ウクライナ人ジャーナリストのユーリイ・ブトゥソフ氏が編集長を務めるCensor.NETは「前線部隊ではFPVドローンが不足している」と報じており、第3強襲旅団の指揮官は「最低でも旅団あたり月1,000機のFPVドローンが必要だ」と述べている。
参考:Ukrainian troops face artillery shortages, scale back some operations – commander
参考:Командир БПС 3 ОШБр Микола Волохов (Абдула): Від держави партію більше як 100 FPV-дронів одномоментно ми ніколи не отримували, а мінімальна потреба бригади на місяць – 1000 шт.
参考:Комбат 3-ї ОШБр Дмитро Кухарчук (Сліп): Війна змінилася у серпні-вересні цього року і перетворилася на війну дронів
二重の冗長性を確保するなら50個旅団に対して月10万機が最低ライン
ウクライナ軍のタルナフスキー准将はロイターの取材に「弾薬不足の中でも特に122mmや152mmといったソ連製砲弾に問題があり、今ある量では我々のニーズを十分満たすことができないため設定したタスクを再検討して縮小することにした」と明かしたが、ウクライナ人ジャーナリストのユーリイ・ブトゥソフ氏が編集長を務めるCensor.NETも「前線部隊ではFPVドローンが不足している」と報じ、インタビューに応じたミコラ・ヴォロホフ氏(第3強襲旅団の航空偵察大隊指揮官)の話を要約すると以下のようになる。
Censor.NET:ウクライナは月5万機のFPVドローンを生産しているとメディアは報じているが、我々は(この数字に)疑問を抱いている。貴方は立場上、この話題について詳しいと思う。軍は月に何機のFPVドローンを受け取ることが出来るのか?
ヴォロホフ氏:我々は国から沢山のFPVドローンを受け取ったことがない。1度に供給される数は100機を超えることがなく、最大の問題は供給スケジュールが不規則な点で「次の供給がいつなのか」「どれぐらい供給されるのか」が分からないため、仮に100機のFPVドローンを受け取っても節約を余儀なくされている。
逆に100機、200機、500機と供給されるなら違う戦い方を選択でき、より効果的にFPVドローンを使用することができるが、残念ながらそのような数量は存在しないため計画を立てるのが困難だ。兎に角、1度に100機のFPVドローンを受け取っているという旅団の話は聞いたことがない。
Censor.NET:あなたの部隊が必要とするFPVドローンは何機なのか?
ヴォロホフ氏:第3強襲旅団では月1,000機の使用を予定していた。
Censor.NET:それは最低ライン?
ヴォロホフ氏:この数は敵対行為が激しくない場合のケースで、もし部隊が攻勢に出るなら安全に任務を遂行できるよう攻勢期間の使用量を2倍に増やすだろう。
FPVドローンが戦場にもたらす心理的効果を想像してみて欲しい。仮に砲弾が飛んできても敵は必ずしも貴方に狙いを定めて発砲しているわけではない。しかしドローンは別だ。ドローンに搭載されたカメラの向こう側には貴方を探している操縦者がいる。ドローンは貴方を殺すために戦場の上空を飛んでおり、これは信じられないほどの心理的プレッシャーをもたらす。このプレッシャーはモラルの崩壊を引き起こして敵が逃亡を始める可能性に繋がる。
月5万機のFPVドローンを供給することは論理的に可能かもしれないが、私はそのような数の報告を見たことも読んだこともない。
Censor.NET:結局、軍はFPVドローンを何機必要としているのか?
ヴォロホフ氏:1個旅団に対して月1,000機が最低ラインだ。但し、敵の攻撃で保管庫が破壊されFPVドローンを失うケースを忘れてはならない。そのため二重の冗長性を確保するなら50個旅団に対して月10万機が最低ラインになる。
Censor.NET:国は多くの企業からドローンを購入しているが、その一方でFPVドローンには明確な基準がなく、部隊内にFPVドローンの動物園が出現している。この問題はどの程度の不都合を生み出しているのか?
ヴォロホフ氏:とても酷い状況というしかない。私達の部隊はバフムート近郊で任務に従事しており「こんなドローンを送ってきた」「あんなドローンを送ってきた」と本当に怒っている。分解して組み立て直したり、はんだ付け作業が必要だったり、周波数の再調整が必要など製造過程の不備が多く、このような問題は基準が統一されていないため発生している。西側諸国も軍事装備を複数の企業から調達しているが統一された基準に従って製造されている。
Censor.NET:基準自体が存在しないのか?
