ウクライナ空軍の大佐はTimes紙に「我々はロシア軍のインフラ攻撃でキーウからの完全退避を命じる瀬戸際まで追い込まれていた」と明かし、防空システムと迎撃弾の供給量が増えないと冬場のインフラ攻撃で「再び我々は脆弱になる」と警告した。
参考:How US Patriot defences are reducing ‘unstoppable’ Russian missiles to shrapnel
もし迎撃弾が不足すればウクライナ人難民の新たな波がEUに向かって押し寄せることになると主張
ウクライナ空軍の大佐はTimes紙に「我々はロシア軍のインフラ攻撃でキーウからの完全退避を命じる瀬戸際まで追い込まれていた。12月16日にロシア軍が首都に向けて発射した巡航ミサイルの数は49発で、この攻撃が成功していれば首都の電力供給は完全に停止し、政府は市民250万人に首都からの退避を命じなければならなかっただろう」と明かし、この攻撃を阻止したのは首都周辺に配備されていたS-300、NASAMS、IRIS-Tで、現在はパトリオットシステムとクロタルが加わったことで「キーウ周辺は世界最強の防空システムに守られている」と述べた。
大佐は5月4日の致命的な攻撃についても「クレムリン宮殿をドローンで攻撃されたプーチン大統領は直ぐに報復を命じ、シャバスレイカ空軍基地から飛び立ったMiG-31Kがウクライナに向けてキンジャールを発射した。我々のシステムは発射された弾道ミサイルの着弾ゾーンを正確に計算することができ、システムが指し示したのは大統領府や政府の中枢が集中するマイダンで、キンジャール着弾まで数分しかなかった」と明かし、自動モードで作動したパトリオットシステムがキンジャールの迎撃に成功して事なきを得たらしい。
ロシア軍は5月と6月に1,000発以上のミサイルとShahed-136をウクライナに向けて発射したが、大佐は「5月と6月にキーウ上空でミサイルと無人機を215発も迎撃した。ロシアは複数の西側製防空システムで構成された分厚い防空シールドに頭をぶつけて見ても無意味だと気がついたはずだ」と述べたものの、防空システムと迎撃弾の供給量が増えないと冬場のインフラ攻撃で「再び我々は脆弱になる」と警告している。
大佐は「10月中旬になれば再びインフラ攻撃を強化してくるのは確実で、今年の冬は昨年よりも更に厳しいものになるだろう」と述べ、最も頼りになるパトリオットシステムについては「迎撃弾の年間生産量(大佐は150発~160発だと述べているが、実際の年間生産量は500発で年末まに+50発分の増産体制が整う予定)が少なすぎて依存できない」と指摘しており、もし迎撃弾が不足すればウクライナ人難民の新たな波がEUに向かって押し寄せることになると主張。
ウクライナの防空コストが高すぎるという批判についても「リトアニア、ラトビア、エストニアの人々は『我々が耐えられないと自分達も耐えられない』と理解しているため、与えられるものは全て与えるという立場だ。ポーランドも同じだ。北欧諸国や英国は公表していないだけで多くの援助を我々に提供してくれた。しかし他の国は(防空コストに関する)理解が不十分で、フランス人からは『なぜ降伏しないのか』と直接言われたことがある」と述べ、政治家は人命よりも金勘定を優先していると批判した。
“我々は1994年に製造されたNASAMSの迎撃弾を受け取ったが、この迎撃弾の耐用年数は2024年で廃棄するには26,000ドルから28,000ドルのコストがかかるため、発射して処分する方が手っ取り早いし、これを我々に与えてくれれば必ず使用するだろう。西側諸国にはアイドリング状態のM113が6,000輌もあるのに、なぜ400輌しか与えてくれないのか理解できない。既にあるものを提供するだけので追加のコストはかからないし、そのまま持っていても何れ廃棄されるだけだ”
恐らく大佐は「廃棄が近い武器や装備はウクライナにとって価値があり、これを与えるの追加コストはかからないのだから我々に与えてくれ」と言っているのであり、一般向けに受けがいい内容だが、これを真に受けない方がいい。
廃棄が近い武器や装備は「代替品」の準備が整うまで当該国の安全保障にとっても「価値」があり、手元にある武器や装備をウクライナに提供すれば追加コストはかからないという話も「提供する武器や装備の取得コストが発生しない」というだけで、提供国は代替品の取得、当該品をウクライナで運用・維持するためのインフラ構築、ウクライナ人の訓練費用など負担しなければならないコストは山程あり、廃棄予定の武器や装備を「ウクライナに送るだけ」でいいならもっと多くものが集まるだろう。
大佐の指摘通り「失われる人命」より「支援にかかるコスト」を優先する向きがあるのも確かだが、ウクライナに武器や装備を提供するということは「不要なものをウクライナにおくるだけ=追加コストがかからない・廃棄コストを節約できる」という単純な話ではなく、大佐は支援を訴えるため意図的に「コストのかからない支援方法がある」とアピールしたのだろう。
#Ukraine: More of the fruits of British Assistance 🇬🇧 to the Ukrainian Army- MBDA ASRAAM IR anti-aircraft missiles mounted on a Supacat HMT truck to provide a mobile air-defense platform.
