米国関連

米軍備蓄量が急速に減少、今後のウクライナ支援に支障が出る可能性も

米国防当局者はCNNに対して「155mm砲弾、スティンガー、ジャベリン、AGM-88HARM、GMLRS弾などの米軍備蓄量が急速に減少している」と明かし、今後のウクライナ支援に支障が出るかもしれないと懸念している。

参考:US is running low on some weapons and ammunition to transfer to Ukraine

仮にNATOの加盟国が保有する武器や弾薬を全てぶち込めば物量でロシアに負けることはないが、これは現実的に到底ありえない話だ

米国がウクライナに提供している武器や弾薬の大半は米軍備蓄から引き出されており、米軍の即応性を低下させない範囲で提供できる「余剰在庫」には限りあるのだが、約9ヶ月間も続く戦いで米軍在庫から引き出せる武器や弾薬は限界に近いらしい。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

さらに米防衛産業の製造能力もウクライナで消費されるニーズに到底追いついておらず、例えば米陸軍はHIMARSで使用されるGMLRS弾を年間3,000発~5,000発のペースで調達(GMLRS弾の年間最大生産量は約1万発)しているが、ウクライナ軍がGMLRS弾をフル装填した16輌のHIMARSで1日2回攻撃を行えば192発もGMLRS弾を消費することになり、米陸軍が調達する1年分を30日の戦闘で消費することなる。

米軍備蓄にGMLRS弾が幾らあるのか不明だが、2021会計年度以前に米軍は計5万発のHIMARS用弾薬(訓練弾のM28、GPS誘導のM31、射程拡張タイプのERを含むGMLRS弾+ATACMS弾の合計)を購入していることだけは確認されており、約2万発をイラクとアフガニスタンで消費したという指摘があるため米軍備蓄に眠るGMLRS弾の在庫は多くない。

出典:U.S. Marine Corps photo by Cpl. Jennessa Davey

ジャベリンも米軍備蓄の約1/3(6,000発以上)をスティンガーも米軍備蓄量の約1/4(2,000発以上)をウクライナに供与済みで、このギャップを埋めるのに2年~5年は掛かると見積もられており、80万発以上もウクライナに提供した155mm砲弾に関しては「米軍がリスクなく即応性を低下させない限界値」という指摘があるが、余剰在庫の限界は米軍が即応性のリスクをどこまで受け入れるのかに懸かっているので「米軍在庫の弾薬が底ついた」という意味ではない。

米軍備蓄の155mm砲弾量を回復させるため期待されているが韓国企業からの調達で交渉が進められているものの、韓国政府はウクライナに殺傷兵器を提供しないという立場は貫いているため「米軍が韓国企業が調達した155mm砲弾をウクライナ軍に提供する目的なら輸出は不可能」と主張しており交渉が成立するかは未知数だ。

出典:Jonathan Mallard / CC BY 2.0

ウクライナとロシアの戦争について米国を含むNATOの加盟国は「自国もしくはNATOとロシアの戦争ではない」という立場を維持しているため、自国軍の即応性に直結する武器や弾薬の備蓄を空にしてまでウクライナを支援するつもり無く、どこまで即応性に対するリスクを許容するかの判断も各国で異なるため戦時体制を整えてくるロシアといい勝負なのかもしれない。

仮にNATOの加盟国が保有する武器や弾薬を全てぶち込めば物量でロシアに負けることはないが、これは現実的に到底ありえない話だ。

出典:Public Domain 2022 Ramstein meeting

因みにウクライナへの武器支援を話し合うラムシュタイン会議にはNATO/EU加盟国の他に日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、イスラエル、ヨルダン、カタール、ケニア、モロッコ、リベリア、チェニジアといった国も参加しているが、実際に支援を行っているのは幾つかの国を除くNATO/EU加盟国とオーストラリアとニュージーランドだけなので、そろそろ他の国もリスクの受け入れを求められるかもしれない。

関連記事:米国が韓国から155mm砲弾を購入か、ウクライナ提供分の補充目的
関連記事:ウクライナ支援で減少した米軍備蓄、ジャベリン7,000発の補充に最低でも3年
関連記事:155日を迎えたウクライナでの戦い、HIMARS用弾薬の供給問題が浮上

