中国の環球時報は4日「建設していた極超音速風洞設備が受け入れテストに合格し、高高度の環境下でM30の飛行特性をテスト可能になった」と報じており、これを利用して新たな極超音速兵器を研究・開発してくる可能性が高い。
参考:Chinese scientists finish development of hypervelocity wind tunnel
中国に対抗するためオーストラリアは米国の極超音速兵器開発で重要な役割りを果たすかもしれない
米空軍は極超音速兵器で先行するロシアや中国に追いつくため2018年にロッキード・マーティンと契約を締結、1年後の2019年6月にブースト・グライド・ビークル(極超音速滑空体/HGV)を搭載する「AGM-183A ARRW」のプロトタイプが完成、装備品の開発にデジタルエンジニアリングの採用を主導していた調達・兵站担当のローパー次官補は「もしARRWを従来プロセスで開発していれば初期作戦能力の獲得は2027年になっていたが、デジタルエンジニアリングの環境下で開発したため僅か4年で実戦配備できる」と主張。
地球規模攻撃軍団(AFGSC)のレイ司令官も「陸軍が進めようとしている対中ミサイル網建設は愚かで資金や資源の無駄遣いだ」と批判、陸軍が開発を進めるLRHW(ARRWと同じHGVを搭載するタイプの極超音速兵器)への投資は重複しており、空軍主導のARRWは「2021年中に量産を開始」「2022年中に初期作戦能力を宣言する」と豪語していたが、量産に移行するための試射が尽く失敗して性能確認が進まず、調達・兵站担当のハンター次官補は今年3月「予定されている試射が成功してもARRWを調達しない」と述べ、信頼性に問題があるARRWの実用化を断念した。
ジョン・ハイテン統合参謀本部副議長(現在は退任)は2022年1月「極超音速兵器の開発競争で中国に米国が負けるのは、未成熟な技術を開発する過程のテストにおいて失敗を許さない官僚主義や議会に問題があるからだ。萎縮した米軍は極超音速兵器のテストを過去5年間で9回しか実施していないが、同じ期間に中国は数百回のテストを行っている」と、米政府説明責任局も「開発中の極超音速ミサイルが直面している問題の多くは国防総省が従来の開発プロセスをバイパスする新しい権限を行使しているためだ」と指摘。
従来の開発プロセスをバイパスする新しい権限とは「開発期間やコストを圧縮するデジタルエンジニアリングの採用」を指している可能性が高く、全面的にデジタルエンジニアリングを採用して開発したT-7Aも同じ問題に直面しており、ケンドール空軍長官も「完全に信頼できるモデルが確立されていない以上、デジタルの進歩が現実のテストに取って替わることはできない。確かにデジタルエンジニアリングは大きな進化だが効果は過大評価されている。検証された手法と異なることを行う場合は検証する必要がある」と述べている。
ロシアの中央流体力学研究所は複数の極超音速に対応した風洞設備を所有、中国は18の風洞設備を所有し、少なくともM8、M10、M12に対応した風洞設備が3つあり、2018年に高高度(40km~100km)の環境下でM30の飛行特性をテスト可能な風洞設備「JF-22」の開発に着手、米国も極超音速兵器開発の要となる風洞設備の近代化に資金を投資しているものの、軍、NASA、大学、産業界施設の中にM30に対応した風洞設備(28施設中M18、M20、M23に対応した施設が1つづつ)は無い。
中国はJF-22の用途について「極超音速航空機やスペースプレーンなどの開発プログラムに貢献することが期待されている」と述べているが、これを利用して新たな極超音速兵器を研究・開発するのは目に見えており、これに対抗するため米国はオーストラリアがもつM30に対応した風洞設備(ウーメラ試験場にあるらしい)に目をつけ、両国は極超音速兵器の共同開発で手を組んでいる。
当面、デジタルエンジニアリングで極超音速兵器の開発期間を圧縮できないと判明した以上、風洞設備への投資がHGVの開発期間や性能を左右する可能性が高く、世界最大級の広さを備えた「ウーメラ試験場施設」や「M30対応の風洞設備」をもつオーストラリアは米国の極超音速兵器開発で重要な役割りを果たすのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:CCTV
軍事面は置いといて中国の科学に対する思い切った投資は羨ましい
ちゃんと理学にお金投資してんのよね
矛先がこっちに向かなければ素直に褒めれるんですけどね
アメリカに足枷はめられている日本とは、エライ違いだ。
やはり成功への道のりにおいて、トライ&エラーに勝るモノは無いんだなぁ。
とりあえずアメリカ軍上層部はビッグマウスで語る前にビジネスにおける失敗とか、モノづくりの研修を受けさせた方が良いんじゃないか。
中国は2017年に「軍民融合委員会」をチャイナセブン直轄で設立しています。
その頃から中国の技術力向上は加速していますね 。
中国の研究開発費は約57兆円ですが、もう軍事と民間の境目は分からない状態です。
北九州の三井ハイテックの創業社長のように、万力とヤスリを渡して、平面と直角だしだけでもやらせたい。
平面と直角、水平と曲線だけでも如何に物作りの習得が大変か体感して忘れないでほしい。
紙とペンと金が有っても技術と技能が無ければ、物は作れない。コンピューターに記憶させる名人芸が無ければ、機械は名人の技を量産できない。
ところが、中国は最新の機器を買い与えて下々にトライアンドエラーをさせる。そうした方が早く、そして誰でも平面と直角だしができるようになるから。やっぱ金と勢いがあるから出来る芸当だな。
>物作りの習得が大変か体感して忘れないでほしい。
なんて昭和の体育会系志向じゃ勝負にならんすよ。苦労を味わってほしいとか言う後ろ向きな思想よりも、職人の側がスポンサー(上司)にプレゼンテーションできるようにならないと。
ところがどっこい、半導体製造関連の工作機械や治具の最終仕上げは人間でないと仕上がらない領域が残っているんですよ。
中国企業が作れない製造装置があるから、各種半導体製品が作れるわけで、物作りを理解しない人間が機械を動かしても仕上げまでは完成しません。
勘違いしちゃ困る。私が言いたいのは、
>平面と直角、水平と曲線だけでも如何に物作りの習得が大変か体感して忘れないでほしい。
という後ろ向きの精神論は無意味だって話です。
>万力とヤスリを渡して、平面と直角だしだけでもやらせたい。
そういう頑迷な精神主義的発想が日本経済にとって一番害悪になってるんじゃないですかね…
実際遊んでるのと変わらんからね
1人あたり一億円くらい投資してみりゃいいんだ
絶対必死こいてモノにしようとするだろうよ
ノーベル賞級の研究開発者で自らの手で研究装置の開発改造をしなかった人いますか?
