中東アフリカ関連

イスラエル軍、数ヶ月以内に埃を被っていたパトリオットと別れを告げる

ウクライナが要請するパトリオットシステムの追加供給は「誰がシステムを提供するのか」で行き詰まっているが、Times of Israelは30日「イスラエル空軍は数ヶ月以内に埃を被っていたパトリオットと別れを告げる」と報じ、退役するシステムの将来=売却先に注目が集まっている。

参考:Israel to mothball Patriot air defenses after decades of mostly gathering dust

イスラエルがパトリオットシステムを直接移転するのは困難なため、これをやるなら米国経由での移転になるだろう

米国のパトリオットシステムは1991年の湾岸戦争中にスカッドミサイルの一部迎撃に成功、イスラエル国防軍もパトリオットシステムの運用を開始したが「直面する脅威」と「能力」が一致せず、独自の要求要件に対応したIron DomeやDavid’s Slingなどを開発して多層式の防空レイヤーを構築したため、パトリオットシステムの使用は過去十年間で10目標(2018年のシリア軍機撃墜を含む)の迎撃に留まり、同システムを運用する部隊の機種転換が進められていた。

Times of Israelは30日「イスラエル空軍は数ヶ月以内に埃を被っていたパトリオットシステムと別れを告げ、より先進的な防空システムに移行する」「ウクライナがパトリオットシステムを求めている中で、イスラエルが手放すパトリオットシステムがどうなるかは不明だ」と報じている。

倉庫に保管されているパトリオットシステムの状態は不明で、これはウクライナが求めているPAC-3ではなくGEM-Tバージョン=PAC-2なので、弾道ミサイルへの対処能力はPAC-3よりも劣ると思われるが、何もないよりはマシだ。

出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

ウクライナが要請するパトリオットシステムの追加供給に手を挙げたのはドイツのみで、26日に開催されたラムシュタイン会議で「何らかの方針が示される」と期待されていたが、提供候補に名前が挙がっていた米国の支援パッケージにはパトリオットシステム本体の提供は含まれておらず、スペインは本体提供を拒否して「パトリオットシステムの迎撃弾を少数提供する」と表明、ギリシャのミツォタキス首相も「パトリオットやS-300のウクライナ提供には応じない」と断言し、他の保有国も「追加供給を支持しても自国分は出せない」という立場だ。

イスラエルとロシアとの関係(シリア・イラン問題)を考慮すると「パトリオットシステムの直接的なウクライナ移転」は政治的な摩擦を高めるため、これをやるなら米国経由での移転になるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:IDF Spokesperson’s Unit / CC BY-SA 3.0

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コメント

    •  
    • 2024年 5月 01日

    ネタニヤフは苦しい立場にあるのでアメリカからの圧力で放出する可能性はあるんじゃないの?

    5
      • MarkⅡ
      • 2024年 5月 01日

      万が一、ウクライナに渡ってしまうとロシアとの関係が大幅に悪化するから無いんじゃない?
      勝つにせよ負けるにせよ戦後はロシアの軍需生産が過剰になるので、報復と外貨稼ぎを兼ねてイランに各種ドローンやミサイルが大量供与される可能性がある。

      この戦争はロシア本土への攻撃は限定的になるの確定してるので、避けては通れない問題、散々ポンコツと言われてるけど安価で相応の突破力、大量生産体制の整ってるロシアの兵器群はイスラエルにとって相当厄介だよ

      21
        • あばばばば
        • 2024年 5月 01日

        ロシアと敵対したくない国向けに、自国で使っていたパトリオットをアメリカに送って、アメリカが自国機材のパトリオットをウクライナに送る三店方式ではないだろうか
        おそらくこの方式には日本も関わるだろう(弾薬か本体かわからないが、弾薬の輸出を検討している為)
        アメリカはNATO圏外から調達した古いパトリオットの細かい仕様の違いにしばらく苦しむ事になるかもしれない

        イスラエルはアメリカに全力で尾を振って後ろ盾を得ないといけない状況なので、古いパトリオットを売って自国を支持してもらえるなら安い取引でしょう
        特に今、イスラエル閣僚の国際逮捕状発行の危機でアメリカにかばってもらってる状態らしいし
        (ハマスの幹部も国際逮捕状発行されるらしいが)

        16
        • 匿名11号
        • 2024年 5月 01日

        >ウクライナに渡ってしまうとロシアとの関係が大幅に悪化する

        今更、イスラエルが気にしますかね。大っぴらに渡すわけでもなし、北朝鮮製弾道ミサイルと同じように残骸が発見されたところで、それを理由に敵視してくるほどロシアに余裕があるとは思ってないんじゃないですか。

        それに、軍事協力を強めている以上、生産が過剰になるほどの軍需品があればイランに大量供与するのは必然でしょう。ロシアにおもねればそれが止められると、イスラエルが考えますかねえ。

        9
    • 名無し
    • 2024年 5月 01日

    PAC2をSu-34ハント、PAC3を都市防衛に回せばいい感じじゃん?

