中国関連

中国覇権を支援した米政権の対中政策、最大の過ちはフィリピン基地の喪失

米シンクタンクで中国問題を専門に扱うリック・フィッシャー氏は30日、世界秩序を新しく自分好みに書き換えたい中国の野望が成功するかどうかは「民主主義の脆弱な部分につけ込み中国に有利な過ちを犯させることができるかどうかに懸かっている」と指摘した。

参考:American Mistakes Now Aiding Chinese Hegemony Building: Loss of US Military Bases in Philippines

ドゥテルテ大統領よりも中国に迎合する人物がフィリピンの指導者になれば中国海軍の第一列島線の突破は非常に容易になる

中国が第2世代のミサイル原潜(SSBN)設計に着手した1960年代後半、中国共産党と人民解放軍は海南島を拠点に活動するSSBNの安全確保のため南シナ海の支配権が必要と判断に至り、1974年に当時の南ベトナムから西沙諸島、1988年にはベトナムからジョンソン南礁と南沙諸島の支配権を強引に奪うことに成功したが問題はフィリピン駐留米軍で、これを排除して南シナ海における米軍のプレゼンスを低下させるため「中国はフィリピンの政治家に賄賂を与えスービック海軍基地の使用期限延長に反対するよう仕向けた」と言われてきた。

出典:Photo by Petty Officer 1st Class Thomas Brennan

この疑惑について豪メディアのThe Australian紙は昨年末、フィリピン政府の元高官から得た情報に基づき「中国共産党はフィリピンの犯罪組織や中国人の犯罪ネットワークを活用して上院の投票で基地使用の期限延長が否決されるよう巨額の資金を議員にばら撒いた」と報じており、この暴露は「南シナ海における米軍のプレゼンス低下のため中国が積極的に関与していた」という事実と「フィリピンの民主主義を損なわせるため賄賂を利用していた」という事実を初めて認めたものだとフィッシャー氏は指摘している。

さらに基地使用の期限延長交渉を担当していたリチャード・アーミテージ氏も「(元高官の話は)概ね事実で、中国はこの決定を得るために大金を投じたが政府を動かすのではなく議員を動かすことで成功した」と認めたが、中国の成功は金の力だけによるものではなく「米国に対する議員の反米感情、東南アジアにおけるソ連軍の脅威消滅、ピナトゥボ山の噴火によるクラーク空軍基地の放棄など複合的な要因がブッシュ大統領の決断を後押しした」と述べている。

出典:Tony Peters / CC BY 2.0 ミスチーフ礁

アーミテージ氏は「ブッシュ大統領(父)から約20年間の対中政策は拡大する中国との貿易や投資を維持するため意図的に人権問題を軽視していたのが特徴で、この問題は“中国に自由経済が浸透すれば最終的に共産党支配が終焉を迎えるだろう”という幻想によって正当化された」と明かしたが、中国共産党は米軍が出ていったフィリピンの空白を埋めるため「買収した議員を通じて政治的影響力を増大させ戦略的に南シナ海を支配する基盤を整えていっただけだった」と指摘し、特に後任のクリントン大統領が何も手を打たなかったため中国共産党の行動はより大胆になった。

1994年末に南沙諸島のミスチーフ礁で中国の測量船が発見されたがクリントン大統領は何も手を打たなかったため、南シナ海のど真ん中に3,000m級の滑走路と多数の軍事施設が建設されアジア経済を支えるシーレーンに大きな影響を及ぼす結果を招き、南シナ海の支配成功を確信した中国は海南島にSSBN用の地下トンネルを備えた秘密基地や文昌衛星発射場の建設を開始、保有する空母も海南島に駐留させ益々同海域の支配に力を注いでいるため相対的に米海軍のプレゼンスはどんどん低下するしかない。

現在のドゥテルテ大統領は権威主義を好む左派で中国との関係強化を望んでいたが、南シナ海支配の仕上げに入っている中国共産党は領有権を主張する南沙諸島からフィリピンを締め出しにかかったため仕方なくフィリピン軍の近代化に着手したが、問題は彼の後任が国の自由を守るのか中国共産党の言いなりになるのかだ。

