米軍のミリー統合参謀本部議長はForeign Affairs誌に「ウクライナは反攻準備が出来ている」と明かしたが、同時に「この戦いをNATOとロシアの衝突に拡大させることだけは絶対に避けるべきで、ロシアと中国が接近しないよう手を尽くす」と述べた。
参考:How to Avoid a Great-Power War
当初から言われている通り「交渉立場を強化する範囲の軍事的勝利」を収めて話し合いによる戦争終結を目指しているのだろう
Fox Newsの取材に応じたブリンケン国務長官は「ロシアの当初目標は地図上からウクライナと国を消し去ることだったが、この目論見は完全に失敗し今後も成功するはずがない。ウクライナが数週間以内に反攻作戦を計画していることを承知しているので、これが何をもたらすのか見てみよう。最終的に戦場での成功こそが『持続可能な平和』をもたらす交渉に辿り着く最良で最短の方法だ」と述べたが、ミリー統合参謀本部議長も同様の発言を行い注目を集めている。
ミリー議長はForeign Affairs誌の取材に「西側諸国の援助でウクライナは攻撃的な作戦と防御的な作戦の両方を出来るようになった。もし攻撃的な作戦(諸兵科連合による機動的な攻撃)を実施する場合、ウクライナは多くの計画や調整を必要とするものの準備は出来ている」と述べ、噂されている反攻作戦の準備自体は「完了している」との見方を示したが、ウクライナもロシアも軍事的手段で政治的目標を達成するのは困難だと主張した。
プーチン大統領は「ゼレンスキー政権の弱体化もしくは崩壊」を政治的目標に設定し、ロシア軍に「キーウの迅速な占領、ロシア国境からドニプロまで進出してアゾフ海へのアクセスを6週間以内に遮断しろ」と要求したものの達成に至らず、政治的目標を「ウクライナ南部地域とドンバスの確保とクリミアの安全」に変更、ミリー議長は「今だにドンバスを完全に確保できる見込みはなく、ロシア軍は20万人もしくは25万人以上の死傷者を出したが、新たに20万人~30万人を動員したため占領地域には約20万人のロシア軍兵士が存在する」と指摘。
ウクライナ軍は敵の前進を食い止めてハルキウとヘルソンで2度の反撃を成功させ、ロシア軍は戦線を整理することで体制を立て直したが、ミリー議長は「冬の戦いを通じてバフムート以外に大きな進歩は見られないものの、ウクライナ(主権が及ぶ範囲からロシア軍を追い出す)もロシア(ドンバス制圧)も年内に軍事的手段で政治的目標を達成する可能性は限りなく低い」と強調。
ミリー議長は「ロシアは軍事力も経済も大きな被害を被ったので、クレムリンの意思決定に関与する人々に理性が残っていれば数ヶ月後か、1年か2年先に『作戦コストが利益を上回り、何かを決断する時が来た』という結論を導き出すだろう。いつプーチン大統領がその気になるかは分からないが、その時点で理性的な判断力を残していれば必ず実行するはずだ」と付け加え、双方とも軍事的手段で政治的目標を達成できないと理解するまで戦いが続くだろう示唆したが、戦いのエスカレーションを「交戦国を含む全ての国が望んでいない」とも述べている。
この戦いが米国とロシア、もしくはNATOとロシアに戦いに拡大すれば双方に壊滅的な影響(核戦争という意味)を与えるため「絶対に避けなければならない」と主張、さらにロシアと中国の接近=同盟成立は米国の利益に反するため「出来る限りのことをしなければならない」とも述べており、今のところ中国もロシアに致命的な軍事的支援を与えていないため「習近平は完全なリアリストで、米国との衝突を望まないのは我々の力を十分認識しているためだ」と語っている。