When fired from aircraft, the ASRAAM can hit targets more than 25km away. pic.twitter.com/nW1r96Aau3
— 🇺🇦 Ukraine Weapons Tracker (@UAWeapons) August 4, 2023
因みに大佐は「英国がASRAAMの地上発射バージョンを提供してくれて反攻作戦にも役立っている」と明かしており、どうやら英国はSupacat製の高機動車輌にASRAAM用の発射レーンを2基搭載したもの=急造の移動可能な近距離防空システムを提供中で、EO/IRセンサーも搭載されているためASRAAMの運用を自己完結できる構成のようだ。
大佐は「ASRAAMはスターストリークとは異なり『直接照準』を必要とせず、目標付近に向けて発射すれば自ら目標にロックオンすることができる」とも言及、ASRAAMの射程は24km以上だが、実際の射程は50km以上と言われており、地上発射で射程が減少したとしてもMANPADSより有効射程が広いと思われるため、ウクライナ軍が手こずっている「攻撃ヘリ」の撃退に役立つ可能性がある。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin
米国と英国、フランスは核保有国なだけでなく、核報復戦力(戦略原子力潜水艦)までありますからね。
核抑止力があるから、安心して、防空兵器や攻撃兵器を送れます。
西ヨーロッパは、EUとNATOにより地政学的に堅固になっていますが、国内備蓄分をどこまで出すのでしょうか?
日本は、政令指定都市ですら、パトリオットの防空網スカスカですから大丈夫なのかなあと。(イージス艦が手前でカバーする想定とは思いますが)
廃棄装備を「送るだけ」では文字通りゴミの山ができるだけである。
使えるレベルの装備は、特にADは西側にとって非常に貴重である。台湾を意識すれば供与拡大のインセンティブは非常に低い。
米国の予算面でも9月末に白紙の小切手は終了し、大統領選を意識した政治的攻防が始まる。
根本的な問題解決につながる供与は無いだろう。
地上のインフラは破壊されることを前提として今からでも可能な限りの地下移転を進めた方が良いですね。
インフラ関連は日本が得意とするところでもあるので、支援できることは色々とあるはず。
後はロシアの偵察能力を考慮すると建造物やパトリオット等の高価値目標のダミーを作っておくのも効果的でしょう。
言うは易し。
送電線、変圧器、発電機には直接触れなくても近づいただけで危険なとんでもない電圧がかかってるんですよ?
設備の大きさも半端じゃないし、絶縁には強固かつ広大な地下空間が必要
1年か2年で出来ることじゃない
コストも想像もつかないほど膨大。
大規模かつ固定のインフラを偽装するなんて不可能
しかも戦時中ですからね。平時ですら建築や移転に膨大なコストと労力がかかるのに、働き手の大部分が戦場や海外に移ってしまっている環境では不可能でしょう。それに、そんな工事を行う事が分かれば、国民に厭戦気分が高まってしまう上、戦場に出ないで良いなら都市内で工事に従事したがる人間が続出するでしょう。
なるほど。中露に対する我等が反撃能力のターゲットにするには良い的ですな。
台湾有事または沖縄侵攻に際して自衛隊保有のトマホークなどで上記を攻撃した場合、中共は民間施設への無差別攻撃を大義名分に日本に核ミサイルを行う可能性はあり得る話です。
メリットデメリット考慮した上で、良い的と判断されますでしょうか?
