ニューヨーク・タイムズ紙は「ウクライナに提供する155mm砲弾100万発の内、相当数がイスラエルと韓国から来ている」と報じており、米企業による砲弾生産が拡大するまで「海外備蓄分」と「韓国企業からの砲弾供給」で急場を凌ぐつもりだ。
参考:Pentagon Sends U.S. Arms Stored in Israel to Ukraine
参考:Ukraine finally launches domestic ammunition production. How will this impact the war?
米企業の155mm砲弾製造能力は月1.5万発、2023年春までに月2万発、2025年までに4万発まで引き上げる予定
戦線が膠着状態に陥ったウクライナ軍とロシア軍にとって砲兵戦力は地上戦の要で、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙は「この戦いの行方はどちらが先に砲弾を使い果たすかに掛かっている」と指摘しており、欧米当局者によればウクライナ軍は現在「月約9万発=約3,000発(欧米企業が毎月製造する155mm砲弾数の約2倍に相当)」の155mm砲弾を消耗しているらしい。
米国は約100万発の155mm砲弾提供を約束しているが、NYT紙は「この砲弾提供の相当数(30万発以上)はイスラエルと韓国にある備蓄分から来ている」と指摘しており、砲弾自体の所有権は米国政府にあるものの当該地域から移動は安全保障に影響を及ぼすため両国の了承を得なければならず、ラピド前政権は「移動を容認すればウクライナへの武器供給に加担しているとロシアに見なされ、シリア空爆を制限されるかもしれない」と懸念して交渉が難航したものの最終的に米国との摩擦を避けるため計画を承認。
米政府高官は韓国と協議について「尹政権はイスラエルよりも備蓄砲弾の移動に協力的だった」と証言しているが、韓国も備蓄分(Republic of Koreaと書かれた砲弾と報じているため在韓米軍の備蓄は韓国企業から調達しているのかもしれない)をウクライナに直接移動させることに反対したため「米本土の砲弾備蓄を補充するための移動」という妥協案で合意、さらに韓国企業が製造する155mm砲弾10万発の購入契約(これも最終使用者が米国という形で輸出)も成立。
米企業による155mm砲弾生産が拡大するまで「海外備蓄分」と「韓国企業からの砲弾供給(減った備蓄分補充に当てて米企業製造分をウクライナに回すという意味)」で急場をしのぎ、持続可能な155mm砲弾の供給体制を整えるつもりらしいが、ウクライナ軍の砲兵戦力には別の問題も浮上している。
ウクライナ軍はロシア軍との火力差を埋めるため西側製の榴弾砲や自走砲を酷使しており、1日あたり100発以上の砲弾を発射するウクライナ軍の運用方法(連続射撃モードの多用)はPzH2000の装填機構やシステム自体に大きな負担を与えたためオーバーホールが必要で「リトアニアの整備拠点」まで陸送しなければならなかったが、フランスが提供したCaesarも「地獄のような連射で消耗して18輌の内17輌がメンテナンスを必要としている」と仏メディアが報じている。
NYT紙も「欧米が提供した榴弾砲の約1/3がメンテナンスのため前線を離れて使用できない状況にある」と指摘しているので、砲弾供給だけではなく砲兵装備を追加供給して1門あたりの発射数を下げるか、国内のメンテナンス体制の充実とスペアパーツの供給量を増やすなどの対策が必要なのだろう。
因みに米企業は月に155mm砲弾を1.5万発製造する能力があり、米国は2023年春までに月2万発、2025年までに4万発まで製造の能力を引き上げる予定で、ソースを失念したが欧州最大の砲弾製造企業(スロバキア企業だったような気がする)は砲弾の年間製造量を2倍に引き上げる予定(1.5万発)らしい。
さらに旧ソ連製の榴弾砲・自走砲で使用する152mm砲弾の製造に乗り出したウクライナ国営企業のウクロボロンプロムは「月1,000~2,000発の砲弾を製造している(2023年1月時点/国外に製造拠点があるぽい)」と明かしており、ロシアは月2万発の152mm砲弾を製造しているという見積もりがあるものの事実かどうかは不明だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
時代遅れの物量作戦が威力を発揮するのは、この戦いが制空権の保護なしで行なわれているからだ。ウクライナ軍が制空権を手に入れない限り、いつまでも消耗戦が続く。いくら送っても、キリがない。
逆に制空権さえ手に入れてしまえば、一気に決着が付く。ロシアが何十万人と動員しようとも、全て苦も無く死体に変えることが出来る。
西側と東側とでは操作方法が違い過ぎるので、今からウクライナ空軍のパイロットを訓練しても、戦いには間に合わないという。また有人機の代わりが務まるほど高度な自立飛行能力を持った無人機は、現状では夢物語だ。
ハイテク企業の力を借りて、地上攻撃が可能なドローンの試作機を開発とかできないものだろうか。ウクライナも新型ドローンが手に入るのなら、実験場として使われても構わないと思っているだろうに。
アメリカだけでなくイスラエルも、貴重なデータを手に入れるチャンスだろうに。ドローンに搭載するAIの開発に力を入れているイスラエルは、実戦での運用データがノドから手が出るほど欲しいのではないのか?
日本の155mm榴弾砲の製造能力ってどれくらいなんでしょう?
増産体制整えて
米軍が安心してウクライナに供給出来るように側面支援していると信じたいところですが・・
日本の武器輸出規制が厳しいのは知っているのですが
どこからが武器としてみなされるのでしょうか
最大直径155㎜の特徴的な円錐形の鋼鉄製中空容器として
中身抜きでアメリカに輸出するのでもアウトなのでしょうか
そんな物をアメリカが輸入する意味はあるんですか?
