ウクライナ戦況

ウクライナメディア、約2週間の攻撃で原発6基分相当の発電能力を失った

ウクライナメディアのRBC Ukraineも10日「約2週間に渡る攻撃でウクライナは6GW相当の発電能力を失った」「これはザポリージャ原子力発電所の発電量(原発6基分)に等しい」と報じ、暖房シーズンまでに2GW分の回復しか見込めないらしい。

参考:Мінус “одна ЗАЕС” за два тижні. Що чекає на українців через обстріл енергосистеми
参考:Кулеба: Ми б не втратили Трипільську ТЕС, якби мали достатню кількість Patriot

どちらしてもエネルギーインフラ復旧は西側諸国の支援なしでは成り立たない

Financial Timesは8日「ロシア軍のエネルギーインフラに対する攻撃戦術と目的が変更されている。昨年は変電所や送電施設を破壊して都市を暗闇と寒さに陥れようとしたが、今年は発電所を破壊して短期的に復旧できない損害を与えようとしている」と報じたが、ウクライナメディアのRBC Ukraineも10日「約2週間に渡る攻撃でウクライナは6GW相当の発電能力を失った」「これはザポリージャ原子力発電所の発電量(原発6基分)に等しい」と報じた。

出典:Минобороны России

RBC Ukraineは「ウクライナは昨年の暖房シーズンに発電所の50%と送電網の40%以上が損傷(約1,200発中200発が目標に命中)したが、過去2週間の攻撃量(ミサイルを400発以上、無人機を600機以上、誘導爆弾を約3,000発)は昨年の暖房シーズンに匹敵し、特に弾道ミサイルで発電所を攻撃しているため深刻な被害をもたらしている」「この攻撃でウクレネルゴの送電施設は約1億ユーロの損害を被り、DTEKも発電量の80%以上を失った」「シュミハリ首相は2週間の攻撃で6GW相当の発電能力を失ったと明かした」「これはザポリージャ原子力発電所の発電量(原発6基分)に等しい」と指摘。

さらに「再び攻撃を受けなければ暖房シーズンまでに2GW分の発電量を回復させることができる」「但し、破壊された発電所を完全復旧させるには1年以上もかかるため、エアコンを使用する夏場と寒さが厳しくなる11月以降は極端な電力不足に陥るしかない」「エネルギー相は状況に応じて国民に節電を呼びかけると述べたが、エネルギーインフラ復旧資金を捻出するため電気料金を値上げの可能性も排除しなかった」「政府は昨年も同様の理由で電気料金を値上げしているため国民が増えるかもしれない」「どちらしてもエネルギーインフラ復旧は西側諸国の支援なしでは成り立たない」と報じている。

出典:Dmitri Tovstonog/CC BY-SA 4.0 トリピル火力発電所

11日の攻撃でトリピル火力発電所(1,800MW)が完全に破壊されたため、ウクライナの発電能力は更に悪化している可能性が高く、ゼレンスキー大統領から「複数のパトリオットシステムを保有する国々にシステムを譲渡するよう説得しろ」と命じられているクレバ外相はWashington Postのインタビューに「優しく静かな外交は上手くいかなった」「より強硬な発言を伴う外交スタイルに変える」と明かし、トリピル火力発電所の破壊についても「我々にパトリオットシステムを差し出すことが唯一の解決策だ。もしパトリオットシステムがあれば発電所を失うことはなかった」と訴えた。

ロシア軍の攻撃がどこまで続くのか、ウクライナはどれだけの発電能力を失うのか、迎撃弾がどれだけ残っているのかなどは不明だが、ウクライナのシンクタンク(Центр Разумкова)は「電力輸入量を現在の1.7GWから2GWに増やすことが可能かもしれないが、どれだけ復旧が上手くいっても暖房シーズンには2GW~3GWの電力不足に陥るだろう」と述べており、電力不足は国民生活だけでなく企業の生産活動にも大きな影響を及ぼすだろう。

因みにトリピル火力発電所の攻撃に使用されたのはShahedとKh-69らしい。

関連記事:BILD記者、ウクライナはパトリオットの迎撃弾とIRIS-Tを使い果たした
関連記事:ウクライナ外相、防空システムを確保するため強硬な外交手法に変更
関連記事:ロシア軍のインフラ攻撃は発電所の破壊が狙い、短期的な復旧が見込めない

 

