バフムート市内では制圧を目論む露ワグナーとの戦いが激しさを増しているが、ゼレンスキー大統領は最高司令部会議を開催して「今後もバフムートを防衛して保持する」という立場を支持した。
参考:Зеленский провел Ставку: приняли решение по Бахмуту
参考:President held a meeting of the Supreme Commander-in-Chief’s Staff
参考:Головнокомандувач ЗС України / CinC AF of Ukraine
ゼレンスキー大統領はバフムートの防衛は可能で「まだ代償を支払うだけの価値がある」と考えている
バフムートがもつ戦略的価値や戦況について西側諸国とウクライナでは見解が異なり、西側諸国の国防当局者は再三「同地を失っても戦局的に大きな変化はなく、ロシアが仕掛ける消耗戦に付き合えば準備中の反攻作戦に影響が出るので撤退すべきだ」と主張、NATOのストルテンベルグ事務総長も「我々が目撃しているのはロシアがより多くの戦力を戦場に投入し、欠けている質を量で補おうとしている様子だ。今後数日以内にバフムートが陥落する可能性を排除できない」と述べている。
この様な西側諸国の見解にウクライナ軍のチェレバティ報道官は「戦場で何が起きているのか理解できていないのだろう。彼らは開戦時にキーウが数時間で陥落すると予測していた」と、シルスキー陸軍司令官も「バフムート保持の重要性は高まるばかりだ」と、ポドリャク顧問も「バフムートで戦い続ける理由は『ロシアにとって最も有能な人材を消耗が激しい戦場に拘束することで攻勢を中断させること』と『我々の資源を春の反攻のため集中させるため』で現在の戦いは完全に有効だ」と反論。
ゼレンスキー大統領も増援を送って防衛を強化するよう軍に指示、今のところバフムートを包囲する試みの阻止=兵站ルートの維持に成功しているが、露ワグナーは包囲ではなく直接的な市内制圧に力を入れており、14日までに市内の工場地区(アルテモフスキー金属工場)の大半を制圧したと発表した。
さらにMiG-17モニュメント付近から行政庁舎周辺に通じるメインストーリー(korsunskogo.st)に露ワグナーが到達しているのを視覚的に確認、未確認ながら「敵がkorsunskogo.stを超え始めている」という報告もあるが、バフムト川沿いに市中心部を目指すワグナー部隊も行政庁舎周辺まで約800mの地点まで迫っており、どれだけ贔屓目に見ても「ウクライナ軍が押されている=市内支配地域の維持もしくは敵の押し戻しが上手く行っていない」と言うしかない。
しかしゼレンスキー大統領はザルジニー総司令官やブダノフ情報総局長などが出席する最高司令部会議を14日に開催、出席者と共にバフムート地区における防衛作戦の経過を検討した結果「会議の全参加者は『今後もバフムートを防衛して保持する』という立場を支持した」と発表、つまり「バフムートの防衛は可能で、まだ代償を支払うだけの価値がある」という意味だ。
因みにザルジニー総司令官も会議後に「バフムート方面の作戦は敵を拘束するという最も重要な戦略的意義を持っている、この戦いは前線全体の防衛力を高める重要な要素だ」と述べている。
追記:黒海の国際空域で米空軍のMQ-9と露空軍のSu-27が衝突してMQ-9が黒海に墜落した。ロシア国防省は「クリミア近くを飛行していたMQ-9が急激な操作を行ったことで高度を失い、制御不能な状態で海に落ちた=衝突は発生していない」と発表、米国側は衝突に関する映像の機密を解除して公開することを検討している。
追記:ウクライナ政府はガイダイ氏をルハンシク州知事の地位から解任(日本的に言えば交代)、カザフスタン駐ウクライナ大使に任命すると可能性があると報じられている。ガイダイ氏はセベロドネツク・リシチャンシクの戦い、ハルキウ州での反攻、リマン奪還、クレミンナの戦いなどで積極的に情報を提供してくれた人物で、昨年は大変お世話になりました。
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※アイキャッチ画像の出典:Головнокомандувач ЗС України
去年はガイダイ氏の情報からルハンシク州の地理や戦況を知りました。
ありがとうございました。
> 市内支配地域の維持もしくは敵の押し戻しが上手く行っていない
