年内にもS-400とロシアで訓練を受けたインド陸軍の部隊が国内に到着するインドにバイデン政権は様々なチャンネルを通じて「CAATSA発動」を伝えているが、駐露インド大使は「米国の圧力には屈することはない」という見解を示して注目を集めている。
参考:Дружба с Россией — важный фактор нашей безопасности
参考:India to proceed with S-400 missile system deal with Russia despite American pressure
S-400問題で圧力を加え続ければインドの反発が強烈になることをバイデン政権は理解しなければならない
ロシアが開発した防空システム「S-400トリウームフ」を構成する早期警戒レーダー「91H6E」の最大検出範囲は約400km+(※)と言われており、同システムが運用する迎撃ミサイル「40H6E」を使用すれば最大380km先の目標と交戦することが可能で西側の代表的な防空システム「パトリオット(交戦範囲約160km)」よりも遥かに高性能で複数の迎撃ミサイルを同時運用できる柔軟性を持ち合わせている。
補足:S-400はパトリオットとは異なり種類の異なる複数のレーダーとミサイルで構成されており、早期警戒レーダー91H6Eの探知距離は航空機や巡航ミサイルなら約400km(RCS 4㎡の場合)、爆撃機などの大型機なら約600km、弾道ミサイルなら230km(RCS 0.4㎡の場合)と言われており、弾道ミサイルから超低空で侵入してくる空中目標まで対応することが可能らしい。
そのためS-400導入を希望する国は非常に多いのだが、これを阻んでいるのが米国の「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」だ。
厳密に言えばCAATSAはS-400導入国に対する制裁法案ではなく、ロシアの防衛産業企業から1,500万ドル以上の取引を行った国や組織に対して米国が独自に制裁を加える法案で、実際の運用でCAATSA発動の対象になっているのはS-400(中国に対して2018年にトルコに対して2020年に発動済み)とSu-35(インドネシアのSu-35導入にCAATSA発動で圧力を加え断念させている)だけで発動基準が曖昧過ぎて事実上、海外市場で米国製防空システムや戦闘機と競合するロシア製兵器の排除に利用されているため非常に評判が悪い。
そもそも米国の国内法によって第三国の安全保障上の選択を罰するという趣旨が傲慢だと受け取られており、制裁をテコに友好国や友好関係を築いていきたい国にロシア製兵器の購入を断念させて米国製兵器(もしくは西側製兵器)購入を強要するやり方は対米関係の悪化を招くだけでロシアではなく米国の影響力を自ら弱めるだけだと米国国内からも指摘されている。
ただトランプ大統領から政権を引き継いだバイデン大統領も「S-400導入は容認できない」という立場を表明しており、その槍玉に挙がっているのがインドのS-400導入だ。
インドはトランプ政権時代からS-400導入に伴うCAATSA発動を警告されていたが着々とS-400導入に向けて動いており、年内にもS-400とロシアで訓練を受けたインド陸軍の部隊が国内に到着する予定でバイデン政権は様々なチャンネルを通じて「CAATSA発動」をインド側に伝えているが、駐露インド大使のヴェンカテシ・ヴァルマ氏は米国の圧力には屈することはないという見解を示して注目を集めている。
駐露インド大使のヴェンカテシ・ヴァルマ氏はロシアメディアLenta.ruの取材に対して「インドはロシアと米国の2ヶ国とそれぞれ戦略的パートナーシップを結んでいるが、インドは独自の外交政策と独自のニーズに基づいて安全保障上の決定を下す」と語り契約済みのS-400は決定されたスケジュールに従って導入されると強調した。
ヴァルマ氏の発言はドン・ヘフリン駐インド米国大使が「インドがロシアからS-400を導入すれば米国政府の制裁から免れることはできない」とバイデン政権として初めてインド制裁を公式の場で言及したことに対応したものと考えられ、このままインドがS-400を導入してしまえば米国はクアッド構成国に制裁を発動するというジレンマに陥っていまう。
仮に米国がCAATSAに基づいてインドにトルコと同じ制裁を課した場合、インド国防省は米国議会への輸出許可申請、米国金融機関からの借入、国際機関による融資、 合衆国輸出入銀行による融資に制限を受けることになるため対外有償軍事援助(FMS)を利用した米国製防衛装備品の調達等に支障を来すことになる。
