米国関連

バイデン大統領、空爆がフーシ派の脅威を阻止できていないと認める

バイデン政権は「紅海の安全」を取り戻すため空爆を実行したものの、一向にフーシ派の脅威は収まる気配がなく「軍事的解決」を疑問視する声も登場していたが、バイデン大統領も18日「空爆がフーシ派の脅威を阻止できていない」と認めた。

参考:Biden acknowledges airstrikes haven’t stopped Houthis, says more to come

空爆の規模と期間が拡大していけば状況のエスカレーションが現実のものになる

イエメンのフーシ派はパレスチナ人との連帯を示すため「イスラエルに関連した船舶」や「イスラエルに向かう船舶」への攻撃を宣言、紅海やアデン湾で少なくと27隻の船舶が攻撃を受けたためスエズ運河を経由する海上輸送は混乱し、多くのコンテナ船がコースを変更したためコンテナ運賃(上海~英国)は2,400ドルから1万ドルに跳ね上がったとも報告されている。

出典:pixabay

米国にとっても当該航路は中東地域における核心的利益(紅海の通商と航行の自由)なので、1日11日と12日にフーシ派のレーダーシステム、無人機、弾道ミサイル、巡航ミサイルの保管および発射施設を攻撃、政治的にも軍事的にも「強硬な姿勢」と「強い意志」を見せつけたが、一向にフーシ派の脅威は収まる気配がなく「軍事的対応による解決」を疑問視する声は多い。

ニューヨーク・タイムズ紙は米当局者の話を引用して「空爆は敵の攻撃能力を20%~30%ほど損傷もしくは破壊したに過ぎない」「フーシ派の標的を見つけるのが予想以上に困難」「米国や西側諸国はフーシ派の防空拠点、司令部、弾薬庫、無人機やミサイルの製造拠点といった情報収集にリソースを費やして来なかった」「この問題を解決するには外交的アプローチと中東地域における米国の力の限界を理解する謙虚さが必要」と指摘。

出典:The White House

海運業界の関係者も「今回の攻撃が短期的に役立つとは思っていない」「フーシ派のドローンやミサイルはどこからでも簡単に発射できる」「この攻撃で航行の安全が確保されたとは思っていないため紅海に誰も戻ってこないだろう」と述べ、国防総省もフーシ派の攻撃が続いているため「空爆は敵能力の低下が狙い」「現在も敵はある程度の能力を維持している」「フーシ派が直ぐに武器を捨てるとは思っていない」と說明していたが、バイデン大統領も18日「空爆がフーシ派の脅威を阻止できていない」「今後も空爆を継続するつもりだ」と発言。

これを受けてBreaking Defenseは「空爆によるフーシ派阻止が達成されていないとバイデン大統領が認めた」と、RANE Networkのライアン・ボール氏も「フーシ派に対する継続的な空爆はドローンやミサイルを使用した攻撃能力を弱体化させるかもしれないが、これだけでフーシ派の攻撃を全て止めるのは不可能だ」と指摘し、空爆の規模と期間が拡大していけば「状況のエスカレーション」が現実のもになってしまう。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class William McCann/Released

因みにハドソン研究所のクラーク氏も「本来の主戦場(東アジア)で使用されるべきSM-2を紅海で消耗している」と懸念しており、フーシ派に対する軍事作戦が長期化すれば「中国に対抗するための軍事資産」が紅海で消耗され、新たな問題に発展するかもしれない。

関連記事:安価な無人機やミサイルの迎撃コスト問題、米海軍も紅海でジレンマに直面
関連記事:フーシ派の攻撃能力は7割以上が健在、米軍は標的を見つけるのに苦労
関連記事:米紙、フーシ派の問題解決には米国の力の限界を理解する謙虚さが必要
関連記事:空爆だけでフーシ派の脅威を根絶するのは困難、紅海に誰も戻ってこない

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy Photo by: Petty Officer 3rd Class Janae Chambers

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コメント

    • wyuki
    • 2024年 1月 20日

    ウクライナ、ガザ。
    今度は紅海。
    それ以前にアフリカ諸国。
    21世紀のヒトラーたる習近平、プーチン、金正恩。
    その他第三世界の独裁者達の笑顔を瞼に浮かぶ今日~この頃。
    次は台湾~沖縄?