素朴な疑問です。
押し戻すまでする必要があるのですかね。
何が何でも維持するのは必須なのか。
もはや、それは高望みで、遅滞防御しか狙っていない気がします。
ウクライナが言っているのはロシア精鋭を固定することとロシア戦力を削ることだけですし。
ただ包囲殲滅は悲劇なので、開口部には精一杯手当していて
戦況図上ウクライナ軍部隊がウジャウジャいるのが見て取れますね。
>戦況図上ウクライナ軍部隊がウジャウジャいるのが見て取れますね。
戦況図上では大量の部隊がいるんだけどまともに抗戦できてないということは旅団とは名ばかりで損耗により中隊くらいの兵数しか残ってないかもね。
> まともに抗戦できてない
なんかテストで100点取らなければ意味がないと言うような
どうもウクライナに対してハードル上げすぎに思う。
クロモヴェが取られそうになっていたのを押し返しているし
イワニフスキーも危機的状況を脱したし。
十分抗戦できているように思います。
連戦連勝している戦局でないですし
ウクライナは元々超大国ではないです。
西側軍事顧問はいったん退けと助言している様ですがウクライナ首脳部はこだわる様ですね
露軍占領地を拡大させたくないって心情的な部分は理解出来ますが、ただ、独ソ戦時に
ヒトラー総統が乱発した要地からの撤退禁止、死守命令がもたらした教訓が生きていない様な。
柔軟な後退戦術を封じられた結果、例えばバグラチオン作戦では独軍は30-40万人の人的損害
を出して、特にベテランの将校から下士官までの損失は、以降の反撃能力を削ぐ決定的な損失
となって敗戦まっしぐらとなりました。
今のウクライナ軍も緒戦期からのベテラン兵士を失ってその回復が出来ずに同じ事が起きつつ
あります。
ウクライナの強みは国土の広さとその縦深であって、それを活かさないで「点」の確保にこだ
わって貴重な人的資源を削るべきでは無うのだが。
>ウクライナの強みは国土の広さとその縦深であって
その縦深にはウクライナ国民がいて、これまでロシア占領地で受けたウクライナ国民の悲劇を考えると、指導者が硬直した戦闘に終始せざるを得ないのでしょう。
正直開口部の部隊は市内の救出よりバフムート以西の侵略への備えに使われるのではないかと思う
そもそも戦況図なるものの部隊配置が正しいわけもない(部隊の位置なんて軍機でしょうから)
SNSで発信している部隊の凡その展開方面は分かるかもしれませんがそれも位置を悟られないように注意しているはずです
私はバハムートの包囲戦は大勢が決したと考えているので、総括的な話を。
まず昨年末までは、バハムート周辺も市内もロシアは全く進むことができず、
ウクライナもゼレンスキーが訪問するぐらいですから、包囲は不可能と想定
していたのでしょう。
潮目が変わったのが年始からのソレダル攻略で、これの要因としては
・ロシアが市内の力攻めでは陥落できないと作戦を周辺攻略に切り替えた
・ワグネル囚人兵・追加動員兵の訓練が順次終了して部隊が増強できた
・ポパスナへの鉄道が復旧し補給が容易になった
・ソレダルを守るウクライナ軍は既にボロボロになっていた
ぐらいでしょうか。
作戦は緻密に練り上げられていて、泥濘期までに包囲をほぼ完了させて、
一箇所だけ補給路を開けておくという古来からの包囲戦術をとりました。
泥濘で道路しか使えないウクライナ軍を偵察ドローンで見張り、
ウクライナの補給や増援(あるいは撤退)を発見すれば、即座に北側と
南西から十字砲火を浴びせかける状況ですね。T0504道路はウクライナ
の装甲車が至る所で破壊され、白骨街道ならぬ瓦礫街道と化しています。
またプリゴジンが補給不足をわざとらしく訴えたり、前線に出現して
動画で撤退を呼びかける「挑発」をしたりと、キエフ中央政府が引くに
引けない心理状況に追い込みました。ウクライナはこの狡猾なタヌキ
親父に心理戦でも負けているのでしょう。
>ロシアが市内の力攻めでは陥落できないと作戦を周辺攻略に切り替えた
市東部のALC工場周辺をずっと無駄にプッシュしてたのはウクライナ軍を周辺部から市内に集中配備させるための陽動だったかもね。
プリゴジンは野心家でもあるので
彼のスタンドプレーは、ウクライナに対しての挑発の側面に加えて、彼なりのプーチンの後継者の地位を狙ってのの側面もあるでしょうね。
>米国側は衝突に関する映像の機密を解除して公開することを検討している。
次にロシアは「動画はフェイクだ」と言う!