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by Lance Cpl. Nicholas Guevara

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コメント

    • 無印
    • 2022年 11月 18日

    16輌のHIMARSが活躍するだけで生産が追い付かないって、もっとHIMARS持ってる米海兵隊や米陸軍が本気で使ったら、すぐスッカラカンなのでは…

    14
      • 航空万能論GF管理人
      • 2022年 11月 18日

      米軍は空からの航空支援が前提のドクトリンを採用しているので、互いに航空支援を拒否するような戦場でHIMARSによる精密攻撃を長期間行うことを想定していないのです。

      44
      • 匿名
      • 2022年 11月 18日

      本来航空機で叩くような目標も、HIMARSで叩いているからかなぁ?
      今後の台湾有事を考えると支援が先細るのも致し方ないのかもしれませんね。

      24
      • けい2020
      • 2022年 11月 19日

      記憶が間違ってなければポーランドは、HIMARSを500両導入予定だった気がするんですよね
      これ、HIMARS弾薬の年間生産量5万発に大増産投資しても、規定数調達に何年掛かるのか

      1
    • なつ
    • 2022年 11月 18日

    三角供与じゃないけど日本など同盟国が米軍在庫の補填増産を受け持つ代わりに米軍からウクライナへの供与は続けるとかが落とし所ですかね?

    25
      • 戦略眼
      • 2022年 11月 18日

      それを韓国が拒否しているようですね。
      T-80やBMP-3は出さないし、砲弾の増産融通は拒否するし、一層のこと北朝鮮を突付いて自国で消費させれば良いんじゃないかな。
      それより、宗主国様の尖兵として南北ともロシアに攻め込まされるかな。

      12
        • nachteule
        • 2022年 11月 18日

         また貴方か、そんなに韓国叩きたいのか。提供しない理由なんてここでも何回もでているし、自分の思い通りにならない情報は無視ですか。

        26
        • 似非市民
        • 2022年 11月 19日

         韓国からするとウクライナは、朝鮮戦争の敵であった旧ソ連の一部でソ連崩壊後も北韓に武器技術を供与していた敵性国家ですから助けなければならない義理は無いでしょうな。

         非軍事援助をしているだけでも敵に塩を贈ってるわけですからねえ。
         宗主国様云々でしたら自衛隊が北方四島に攻め込まされるんじゃないですかね?

        3
    • 兵長
    • 2022年 11月 18日

    さて日本はどうするか…
    弾薬、部品の出来るだけの備蓄を頼む!
    予算も徹底的に見直して本当に要る物を選びその上で予算増やしてくれ!

    12
      • HAi
      • 2022年 11月 18日

      まずはその話し合いをやるかを話し合うための会議のための各派閥内での意見調整を行います()

      13
      • 匿名11号
      • 2022年 11月 18日

      つまり当面は予算を増やさせないけど、弾薬部品は貯めておけと。
      そういうのはアクセルブレーキと言わんか?

      3
      • 2022年 11月 19日

      現在政府が防衛装備移転三原則の見直し案をウクライナへの武器支援を念頭に策定、与党に提示しています
      リンク

      1
    • 58式素人
    • 2022年 11月 18日

    あまり、なりふりをかまっていられなくなるかもですね。
    米国にまた負担をかける形になるけれど。
    東欧の旧ソ連製戦闘機・攻撃機をウクライナに融通する必要があるかと。
    当然、代替機材が必要ですが、要員の転換訓練をする間、
    米空軍に当該国に空軍力を展開してもらうしかないのでは。
    代替機材は最初は東欧諸国の希望より古いものになるかもですが、
    段階的に改修を行う態勢も作らないとですね。
    何でもかんでもL・M社任せではダメなのでは。

    2
      • hiroさん
      • 2022年 11月 18日

      お互いに航空優勢が取れない状況だから、ウクライナ·ロシア双方がミサイルや榴弾砲主体の戦術なのに(ロシアはカミカゼドローンも投入)、ウクライナが空爆に切替えられますかね?
      ロシアもS-400他対空装備はかなりの数が健在だと思いますよ。

