インド太平洋関連

無人機戦力の大増強に乗り出した台湾、2年以内に3,200機以上を国内調達

台湾の蔡総統は「ロシア軍の優位性をウクライナ軍がドローンで相殺した」という結論を受け、中国企業を排除した「独自のドローン・サプライチェーン構築」と「3,200機以上の軍事向けドローン」を2024年半ばまでに製造するよう指示した。

参考:Inspired by Ukraine war, Taiwan launches drone blitz to counter China

台湾はウクライナのようになるため既存技術を利用して能力を迅速に獲得、2024年半ばまでに3,200機以上を製造

ロイターは21日「蔡総統は昨年夏、招集した与党幹部と共に『どうやってウクライナ軍は強力なロシア軍の優位性を相殺したのか』を議論し、蔡総統に手渡された77ページに及ぶ内部報告書には明確な答えが提示されていた。ウクライナ軍はドローンを巧みに活用して部分的な制空権を確保したのだ」と報じた。

出典:FEDOROV

部分的な制空権という表現は「伝統的な航空戦力ではなくドローンによって一定の空域を支配した」という意味ではなく、ウクライナ軍はドローンを活用することで「航空作戦の実施と制空権確保はセットである」という従来の概念を覆し、制空権が確保されていない空域=前線でも「偵察・監視や攻撃といった空からの作戦が可能になった」という意味で、ロシア軍の優位性を「損耗可能なドローンの大量投入」で相殺したと言いたいのだが、この内部報告書は台湾の暗い未来も同時に指摘している。

台湾海峡を挟んで対立は中国軍は50種類以上のドローン(戦術用途で使用する小型のクアッドコプター、持ち運びが容易な徘徊型弾薬、長時間の滞空性能を備えるUAV、電子戦タイプのUAV、武装可能なUCAV、接近拒否が成立した空域で生存性が見込めるステルスUAV、長距離偵察に使用されるジェットエンジン搭載のUAVなど)を数万機レベルで保有しているが、台湾軍は4種類のドローンを数百機レベルでしか保有しておらず、内部報告書は「ドローンの軍事利用において台湾は中国に危険なほど遅れをとっている」と警告。

出典:FLIR Systems ウクライナ軍に提供されているマイクロドローン「Black Hornet」

これを受けて蔡総統は直ぐに「中国軍とのギャップを埋める戦略プラン」を策定、台湾はレッド・サプライチェーン=中国企業からの部品調達を排除した自給自足のドローン・サプライチェーン構築し、商用仕様のドーロンを改造して「軍事利用に耐える各種ドローン」を2024年半ばまでに3,200機以上製造する予定で、この計画に少なくとも台湾企業9社が参加している。

計画の関係者は「中国軍とのギャップを早急に埋めるには何千機ものドローンが直ぐに必要で、商用仕様をベースにした軍事向けドローンの開発に全力を尽くしている。我々はウクライナのようになるため既存技術を利用して能力を迅速に獲得したい。中国から攻撃を受けた際、他国の助けにすがらなくて済むよう『独自の供給体制』を確保しておくことも重要だ」と指摘しているのが興味深い。

出典:U.S. Army photo by Spc. Casey Brumbach 手榴弾を搭載して空中投下するためのキットを取り付けたRQ-28A

因みに米陸軍も小型ドローンによる手榴弾投下攻撃のテストを始めており、イスラエルのエルビットは市街戦に特化した徘徊型弾薬「LANIUS/ラニアス」のPVを公開、米ディフェンス・メディアは「LANIUSが市街戦に投入されれば敵にとっては悪夢だ」と指摘するほど致命的な無人機の開発も進んでいる。

関連記事:台湾外相、ウクライナでの戦いから学ぶべき教訓は非対称戦と民間防衛
関連記事:ウクライナで実証されたドローンと手榴弾の組み合わせ、米陸軍も演習でテスト中
関連記事:敵にとっては正に悪夢、市街戦に特化したイスラエルの対人向け徘徊型弾薬

 

※アイキャッチ画像の出典:中華民國總統府

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コメント

    • 朴秀
    • 2023年 7月 22日

    わーくにもちゃんとウクライナ戦の戦訓を研究しているのかねえ
    送った装備の評価すらやっていないって話だけど

    ドローンについては安倍さんが規制かけたせいで致命的に出遅れたよねわーくに

    29
      • ななし
      • 2023年 7月 22日

      総理官邸の屋上にドローンが着陸してから規制までの流れはメッチャ迅速だったよね

      15
      • 匿名
      • 2023年 7月 22日

      つまりドローンがとんでもない脅威になりうるといち早く認識していたということじゃね

      7
        • 朴秀
        • 2023年 7月 22日

        それで実施したのが事実上のドローン禁止政策なのは救いようがない

        日本が手足を縛られている間に中国が遥か先まで進んじまったな

        22
    • おわふ
    • 2023年 7月 22日

    元々台湾は半導体生産が強いので、商用ドローン生産体制を作り安いのがいいですね。
    日本も規制ばかりでなく、商用ドローン業界の発展を支援しないと。

    16
      • ウツボ
      • 2023年 7月 22日

      レベル4飛行の解禁に伴って、最近では産業用ドローンのニュースがにぎやかになってきていますね。個人用ドローンでは
      国内でもDJIのシェアが高いですが、産業用の分野では巻き返せることを願います。