要するに米国もNATOもロシアの崩壊自体を望んでおらず、核戦争を引き起こす可能性がある「直接参戦」も選択肢の外にあり、そもそもクリミアを含む占領地域からロシア軍を追い出すほどの装備や弾薬をウクライナに供給するのは物理的に不可能(自国の安全保障を犠牲にする場合のみ可能だが誰もそんなことは実行できない)なので、当初から言われている通り「交渉立場を強化する範囲の軍事的勝利」を収めて話し合いによる戦争終結を目指しているのだろう。
ロシア軍が勝手に自滅してウクライナ軍が一気にクリミアまで到達しても、ウクライナ軍が独自の兵器でクリミア大橋を破壊しても構わなし、どこまで戦いを続けて、どのタイミングでテーブルにつくのか決めるのもウクライナ次第だ。
ただし「西側諸国の軍事支援は無限ではない」という事実と、ゼレンスキー大統領が3月に「まだ戦争は終わっていない(戦いが中央や西部から遠ざかっているのは兵士達のお陰で、前線から下がってきた兵士達が既に戦争が終わっていると感じるのは絶対に不公平だ)」と訴えなければならないほど国民間で温度さが広がっており、今年の戦いで軍事的勝利をどこまで積み上げられるかが「来年の支援」と「国民の支持」に直結するだろう。
因みに中国が台湾に侵攻する可能性について「この規模の作戦は非常に複雑で困難を伴うが、少なくとも中国はこの規模に見合うレベルの訓練や演習を行っておらず、台湾の防衛力を迅速かつ大幅に向上させなければならない。このような戦争の勃発を決して許してはならない」と訴えており、防衛産業界の生産能力がウクライナとロシアの戦いで消耗され続けると「台湾の防衛力を迅速かつ大幅に向上させる」というのも絵に描いた餅で終わるかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:DoD photo by Chad J. McNeeley
なんだか「一撃講和論」みたいで縁起がよろしくない・・・
まあ現状ウクライナが決定的に不利というわけではないけど、反撃兵力の整備で著しく有利になったわけでもない。ある程度押し戻したところで冬戦争/継続戦争のような落とし所を探る感じだろうか。
一撃講和論なんて空想だよって話では
アメリカの希望する終戦の形ってどんなのですかね、東西ウクライナの共存なのか、クリミア半島併合をウクライナが受け入れることなのか
将来を見据えてロシアよりも中国の動向に気を配っているアメリカの立場からすると、ウクライナの希望達成は果てしなく不可能かな
米国は本気で言っているのかな。
他人事(?)のように聞こえるのだけど。
ロシア空軍とロシア海軍への対策は全く不足に思えるのだけど。
まあ、ロシア軍は陸軍が負けない限り諦めないでしょうが。
> いつプーチン大統領がその気になるかは分からないが、その時点で理性的な判断力を残していれば
最初からない定期
肝心のウクライナ・ロシアが絶対交渉のテーブルにつく気がないのがね、プーチンの側近がプーチンを牢にでも押し込めるような事態でも起きない限り丸く収まるシナリオが全く見えない
「非ナチ化」なんて馬鹿げた旗掲げてしまった手前どうすんの…
ロシアに崩壊されても迷惑やし…核兵器の流出とか勘弁してくれ
ここでロシアに崩壊されるとやっと安定化し始めたシリアがまた戦国時代に戻りまた難民爆弾が欧州に流れ込む可能性かあるのも怖いねぇ…
まージレンマだよね
アメは対ロじゃなく対中優先したいのだろうけど、ウクライナをあっさり見捨てれば台湾はアメリカを信用しないでしょう
もともと台湾人のアメリカに対する態度は信頼してるとは程遠いものですし
これ以上の援助は厳しいから降伏してくれ~ってもロシアにその気はないでしょ
これ以上の援助が厳しいと言えばいう程プーチンは粘るよな。
チェコもポーランドも弾がねえ!と言ってるしそれを聞けば尚更プーチンは粘る。
