米国関連

ウクライナでShahed-238の残骸が見つかり、新型のShahed-107も完成間近

Shahed-136のジェットエンジン搭載バージョン「Shahed-238」と思われる残骸がウクライナで確認され、Sky Newsは「イランがロシア向けに開発している新型無人機(Shahed-107)が完成に近づいている」と報じている。

参考:Russia May Have Started Using Jet-Powered Shahed Drones In Ukraine
参考:‘Explosive’ new attack drone developed by Iran for Russia’s war in Ukraine

如何に相手の変化に適用するかが「戦場での優位性」を決定づけるのだろう

ロシア軍は2022年にイラン製の自爆型無人機「Shahed-131/Geran-1」や「Shahed-136/Geran-2)」を使用してウクライナに大きな被害をもたらし、The Times of Israelは「Geran-2のナビゲーションシステムが民間グレードのGPSからGLONASSに置き換えられている」と、ウクライナ当局は「タングステンの破片をばら撒く新型弾頭を搭載している」と報告、さらに撃墜された残骸からキーウスターのSIMカードと4Gモデムが見つかっており、既存の技術を流用してGeran-2の能力は洗練されつつある。

出典:Fars Media Corporation/CC BY 4.0 Shahed-136

イランが2023年11月に披露したShahed-136のジェットエンジン搭載バージョン「Shahed-238」と思われる残骸も2024年に確認されており、米ディフェンスメディアは「Shahed-136と比較して巡航速度が3倍以上も向上しているShahed-238(500km/h)は迎撃側の対応能力を圧迫する」と指摘したものの、ジェットエンジンの採用によって「Shahed-131/Shahed-136ほど安価ではなくなり調達性が悪化している」「高温の排気熱は赤外線誘導ミサイルに対する脆弱性を増大させている」と予想。

それでも「高価な巡航ミサイルよりは安価でウクライナ軍の防空能力に問題を引き起こすだろう」と述べており、戦場に登場したShahed-238のインパクは小さくない。

さらに興味深いのはSky Newsが情報筋の話として「イランがロシア向けに開発している新型無人機(Shahed-107)が完成に近づいている」と報じている点で、この情報筋はShahed-107について「V字尾翼を備えたShahed-101に映像のライブストリーミング機能を組み込んだ派生型」「Shahed-107は前線の後方でHIMARSやMLRSといった価値の高い標的の捜索に使用される可能性がある」と予想している。

無人機が撮影した映像をリアルタイムで送信すること自体は珍しくないものの、恐らくイランはデュアルユースの技術や民需向け製品を組み合わせて「安価なISR向け無人機」を開発している可能性が高く、認識力の範囲が拡大されると射程の長い兵器システム(砲兵装備や防空システムなど)が破壊されるリスクが増大して運用に影響を及ぼすかもしれない。

出典:The Defense Intelligence Agency イラクで回収されたShahed-101

要するにウクライナ軍の防空能力が強化されるとの同じように、ロシア軍も使用する無人機の能力や戦術を進化させているため、如何に相手の変化に適用するかが「戦場での優位性」を決定づけるのだろう。

関連記事:ウクライナ空軍、撃墜したShahed-131/136の数が3000機を超えたと発表
関連記事:2024年に無人機工場が完成、ロシア軍に供給される無人機の規模は桁違い

 

※アイキャッチ画像の出典:Iranian State Media

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コメント

    • のー
    • 2024年 1月 10日

    小型のレシプロエンジンなら、中古のバイクでもバラせば安く大量に入手できそうです。
    しかし既に書かれてますが、ジェットエンジンはかなり高価になりそう。

    3
      • 理想はこの翼では届かない
      • 2024年 1月 10日

      マイクロタービンエンジンのKolibriが小売価格で2000ユーロ(32万円前後)なので、近い品を大量購入すれば1機あたり500~1000ユーロ(8~16万円前後)以下で調達できるのでは?
      Shahed-238で使われているエンジンがこれぐらいのサイズなのかがちょっとわからないですが

      7
    • 58式素人
    • 2024年 1月 10日

    どうなのでしょう。
    時速500km/hくらいならば、既存の対空機関砲で墜とせるのでは。
    レーダーなどで先に見つけていることが必要ですが。
    ゲパルトで対応できそうな気がします。
    ただし、飽和攻撃に備えて、数が必要でしょうか。
    一番安価なSAMは米国のAPKWSの転用と思いますが、
    以前の記事では1発250万円くらいとありました。やっぱり高くつきますね。
    ここは、値段的にも対空機関砲の出番のような気がします。