ヴォロホフ氏:基準はあるが非常に曖昧で、そもそも基準を策定する国が「何が必要なのかを理解していない」とい事実から話す必要があり、今必要とされているのは産業界の技術革新や適応力だ。私達が指揮官から受ける指示の中には有益なものもあり、司令部が共有してくれる経験の中には良いこともあるが、それは4ヶ月前の内容だった。人々は状況を改善するために何らかの行動を起こしているものの4ヶ月も時間がかかるのだ。
Censor.NET:つまり国防省は業界の発展に追いつけていないと?
ヴォロホフ氏:例えば「この周波数は機能しないので別の周波数に切替える必要がある」といったニーズは前線で生まれ、これをいち早く報告して適応させる仕組みを作るのが難しい。国はFPVドローンの生産を企業に保証して任せるのではなく、使用する周波数について一定の弾力を持たせるよう要求すべきだったのだ。
戦争とは適応の芸術で、古代の人々は軽い剣で戦い、鎖帷子が登場すると重い剣が登場し、頑丈な鎧が登場するとハルバードが登場した。つまり昔も今も戦いの本質は変わっていない。
以上が興味深いと感じた部分の要約だが、他にも「(ロシア人がFPVドローンをウクライナの6倍生産しているかどうかは知らないが)ロシア軍が使用するFPVドローンはどんどん増えて被害も被っている」「ロシア軍の砲兵部隊は旧ソ連の戦闘教義に従い一列に並んで1日目標に10発づつ射撃するので破壊するのが容易だったが、3ヶ月後にはロシア連邦軍参謀本部情報総局がMavicとマットレスを持ち込んで新しい戦い方に適応した」「仮にFPVドローンの生産量が月15万機に拡張されると操縦士の数が足りなくなる」などと言及している。
因みに第3強襲旅団の第2強襲大隊の指揮官も「今年8月から9月にかけて戦争の形態が大きく代わりドローン戦争になった」と指摘したが、両軍で急速に対抗技術の開発が進んでいるため「ある時点でドローンの重要性が低下して古典的な戦争形態に戻るかもしれない」と予測している。
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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України
第3強襲旅団は夏のウクライナ攻勢でバフムト戦線をほぼ単独旅団で押し込んだ部隊ですよね
そもそもバフムトでの攻勢が必要だったのかは置いておき、映像資料だとそれなりの精鋭で動きが良い様に見受けられましたが、部隊指揮官のインタビューを見てもやはり優秀の様ですね
砲弾は当たるかどうか分からないが、ドローンは直接目で狙われているので心理効果が大きいと言うのは、予想していなかった効果です。
確かに殺意を持って突っ込んでくる空飛ぶオモチャと考えたら恐怖ですね…
砲弾並みにドローンを消費する時代が来たのか恐ろしい
のび太の宇宙小戦争の「無人偵察機いっぱいで絶望状態」が現実に生じてるとか、痺れるな。
もし、今後のある時点でドローンの有効性が失われ、古典的な戦争形態に回帰するのであれば、それこそ物量に劣るウクライナ軍の勝ち目が見えませんね。最近では、ウクライナ軍の砲撃数が弾薬不足により、ロシア軍の1/6や1/8となっているという情報もあるのでより戦況は厳しいものになるでしょう。現状でも国境封鎖と支援パッケージの問題があるのに泣きっ面に蜂です。
砲弾が足りないならまだいいが、「客観的な理由」から打てる人がいなくなってるなら絶望だ。
全てでないでしょうが、周波数帯を変えられないドローンも使ってるのですか……。やはりドローンの質もウクライナ側は外注であるがゆえに、戦場に適応できず、ロシア側に越されたようですね。
その上量も大本営発表には遥かに足りないとなると、もはや強みは完全に消え失せたのでしょう。
日本が万が一、ウクライナの戦訓で、大量のドロ-ン兵器運用を計画しても、障害は調達より、航空法・電波法という笑えない笑い話になりそう。
>障害は調達より、航空法・電波法
冗談じゃなくてマジでこうじゃないですかね
肝心の防衛省が何もする気がなさそうですし
何もしないうちに有事が来たら間抜けすぎます
>基準を策定する国が「何が必要なのかを理解していない」という事実
もろに我が国ですねこれ
旅団=2個連隊=6個大隊ぐらいの規模感なので、大隊あたり月100~200個のFPVドローンが最低でも必要という事になります
これを1日あたりで考えると、大隊あたり3~6個/日?