※アイキャッチ画像の出典:pixabay

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コメント

    • 名無し
    • 2024年 4月 12日

    今まで破壊しなかったのが温情なんでしょうね
    イラク戦争やガザでも真っ先に攻撃されてましたし。
    ロシア国内の攻撃を始めたので徹底的な報復が行われているとみるべきでしょう

    67
      •  tk
      • 2024年 4月 12日

      温情といっているのはプーチンだけであって普通に攻撃してましたよ
      1年目はウクライナを占領する気だったからでしょう

      14
      • 名無しの悪夢
      • 2024年 4月 12日

      ウクライナに石油精製所などの攻撃ができてロシアにできないのは、ロシアの防衛能力が低くてウクライナの防空が素晴らしいから、みたいな言い方を散々してましたからねぇ…
      インフラ攻撃がそんなにウケるならやっちゃっていいんじゃない?ってなるのも自明の理というか
      冬が終わった時期に始めたのも温情なんでしょうかね

      35
        •   
        • 2024年 4月 12日

         橋に対する攻撃や上水道に対する攻撃も少ないからな。
         ロシアがやったことは報道されるけど、やっていないことは報道されないわけで、この辺は受けて側が補完するしかない。
         互いに暗黙の制限をしていたけど、ロシア本土への攻撃を激化したら、ロシアも数倍の報復するだろうな。

         ウクライナ側も自家発電で対応するだろうけど、ウクライナの石油施設も破壊されるかも。

        34
        •     
        • 2024年 4月 12日

        ロシアも製油所や貯蔵施設をずっと攻撃していますし、聞いたことのない主張ですね…

        1
          • ポンポコ
          • 2024年 4月 12日

          何か言いたいかというと、

          1.ロシア軍は今まで発電所は攻撃してこなかった。

          2.どうせ発電所を攻撃するなら、最初からとか、または冬前に攻撃すべきではないのか?

          3
      • 犬の〆
      • 2024年 4月 12日

      私はいくらかロシア寄りの考え方を持っていますが、露軍に温情なんてものがあるでしょうか。。。
      むしろ露軍、というかプーチンの中にエスカレーションの基準があって、その段階に達したので攻撃を始めたようにも思います。
      色々とやらかしている露軍ですが、目的という点では始終ブレてないですし。

      20
      • 2024年 4月 12日

      2022年-23年の冬にあれだけのインフラ攻撃が行われたのに、今まで破壊されなかったことの理由を「温情」だけで説明付けようとするのは無理があるでしょう。ロシアが西側による支援の状況やエスカレーションの可能性など様々考慮して、これまで積極的に狙わなかった目標を攻撃対象に含めたという可能性は否定できませんが、攻撃能力と防御能力のバランスが変化したという要因を考慮せず、戦争中の国家の決定を「温情」というだけで説明しようとするのはあまりに非論理的です。

      21
        • nmb
        • 2024年 4月 13日

        その期間のインフラ攻撃もSBUによるクリミア大橋爆破に対する報復措置ですからね。
        しかも冬の時期ということを考慮して、攻撃対象は主に小規模な変電所で発電所自体は手付かずでしたから。
        更に言うと、ロシア軍の空爆は常に施設に人がいない夜間に集中していることも特筆すべきです。
        民間人死者数が2年間でやっと1万人を超える程度で済んでいることもロシア軍が民間人に配慮していることを示しています。イラク戦争では50万人死んでます。

        「温情」という表現は言い過ぎにしてもこれまでのロシアのインフラ攻撃はアメリカ、NATOのような無差別、無秩序な破壊行為ではなく原因と結果の伴った理性的な作戦行動であることは明らかです。

        7
    • イーロンマスク
    • 2024年 4月 12日

    Kh-69
    空中発射式巡航ミサイル
    亜音速、射程300km
    レーダー断面積0.007 ~ 0.01平方m
    MiG-29K、MiG-35、Su-35、Su-57に搭載可能
    今年の2月に実戦投入
    シャヘドをデコイに使ってその間にステルス巡航ミサイル撃ち込まれると対処が大変だ
    湾岸戦争でもデコイとステルスの組み合わせは使われてたような

    20
    • emp
    • 2024年 4月 12日

    やはり敵基地攻撃能力が重要だな
    有事の時に中国の発電所やダムを攻撃する選択肢がある
    それだけでも大分変わってくる
    相手のエスカレーションへの抑止と報復ができる