      6
        • 58式素人
        • 2022年 11月 18日

        思うに。
        ロシア側の、自爆UAV+巡航ミサイルによる飽和攻撃が息切れすると、
        ウクライナ側の空軍力がやや優勢な状態になると思います。
        AEWによる管制と対レーダーミサイルによる部分が大きいですが。
        今は飽和攻撃に対応するのに忙殺されているのではと思います。
        現在、西側の防空システム(新/旧混合)が供与されつつあるようですが、
        NASAMなどはロシアの飽和攻撃に対し、有効なようですね。
        それに加えて戦闘機が増えればさらに良いと思います。
        飽和攻撃への対応に目処がつけば、空軍は空爆に行けるのではと思います。

        4
    • ミリオタの猫
    • 2022年 11月 18日

    このタイミングに合わせた訳なのかどうかは分かりませんが、東部戦線では戦闘が激化しつつある様なので、米国側から各国へ警告を出している感じかも知れませんね。

    2
      • ヤゾフ
      • 2022年 11月 18日

      米国はかなり正確に情報を把握してると見られるので、おそらく欧州へもっと出せというシグナルのように見られます。
      米国の二正面ないしは1.5で戦うというのに根本的な使用兵器数で見積の甘さも出てそうな感じもします。

      16
        • けい2020
        • 2022年 11月 19日

        第一次世界大戦でも戦前想定の100倍の砲弾消費したとかおぼろげな記憶がありますね
        第二次世界大戦でも同じ感じですし、今回も同じぐらいは想定外に消費してるのかも

        4
    • 匿名希望
    • 2022年 11月 18日

    インド、マレーシアなどからロシア軍機を買い取る羽目になったりして

      • 戦略眼
      • 2022年 11月 18日

      いや、無理だろう。
      ロシアと国交断絶に近いことになるからね。

      5
    • たけやぶやけた
    • 2022年 11月 18日

    日本はMLRSを廃棄予定なのだし、法整備が整えば拠出して良いと思いますがね。
    アメリカに恩を売れる絶好の機会でしょう。

    3
      • 熱燗
      • 2022年 11月 18日

      米国に恩を売るためじゃなくて、ウクライナを助けるためにやるんだよ。

      あと廃棄予定のMLRSは現行のM31に対応してないかもしれんから、管制システムをアップグレードする必要があるかもしれん。

      12
        • nachteule
        • 2022年 11月 18日

         搭載弾薬も無い車両を部品取りにしても長期間保管する意味も無いと思うから全車両IHIによる射撃統制装置改造済みと考える方が自然では?M26廃棄後にM31導入してるんだし。

        5
    • samo
    • 2022年 11月 18日

    いまだ手つかずの極東地域の武器の買い上げを米国が求めるのは簡単に予想できる

      • 匿名
      • 2022年 11月 18日

      その方が日本政府にとって、責任が分散されて都合が良いと思いますね。
      それに米国からの要請や文句によって、自衛隊の役割が拡充されてきたのですから、自主性の無さに苛立つよりかは、ようやく拡充される機会が来たと、前向きに捉えた方が良いかもしれません。

      9
      • kitty
      • 2022年 11月 19日

      やっぱりガイアツがうちの国では一番ですよねえ。

      1
    • mun
    • 2022年 11月 18日

    NATOのウクライナ支援は決して純粋なボランティアではなく
    ウクライナがロシアに侵略される事を許す事が彼らの国益を損ねるからです
    そうでなければ、国民も議会も多額の支出を許すはずがありません

    アメリカは無関係の第三国では決してなく
    まさにこの戦争の当事者と言っても過言ではない
    だからこそ、ここまでの支援を行っているわけです

    あ~備蓄が少なくなってきた、ゴメン支援やめるわ、なんて言えるはずもなく
    なにが何でもロシアを勝たせるわけにはいかないのがアメリカの立場でしょう
    西側戦車や戦闘機の供与を渋るものだから、戦線が膠着して弾薬の消費が激しいのです
    ロシアは引く気などさらさら無いのですから
    さっさとゲームチェンジャーとなる武器を渡すしか無いと思うのですがね