可能性は常にあるとはいえ、あり得る話とはあまり思えません。現にウクライナはロシアのインフラを攻撃してますが、ロシアは報復核を撃っていません。
中国は核使用についてロシアに比べたら保守的です。
アメリカの核の傘に入っていないウクライナに撃たないのに、アメリカの核の傘にある日本に核を撃ち込みますか?
冷戦初期ならともかく、現代の核の使用ハードルはインフラが攻撃対象になった程度で使用されるほど低くありません
中国は通常戦力で十分な報復能力があるでしょう
メリットがデメリットを上回るかは状況次第でしょうね。逆に、常にデメリットがメリットを上回ると予想されない限り、ターゲットとして考慮される価値はあるでしょう。
核ミサイル攻撃を行った場合には、腹をくくって残弾全部を中南海に叩き込まる可能性がある、ぐらいは思わせた方がよいでしょう。
中国指導者層の意識としては、いくら日本全土を火の海にしたところで、自分達主導の国家体制が崩れてしまえば意味がない。トップを失ったり中南海を焼け野原にされては国内的権威は丸潰れですから、そのような事態は徹底的に避けようとするでしょうね。まあ、一党独裁の専制体制の弱点というものです。
別に巨大な発電所そのものを地下化するわけではないでしょう。
ビルを維持する規模の中型・小型発電機は既に販売もされており、日本でも多くのビルで導入されています。
冬のインフラ攻撃に備えて今から地下設備を充実させておくのは決して非現実的な提案ではないと思います。
ハイマースのデコイは効果があったので、パトリオットのデコイも準備していると思われ
インフラとはこの記事から電力インフラ(発電所、変電所、送電網等)と思いますが、日本で地下化のノウハウがあるんですか?
大都市を中心とした配電レベルの送電網なら地下化はある程度していますが。
新たな難民とは大変な話です。しかしポーランドは今年の二月から各種難民支援を段階的に削減や新規受付停止しており、特に自国内で職に就いていなかったり、戦火から遠いウクライナ西部出身者には帰国の推奨などもしないといけない状況。他の東欧諸国もとても余裕があるとは言えませんし、どこへ向かい、どこが受け入れるのかは謎が残ります。
ドイツは難民支援に関しては速度も規模も力を入れていましたが、これ以上となると難しいでしょう。同国内で数年働いて納税しても得られるとは限らない権利などを気前よく与えた結果、国内の移民層からは不満が出ているとも聞きますし。
まあ一番大変なのは、第二波が来ようものなら次は非常事態宣言とG7及びEUからの支援込みでも破綻しかねないモルドバでしょうが……
高価な防空システムを送らないとお前らの国に難民が雪崩のように押し寄せて経済を圧迫するけど良いのか?ってことで草
「うるせぇ難民ぶつけんぞ」みたいな感じか…
ウクライナの主権を守るための戦いが西側諸国にとって重要であるのと同じくらい、西側諸国の主権が域外の戦争に制約されない事も重要ですからね。出さないと明言しているのを強請ってもダメなものはダメでしょう。日本の武器輸出の是非をめぐる議論が連合与党内の政治日程に足を引っ張られているのが仕方のない事なのと同じく、西欧諸国にもそれぞれ都合があるのは仕方ないと思います。
ところで話は代わりますが中期防に基づく今度の予算請求では長年そのままにされてきた北鎮の地対艦ミサイル連隊の装備も12式に置き換わるらしいですね。88式の完全な廃盤には至らないらしいですが、現有品の半数以上が用途廃止になるとかで、さてその時どうするのかなと個人的にちょっと気になっています。まぁ数年後の話ですが。
うちも退役中のホークくらい送ってもいいと思いますがね。
ウクライナ戦争の教訓は「古い武器でも念の為に取っておけ」ですよ。
もう再来年には台湾有事が控えてるのに、貴重な対空兵器の在庫を減らすのは流石に平和ボケしてるんじゃないかとの誹りを逃れないと思いますね。
