米国関連

F-35Block4実用化に向けたマイルストーン、TR3搭載の試験機が初飛行

F-35Block4の実用化に欠かせないTR3搭載の試験機が初飛行に成功、テストが順調なら2023年後半に製造されるF-35への組み込みが開始される予定だが、Block4開発作業は3年遅れで開発コストも2兆円を突破している。

参考:F-35 Has Flown With Its New Computer Backbone For The First Time
参考:F-35 modernization program’s costs, schedule keeps growing

開発作業が2029年までに完了するかも怪しいため「Block4がいつ手に入るのか」という問いに今のところ答えはない

日本も導入している第5世代戦闘機「F-35ライトニングII」はBlock4へのアップグレードが予定されており、Block4に含まれる一部機能(自動地面衝突回避システム)を既存機に追加する作業は2019年に開始されているが、アップグレードで予定されている66の新機能を実装して能力を引き出すためには機体の大幅な改造が必要になる。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Andrew Lee

新機能の内容は殆どは非公開のため謎に包まれているが「AN/APG-85の採用」や「EOTS/DAS/EWの大幅に機能強化」が予定されており、これらの能力を完全に引き出すには「機体側の演算能力」「アビオニクスに供給する電力」「アビオニクスが発生させる熱を冷却する能力」が不足しているため、コアプロセッサやメモリユニットなどを刷新して演算能力を25倍に強化する「Tech Refresh3(コックピットディスプレイの変更も含む)」やBlock4の電力・冷却要件に対応した「新型エンジン」に移行しなければならない。

このTR3が組み込んだF-35Aのテストが始まっており、TR3を組み込まれた機体の提供はLOT15(2023年度生産分)から始まる予定だが、800機以上も製造された既存機をTR3で刷新してBlock4にアップグレードするには「相当の費用がかかる」と指摘されている。

出典:Lockheed Martin

米空軍はF-35Aのアップグレード費用を節約するため「完全なBlock4対応機」が登場するまで調達を削減する計画で、さらに2023年度予算の中で「TR3による刷新範囲はLOT11=2018年以降に取得した機体(推定200機前後)まで」と説明しており、2018年以前に取得した機体(推定100機前後)に対するBlock4へのアップグレードを行わないという意味だ。

因みにBlock4の開発作業は当初予定より3年遅れで開発コストも151.4億ドル(2021年度だけで7.4億ドル上昇)=2兆円を突破、今月6日にTR3を搭載した試験機が初飛行に成功したたものの政府説明責任局は「開発作業の遅れでコストが3.3億ドル増加しており、LOT15にTR3が間に合うかどうかも確信が持てない」と指摘、これに対して国防総省は「テストがこれ以上遅れなければ2023年後半に生産ラインにTR3導入できる」と述べている。

出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Bryan Guthrie

もしLOT15にTR3が間に合わなければTR2バージョンで製造されるため、これをTR3の刷新するための費用を顧客が負担しなければならず、Block4関連の開発コストが雪だるま式に増え続けているため「Block4の機体単価」や「旧Blockからのアップグレード費用」が幾らになるのかも不明で、そもそも開発作業が2029年までに完了するかも怪しいため「Block4がいつ手に入るのか」という問いに今のところ答えはない。

関連記事:F-35Block4で追加される目玉機能、BAEがAN/ASQ-239の改良を発表
関連記事:F135EEPではダメ、F-35A Block4にAETPが必要な9つの理由

 

※アイキャッチ画像の出典:Edwards AFB/USAF

露ワグネルが「ソレダル制圧」を発表、大釜にウクライナ軍を捉えた?前のページ

更新|ワグネルはソレダルの大部分を占領、岩塩坑はウクライナ軍が保持か次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米海軍、バージニア級原潜ブロックVに極超音速兵器「プロンプトストライク」を搭載

    米海軍は2021会計年度予算案の中で、現在開発が進められている「Con…

  2. 米国関連

    改善を見せた米空軍機の稼働率が再び後退、爆撃機の稼働率悪化は顕著

    米ディフェンス・メディアのDefenseNewsは14日、空軍の作戦機…

  3. 米国関連

    米空軍がステルス無人航空機「RQ-180」と推定されるイメージを初めて公開

    米空軍は今月9日、ステルス無人航空機「RQ-180」と推定される機体イ…

  4. 米国関連

    米空軍大将、NATO加盟国の兵器備蓄量は危険なほど少なくなっている

    在欧米空軍のヘッカー大将は「もはやNATOに冷戦時代のような航空戦力は…

  5. 米国関連

    厳しい未来を予想する米陸軍、来年度の国防予算配分で陸軍は冷遇される?

    米陸軍はバイデン政権が打ち出した国防予算7,150億ドルの下では空軍や…

コメント

    • 黒丸
    • 2023年 1月 11日

    日本のリニア新幹線の建設コスト7兆円といい勝負のような
    F-35Aブロック4とどっちが早く完成するかな

    8
    • 台湾大好き
    • 2023年 1月 11日

    膨大な開発量のせいで時間もお金もかかるのはよくわかるんだけどさ、ユーザーからしてみたら「じゃ、完パケ版できたら買うわ」だな。素人目には演算能力なんて想定出来てしかるべきのように思えるけれども。
    関係ないが近年の自動車のテクノロジーも同じに思えるな。ちょっと待つともっといいものと思えて買い替えに踏み出せない(^^;

    10
      • 匿名
      • 2023年 1月 12日

      某界隈で言われることですが「欲しいと思った時が買い時」、待てるならそれは時期ではない。
      高くても、性能が不足していても、他に選択肢が無くて必要なら買うしかない。

      11
      • ななし
      • 2023年 1月 12日

      毎年のように性能向上した新型が出てくるPCとかでは昔から言われてる問題ではあるよね
      必要な時に買うか、そうでなければ死ぬ間際に買うのが一番いいという意見もあったりしたね

      2
    • 3.14
    • 2023年 1月 12日

    空自のF-35Aが現状で使える装備って
    25mm機関砲 SDB AMRAAM くらいでしょうか

    3
    •  
    • 2023年 1月 12日

    電力供給強化ってそんなこと既存機の改修で可能なんだろうか。
    素人目にはエンジンの積み替えとか必要そうに思いますが。

    1
    • ブルーピーコック
    • 2023年 1月 12日

    ブロック4の量産が軌道に乗る頃には第6世代機が初期生産されてそうだな。

    2
    • 名無しパン
    • 2023年 1月 12日

    対地ミサイル対策に即応して飛べる程度の無人化を先にした方がいいのでは。秒速数キロのミサイルに耐えられるバンカーなんて存在しないんだから逃げる方に労力を使った方がいいだろう。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  2. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP