ウクライナ戦況

ホルリウカ方面の戦い、ウクライナ軍が1.5kmほど前線の押し上げに成功

ウクライナ軍はホルリウカ方面のロシア軍陣地を制圧する様子を公開、ロシア軍は当該陣地を捨てて東に後退したため1.5kmほど前線を押し上げた格好で、複数方面で後退が続くウクライナにとっては「久々の前進」と言える。

今回の前進に関する評価はまだ定まっていないが、ウクライナ軍にとっては久々の前進

2014年4月に勃発したドンバス戦争の過程でドネツク人民共和国はホルリウカ(ゴルロフカ)を掌握、同年7月に奪還作戦を開始したウクライナ軍は8月18日に「ホルリウカ包囲」を発表したものの、ドンバス全域でロシア軍とドネツク人民共和国が大規模な反撃を開始したため後退を余儀なくされ、同年9月に締結されたミンクス合意によってウクライナ軍と分離主義勢力との戦闘は表向き停止された。

出典:GoogleMap ホルリウカ周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

ミンクス合意以降も散発的な戦闘は続いたものの前線位置に大きな変化はなく、2022年の本格侵攻後もホルリウカ周辺で目立った地上戦は発生しなかったが、ウクライナ軍は昨年11月にピブデンヌ近郊のユジナヤ炭鉱周辺にあったテリコン(ぼた山)を唐突に襲撃。

この攻撃意図について一部のウクライナ人は「アウディーイウカ方面に集中する軍事的圧力が軽減される」と予想、ゼレンスキー大統領は12月12日に「第24機械化部隊がホルリウカ郊外のテリコンを奪還して国旗を掲げた。ホルリウカもドンパスもウクライナだ」と発表したが、このテリコンは直ぐに奪還されてしまいアウディーイウカ方面の軍事的圧力にも変化はなかったため、政治的な要請に基づいたパフォーマンスだったという見方が多い。

反攻作戦に失敗したウクライナは支援継続に繋がる「センセーショナルな話題」を必要としていたため、テリコンを奪還したのではなく「テリコンに国旗を掲げてきただけ」という意味だが、再びホルリウカ方面でウクライナ軍の前進が確認された。

ウクライナ軍はニューヨークとホルリウカの間にある変電所と付近の塹壕=を襲撃する様子を公開、ロシア軍は当該陣地を捨てて東に後退したため1.5kmほど前線を押し上げた格好で、複数方面で後退が続くウクライナにとって久々の前進だ。

出典:ホルリウカ周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

今回の作戦意図については「クピャンスク、リマン、バフムート、アウディーイウカで攻勢を仕掛けるロシア軍の手薄なところ突いただけ」「ここを奪回するには他の戦線から戦力を転用しなければならない」という意見があり、バフムートやアウディーイウカでの攻勢を一時的に低下させる可能性を秘めている。

但し、ウクライナ軍が奪還した変電所や塹壕を「奪還しない」という選択肢もあるため、今回の前進に関する評価はまだ定まっていない。

どちらにせよ「久々の前進」は事実で、ネガティブな話題が続くウクライナにとっては「明るいニュース」と言えるだろう。

関連記事:ゼレンスキー大統領、ホルリウカ西郊外に位置するテリコン奪還を発表
関連記事:侵攻648日目、ロシア軍が戦場の主導権を握って各地で前進を遂げる
関連記事:ホルリウカの戦い、未だに状況が不明なウクライナ軍のテリコン襲撃
関連記事:米タイム誌、大統領の頑固さがウクライナの柔軟性や選択肢を狭めている

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

ロシア国防省がクピャンスク方面のタバイフカ解放を発表、ウクライナは否定前のページ

150km先を攻撃可能なGLSDBがテストをパス、まもなくウクライナに到着次のページ

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コメント

    • 桐谷美玲
    • 2024年 1月 31日

    2014年から占領され続けた侵略者を追い出したな。良い戦果だ。ロシア軍はプーチンに何て言い訳するんだろうな

    13
      • 歴史と貧困
      • 2024年 1月 31日

      「敵は厄介なザルジニーの声が衰え、ゼレンスキーの無謀な作戦を選びました」
      「戦略的価値のない箇所に、乏しい予備戦力を投入しています」
      とでも言っておけば十分だと思いますよ。反転攻勢でウクライナが奪還した土地も、今や戦略価値の下がった陣地に兵力を貼り付けざるを得なくなり(クリンキー、ロボティネ周辺が代表例)、国力に劣る側の負担になっています。

      ましてロシアは、敵が押してきたら縦深陣地へ誘い込みつつ撤退し、敵の補給が続かなくなった段階で押し返すドクトリンを伝統的に持つ国です。プーチンにわざわざ“言い訳”する必要すらないでしょう。「いつも通り処理します」と上申しておけばよい。

