弾)やER-GMLRS弾(GMLRS弾の射程延長バージョン)が使用されたのではないかという噂もある。

しかしGLSDBは新規に製造する必要があり、Bloombergは業界関係者の話を引用して「最初の納品は契約締結から約9ヶ月後になる=初回出荷は10月頃」と報じているためGLSDBが使用された可能性は低く、ER-GMLRS弾(テスト段階)に至ってウクライナ提供を発表しておらず、どのような攻撃手段でマリウポリを攻撃したのか謎だったが、ワシントンのナショナルプレス・クラブで開催された会議でウクライナ防衛産業協会のイワン・ヴィンニク会長は「Vilkha-Mが実戦に投入されている」と明かし注目を集めている。

ウクライナが開発した「Vilkha(ヴィルカ/弾頭重量250kg/最大射程70km)」は旧ソ連製の多連装ロケットシステム「BM-30」で使用するロケット弾で、GPS以外の誘導方式(詳細不明)を採用しているため妨害下でも安定した命中精度を誇り、弾頭重量を減らして射程を130kmまで延長した「Vilkha-M(弾頭重量170kg)」の量産を開始した矢先にウクライナ侵攻が勃発したため戦力化がどこまで進んでいたのか不明だった。

しかしUS-Ukraine Security Dialogue XVに出席したヴィンニク会長は「2022年5月にVilkha-Mが初めて戦闘で使用され、これまでに約100発が生産された」と述べ、射程を150kmまで延長した改良型の開発作業も進行中で「アゾフ海方面の反攻作戦に間に合えば良いのだが、、、」と付け加えているのが興味深い。

ヴィンニク会長はマリウポリへの攻撃とVilkha-Mの関連について言及を避けたが、HIMARSのGMLRS弾が届かないロシア軍占領地域での爆発はVilkha-Mによる攻撃(数が少ないので多用は出来ない)だった可能性が高く、弾頭重量が大きいので重量物の破壊に向いている=反攻作戦がアゾフ海に到達すればクリミア大橋の直接破壊も狙えるという意味だ。

出典:VoidWanderer / CC BY-SA 4.0

因みにヴィンニク会長は射程を延長した改良型について「事前テストは行わず実戦で試す」と述べているが、Vilkhaの発展型には最大射程200kmのVilkha-M2(開発中なのか構想だけなのかは不明)も存在する

関連記事:ロシア空軍基地の爆発は事故、NYT紙はウクライナ軍による攻撃だと主張
関連記事:米国、150km先を攻撃可能な長距離攻撃兵器を含むウクライナ支援を発表

 

※アイキャッチ画像の出典:armyinform.com.ua/CC BY 4.0

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コメント

    • hiroさん
    • 2023年 3月 02日

    ウクライナの自主開発兵器なら、ロシア領内(自称ロシア領を含む)を攻撃してもNATOも文句を言えないですよね?

    39
      • 月虹
      • 2023年 3月 03日

      ウクライナが昨年にロシアにある複数の空軍基地をTu-141やTu-143といった無人偵察機で攻撃したと思われた事件でのアメリカの対応。

      ブリンケン国務長官
      「われわれは、ウクライナに対しロシア領内への攻撃を促していないし、できるようにもしていない」と述べ、アメリカによるウクライナへの軍事支援はあくまでも自衛のためだと主張するとともに、これ以上の紛争の激化は避けたいという立場を強調

      オースティン国防長官
      「われわれは、ウクライナが自国の能力を高めることを妨げることはしない」と述べ、ウクライナが射程の長い攻撃兵器を独自に保有することについては黙認する姿勢を示した

      アメリカやNATOとして表向きは自衛戦争であるのでロシア領内へ攻撃してロシアの感情をこれ以上悪化させて欲しくない。ただし戦争に勝つためにウクライナが自国の戦力を強化してその結果、越境攻撃できる長距離兵器を所有すること自体は否定しない(NATOが供与した兵器ではないのでNATOが直接ロシア領内を攻撃したことにはならない)といった本音があるのでしょう。

      23
    • mun
    • 2023年 3月 02日

    わざわざこの情報を明かすメリットはあるのでしょうか
    長射程の武器はないと思わせておいて
    いきなり実戦で予想外の大打撃を与えればいいと思うのですが

    1
      • けい2020
      • 2023年 3月 02日

      どうやっても現状大量に使えないから、狙われてるぞって警戒させてロシア軍を混乱させるほうがメリットあるんじゃないかな

      48
      • NHG
      • 2023年 3月 02日

      「NATOの兵器使ってないから被害妄想こじらせて核使わないで」っていうメッセージも含まれてそう
      あと長射程兵器の存在を公表したことで相手に対処(逆探知され破壊される)なんてことなさそうだし、後方に防空システムが移動して前線がおろそかになるなら、どう転んでも損はしないからの公表ではないだろうか