ただ過去FMSを通じて締結した履行中の契約(輸出やライセンス生産の許可を得ているもの)は制裁を影響を受けないが、導入したP-8IやAH-64Eなどの消耗品や搭載品の調達に支障を来すかもしれない。
逆に米国としては対外有償軍事援助の利用が難しくなる影響でインドに売り込んでいる戦闘機(F-16V、F-15EX、F/A-18E/F)が全滅するかもしれないので、米防衛産業にとってはバイデン政権が発表したサウジアラビアやアラブ首長国連邦向けの武器輸出凍結に次ぐ痛手になるだろう。
果たして米国はクアッド構成国に制裁を本当に発動するのか不明だが、CAATSAの原則を守るならS-400導入を強行するインドに制裁を発動せざるを得ない。そうなれば米国とインドの2ヶ国関係は決定的な亀裂が生まれるため米国のインド太平洋戦略やクアッドの発展・強化にも影響が及ぶのは避けられないだろうと管理人は思っている。
因みにヴァルマ氏は中国の軍事的対立がエスカレートした昨年、ロシアがインドの要請に応じて様々な便宜(武器や弾薬の緊急調達やS-400の納期短縮等)を図ってくれたことに感謝の意を示して「ロシアはインドが求める安全保障上のニーズを完全に理解していることに満足している」と語っているのが非常に印象的で、やはりインドの安全保障上の主要パートナーをロシアから米国に変更させるのは不可能でS-400問題で圧力を加え続ければインドの反発が強烈になることをバイデン政権は理解しなければならない。
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※アイキャッチ画像の出典:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0
トルコに対してはF35のステルス特性がロシアに漏れないようにと建前も言い張れたが、インドに対してはアメリカ兵器を押しつけるためにアメリカ兵器の販売が滞るという矛盾丸出しの法律
インドがS400必要としてるのは納得できるんだが、同等のミサイルを提供できないアメリカが言いがかりつけて、ほぼヤクザだね
インドへの制裁も「F-35を販売しない。生産にも関わらせない」でいいと思うんだけどなぁ。
「トルコと同等の制裁」でありつつインドにもアメリカにも無害。
米国の制裁はロシアの防衛産業の弱体化が狙いだからf-35の製造から追い出すんじゃ意味がない
で、CAATSA発動で目的は達成できそうですかね?
むしろ米から離れて露に近づく未来しか見えませんが。
そうならない様に「無意味な制裁でお茶を濁せ(かつトルコへの制裁と整合を保て)」と言ってるんだから意味がないのは当たり前。
多分、この方はトルコがF-35プログラムから追い出されたのがCAATSA発動のせいと勘違いしてるんだろうね。
トルコがF-35プログラムから追い出されたのはCAATSAの制裁ではなく単純の米国の勝手な都合で、CAATSAに基づくトルコへの制裁は別物。
だからトルコへの制裁と整合を保つにはインドにCAATSAに基づくトルコへの制裁とバランスをとる必要があるから「F-35を販売しない。生産にも関わらせない」でお茶を濁すことは不可能だよ。
横から失礼します。
>多分、この方はトルコがF-35プログラムから追い出されたのがCAATSA発動のせいと勘違いしてるんだろうね。
自分もその認識でした。
このサイトでも似たような説明だったと思います。
「CAATSAに基づくトルコへの制裁は別物」な事を解説している記事を紹介して頂けないでしょうか?
トルコがF-35プログラムから追い出されたのはパトリオットを導入せずF-35AをとS-400の同時運用を強行しようとしたせいで、F-35のステルス特性がS-400によって盗まれるという主張に基づいたもので正式な法的根拠に欠けているからトルコが怒ってるのよ。
しかもトルコが支払った開発資金やF-35A購入費用も返金してないし。
で、去年に発動したCAATSA制裁はロシアからS-400を導入したことに対する制裁でブログでも書かれている通りトルコ軍の調達部門に制限を加える制裁を課したわけ。
両者の制裁内容は似ているけどCAATSAに基づく制裁はS-400を導入する行為に対しての制裁だからインドに「F-35を販売しない。生産にも関わらせない」という内容の制裁でお茶を濁すことは難しいのよ。
解説ありがとうございます。
改めて関連記事を見ると、CAATSA制裁+F-35プログラマからの排除、と言った感じに別口扱いで書かれているものもありますね。
うーん、F-35の製造にも不参加で導入すらしていないインドに「F-35を販売しない。生産にも関わらせない」という制裁を行うことでトルコへの制裁と整合が保てるとは思えなけど、どういう理屈なんだろう?