      17
        • 歴史と貧困
        • 2024年 1月 31日

        追伸
        >2014年から占領され続けた侵略者を追い出したな。良い戦果だ。ロシア軍はプーチンに何て言い訳するんだろうな

        そう思いたがっているのはゼレンスキーと取り巻きくらいではないでしょうか。

        18
    • 匿名
    • 2024年 1月 31日

    こういう情報が、リアルで映像でわかったり、ロシアやウクライナ両軍で、ドローンが多様されて、戦車が撃破されたりと、このブログの航空万能論の新しい戦争時代になったですね。

    8
    • ななしびと
    • 2024年 1月 31日

    ゴルロフカ正面で前進か…こっちまだやってたんだね…いやぁここで前進したところでという場所でしかないんだが…
    ゴルロフカ失陥に繋がる事態ではなく、急いで兵を回さないと危ないというロシア側の危機感を煽れるような場所でもないと思うんだが…
    まあ管理人さんの仰る通り、前進といえば前進なので、このところ何も良いとこ無かったウクライナ軍としては明るいニュースだろうけど。

    37
    • 山田さん
    • 2024年 1月 31日

    出血量は違うにしても、相変わらず前進速度がWW1並ですね。
    決定的な出血を強いることは出来ず、敵の内政地を圧迫することも出来ず、猫の額程度の土地のために人名と装備が失われ続ける。
    こんな戦い余程の金満国家か、全体主義国家じゃないとやってられないですね。

    16
      •  
      • 2024年 2月 01日

      一人倒すのに必要な弾薬量を考えると、WW1と違うのはドローンの登場でかなり低コストで一人倒せるようになったところがこのコスパ大好き世代の戦争らしいといえばらしいのかもしれない

      2
    • 名無し
    • 2024年 1月 31日

    ウクライナにとって久しぶりの1km以上の前進であることは確かですが、街の正面に展開しているウクライナ軍兵力では人口20万人を超える工業都市で、街の規模もバフムートやアウディーイウカより遥かに大きいゴルロフカを攻略するにはまったく足りませんからなあ

    それにニューヨークやアルテモーヴェとその背後にあるジェルジンスクはアウディーイウカのすぐ北側にあるため、こちらが片付いたら北上してロシア軍はこれらの攻略に取り掛かるでしょうし

    そしてウクライナ軍はドネツク市のようにゴルロフカに対してもずっと無差別砲撃を行っていたので、こちらにおいても展開している兵士がロシア軍でなくDPRの捕虜になった場合、まあ酷いことになるでしょうな 

    29
      • kitty
      • 2024年 2月 01日

      ニューヨークという地名にえっと思いましたが、

      >ウクライナの町、「ニューヨーク」に 旧名復活
      >2021年7月2日 19:14 発信地:キエフ/ウクライナ [ ウクライナ ロシア ロシア・CIS ]
      AFPBB

      なにやってんだか…という感想を持つものの開戦前の出来事じゃしょうがないか。

      2
    •  
    • 2024年 1月 31日

    こ、この状況でゴルロフカに攻勢かけるって正気か……?

    17
      • 歴史と貧困
      • 2024年 1月 31日

      正気であるはずがない、と言うか、ザルジニー総司令官が実質的に解任状態に近づいているという傍証のような気がします。

      ドニエプル対岸のクリンキーと同じで、この状況でゴルロフカに攻勢をかける意味は何もないどころかマイナスでしかない。【アピール目的】以外の何物でもない。

      ゴルロフカを攻撃すべきと戦争計画に横槍を入れ、拘っていたのはゼレンスキーで、こんな作戦が実行されてしまったということは、ザルジニー総司令官の実権はかなり制限されていると見るべきかと。

      16
    • 一般通過OSINT
    • 2024年 1月 31日

    この2年間「明るいニュース」を作り上げるために立案され実行した作戦もかなりの数ですが、実際効果はどれぐらいあるかな(そういえば自由ロシア軍は今どこで何をしているんだろ?

    11
      • あるまじろ
      • 2024年 1月 31日

      >>「明るいニュース」を作り上げるため
      >>効果はどれぐらいあるかな
      キンバーン半島とかに上陸したときはそこそこニュースになってたし
      ある程度は効果あるんじゃないですかね。
      忘れられるのが一番困るので。

      >>ロシア自由軍団
      今テレグラムみたらハリコフ戦線での戦死者追悼してたから
      戦闘任務はしているみたいですね。

      4
        • 一般通過OSINT
        • 2024年 1月 31日

        > 忘れられるのが一番困るので。

        ごめん、戦略的な効果ゼロに等しくて完全に忘れました、所詮続報のない「ニュース」だしすぐ忘れられるものだからなぁ。

        6
          • あるまじろ
          • 2024年 1月 31日

          >>戦略的な効果ゼロに等しくて完全に忘れました

          だから継続的に戦略的に効果ゼロの作戦を連発するんでしょうね。

          昨年の夏ぐらいまではお茶の間に出てくるニュース多かった印象なんですけど
          最近はやっぱりネガティブなニュースが目立ちますよねぇ

          10
    • ポンポコ
    • 2024年 1月 31日

    このホルリウカ攻略の、戦略的な意味は?
    を考えているのだが。

    2
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