北米/南米関連

カナダ海軍の人員不足解消に向けた施策、1年働いてから入隊を決めてOK

カナダ国防省の人事担当者は「軍のポストには1.6万人も空席がある」と明かし、入隊に対する金銭的なインセンティブ(最大2万加ドル=約250万円)や1年限定の体験プログラムを活用して新兵の確保に乗り出している。

参考:Free living expenses and a salary: Canadian Navy offering ‘no strings attached’ employment

海上でのエキサイティングな冒険を体験して入隊するか判断できる体験プログラム

カナダ軍は約10万人(現役7.15万人+予備役2.85万人)の人員を雇用しているものの1.6万人分(現役8,200人分+予備役7,800人分)のポストに空きがあり、特に海軍関係、航空機、通信、気象分野のスペシャリスト、軍医といった特定分野への応募者が少なく、軍は約100の職種の内25の職種で最大2万加ドル=約200万円のインセンティブ(入隊に対するボーナス)を提示しているが、もはや軍での勤務環境が現代の労働者に適していないという指摘がある。

出典:Canadian Armed Forces 入隊者を募る専用のwebページ

インセンティブなどの金銭的報酬が新たな入隊者を呼び寄せたとしても、勤務上の移動が多く2年~3年毎に引っ越しを要求される軍の労働環境は「高価な住宅市場」や「家族に与える影響」を考えると魅力的な職場と言えず、特有の軍隊文化や申請書類の処理時間に時間がかかる問題なども入隊を検討している人々の足かせになっており、専門家は「人員不足を解消するためより多くの資金、協調的な努力、軍隊分野や勤務環境の改革が必要だ」と指摘しているが、海軍は独自に新たな新兵獲得の試みを初めているのが興味深い。

これまでの採用プログラムでは入隊を促すことが難しかった層を取り込むため、いきなり3年~5年の契約に署名するのではなく、17歳~57歳までのカナダ市民や永住権をもつ外国人に海軍の仕事や生活に触れることができる体験プログラム(The Naval Experience Program)を提供、このプログラムへの参加手続きは通常の入隊手続きよりも簡素化されており、8週間の基礎訓練と4週間の専門訓練を終えたのち東海岸で勤務するか、西海岸で勤務するかを選択することができ、海上でのエキサイティングな冒険を体験できるという寸法だ。

出典:Public Domain

体験プログラムの参加者には4.2万加ドルの報酬、食事と住居の無償提供など正規の入隊者と同じ補償や特典を受け取れ、海軍での仕事や生活を理解した上で「3年~5年の契約に署名するか」「海軍から去るか」を選択することができ、海軍は「もし入隊を見送っても何の制限もなく社会的なペナルティも一切ない」と説明している。

安全保障環境の悪化を受けて多くの国が「国防予算の増額」や「正面装備の新規調達」を発表して注目を集めているが、それと同じだけ「人員不足の解消」にも乗り出しているためニュースになることが多く、知恵を絞って新兵確保に取り組んでいる様子が大変興味深い。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 1st Class Ryan Seelbach

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コメント

    • 匿名希望係
    • 2023年 5月 09日

    潜水艦のGDGDも間違いなく足を引っ張ってますよね。

    3
    • 戦略眼
    • 2023年 5月 09日

    なんか、志願制の軍隊という制度が持たなくなっているんだな。

    19
    • アマゾン
    • 2023年 5月 09日

    他国のこういう取り組みを見ていると日本も自衛隊の人員を増やすなら給料増額や自衛隊法の改正だけじゃあ駄目って事ですよね。
    人員を増やすなら奨学金やら一部税金の免除とか自衛隊員とその家族に対する公共交通機関やら医療機関受診の費用無料化とか、それくらいの特典を付けないと人員なんて増えないと思いますよ。
    それすら無理なら徴兵制を導入するか、外国人を採用するかの2択ですよ。

    25
    • 無能
    • 2023年 5月 09日

    応募者が少ない所は専門のスキルが必要な分野だから、スキルや能力があれば軍よりも厚待遇な企業に流れちゃうよなぁ
    自衛隊みたく免許を取得できたり、リスキリングの場として利用出来れば経済徴兵だけど低所得層への福祉としても機能しそうだけど

    11
    • 2023年 5月 09日

    エキサイティングな冒険ってなに…

    1
      • 774rr
      • 2023年 5月 09日

      そりゃもう。。。エキサイティングな冒険さ!
      hahaha!!

      1
      • TA
      • 2023年 5月 09日

      カナダ海軍「探せ!この世の全てをそこに置いてきた」

      1
    • lang
    • 2023年 5月 09日

    軍隊って結構しんどいからなあ

    ・上意下達の組織 いきすぎてパワハラも
    ・厳しい服装規定 厳しい生活習慣 勤務地もコロコロ変わる
    ・契約すると途中離脱は不可 不名誉除隊になると重罪扱いで特典剥奪 裁かれるのは軍法
    ・士官学校を出てなければ出世も厳しい
    ・謳われてる特典を実際に受けてみると想像より落差がある(医療など)

    ざっとこんなものかな~ 

    海外の軍隊で一番苦しんでるのは米陸軍かもしれません 昨年は6万の募集で4万5000人しか集まりませんでした
    今年も目標未達は確実で 陸軍の総員がたった2年で7%も減るのではっていわれてますね

    給与上昇って一見いいように思いますが、そもそも不動産高騰したのは給与が高騰したからってのもありますね
    いい給与もらってると思われてると家主に限界まで吹っ掛けられるわけで、IT業界とかで顕著でした
    このシステムを改善しない限り絶対に解決しないと思います

    3
    • おわふ
    • 2023年 5月 09日

    公務員全体のレベルダウン引き起こすかもしれないけど、入隊3年後に消防士や警察官、地方公務員の試験で優遇するとか、除隊後のケア必要かも。
    もちろん、公立大学の試験優遇も。

    とにかく名誉な職業で、辞めた後も安心。
    これは、金以上に大事。

    5
      • RAAF
      • 2023年 5月 09日

      資格習得後契約更新せず除隊者が多いためか習得した国家資格を自衛隊内でしか使えないようにしたのも入隊者減に繋がる面もあるかと愚考いたします。

      3
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