流れでいうと、インドはSU57に食指を伸ばすよね。ロシアが輸出認めるまで数年はかかるだろうが、インド人はそのくらい待てるからw
アメリカがこういう嫌がらせしたってあまり意味はないと思う
冷戦中ソ連に勝つために中国と手を結ん様に中国に勝つためにはどうしてもロシアに妥協する必要があるのに防衛戦略を中国、ロシアの2正面にするから破綻するんだよな
もうイデオロギーで戦う時代じゃないのにイデオロギーにこだわるから中国にいいように分断されんだよ
アメリカからイデオロギーという仮面をとったら、自由競争に名を借りた強者優位の経済的覇権国家に過ぎないから。
世界革命という建前を放棄して民族的利益追求にひた走る中国と大差ない
アメリカは正体をインドに見抜かれてるんだよ
今の米政権は反トランプというイデオロギーですらないものにこだわってるよね
それだけでなく、民主党左派・ポリコレ勢の影響もね。
ポリコレ原理主義と反トランプの悪魔合体による政策運営とか、なかなかのものがある。
日本の安全保障上、洒落にならないけど
怖いもの見たさでどこまで米国がぶっ壊れるか見たみたい気がする
言うは易く行うは難しだと思います。アメリカは東アジアのメオンプレーヤーであると同時に、ヨーロッパ方面でも軍事同盟NATOの盟主としての責任があります。
「別の場所が忙しいんで、ここはロシアさんに妥協しましょう」とアメリカが言ったとき何が起こるかは想像するのは難しくないかと。
中国の外交政策の方がもっと酷いけどな
大国で中国寄りなのは、最早ロシアだけとなった
ロシアといえば、信用できない国の代名詞
米国は日本と欧州の大国を全部抑えてる
それに比べ、中国の同盟国はパキスタン、北朝鮮、ミャンマー、ラオス、カンボジアといったメンツ
ある意味、戦前の日独より状況が悪い
まず絶対的に不利な国際環境と言える
ロシアはここぞと言うタイミングで裏切りそうだしなぁ
中露接近を避ける為にクアッド加盟国がしてきた努力や我慢を台無しにしようとしてるっていうか
ここに来て軍縮掲げるから中国に利するようにわざやってるだろ状態だよね
アメリカはインドにC-RAMを提供してS-400の性能を調べ上げる位の根性が必要ですね。
参考
リンク
C-RAMは船のCIWSに相当する迎撃システムの地上版です。
意味が分からない。どういうこと?
アメリカがS-400の導入を嫌がる最大の理由はスパイ機能が付いていてF-35の秘密がロシアに流れると考えているから。そこで、スパイ機能付き近接防空システムを作ってS-400の秘密の通信を解析して逆に利用するのです。
馬鹿なの?
え、マジで意味がわからん。スパイ機能付き近接防空システムを作ってS-400の秘密の通信を解析して逆に利用するのになんでC-RAMなの????
あんな出来損ないの近距離防空システムを欲しがる国があるとでも?
なので、お古を無償軍事援助で・・あげる。
CIWS相当で長距離対空ミサイルの性能を調べる?
イメージが湧きません。
CIWS相当なら、レーダーの有効距離も短く、ろくに監視も出来ないでしょうし。
何を調べる事が出来るのでしょうか?
このサイトの過去記事から、S-400とF-35が同時に同じ国にいてはいけない可能性は二点。
一つは、S-400は、購入契約に年一回、基地に設けたロシア人用ブラックボックス小屋でリバースエンジニアリングチェックを受ける。別の基地にF-35があってもロシア人は逮捕を恐れず持ち込むかも。(F-35も重整備基地とは別に同じシステムがあるらしい。アリスと共にリバースエンジニアリングをチェック)
二つ目は、S-400は未だソフトは未完成な所があり、さまざまな距離、高度を飛行する米軍機のレーダー反射パターンを収集する必要があり、F16を有するトルコは完璧に問題。有線しなくても無線で反射パターンを飛ばすかもとか?
