米国関連

第2次大戦の技術が復活、Wave Engineが量産型パルスジェットエンジンを発表

米空軍はWave Engineが実用化に取り組む「パルスジェットエンジン技術」に注目して資金援助を続けてきたが、同社は6日「タービンエンジンの効率に匹敵する量産型パルスジェットエンジン」を発表、米ディフェンスメディアも「検討に値する」と注目している。

参考:Pulsejet Drone Flies, Could Have Big Impact On Cost Of Future Weapons
参考:Wave Engine

パルスジェットエンジンがタービンエンジンに匹敵する効率を提供できるなら価値に値する

ナチス・ドイツはV-1飛行爆弾にシンプルで量産が容易なパルスジェットエンジンを採用したものの、吸入した空気の圧縮比が低いため出力が低く燃費も良くなく、遠心式や軸流式圧縮機を備えたエンジンの登場と共に姿を消してしまったが、米Wave Engineは「パルスジェットエンジンに電子制御装置を組み込むことでタービンエンジンに匹敵する推力燃料消費率を実現し、高性能で低コストなエンジンの不在に悩まされてきた問題を解決する」と主張。

出典:Wave Engine

米空軍も同社の革新的な技術に注目して2019年から資金援助(約300万ドル)を行い、2021年6月には「空中発射型多用途プラットフォーム(VALP)の開発及び実証作業」を正式発注、米ディフェンスメディアはVALPの正体について「パルスジェットエンジンを使用した低コストのデコイUAVだ」と報じており、Wave Engineが公開したイメージでもVALPはF-16から空中発射される無人機として描かれている。

幾つの米メディアは「Wave Engineのパルスジェットエンジンが期待通りの性能を示せば、低コストと信頼性の両立を要求される無人機や巡航ミサイルは複雑で稼働部分が多いエンジンから開放されるかもしれない」と指摘していたが、同社は6日にパルスジェットエンジン(推力50ポンド以上)によるテスト機の飛行を公開、さらに量産タイプのパルスジェットエンジンも発表。

同社のサイトでは「推力55ポンドのJ-1は総重量200ポンドまでの無人機に適している」と、「推力220ポンドのK-1は総重量1,000ポンドまでの航空機向けエンジンに適している」「J-1と同じ電子制御装置とシンプルさを備え、タービンエンジンよりも大幅に安価なコストを実現する」と説明。

米ディフェンスメディアの取材には「最大250ポンドの推力を発生させるパルスジェットエンジン(K-1のことなのか別のエンジンなのかは不明)は無人機、ミサイル、航空機の動力源として十分だ」「毎時2.0ポンド以下の推力燃料消費率を実証している」「複雑で高価なタービンエンジンの効率に匹敵する」と明かしている。

因みにウクライナとロシアの戦争は「低コストで長距離を飛行できる無人機」や「消耗可能な自爆型無人機」が戦場で役に立つと証明し、この手の需要は両国以外でも急速に拡大していく可能性が高く、米空軍も米海軍も低コストで大量生産が可能な巡航ミサイルを模索し始めているため、米ディフェンスメディアも「本当にWave Engineのパルスジェットエンジンがタービンエンジンに匹敵する効率を提供できるなら検討に値する」と述べている。

追記:Wave Engineはテストに使用した無人機=Scitor UAVも売り出しており、空中ターゲットやペイロードミッションなど消耗前提の任務に適しているとアピールしている。

関連記事:第2次大戦で使用されたパルスジェットエンジンに復活の兆し、米空軍が利用を検討中
関連記事:米海軍、30万ドル以下で年500発調達可能な低コスト巡航ミサイルを要求
関連記事:米空軍が低コスト巡航ミサイルに関する取り組みを開始、目標は1発15万ドル

 

※アイキャッチ画像の出典:Wave Engine

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コメント

    • ななし
    • 2024年 3月 07日

    パルスジェットエンジンのUAVは出てくると思った
    例えV-1レベルでも相手の対空ミサイルを無駄に消耗させる目的なら実用に耐えるし

    9
    • 58式素人
    • 2024年 3月 07日

    パルスジェットエンジンがブースターやカタパルト無しで
    普通に滑走して離陸しているのはすごいですね
    どのように吸気/圧縮をしているのだろう。知りたいものです。
    そういえば、ウクライナでもDIYレベルでパルスジェットエンジンの
    UAVを開発していると聞いたことがあるけれど、どうなったのだろう。