      41
    • 折口
    • 2023年 3月 02日

    首元についてる多孔は自己鍛造弾セルですかね。妨害に強い誘導方式って何だろう、サイズ的に機械式のジャイロ装置を突っ込めないこともないのかな…?。

    ハルキウ州解放時のM270もそうでしたが、この手の長射程兵器は攻勢局面においても攻勢側に有利に働くので増備できるに越したことはないですよね。

    11
      • クローム
      • 2023年 3月 03日

      首元の多孔は姿勢制御用スラスターの噴射口です。
      発射直後は速度が遅くフィンを使った空力的な姿勢制御が困難なため、発射直後から数秒はこのスラスターで姿勢制御をするそうです。

      20
        • 折口
        • 2023年 3月 03日

        なるほど、勉強になります。考えてみれば誘導ロケットの照準固定にとって一番大事なのは発射直後ですもんね。それくらい気を使うと言うことは、相応の精密誘導性能を持っているという事なんですかね。

        2
    • REM
    • 2023年 3月 02日

    ウクライナが自前で武器を開発できて、ロシアは新兵器の開発を中止して既存の武器の生産しかできない。
    ウクライナのインフラ攻撃が落ち着いたと言われるなら、ワグネルの攻撃成功よりウクライナが優位なのではないか?
    プーチンが表に出てきて、あの余裕の全く無い精神的に駄目になってる表情を汲み取れない人はおかしい。
    モスクワに被害が出れば、彼は降ろされる状況だと思う。

    9
    • ズマ
    • 2023年 3月 03日

    A2ADの実戦使用とも言えるので興味深い
    MTCRやコスト面、圧倒的な制空権やキルレシオからイスラエルや韓国は別にして西側で進歩が遅かったミサイル類が徐々にウクライナで実戦活用されてるようだ

    • 58式素人
    • 2023年 3月 03日

    直径が大きい(227mm→300mm)ので、
    弾頭重量も大きい(91kg→220kg)みたいですね。
    誘導はやっぱりGPSなのでしょうか。
    ロシアの奥地に使う場合はグロナスなのかな。
    グロナスは完成したのでしょうか。
    衛星の数がまだ足りないという報道もあったと思いますが。

    2
      • ヤゾフ
      • 2023年 3月 03日

      2014年からの制裁で新型のグロナス人工衛星の打上はスケジュール破綻状況です。
      一応全世界対応とは公表してますが今後、対応地域が抜け落ちていく可能性があります。
      正直なところ、グロナスより中国の北斗使った方が今後の受信モジュールの低価格化含め有利なので、衛星コンステレーションの維持が出来なくなったらロシアも北斗に乗り換えるのでは?と見てます。

      4
    • XYZ
    • 2023年 3月 03日

    わざわざGPS以外の誘導方式だと発表しているのは、西側諸国に対しての気遣い?

    さすがにグロナスは使わないだろうし、今まともに運用できるかも不明。

    まさかの北斗?
    ウクライナと中国の関係を考慮するともしかして・・・。

    1
      • 58式素人
      • 2023年 3月 03日

      ロケット弾では無いのですが、少し前の報道で、
      米国のU-2偵察機が航法のために、ロシア/中共/欧州の
      ものをGPSのバックアップで使っているとありました。
      有効ものならば何でもあり(笑)なのではないでしょうか。
      慣性航法装置では精密誘導は無理かと思います。

      1
      • ネコ歩き
      • 2023年 3月 03日

      VilkhaがGPS誘導を採用していないのは事実ぽいです。
      昨年7月に、ウクライナに情報源を持つベルギー人が Vilkha、Vilkha-M 及び Vilkha-M2 についてツィッターで言及しています。GPS誘導は妨害を受け易いためVilkhaには採用していない、とウクライナ技術者が語ったそうです。
      さらに、M型で有効射程130km(妥当)、M2型は300km(疑問)に達すると主張しています。M及びM2の弾頭質量は同じ(170kg)ですが、M2にはマイクロモーター(?)が付加されるとしています。

      GPS誘導を採用していないなら基本は慣性誘導だろうとなりますが、対砲レーダーのようなシステムの応用で、誘導精度を上げるために見通し線内の中間飛翔段階でコマンド修正を加えるようなことは考え得ます。

    • たら
    • 2023年 3月 03日

    日本はウクライナの長距離弾の運用をよく観察して学んでほしいなあ。

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