いやいや教訓としては「自国だけで後生大事に抱え込んだ武器だけではとても足らんから、普段から他国と融通しあえる枠組みを作っておけ」といったところでしょう。戦時所要量をナメ過ぎです。
台湾有事ねえ…
本当に今の戦力比のままで開戦に踏み切るつもりなのかな
まあ昔の日本も無謀な戦争始めた前科があるからゼロとは言えないんだけど
サラミ戦術している関係で全方位のどこかとは紛争が起こる可能性があるのは確かなんだよね。
>中国
そろそろ対応年数からして処分のいるスパローあたりは良いかもね。
ブークとかで撃てるだろうし。
スパローはまだ空自中距離AAMの主力ですよ
中距離AAM在庫の半数以上スパローの筈でAAM-4とAIM-120は合わせて1000発ぐらいしか調達されていない筈
AIM-7はF型M型合わせ3000発以上が調達されており射耗分を差し引いても半分はまだ残っている筈で耐用年数の迫る固体は実弾訓練用として使われる筈なので余ってなどいないでしょう
F-35とAMRAAMをもっと急いで調達すれば良いのだけれども、F-35はブロック4の進捗に合わせて緩めに調達したいのが本音だからなぁ……
もっとも、台湾有事が近いのならば、そんな悠長なことをしている余裕は無いのですけれども
そして、まだ多数残っているF-15の対インフラ攻撃防衛用の弾薬としても、依然としてスパローは有用ですので……
自衛隊のどこでホーク改善型ⅱとⅲが退役してるんだろう。どこかの部隊で用廃になろうが現役部隊に装備が移るだけでしかないと思うが。ホーク改善型はまだまだアメリカに持ち込んで演習もしているし損耗と射耗で減っていくだけだから使える奴を用廃なんて03式シリーズが全国配備されない事には考えられないと思うが。
根本的な問題として、ロシアの遠距離攻撃能力(ミサイル、UAV)の生産力を上回る防御兵器の生産が、平時体制のままである西側に可能かどうかがある気がします。
ロシアの生産能力が上ならば、どれだけ支援しようがいずれどこかのタイミングで破綻しますよね。
流石に英米の情報機関はその辺りの具体数を掴んでいるでしょうから、決定的な破綻が来てロシア空軍の大編隊が押し寄せるなんて状況になりそうなら停戦させると思いますが。
「決定的な破綻が来てロシア空軍の大編隊が押し寄せるなんて状況になりそう」になったらロシア側が停戦を受け入れないのでは?
停戦を押し付けるならもっと早い段階でやらないと、その時点で優位に立っている側が拒否して状況が悪化すると思います
去年と違ってウクライナはモスクワを攻撃できる長距離神風ドローンを量産し出しているから、キーウにミサイル打ち込んだら同じ量でモスクワのインフラを攻撃されるかもね。
ロシアにはパトリオットクラスの性能の防空兵器は皆無みたいだから一方的に殴られる可能性もあるかも。
その時アメリカはatacmsの供与はするのだろうか ?
ロシア領に撃ち込まないにしても大量の長距離兵器があると後方の高価値目標を壊滅させるのに好都合だと思う。
メリットになる1部だけ取り上げて無償だから兵器をよこせとか言いつつ難民をチラつかせるとか馬鹿らしい
フランス人の発言も極端だけどこれぐらい直接的でないとウクライナ人には理解しずらいのかもしれない。
いやこれすら上手く真意は伝わってないかもだけど。
これだと国産SD-300の量産は無理筋かな。冬に向けて能力は限定されるがコスパに優れるカウンターUASのコヨーテblock2やAPKWS、軽量マルチロールミサイルやハイドラロケットを発射するVTOL型のUAV、米独エアバースト機関砲の拡充とかありそうよな。
ASRAAMの地上発射バージョンで射程15Kmの新型対戦車ミサイルLMUR対策は出来ると思うけど、どれ位アウトレンジしてユニットいくつで運用するかでどうなるか変わるよね。同時発射出来るのが2発だけだと対応能力が限定されると思う。