フィリピンは中国の沿岸地域や支配を目論む南シナ海にも近く、フィッシャー氏は「米陸軍が開発を進めている新型の短距離弾道ミサイル(HIMARSで使用するプレシジョン・ストライク・ミサイル/Precision Strike Missile)や中距離弾道ミサイル(極超音速兵器のLRHW)をフィリピンに200基~300基売却できれば中国の野心を封じ込めることができる」と提案しているものの「これは次期大統領が米国につくのか中国につくのかに大きく依存する」と述べており、ドゥテルテ大統領よりも中国に迎合する人物がフィリピンの指導者になれば中国海軍の第一列島線の突破は非常に容易になる。

出典:ロッキード・マーティン 陸軍が開発を進めている極超音速兵器LRHW

つまり日本が南西諸島を幾ら固めても中国海軍の本拠地は海南島にあり、フィリピン近海の海上航行に危険がないのなら太平洋への進出は非常に簡単だという意味だ。

因みにフィリピンは対艦ミサイル「ブラモス」調達契約をインドと締結したばかりなので、後任の大統領が米国よりなら中国海軍のフィリピン近海の航行は非常にリスクが高いものになるだろう。

関連記事:インド、東南アジアへのブラモス輸出は中国海軍に新たなストレスを強いる
関連記事:フィリピン、米軍地位協定継続を米国が望むなら約1.7兆円の補償が必要
関連記事:フィリピンの要求に屈した米国、ドゥテルテ大統領の要求を満たす対外軍事援助を提案か

 

※アイキャッチ画像の出典:The White House

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コメント

    • K
    • 2022年 1月 31日

    >中国はフィリピンの政治家に賄賂を与えスービック海軍基地の使用期限延長に反対するよう仕向けた

    中共は今でこそ口癖のように内政不干渉を囀るけど、実態はまぁこんなもんだよね。
    逆にアメリカは東西冷戦時代は他国の政権転覆なんかでも真顔で仕掛けていたけど、最近は迫力無いなぁ。
    やっぱり、民主主義をイデオロギーとして掲げていると行動が不自由になってしまうのかな。共産主義vs.資本主義ならなんでもありだろうけど、それじゃ中共との対立軸にはならないもんな。
    でも習近平がトチ狂って毛沢東時代に先祖帰りする可能性もなくはないか…?

    23
      • せい
      • 2022年 1月 31日

      だからチベットやウィグルでの人権で戦ってるんだろうね。
      突かれて痛い部分はどんどん突かなきゃ、何でもありの輩には勝てないよ。

      20
      • 無無
      • 2022年 2月 01日

      古い話になるが、米西戦争のあとにスペインから引き継いだ植民地がフィリピンと、あのキューバw
      アメリカの統治がスペインに比べて愚かとは言えないが、現地人からしたら真綿で首を絞めるような毒親の愛情でしかなかったから、キューバはあの通り親殺しに走りw
      フィリピンも、かつての高名な政治家の発言はこう
      「アメリカによる天国のような統治よりも、我々による地獄のような自治を選ぶ」
      他国に支配されて喜ぶ民族なんていないよ、そこに中華のつけ入る隙があり、アメリカは今になって過去の代償を払わされてると言える

      5
    • G
    • 2022年 1月 31日

    >南シナ海支配の仕上げに入っている中国共産党は領有権を主張する南沙諸島からフィリピンを締め出しにかかった

    この時はさすがのドゥテルテ大統領も米比相互防衛条約をもとに米軍を頼ったものの、結局アメリカは艦船をうろつかせただけにとどまり、結果として事実上中国の支配領域が確定してしまったため、フィリピンにおけるアメリカへの信頼性にとどめをさしてしまったのが致命的に思えますね

    それでいてバイテデン政権はフィリピンへの関係強化政策をとっているようにも見えないため、日本としても今後の見通しが厳しそうなのが辛いところ

    21
      • DEEPBLUE
      • 2022年 2月 01日

      バイデンは結局口だけで極東守るつもりないんじゃないですか?民主党支持者はヨーロッパ守れば票になるけど太平洋守っても、中国市場の方が大事なのが民主党の党是

      4
        • ma
        • 2022年 2月 01日

        太平洋戦争でも中国市場を取りましたしね。
        まぁ対岸の火事ですし、アシアが燃えても金のほうが遥かに大切ですし。
        なんなら、トヨタ、TSMC、Samsungの邪魔になればIntel、GMが有利になるとすら考えてそう
        民主党の票田はビッグテックと軍需産業ですからねぇ。