で、C-RAMの中に、全周波数をチェックして、米軍に衛星通信する機械を仕込めってことかな。
クアッド同盟が成立に近づくほど中露が接近するだが‥
今世紀のうちに、かならず中国とロシアはシベリアの領有権を巡って緊張状態に入るから
ロシアはそれを見越して北極圏の軍備を増強してるよ
中国人は生き延びるためには何でもやるよ
そうとも言えないんじゃないか
米国都合のサウジへのFMS停止から中東の再不安定化が進んでマンデブ海峡が不安定化し始めれば
スエズ運河経由の航路の旨みが更に減るだろうし北極海航路への開拓や投資が活発化するのでは?
そうなるとロシアとしては中国と接近して米を排除した後、中国のタゲが自前の航路に向く可能性は捨てきれないんじゃない?
日米視点から見れば、クアッドはインドと中国の接近を阻止する意味合いのほうが強いのでは。
比較的うまくいっていた航空関係も資金難では見通しは暗いな。
CAATSA発動は、同盟も米軍も弱体化できる。
米国はいまどこを見ているのか。
現状ではアメリカの外交戦略で最優先は対中国ですが、その次に重要なのはやはり対ロシアでしょう。特にオバマ政権の直接的な後継であるバイデン政権にとってはクリミア半島併合から強硬姿勢であったのでそれを引きずり、やや優先順位が上がっています。
こうした背景があってインドとの協力関係は軍事的にロシアが必ず絡むので、ロシアに対し比較的寛容であったトランプ政権ほど柔軟にはいかないでしょう。はっきり言えば中国の香港やウイグルでの人権問題がなければ破綻していた可能性すらあります。
バイデン政権は人権問題を特に重視しているように見えるので、中国とロシアはどちらも無視できず、それをテコに交渉を仕掛けてくるインドは厄介な相手に違いありません。日本としては、ここを橋渡しする役割を積極的にすべきです。
まあ最新鋭F-35ならまだしも型落ち戦闘機のためにアメリカの言う事聞きたくないわな
まあS400と同等かそれ以上の防空システムを売れってことでもありますね。
大金がかかるうえ国土防衛がかかっている以上一番いいものを買うしかない訳だし。
トランプは利益を最重視しバイデンはイデオロギーを最重視しているので、政権交代後に方針を引き継いだとしても対応に差異が出てしまうでしょう。
UAEへのF-35販売も楽観視できないのでは。
クアッドも終わったなぁ。
アメリカはS400レベルの兵器を作って輸出できるようにしてから、色々文句を言うべきでしょ。
同盟国でもないのに
米国製兵器はアメ車化の道を辿ってるよね
コスパが悪くて新興国のニーズを満たせなくなってるというか
自衛隊も予算的に米国製を導入するのしんどくなってるし
どんどん高くなっていくよね。
困ったものだ。
ほんの少しだけ期待してたけどやっぱ駄目でしたね
何もしてないのに相手陣営が崩壊していくんだから中国は笑いが止まらんでしょう
腹抱えて笑っているでしょうなぁ。
英国が参加するかもしれないという朗報はありましたが
まぁ、どっちにしろ前途多難ですね
S400に代わるものがないんだから仕方ないね
アメリカはいつまでジャイアンやってんだよ。冷戦時ほどの力はないのに。中国を利するだけだろ。
S-400に相当するSAMを作ってから文句を言うべき。アメリカに直接の脅威になるわけでもないのに。
アメリカの従来のやり方が通用しなくなって、
力と欺瞞で押さえつけられていた様々な矛盾が噴出している。
既にアメリカの時代は終わってる事が実感される。
アメリカが永遠のはずはないことは歴史が教えてくれる
問題はいつ終わるのか
日本人がずっと目を背けてきた厳しい現実は確実に近づいてるよ
S-400に該当するのがイージスアショアなんだろうけど、売ってるのかな。
SPYレーダーとSM-3がそれぞれ、国防総省のネットワークにつながるらしいが。そっちが問題か?
別にロシア製の兵器持ってても良いじゃない。
それ使ってもらって合同軍事演習させてもらえればお得でしょ。
もはやロシアはお得意先のインドには逆らえまいし。