    21
    • STIH
    • 2022年 11月 18日

    とうとう息切れが始まりましたか。今回ウ露戦争はロシア側の息切れが著しい以上何とかなるでしょうけど、問題その後、中国が動いたら、継戦できなくなりかねん。
    一方でこの兵器の備蓄水準を回復させるため、抑制されていた西側の兵器の生産量が増加するでしょう。そしたらたとえ中国であっても兵器の生産量競争で圧倒することはできなくなるでしょう。
    あとはその空白の時間でどうやって中国開戦を抑止するかにかかっているんじゃないんでしょうか。

    2
    • 高嶺
    • 2022年 11月 19日

    ここでウクライナへの支援が滞り
    ウクライナが敗北したら
    アフガニスタンでの大失敗に次いで2連続の敗北になるんでアメリカも後には引けないでしょう

    9
    • 名無し2
    • 2022年 11月 19日

    アメリカと同盟国はそろそろちょっと本気出さないとやばいところまで追い込まれたということか。やはりロシアは強い

    5
    • 折口
    • 2022年 11月 19日

    米軍は既に在韓米軍の在庫まで手を出しているという話もあり、これ相当にまずいと思うんですよね。国内軍から引き抜いていくならまだしも、最も即応性が求められるホットゾーンの在庫すら引っ張ってこなければいけないというのは流石に…。あと、米軍の155ミリ榴弾規格はM107からM795に徐々に移行しているらしいですが、日本を含む同盟国はM107を現役で使っている=榴弾はM107しか生産できないところもあるでしょうから、果たして代替供給がどこまで出来るのか。

    砲兵の戦争とも言われた第一次世界大戦の西部戦線では、主要な参戦国の殆どが戦後に重い負債を抱え込む結果になりました。西部戦線には及ばなくとも、これがあと何年も続くようであれば支援する側の体力という問題にもなるでしょう。

      • けい2020
      • 2022年 11月 19日

      それに関しては韓国軍納入分をポーランドにまわしてたりするので今更かもです
      そもそも韓国軍も別に余裕ないんだが、完全に平和ボケかもしれん

      もともと在韓米軍に陸上部隊はどんどん削減されて、28500以下にする制限すら2022からなくなってますから
      未回収在庫を回収してるだけかもです

      1
    • TKT
    • 2022年 11月 19日

    いろいろと婉曲的な表現が多用されていますが、これは要するにウクライナ軍がロシア軍に負けるかもしれないということです。

    在韓米軍の弾薬もウクライナに送っていると言いますが、在日米軍と自衛隊の共同演習での射撃訓練が突然中止されたのも同じ理由かもしれません。これでは台湾有事に備えるどころではありません。

    アメリカ軍の弾薬が底を尽き始めたのは、すでにイラクやアフガニスタンで相当量の弾薬が消費されていたことに加え、アメリカ政府の債務不履行を防ぐために、国防総省の予算が毎年大幅に削られていたこともあり、さらにドル高、物価高で、アメリカ国内での生産や投資は非常に高くつくことになります。

    またこれはアメリカ軍、NATO軍が構造が複雑、高価で、大量生産に不向きの精密誘導兵器、最新兵器を偏重しすぎて、消耗戦を軽視したというのもあるでしょう。

    アメリカにとっては、ロシアに勝たせるわけにはいかない、後には引けない、というのはもっともですが、物理的にない袖は振れないのです。

    こんな話がアメリカから出ると、前線のウクライナ兵の士気は下がり、ロシア兵の戦意は上がるような気もしますが、かといっていつまでもアメリカに弾薬がないのを隠し続けることもできません。

    ポーランドにミサイルが落ちた話もタマ切れの話と無関係ではないかもしれません。

    2
    • 名無志野
    • 2022年 11月 19日

    一部の陸戦兵器に偏って支援しているから著しく消耗してしまうのでは…
    それとは別にウクライナ軍の既存防空兵器の弾薬も激しく消耗していてこれらの弾薬の製造支援や航空機の供与など方針転換が必要だと思います

    2
    • サンディカリスムな名無しさん
    • 2022年 11月 19日

    合衆国がF16や旧式M1を供与しておけば陸上戦砲弾の不足に悩むなんてことは起きていないはず。
    供与を渋ってる本当の理由ってなんなんでしょうか?

    1
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