    4
      • baka
      • 2024年 1月 20日

      21世紀のヒトラーはネタニヤフ首相が一番しっくり
      きますよ、邪魔なら無二返せなんで

      31
    • 戦略眼
    • 2024年 1月 20日

    このままだと、エジプトが干上がるな。
    スエズ運河の通行料金が入らなくなる。

    19
      • sada
      • 2024年 1月 20日

      フーシ派には1962年まで存在したイエメン王国残党と言う面もありますからねえ
      (フーシ家は王国の有力者だし、フーシ派の運動は伝統文化が脅かされる事への反発から始まる)
      で、王党派はエジプトに煮え湯飲まされてるんですよね
      ここまでは事実。以下は憶測ですが、フーシ派はエジプトが困っても気にしないのではと思います

      7
    • n
    • 2024年 1月 20日

    > 「本来の主戦場(東アジア)で使用されるべきSM-2を紅海で消耗している」
    日本として懸念すべきなのはここなんですよね。
    アメリカは現状東欧と中東に武器弾薬など大量のリソースをつぎこんで消耗しているのですが、最終的にそれらが東アジアの防衛力にどういう影響を与えるかということを日本としても真剣に考えるべきだと思います。
    個人的には、日本のPAC3を融通した件についてもそんなことをしている余裕があるのか、東アジアの最前線である自覚が足りていないのではという思いがあります。

    31
      • 9dakg
      • 2024年 1月 20日

      今年1月8日から13日まで、中連部の劉建超部長が訪米してブリンケン国務長官等と会談していますので、その際にフーシ派攻撃や東アジアの緊張緩和について協議したと思います。
      わざわざブリンケン国務長官が出向いて協議していますので余裕は生まれたと思います。

      5
    • ふむ
    • 2024年 1月 20日

    イスラエルを止めればパレスチナ人は助かって、それでもフーシ派が攻撃止めないなら揺るがぬ大義名分持って攻撃できた
    そうせずに口では民間人の被害抑えろと言いつつもイスラエルに弾薬支援し続けて、更にはフーシ派攻撃するって事が、グローバルサウスにどう見えるかとか想像しないんですかね?
    「人命なぞどうでも良いからカネ儲けの邪魔は許さん!」って言う、アメリカ自身が批判してきた人権抑圧してる権威主義国家そのものですよ

    政治的にイスラエル支持の福音派が強いとか色々あるんでしょうけども、却ってアメリカとイスラエルの力が削がれる選択肢選んでしまっているような
    日本としてもアメリカに倒れられたら困るんですが

    36
    • 朴秀
    • 2024年 1月 20日

    フーシはイスラエルのガザ虐殺に対する抗議でやっているんだから
    イエメンにミサイルを撃ちこむよりも
    イスラエルに行ってネタニヤフを説得する方が解決に近づきそうですね

    本気で止めるならイエメンを侵略することになりますが
    そんなことは誰もやりたくないでしょうし

    29
      • Easy
      • 2024年 1月 20日

      日本としては非常に幸運な展開ですよ。
      アメリカの対中作戦が延期または中止になるので,無駄な戦争に巻き込まれてウクライナ化せずに済みますから。
      中国が台頭して太平洋の覇権が脅かされて困るのは「アメリカの都合」であって、我々日本人にはどうでも良いことです。
      太平洋の覇者が誰になるかという問題は、「日本の寿司屋にアメリカ人が来るか中国人が来るか、その程度の差でしかない」これが現実ですよ。

      22
        • Easy
        • 2024年 1月 20日

        どうにもレスの位置がズレる・・・

        1
      • ak
      • 2024年 1月 20日

      >フーシはイスラエルのガザ虐殺に対する抗議でやっている

      それって「単なる名目」でやってるのは明白でしょう。

      仮にガザで停戦したとしても、今度は「パレスチナの敵イスラエルを滅ぼす為」だとカンバン付け替えるだけだと思いますよ。
      なにせ親方のイランが極端な反米・反イスラエルですから、それが変わらない限りは目先のフーシ派の動きも変わらないでしょう。
      米軍は能力的にも、物資・資金的にもイエメン侵攻は出来ないでしょうし。仮にやっても失敗してアメリカの威信がますます下がるだけです。