    6
    • MD
    • 2024年 4月 12日

    (今後の攻勢への地ならし等、どの様な思惑があるかは置いておきプーチン、ショイグの発言として)
    ウクライナの発電所への攻撃はロシアのインフラへの攻撃に対する報復というのがロシアの公式な声明です。
    ロシアの製油所への攻撃についてはアメリカが不満を示しているという情報もあり、
    攻撃の結果、原油価格が上昇すれば支援をしている西側諸国の経済に影響を与える可能性もあります。
    さらに、ロシアへ報復攻撃という名分を与えてしまっているわけですから、
    軍需産業等へ標的を変更するべきだと思いますがね。
    現状では、状況をエスカレーションさせているウクライナの自業自得としか言えません。

    18
    • MD
    • 2024年 4月 12日

    (攻勢の前の地ならし等、どの様な思惑があるかは置いておきプーチン、ショイグの発言として)
    ウクライナの発電所への攻撃はロシアのインフラへの攻撃に対する報復というのが公式な声明です。
    ロシアの製油所への攻撃についてはアメリカが不満を示しているという情報もあり、
    攻撃の結果、原油価格が上昇すれば支援をしている西側諸国の経済にも影響がある可能もあります。
    さらに、ロシアに報復攻撃という名分を与えてしまっているわけですから
    軍需産業等へ標的を変更すべきだと思いますがね。
    現状では、状況をエスカレーションさせているウクライナの自業自得としか言えませんね。

    1
      • MD
      • 2024年 4月 12日

      申し訳ありません、二重投稿の形になってしまいました。

      2
    • たむごん
    • 2024年 4月 12日

    クレバ外相が、訳の分からない責任転嫁を、放言しているのでしょうか。

    フェラーリがあれば待ち合わせに間に合った、ヘリコプターがあれば、自家用ジェットがあれば…。
    持ち主で無料で差し出さないのが悪い。みたいに聞こえてしまいます。

    待ち合わせに間に合わないら、先方と折り合いつけようよと。
    戦時中の国民向けですが、なんかちょっとなあと。

    >「我々にパトリオットシステムを差し出すことが唯一の解決策だ。もしパトリオットシステムがあれば発電所を失うことはなかった」と訴えた。

    21
    • 58式素人
    • 2024年 4月 12日

    戦役が長引くようなら。
    船か艀の上に火力発電所を載せたものを多数建造して、渡した方が良いのでしょうか。
    不定期に移動して空爆を避けるか、発電船/艀に防空設備を一緒に乗せるか。

    3
      • 名無し
      • 2024年 4月 12日

      ポーランドとの国境に発電所作って送電するとか?
      誤爆は避けたいでしょうし。

      船は撃沈されるかと

      3
      • Whiskey Dick
      • 2024年 4月 12日

      近年は船舶の動力方式としてシリーズハイブリッドを採用するものが増えている。あのズムウォルト級もガスタービンを発電のみに使い、スクリューの駆動は電気モーターで行っている。シリーズハイブリッド式艦船の電源回路に外部接続コネクタを設けることで、被災地の非常用電源として使うことができる。大型艦船は対空、対船舶装備も充実しているので、地域防衛機能を有する発電所として使えるかもしれません。
      少し変わったものにロシアが開発した洋上原発なるものがある。フランス海軍の原潜もシリーズハイブリッド方式であり、フランスの原発メーカーが海中原発なるものを提案したことがある。

      5
    • 古銭
    • 2024年 4月 12日

    ザポリージャ原子力発電所と同等の発電量となると単純計算では戦前の電力生産の四分の一ほど(同原発と合わせて半分)です。再度の攻撃が無い前提であっても復旧が容易でない被害が増えてきたというのは深刻ですね。

    このような状態でも西部は余所を気にしないのであれば(露軍が原発を攻撃しない限り)わりと誤魔化しが効くというのは良いのか悪いのか。フメリニツキー原子力発電所の5号機完成後の電力が完成する頃には電力の振り分けは需要ではなく完全な政治問題になっているかもしれませんね。

    5
    • 名無し
    • 2024年 4月 12日

    アメリカが石油施設攻撃をやめるよう苦言を呈した理由の一つがこれかもしれませんね。
    「なんでもあり」になってしまうと、損をするのはいつだって劣勢なほう。

    45
    • たむごん
    • 2024年 4月 12日

    自分も、仰る内容に同意です。
    ウクライナ復興会議(戦争当初)なども、大規模発電所の破壊など、インフラの壊滅は想定していません。

    『誰がお金を出すのかの議論』民間投資はインフラのない所は無理ですから、最初からやり直しになってしまいます。

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