      18
    • ウツボ
    • 2023年 7月 22日

    自衛隊は25年以降に数百機規模の攻撃型無人機を配備するそうだけれど、まさに桁が足りないということか。
    日経の海兵隊トップへのインタビューでは、徘徊型弾薬について「今後数年間は米国と自衛隊が今までにないやり方でその戦力の活用法を探ると思う」と述べられていた。海上封鎖などへの対抗策として期待されているらしい。
    台湾や尖閣有事が起こったとして、ウクライナとは違い海空での戦闘が主となるはずで、そうした状況下ではどれほどの数の無人機が必要とされるのか。
    陸自の昨日の公告で、ヘロンMk2とバイラクタルTB2Sを導入するらしいことが分かったけれど、小型ドローンと合わせてそうした中型以上の無人機をどれだけ揃えられるのかも気になる。

    10
      • n
      • 2023年 7月 22日

      今回の話は、米軍などが参戦せず支援もろくに得られず、
      制空権を喪失し、人民解放軍陸軍に上陸された最悪の想定においてどうやって抵抗していくのかということみたいですね

      台湾関係法に防衛義務はない(防衛義務があるとしたバイデンの発言が失言扱いされ釈明し撤回している)
      日本や米国などの友好国も国家承認していない(立場としてはドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国と同じ)
      中国が米国を射程圏内にした核保有国である(ロシアとの核戦争を恐れていることから中国相手に同じことが起きても不思議ではない)
      など色々と厳しい事情があるので米軍参戦どころか支援も得られない状況も想定して、それでも戦える体制を整えようとしている

      数千機ってのは日本が導入を検討しているものではなく商用ベースのもっと小型のものですね
      日本が導入しようとしているものは大きすぎて制空権喪失しているとかえって使いづらい
      既存の対空兵器で対処できないような小型なものだからこそ制空権喪失していても役立つ

      我が国の場合は、制空権喪失でどう戦うかではなく制空権を喪失しない体制を整えるのが優先されますね
      台湾やウクライナの厳しい特殊事情の話なので必要なものは変わってくる

      20
        • aaaa
        • 2023年 7月 22日

        違うでしょ?制空権を喪失しない状況下でドローンの使用が効果的なんだから、両方必要なんでしょ?

        11
    • ヤゾフ
    • 2023年 7月 22日

    やはり台湾は調達含めた動きが迅速ですね
    偵察ドローンで問題となるとしたら画像処理等のカメラ側のSoCにバッテリーとモーターかなと見てますが、幸い台湾は価格競争力のあるメーカーがあるため、予定よりも早く大量に出来るかもしれません。

    11
    • 趣味でドローンを作っています
    • 2023年 7月 22日

    日本国内でドローンを作るための部品の殆どが、中国広東省深圳市からの輸入品です。日本製基幹部品はほぼ無く、各機能ごとに自作しようにも単体部品で売ってくれる会社は極めて稀です。
    ブラシレスモーターの自作をしようにも必要な太さと抵抗値の銅線が見つからなかったり、超音波センサーに不必要な物が付いていたり、必要な大きさのカーボンシートが小分け市販されないなど個人で作るのは難しいです。
    自衛隊がドローンの研究開発を主導するなら、先ずはDJI社製のドローンのソフトウェアと互換性の全く無い新規ソフトウェアに書き換えをしてほしいですね。
    DJIアプリから脱獄できてオフライン使用できるだけでも十分に市販品で実用に耐えますから。
    ソフトウェアを書き換えてGPSと誘導方式を載せ替えれば、DJI社製ドローンでも北京のデータサーバーとの接続が断絶して自衛隊が使っても全く問題は無くなる。
    新規開発と製造は二の次だと思います。

    29
    • Easy
    • 2023年 7月 22日

    DJIの国相手にドローンで対抗という時点でもう絶望的な差なんですが。
    それこそ太平洋戦争の日米差以上の生産力の差がありますよ。
    3200機って、DJIが1週間に生産可能な数でしょう。本気で中国軍と対峙するなら、中国側のドローン配備数は10万機単位で想定すべきでしょう。

    23
    • 匿名希望係
    • 2023年 7月 22日

    立地上足の長い高性能UAVを投入するしかない対日とは違い対台なら廉価で足が短いのでもかまいませんしな

    6
      • にゃ
      • 2023年 7月 24日

      高高度気球からドローンを滑空させて投下する研究あるけど、どれくらい実用的なんでしょうね

    • 匿名
    • 2023年 7月 22日

    半導体を規制するなら中華ドローンもアメリカが音頭を取って規制すべきだわ
    もう立派な軍需産業なんだからいつまでもお金貢いでる場合じゃないだろ

    9
    • MTHMaker
    • 2023年 7月 22日

    ドローンそのものの開発ももちろん進めるべきではあるが、それよりもアンチドローン兵器の生産を急ぐべきな気がする。
    それも数万単位のドローンをハードキルするのは現実的ではないのでソフトキルする方向で。
    ウクライナと違って海を挟んでいるので再回収の心配もなく、墜落させるだけでも迎撃効果しては十分となる。

    9
      • nimo
      • 2023年 7月 23日

      とりあえずイスラエルから買ってこないと間に合わなそう

      2
    • ホテルラウンジ
    • 2023年 7月 23日

    相手も大量のドローンを用意してるので自分もドローンを大量調達するのはそれはそれで非常に重要ですが、
    そもそもドローンをドローンの価格より低価格で撃墜する技術が開発されたらドローン戦略が大幅に無効化できます。
    ドローンは要は太平洋戦争状態に戻ってきてる話なんで、レシプロ機大量来襲に対して効果的に対応出来た
    VT信管を装備した対空砲を並べる事でいけないんですかね?
    それに現代のレーダー射撃管制をつけたら命中率も太平洋戦争時よりも格段に上がりますし
    戦略的な要所は低コストでシャヘドレベルの特攻ドローンに対しては鉄壁の守りになりそうなんですが

    7
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