    11
      •   
      • 2024年 3月 07日

      一般的な、U字型パルスジェットには圧縮行程はないよ。
      大気圧頼みで吸気もシャッターがないので、結果的に両方から空気が入る。

      V1はシャッターが付いているけど、U字型シャッターナシは製作費が安くDIYで比較的簡単に作れる。
      最高速度はターボプロップよりも劣るけど、構造は圧倒的に単純でコストも安い。
      ネットに動画がたくさんある。

      個人的には、速度はイマイチで音も大きい、熱が大きいので赤外線カメラで見つかる。
      バッテリー電動プロペラとどっちが良いのか悩ましい感じだ。
      安く低性能・中性能なら中国のほうが有利な勝負なので、西側がここで争うのは微妙だよな。。

      16
        • ななし
        • 2024年 3月 07日

        ナゴルノカラバフの時に相手の防空陣地を炙り出すために骨董品みたいな機体を無人機にして飛ばしてましたが
        そういう用途ならちょうどいいのでは

        6
        • hoge
        • 2024年 3月 07日

        >安く低性能・中性能なら中国のほうが有利な勝負なので、西側がここで争うのは微妙だよな。。
        というか、ウクライナ戦争で「戦争は数だよ、兄貴」とアメリカも実感と危機感を持つようになった、ということでないですかね。
        砲弾すら不足するとか何やってたんだ、という反省もあるだろうし、その辺是正したいという表れなんじゃないかな。

        23
    • たむごん
    • 2024年 3月 07日

    ジェットエンジンは、エンジンだけでなく、タービンの製造に高価高度な工作機械(5軸工作機械など)も必要ですからね。

    パルスジェットエンジンが、これらの工程が省けるならば、安価で作りやすいと言えそうです(戦時量産もしやすい)。

    ミサイル1発数億円は、消耗戦で厳しすぎますからね…

    21
    • Whiskey Dick
    • 2024年 3月 07日

    超音速で燃焼が伝わる爆轟現象(デトネーション)を応用したものでしょうか。爆轟はガソリンエンジンのノッキングに見られる現象で、制御するのは難しいのですが熱効率は既存の熱機関を上回ることができます。爆轟を用いたエンジンは間欠型と回転型があり、どちらも大気圏内及び宇宙空間での使用が可能です。

    10
    • 思い付きだけど
    • 2024年 3月 07日

    Scitor UAVの試験飛行見た感じだが、「ラジコンのA-10の改造機」みたいに見える。元になったA-10の機体どこかにあるんじゃないかなあ。あと、音はラジコンの普通の程度のもの、排気煙はほとんどないと感じました。

    1
    • ななす
    • 2024年 3月 07日

    A-10みたいなデザインやな

    1
      • 名無し
      • 2024年 3月 07日

      みたいというか模型ラジコンのA-10の機体キット流用ですよこれ
      手抜き感というかお手軽感ありますね
      推力50ポンドだと20kgぐらいで懐かしのO.S.JET-IIの10倍超って所か
      エンジンだけ売って欲しいですね

      14
    • 運営ありがとう!
    • 2024年 3月 07日

    ドローン用パルスジェットエンジンと聞いて、旧ドイツのV1の亡霊に思えてしまうのですが。

    8
    • きりる
    • 2024年 3月 07日

    250や500ポンドの滑空爆弾の射程延伸に良さそう
    希少金属必要なさそうだしロケットモータよりもおそらく安いでしょ

    10
    • 2024年 3月 09日

    おおすみ型輸送艦から発艦とか、輸送機からばらまくとか、妄想たのしい

    2
    • ななし
    • 2024年 3月 09日

    今更感があるというか…
    2003年のA DIY Cruise Missileって発禁になった本で作ろうとしてたのもこういうのだし
    ただパルスジェットは周りの気流が変わって吸気速度に変化があると息切れするって問題があるから、速度を変えるような飛行は苦手だったような

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