    11
      • AH-X
      • 2024年 5月 01日

      ランチャーとレーダーが足りてればそれでもいいんですけどね。

      8
    • 暇な人
    • 2024年 5月 01日

    イスラエルがウクライナに提供するとロシアもシリアに提供を始めるでしょうね。
    以前F16落としたといわれているのはS200だったっけ?もうちょっとマシなものを与えれば自由には飛べなくなるでしょうね。
    イスラエルが好き勝手するのを抑制する意味でもやったほうがいいかもしれない。

    19
      • 戦略眼
      • 2024年 5月 01日

      提供出来るシステムがないと思う。

      7
      • タチコマァ
      • 2024年 5月 01日

      ロシアがイランシリアとズブズブなのは前からだし大して変わらないような気も

      20
      • T.T
      • 2024年 5月 01日

      F-16Iを落としたのはS-200ですが、ロシア機を誤射したので、S-300も供与されたはずです。

      12
    • うくらいだ
    • 2024年 5月 01日

    すんなり行くのでしょうかね
    ロシア系イスラエル人は人口が全体の15%程度らしいです
    でもイスラエルを介してアメリカとロシアってなかなか面白い関係ですよね

    9
      •  
      • 2024年 5月 01日

      完全にアメリカの犬になるんじゃなくロシアや中国とも関係を維持する絶妙なバランス感覚。
      小国が生き残るための知恵だな。
      ウクライナもそうであったのだが2014年の革命でバランスが崩れた。

      24
        •  さ
        • 2024年 5月 01日

        バランス感覚って、イランとのあれこれ見てるとどうだろうなぁって気が

        6
        • 名無し
        • 2024年 5月 01日

        あれだけ周りが敵だらけの状態でロシア中国と決定的な対立関係になったらその敵にロシア製中国製の兵器ばら撒かれて今までみたいに無双できなくなっちゃうからなあ
        生存戦略としては当然だわな
        にしても、中国と技術協力はやり過ぎだと思うけど

        18
    • gepard
    • 2024年 5月 01日

    報道が事実ならネタニヤフ政権はバイデン政権に向けてカードを切ってきた形。

    バイデン政権はここの所、ガザへのイスラエルの軍事行動を巡る全米の大学での抗議デモに直面している。デモは60年台の反ベトナム戦争運動を彷彿とさせる勢いで、大統領選挙に向けて低支持率に苦しむバイデン政権は対応に苦慮している。
    ICCがネタニヤフに逮捕状を請求するかもしれないという状況も相まって対イ政策の転換が迫っているという観測もある。

    イスラエルの防空ミサイルのウ供与は反転攻勢前に漏洩した機密文書でも言及があったが実現してこなかった。ネタニヤフ政権はここでカードを切ることで米からの支援を途切れさせない狙いがあるのだろう。

    12
    • 58式素人
    • 2024年 5月 01日

    米国経由で良いのでは。
    埃をかぶっていたなら、整備も必要でしょう。
    米軍のものを放出して、イスラエルから米国に戻った物は
    整備+PAC-3化できると良いですね。
    スペインのPAC-3は、元はドイツ軍の中古だったと聞いたことがあります。
    米国から新品を買ったのではなかったと読んだことがあります。冷戦終了後に。
    その辺から、説得(?)するのでしょうか。

    7
    • 2024年 5月 01日

    ロケットミサイル撃たれまくりのイスラエルでパトリオット使わなくなるなんてあるんだ
    近距離防空でも必要そうなのに
    それだけ自国産のシステムが優秀って事なのかな

    5
      • kitty
      • 2024年 5月 01日

      イスラエルの国情だと「たすきに長し」の場合が大きかったのかと。
      イランと戦争するなら役に立ったのでしょうけど。

      12
      • 名無し
      • 2024年 5月 01日

      小型のロケット弾程度にいちいちパトリオット使うと大赤字だしハマスやヒズボラ側の思う壺だからね、
      低中速の小型弾体を経済的に持続可能なレベルで迎撃維持するのがアイアンドームの強みなので。

      パトリオットは正規戦になった時にハイファを防衛する切り札だけど、これを手放すって事は違反に対する平和的なメッセージにもなる

      7
    • たむごん
    • 2024年 5月 01日

    ゼレンスキー大統領は、真っ先にガザ紛争(イスラエル自衛権として)支持していますから、その対価を得られるのか注目したいと思います。
    イスラエル=ロシアは、イスラエル建国当初から深い関係ですから、パトリオットどうなりますかね。

    >「イスラエルが自国と国民を守る権利への支持を表明する」

    (2023年10月8日 ゼレンスキー氏「イスラエルの自衛権に議論の余地なし」 AFPBB News)

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