どこの国で生産されようが、納入品の精度、価格、数量、物流コスト等の諸条件に比較優位性が認められれば取引は成立します。
部材の製造加工は手間がかかるので部品単位での国際分業したほうが利点が多いです。
最終組み立てされて完成して初めて武器と認定されるため、日本企業も参入しやすいと思います。
火薬が入ってなければ文鎮や記念碑の台座ですからね。
容器だけならわざわざ日本から輸入しなくてもアメリカ国内で充分作れると思いますけどね
ミサイルなどの精密兵器なら国際分業するのは分かりますが。
鋼鉄製の容器はそこまで製造難易度が高いわけでも無いと思いますし。
中間部材なら東北の企業でとっくに作って輸出してますよ
銃砲弾及びその部品等は「輸出貿易管理令 別表第一の一」に相当し、正規手続きを経て経産大臣が認可すれば輸出できます。
志向地が米国の場合はまず問題ありません。
(訂正)
相当→該当
現代では数十万発すら西側全体でヒーヒー言いながら集めてますが、第一次世界大戦時は多い時は一日最大100万発以上の砲弾が使用され、戦争全体で十数億発の砲弾が使用されたそうで…これが100年前の戦争とかヤバすぎる。
現代じゃこんな大量生産は無理だろうし、ある意味ロストテクノロジーなんですかね
大阪砲兵工廠では最盛期には6.4万人で関係企業とかまで含めると20万人も働いてたとあるねえ。
爆発物を恐れない勇敢な人達による人海戦術が必要なのだろうな。
労災を気にするようになった今の私達には当時の生産性は真似出来んな・・・
なりふり構わぬ採算度外視の総力戦体制と利益最優先の平時体制を比較してるのが間違いかと
例えばトヨタは砲弾とは比べ物にならないほど複雑な車を国内で年間287万台(2021年)も作ってます
月産約24万台、アメリカが155mm砲弾を1発製造する間に16台車作ってるわけです
これが可能なのはそれだけの需要があり利益が出るからです
ウクライナ戦争前にはそこまでの砲弾需要はありませんでしたし、今この瞬間足りないからと一気に生産ラインを拡大すれば戦後暫くしたら持て余すのが目に見えてるので皆やらないわけです
ちなみにアメリカでは銃弾を年83億発製造してるらしいですが、どれ位が民需なのか気になりますね…
日本も
①防衛装備移転三原則の改正
②ウクライナ支援装備を盛り込んだ補正予算の成立
③複数年度にわたる防衛予算の拡充
せめてこれくらいは示さないと、長年にわたる防衛予算冬の時代で委縮した防衛産業が供給量の拡大に向けた設備投資を行うと思わないでしょう。
最も、生産基盤の強化支援を令和5年度予算に盛り込んでいるのはこのサイトにいる皆様はご存じのとおりではありますし、上記の項目も早ければ来週に開催される通常国会で成立する可能性はあると楽天的に考えていますが。
そんな難しく考えなくても、
現行法でも、韓国がやっているみたいなアメリカ等を介したところてん方式の武器供与なら今日からでもできるよ
愚かな日本政府と日本国民がのさばっているせいで、できるのにやっていないだけ
今回韓国が米国に弾薬を輸出するのは米側からの要請があったからでしょ。
無償提供するわけではなく、最終使用者が米軍という建前の国際商取引です。
生産能力と単価の点で日本には要請が無かったてことかと。
一応、今月末から始まる通常国会で自衛隊法を改正しウクライナへの武器提供の道を開くと報道されています
不思議なのはロシアですよね。ロシアの無限の砲火力は「軍需企業の生産能力が高い」という説明がされます。確かにロシアは軍の大演習でもちょっと驚くような量の弾薬を毎回使っているので、補充能力は相応に高いとは思います。ただ、それでもやっぱり毎日数千発を生産量から賄うというのは現実的じゃないし(調達には資金が必要)、結局は過去の軍事備蓄を食いつないでる比率が少なくないんでしょう。
ソ連時代の予備役訓練には砲兵枠もあって、60年代に退役した122ミリ砲が彼らの担当だったといいます。当時の予備役兵はもう高齢者ですが、彼らが使う予定だった砲と砲弾は未だ倉庫に眠っているはずで、数十万発単位で備蓄されている弾薬がロシア全土にあるのでしょう。万発なのか億発なのか分かりませんが、備蓄である以上いつかは尽きます。また、砲弾在庫の備蓄を主に行っていたのはソ連時代でしょうから、古くて使えないものも一定数あるでしょう。ソ連規格の榴弾砲は弾頭と薬莢をセットで保管する形式のものがあるのですが、発射薬が劣化して規定の燃焼圧が出ないと「砲弾が砲身内部に残る」という最悪の状況になります(砲弾の信管が作動してる可能性があるので、こうなると容易には手出しできない)。ウクライナ側の証言としてすでに有意な不発率、つまり弾頭側の劣化の報告は出ているのですが、こうした古い砲弾の弊害は砲兵が被ることになります。今日明日にロシア軍の攻勢が頓挫するという話ではないですが、ロシア側も決して無負担でやっている訳では無いんだと、そういう事だと思います。
以前の記事で。
ドイツが砲弾生産が増えないことの言い訳として、中国製のセルロースの不足をあげていたけれど、
実際はどうなのでしょう。日本の場合はどうなのでしょう。
あの時の記事では、繊維を採取した後に実のまわりに残る短繊維を使うとしていましたが。
それに対して、採取した繊維を裁断すれば良いとの議論もあったと憶えています。