    1
      • Easy
      • 2024年 1月 11日

      基本的に対空機関砲が効果を発揮するのは「自分または自分の近くに向かってくる標的相手」なので。
      シャヘドが狙ってくると分かっている場所にゲパルトを配置しておけば高確率で落とせますが、ゲバルトの近くを飛び去るシャヘドに対しては大きく命中率が下がります。さらに3倍の速度で飛来するなら迎撃に使える時間が1/3になりますので、撃墜率は激減しますよ。
      対空機銃の有効射程がわずか半径2キロほどしか無いことも考慮すれば、ゲパルト1台で守れるのはわずか1箇所だけですから、ウクライナ国内の守らねばならない場所の数から比してなかなか絶望的かと思いますね。

      22
        • 58式素人
        • 2024年 1月 11日

        そうですね。
        仮に、ミサイルで迎撃するにしても、MANPADSなら、
        射程は5kmといったところでしょう。数は必要ですね。
        ジェットエンジンであれば狙い易くなるかもですが。
        他所の記事などを見ていると、ウクライナ側は、
        軽車両に重機関銃とサーチライトを載せたものを、
        ドローンの目標付近に先回りさせて、
        撃墜する形で成果を出しているようですね。
        多分、広域対空監視の組織も出来ていると思いますが。
        使い方次第では無いか、と思います。

        1
      • J
      • 2024年 1月 11日

      ゲパルトのような車両は
      対戦車ミサイルにアウトレンジされるので
      一度価値を失った兵器です。

      敵がラジコン飛行機レベルの
      無人機になって価値が戻った訳ですが
      無人機がミサイルに近い形態に進化すれば
      満足に対処できなくなる。

      同様に、最強神話のあったレオパルト2も
      新型ランセットの登場によって
      安いドローンに狩られる的になってしまった
      的になってしまった

      4
    • 例のアレ
    • 2024年 1月 10日

    日本は結局自爆ドローンは何買うんやろな
    大型無人機に関しては丸紅がバイラクタル、川崎がヘロンで情報が出てるんだけど
    今の時代自爆ドローンの方が重要だと思うんだけど

    2
      • 2024年 1月 11日

      日本は結局海戦を考えないといけないから、海洋で艦船狙える自爆ドローン探すんなら結局ミサイルでよくね?になると思う。
      陸自でゆっくり研究するくらいならありそうだけど、率先して導入したりはしないんじゃないかなぁ。
      日本で自爆ドローンが活躍する時って上陸されてるし。
      対ドローンの研究は最優先だと思うけど。

      6
        • 58式素人
        • 2024年 1月 11日

        用途は限られますが、飛行機タイプの自爆ドローン
        はどうかなどど思ったりしています。
        中共の海上民兵の漁船団とか、上陸用舟艇の集団とかを目標にして。
        砲やミサイルで眼ラウト、どうしても手間と数が必要でしょうから。

        1
        •    
        • 2024年 1月 11日

        陸自で使う偵察・観測ドローンの方が開発配備の優先度は高いですね。
        外洋で自爆ドローンを使うくらいなら、対艦ミサイルや魚雷をブチ込めばいいだけだしw
        というか長射程対艦巡航ミサイルのほうが遥かに射程も長くて破壊力も高い。

        あえて海で使うなら自律高速哨戒ボートみたいなのを、常に離島なんかの海域でパトロールさせて、
        攻撃したり特攻して自爆攻撃なんかもできるようになれば、中華民兵漁船や揚陸艇の脅威になると思う。

        1
    • マダコ
    • 2024年 1月 10日

    従来の兵器が、もたもたしている間に、ドローンはどんどん進化していきますね。どこかで頭打ちになり、進化の速度は落ちるのでしょうが、ここ数年は進化を続ける勢いですね。おそらくは、この戦場で、値段と性能の兼ね合いで、現状もっとも適値に近いドローンが使われているのでしょう。

    12
      • 歴史と貧困
      • 2024年 1月 11日

      戦争が技術の進化とブレイクスルーをもたらすという鉄則が今回も、といった印象です。

      アメリカが21世紀に行ってきた「テロとの戦い」は非対称戦争でしたので、年度ごとに決まった予算内でやりくりせよ(基本的には減額方向で)とかなり議会から無茶振りされてましたが、国家間の正規戦ともなれば、使える予算や投入される人的資源が段違いになります。