      11
    • 58式素人
    • 2024年 1月 20日

    この方面でイージス艦や空母、SM2ミサイルを使い続けるのは高くつくので、
    無人偵察機/攻撃機、必要なら無人艦載戦闘機が良いのでは。
    米海軍でMQ-9を小型化したものを実用化していると思います。
    近くのジブチに基地があるのですから、そこから気長(?)に活動をしては。
    ジブチを根拠地にして活動する艦隊を増やす必要はあると思いますが。
    無人艦載機は、速度が700km/hくらいで、V/STOL機で、
    スティンガーとヘルファイアを運用できるものを探すことになるのでは。

    1
    • 幽霊
    • 2024年 1月 20日

    空爆だけで解決する問題では無いですよね
    根本的に解決するなら地上軍の派遣が必要ですけど流石にアメリカもそこまで踏み込めないみたいですから、攻撃はまだまだ続くでしょうね。

    11
    • たむごん
    • 2024年 1月 20日

    対空ミサイルのリソースを消耗しても、生産ラインに余力がないため、すぐに補填できないですからね。

    日本近海・台湾情勢など、極東情勢に悪い影響でない事を願っています。

    米軍備蓄は、既に危機的な水準ですからね…。

    6
      • YJ93
      • 2024年 1月 21日

      SM-2はすでに廃盤でSM-6に移行しているので、少し長い目で見るとSM-2については射耗してしまっても良いのかもしれません。
      なお、SM-6の生産数ももちろんそこまで多くはないので、イージスシステムでPAC-3MSE弾を使用できるように統合が進められているようです。
      射程は短いものの弾道弾の迎撃という面で見るとSM-6よりPAC-3弾の方が確実性が高そうです。
      PAC-3弾はライセンス生産分もあるので、潜在的な生産能力でもSM-6よりは期待できると思います。

    • a
    • 2024年 1月 20日

    イスラエルの犬をやるという地政学的国際政治的な下策をアメリカが続けているのがそもそもの問題
    安保理の停戦決議でのただ一国のみの反対(拒否権)、国連総会でのたった四ヶ国だけの反対(アメリカ、イスラエル、ミクロネシア、ナウル)
    180ヶ国近く(人類の総人口の94%)が賛成する中、イスラエルの犬として国家テロ、ジェノサイドを肯定し支援するアメリカは、まさに悪の枢軸
    地政学的失敗と言えばウクライナを煽りロシアの庭に手を出したこともそうだが、これに関してはまだ多少国際的な支持がある(人口的にも国家数的にも少数派ではあるが)けども、イスラエルに関しては本当に支持がゼロに近いというのが問題
    これはアメリカ的秩序が崩壊しロシアや中国が主導する秩序への誘因となる
    国際秩序を乱し、平和を戦乱に変えて人々を殺してきたのはアメリカだ
    ロシアや中国などアメリカと比べれば大したことしておらず、世界はアメリカこそがならず者国家だと気がついている
    本来、テロ支援国家アメリカが自爆しようが自業自得と言いたいところだが、残念ながら日本は中露と紛争を抱えている上に安全保障をアメリカに依存している
    日本としてはアメリカに自爆されては困るのだ
    そろそろアメリカには良識や国際協調を思い出して頂きたい

    35
      • kitty
      • 2024年 1月 21日

      >アメリカには良識や国際協調を思い出して頂きたい

      またまたご冗談を猫先生AA省略

      3
    • 暇な人
    • 2024年 1月 20日

    イスラエルが二国家共存拒否してるようなので虐殺は続きフーシ派は今後も活動続けるでしょうし、中東の不安定さは続くでしょうね
    マグレガー氏はイスラエルはアメリカの支援で中東戦争始めるつもりではないかと懸念してますね。

    12
    • 名無し
    • 2024年 1月 20日

    フーシ派の攻撃を完全に止めるなら陸軍を投入する必要があると思う
    でも現状アメリカが陸軍を投入することはほぼ不可能

    勘弁してくれ

    1
    • 2024年 1月 20日

    そもそもアフガンで屈辱にまみれてまで逃げ出したのは軍事資源を集中・節約するためだとバイデン自身が言っているのに、
    なぜまた戦線を広げようとするのか?それで支持率が上がるわけでもないのに、本当に痴呆症なのか。
    今の政権の優先順位が分からない。米国の国益すら優先していないように思える。

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