1大隊にFPVドローンオペレータ中隊が1個あると考えても少なすぎに思えます…これでは砲弾の代わりというレベルでは無いので、最低ラインの数字の3倍ぐらいは欲しいのでは無いでしょうか
ただ、そうなると記事にあるようにドローンオペレータが足りないという話になるので難しいですね
ロシア軍のランセットが、複数周波数に自動切換えできるように、改良されていることをコメント欄で教えて頂きました。
西側のプロパガンダでは、ウクライナの兵器生産・ソフトウェアを絶賛、ロシアを馬鹿にしたようのものが報道されてきました。
ロシアのエンジニア・戦時生産体制(戦場からのフィードバック)も優秀がであることが分かります。
Mavic(DJI製)を持ち込んだと、名指しで答えているのは興味深いですね(両軍で活躍していますね)。
中国が、ウクライナとロシア、どちらの国を応援しているのか言うまでもないでしょうから。
プーチン大統領が、2023年12月14日の年末イベントで、新華社通信をニューヨークタイムズの質問よりも先に指名するように、ペスコフ報道官に指示するパフォーマンスをしていましたね。
中国への配慮が現れていますし、中国人のプライドがくすぐられたのではないでしょうか。
>例えば「この周波数は機能しないので別の周波数に切替える必要がある」といったニーズは前線で生まれ、これをいち早く報告して適応させる仕組みを作るのが難しい。国はFPVドローンの生産を企業に保証して任せるのではなく、使用する周波数について一定の弾力を持たせるよう要求すべきだったのだ。
>Mavicとマットレスを持ち込んで新しい戦い方に適応した
Mavicはわかりますが、マットレスってなんでしょう?
多分、ドローンの赤外線センサー対策だと思います。
対戦車ミサイルを担いだウクライナ軍兵士は夜間にロシア軍を襲撃するため1.5ポンド/約243円の発泡マットを被って接近、これでロシア軍は無人機の赤外線センサーでウクライナ軍兵士の接近を察知できなくなりジャベリンやNLAWの餌食になった。
関連記事:キーウが生き残れた理由、ウクライナ軍の工夫とロシア軍の不手際
御教示感謝です。
赤外線対策のBDUとか開発されましたけど、結局、コスパが悪いと流行らなかったと記憶していましたが、たしかにその値段なら。
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露軍のドローン部隊「Судоплатов」(Sudoplatov)はFPVでウ軍のレオ2やCV90を含む機甲部隊を撃破する様子を公開した。
私が注目したのは1:25頃からのCV90が攻撃される様子で、この映像は鮮明に作戦行動中のCV90が撃破される様子が収められている。
①FPVは雪原を移動中のCV90に、後方から砲塔上部に突入する。
②攻撃を受けてCV90の操縦手はすぐさま後退するが、砲塔から煙が上がり、内部構造物に引火した様子が露軍観測ドローンに見られている。
③後方ハッチから激しく白煙が上がり、操縦手がハッチを開けて脱出する。砲塔上部から砲手か車長が脱出しようとするがハッチが開かない。
④脱出した操縦手が外から砲塔ハッチを開けようとするが失敗し、後方ハッチを外から開けて砲手と車長を救出する。
⑤操縦手が負傷者をかばいつつ、3人のクルーが逃走する。
⑥放棄されたCV90が追加のFPV攻撃を受けて破壊される。
移動中のターゲットの弱点に正確に命中させるオペレーターの練度の高さと、CV90の操縦手の脱出判断の速さとその後の行動の的確さに注目したい。
安価なFPVドローンに最新鋭の装備が破壊される一連の動きが映像に残された例として貴重だ。
情報ありがとうございます。
両軍の兵士ともに、優秀な判断がまとまった場面ですね。
装甲車両と言えども、20t以上あるような移動中の車両が(新型ならば37tでしょうか)、安価なFPVドローンにあっさり破壊されるのは戦場が大きく変わったことを感じます。
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管理人様、二重投稿すいません。
情報ありがとうございます。
両軍の兵士ともに、優秀な判断がまとまった場面ですね。
装甲車両と言えども、20t以上あるような移動中の車両が(新型ならば37tでしょうか)、安価なFPVドローンにあっさり破壊されるのは戦場が大きく変わったことを感じます。
平時にこれだけの生産設備を確保するのが難しい
というのが1番の難点なのかもしれません……