      ただ、アメリカの仮想敵国で正規戦になりそうな相手となると、核兵器保有国ばかり(北朝鮮ですらも)になってしまうのも一種のジレンマですかね。(イランもウラン濃縮は製造可能レベル)

      7
    • Easy
    • 2024年 1月 11日

    それにしてもモデムとsimカード載せて敵国の民生通信網にただ乗りという設計思想,ソ連は鉛筆を使った的な風味があってさすがロシアというか・・・割り切ってますね。

    32
      • paxai
      • 2024年 1月 11日

      ロシアの軍需企業は制裁に掻い潜り素晴らしい働きを見せてると思う。品質 生産量 新規開発 どれも予想を遥かに上回る水準だわ。  しかしながら現場の指揮官に多くの問題があるようだ・・・

      3
      • kitty
      • 2024年 1月 11日

      しかもウクライナ製だという落ちまで付いているという…。

      12
        • Easy
        • 2024年 1月 11日

        日本国でこんな企画出したら「ふざけてんのか!」って怒鳴られて偉い人に呼び出されて怒られそうな仕様ですよね。
        これが通るのがロシアなのか,と。恐ロシア的思考の一端を見た思いです。そりゃ強いわ、こういう連中・・・

        6
    • kame
    • 2024年 1月 11日

     皮肉なことであり、当たり前のことでもあるが、軍事兵器は実戦を重ねないと現場での有用性が判断しにくい。ウクライナ・ロシア両軍の多大な犠牲の上に成り立ったドローンの発展が何処まで行くのかは分からないが、今回の戦争が終了した後、紛争地帯では量産化されたドローンが使われるのは既定路線でしょう。
     戦車や航空機などと違って、テロリストが使用する事も十分に考えられるため、各国の警察も対応策が必要になるのも遠くないかも知れないですね。

    17
      • 歴史と貧困
      • 2024年 1月 11日

      警察や公安委員会レベルでも、となれば、難民が押し寄せる国境の警備隊や州兵なども同様になるのですかね。紅海のフーシ派やソマリア沖の海賊などが活用するのも当然ありそうです。

      このような安価なドローンを使用して国境フェンスの一部を破壊し、難民を無理やり送り込むような難民ビジネスなども、ISなどの過激派や麻薬シンジケートが連携すれば出来てしまうのが怖いところ。

      5
      • nimo
      • 2024年 1月 11日

      貧弱な武装組織相手には高台の陣地にグレネードランチャーや榴弾砲を設置して
      新人でも配置しとけばよかったのが
      常時命を狙われる立場になるので現場のストレスも厳しいことになりそうです

      6
    • キットカット
    • 2024年 1月 11日

    ウクライナ戦争で学んだ事はコストと調達スピードの速さが重要だということ
    鉄板引いたタンカーにいすゞ当たりのトラックを利用した発射台を乗っけて、お手軽アーセナルシップみたいな感じで巡航ミサイルと併用して有事の際に運用すれば、相手の湾港に配備された防空ミサイルに負担をかけられて凄く有用だと思うから、高いトマホークとかばっかり購入するんじゃなくて1800~2500km位の後続距離がある国産化したシャヘドを作った方がいいと思う

    12
      • nachteule
      • 2024年 1月 12日

       今の日本だと敵対国の領土にコラテラルダメージの可能性含めて雨霰と兵器を撃ち込む事が出来るか疑問だな。今のウクライナでも支援国向けのアピールなのかロシア国土に対しては遙かに少ないUAVでの抑制した攻撃をしているだけのように思う。
       日本が敵対国の領土に対して反撃するならば似たような感じでステルスか速度・機動性で生存性を上げた高威力のミサイルで限られた攻撃するのが精一杯じゃないだろうか。

       個人的に速度の遅さと限られた威力だと迎撃手段が限られて攻撃タイミングの主導権を握りやすい日本本土か離島に上陸した敵を攻撃をするのに向いている感じはする。

    • 暇な人
    • 2024年 1月 11日

    ミサイルよりもドローンだよな。
    つまり戦争はコスパ
    平時なら軍の規模備蓄コストや人員もあるから少数の優秀な兵器で回すけど、消耗戦になったら安くてそこそこの兵器をどれだけ量産するかになる。
    ファミコンウォーズとか大戦略で安い兵器をひたすら量産して敵に突っ込ませて勝ったの思い出したわ
    人員には可愛そうだけど、それができる国は「強い」わな
    ましてや人が死ななですむドローンならそうなる

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