        2
      • kwsm
      • 2022年 2月 01日

      バイデン政権がフィリピンと関係強化政策をとっていないというのは誤解でしょう
      去年には訪問米軍維持協定の破棄を避ける為に多額の支援も行っています
      リンク

      3
        • G
        • 2022年 2月 02日

        記事を読んだ限りではフィリピンに現状から関係をマイナスにすると脅されたのを阻止するために支援という名の示談金を支払っただけで、バイデン政権が自ら、それも現状維持じゃなく関係強化しようとしたようには見えないのですが

        2
    • sd
    • 2022年 1月 31日

    フィリピンの次期大統領選だけど、領土問題よりも中国との経済協力を優先しているマルコス候補者の支持率が断トツ。
    なので、良くて現状維持になりそうですなぁ。

    8
    • 無無
    • 2022年 1月 31日

    国民はその資質に見合った政治家を選ぶというが、タレント上がりやらキワモノ大統領の多いフィリピンの民度は残念だね、独裁国家にすれば美味しいカモ
    社会主義の崩壊で未来に楽観論を抱いた20世紀末の西側政治家たちは、歴史から断罪される運命だな

    9
      • DEEPBLUE
      • 2022年 1月 31日

      ニクソンと角栄の時代から中国を過大に善良と錯誤したって後生評価されそう

      7
    • 梅スライム
    • 2022年 1月 31日

    LRHWってアメリカは売る気なのでしょうかね。なんとなく日本に対しても売る気はなく駐留米軍が配備するんだろうと思ってました。
    日本が仮にLRHWを購入し配備したとして、台湾有事でLRHWを中国本土の空軍基地なりに日本が日本の意思と責任も込めて使用できますかね。アメリカはそういう、使用してやり返されて血が流れる当事者であることを同盟国にも求めているのでしょうけれど。

    台湾有事事後の復興名目で相当の貿易優遇でも確約されてなければ現地軍の購入配備はおろか、駐留米軍の配備すら現地国は反対するでしょう。おそらくアメリカは日本に対しては日本がLRHWを購入して台湾有事でアメリカの制御で使用させる確約を得るか、駐留米軍が配備し日本がその分の思いやり予算を増額して賄うようにと要求してるのでしょう。そういう交渉を今やってるのでしょうけれど、どういう形になるのやら。

    3
      • 黒丸
      • 2022年 1月 31日

      LRHWをアメリカが売る気があっても、日本は買わないかと。
      LRHWに核弾頭搭載可能となれば、日本の核武装疑惑につながるので
      日本としては同レベルのものを独自開発しておくべきかと。

      そして最悪の場合に米軍による核武装型の持ち込みを認める、と。
      そうすれば、LRHWによる核攻撃は米国の意思による実施になり
      日本に配備されたLRHWへの攻撃は米国の戦略への攻撃になるので、
      全面核戦争にエスカレートする可能性があり、SSBNによる反撃も担保されるかと

      1
        • 梅スライム
        • 2022年 2月 01日

        アメリカはLRHWに核を搭載しませんよ。将来に渡ってずっと、確実に。
        何故なら、非核だからこそこの種の通常弾頭で空軍基地攻撃の中距離弾道ミサイルなんていうエスカレーションの可能性を孕む怪しい代物の存在や使用が認められるからです。
        核搭載可能な仕様にしていた場合、この弾道ミサイルの発射を感知したら弾着予定国は着弾による核搭載かどうかを判別する前にもう即時核報復するしかないという判断をするかもしれません。
        なんせLRHWはとにかく大量の数を一気に撃ち続けるのですから、核搭載仕様があるのならそれらが全て核搭載の可能性を考慮せざるを得ないのです。
        そんなエスカレーションの可能性があるものを実戦で使うわけにはいきませんので、役に立ちません。

        アメリカはLRHWを台湾有事で使える兵器として考えています。核搭載はあり得ません。

        17
    • フィリピン
    • 2022年 1月 31日

    なんだかんだでブラモス導入したし、ドゥルテがマシに思えてきた

    9
      • DEEPBLUE
      • 2022年 2月 01日

      中国寄りとはいえ自国を売り渡すほど腐ってはいなかったと。
      ・・・日本だったら尖閣上陸されても財界がくれてやれって言うでしょうし

      3
      • A
      • 2022年 2月 01日

      次の大統領ではこっちに向けていたなんてことになったりして。

      1
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