ロシアの事だし毎年2万人戦死しても継戦するっしょ。防御主体にすれば戦死者は大幅に減らせるし。
NATO側の偉い人も見込みが甘いよなあ。
ミリーは戦闘でなく交渉で最終決着する方針を以前から言ってるね。
政府方針はそれを決めるのはウクライナ自身だと言ってるのにも関わらず
戦い続けるならまあ止めないけど非現実的な援助は続けられないよってことでしょうね
公式的にはこれくらいの言い方だけど外交の場ではもっと直接的に表現してるはず
初戦ウクライナ戦なんて手伝い戦で本命は台湾防衛だからなー
無論勝つ方が望ましいけど台湾防衛を二の次にしてまで援助することじゃない
ウクライナもロシアも軍事的手段で政治的目標を達成するのは困難だと主張した。
ここでこの言葉は最高に最低な綺麗ごとでしょう。
万が一の交渉もウクライナが武力によって最高の結果を出さないとありえないのだから。
軍縮に慣れすぎた欧州と日本をすぐに武装化させることはできず、内政に問題を抱えすぎている米国は台湾とウクライナの2つの戦線を支えることはできない。
そして米国の国益にとってロシアの裏庭のウクライナと、西海岸の対岸に位置し、東アジアシーレーンの要であり巨大な半導体産業を持つ台湾とどちらを優先すべきかは言うまでもない。
ウクライナ支援は核戦争にならない程度に抑えつつ、ロシアが勝ちすぎない程度にコントロールする性質のものであり、春の反抗が仮に成功しても2月開戦前の国境回復での停戦が実現、クリミアとドンバスは諦めるように説得されるシナリオが現実的だろう。
>>要するに米国もNATOもロシアの崩壊自体を望んでおらず
ロシア崩壊とは内戦でも起きて国土荒廃する状態だろうか?それともプーチン退任がイコールで崩壊なのか???この戦争を終わらせる唯一の手段はロシアを外征戦争どころでは無い国内治安状態にする事しかないだろう。
実際、その為の西側工作は進んでるだろうがミリーもロシア崩壊は誰も望まないと言う。しかしこの総力消耗戦を終わらせるにはロシア現体制には崩壊してもらうしかない。あこまでの圧政国家と従順なロシア国民はその位の内政状況でもないと外征中止にはならん。
ロシアが分裂崩壊してシベリアが独立した場合、やっかいになりますからね。
その独立したシベリア共和国は、西側陣営の国にする必要が必須になりますが、中国は沿海州は中国固有の領土と認識してますから猛烈に中国の傀儡国家にしようとしてきます。
要はウラジオストクが中国海軍の軍港になると日本列島は南西諸島と日本海沿岸と2方向からプレッシャーがかかりますので防衛コストが一気に跳ね上がり日本側が経済的に破綻しかねない状況に陥ります。
ロシアが崩壊していない今より遥かに酷い状態に陥る事になります。
ロシア崩壊はその中国との綱引きに勝てる見込みが立つ準備が出来てからでしょうね
元々、戦前の想定ではキーウが陥落した後、ウクイナはゲリラ化して泥沼化させられるというものでした。そこからのアフガニスタン化からのロシアの撤退と言うのが西側諸国が描いていたシナリオだったはずです。
その想定に比べれば、ウクライナの現状は遥かにマシです。仮に西側の支援が今よりも乏しくなったとしても、ウクライナは抵抗し続けるだろうし、プーチンの寿命かロシア軍の崩壊によってロシアを撤退に追い込む終わり方が、一番可能性が高いのではないでしょうか。
アメリカが「交渉で」と言えば言うほどロシアが舐めてかかるとなぜアメリカの偉いさんは分からないのだろうか。
援助に限界がありつつも、アメリカが「力で」と言い続けてようやくロシアが交渉に乗ってくる可能性が出てくるのに。
ロシアの崩壊などウクライナ以外望んでいないことは口に出さなくてもロシアにも分かっている事だ。