日本でも西澤潤一さんや青色発光ダイオードでノーベル賞を受賞した中村修二さんは自ら加工して作って素晴らしい成果を出しました。
ハーバーボッシュ法を発明した2人も自らの手で装置を設計、改良して完成させてます。
研究開発や物作りを舐めてませんか?
文系経営者が研究開発費を削る現状では質の低下は必然です。
>文系経営者が研究開発費を削る現状では質の低下は必然です。
研究開発費の削減は文系が問題じゃないです。そもそもの原資がないのが問題です。そもそも文系経営者がからむ民間研究とノーベル賞受賞者の手作り研究装置は別の問題だと思いますが。
日本国としての研究費が足りないという話であれば、社会保障費を削減する以外に研究費を増額する手はないです。それを肯定できるほどのプレゼンテーションをスポンサー(有権者)にできないとならんわけです。
そして
>研究開発や物作りを舐めてませんか?
という上から目線の言い様をしている限り、研究費は増えんでしょうね。
上層部の影響だけな訳じゃないですよ。根本的には安全安心効率的な社会を望む民衆の存在があるからですよ。
研究所や軍で毎月のように事故があったらどう思います?あるいは隣の研究所から毎週爆音が聞こえるのに、苦情を言ってもよく分からない理論の説明しか言わない、とかだったら?そりゃ不満の1つや2つはあるでしょ。こういう物が積み重なって、大量の謎規則とレポートが生まれるわけで。あるいは学校の先生なんて分かりやすい例ですよね。
こういうものを無視できる中国は当然強いですよ。国が必要といえばお金をいくらでも注ぎ込めるし、文句がある人間を刑務所に送れるわけですから。
今年4月にロンドンで開催された 王立航空協会主催 Future Combat Air & Space Capabilities Summit でテーマごとに数多くのプレゼンと質疑が行われたと報告されています。
リンク
その中で、英国が開発中のリアクションエンジンに関連し、中国の極超音速域研究について述べられています。
曰く「開発のペースと規模が実に脅威的な中国からのこのテーマに関する論文の量が多いため、これらのシステムに多くの焦点が当てられています」
曰く「中国では米国の50倍から100倍の極超音速試験が行われていると推定されている」
中国では、将来の航空宇宙軍事技術にも直結する極超音速飛行技術の研究開発に桁違いの投資を行っているようですね。
極超音速兵器開発における米国の予想外の躓きは、核融合技術研究におけるそれと似たものを感じます。2つの技術に共通するのは、冷戦初期において米国が世界的に技術をリードし、貴重な実証データを大量に収集・独占していたということです。核融合(というより核反応の過渡解析)への知見に絶対の自信があった米国はブッシュ政権下において国際的なプラズマ核融合研究(ITER)から離脱し、独自にレーザー慣性方式の核融合研究プログラムを立ち上げます(ITERへは後に復帰)。ところが90年代初頭に始まったこのプログラムが具体的な進捗を出したのはほんの数年前で、専用の研究施設まで作って進められていた同プログラムは30年間なんの成果も出せませんでした。この一件には将来のエネルギー産業に対するリスクヘッジや規格独占の画策など色々な思惑があったと言われますが、根本は技術的優位に対する政治の慢心だったと思います。
元理系として言わせてもらえば技術的優位なんてのは完全に水物(なぜなら知見や技術は論文や特許公報でただちに行き渡り、絶えず改良される)で、独自に30年かけて積み上げた技術を5年で追い越されるなんて事も産業界ではよくある話です。それでも政治屋や財務方は技術的優位を永久不滅のものとして扱ってしまい、結局は新興勢力に追い越されるということを繰り返してきました。100年かけて積み上げられてきた米国の軍事技術優位の全てを5年で追い越すのは不可能ですが、中国は遅くとも30年前にはスタートしているわけで、米政府にはそこらのさじ加減を見誤らないでほしいなと思う次第です。
ケチって楽しようとした米国がすっこけて
大金かけて地道に技術開発した中国が躍進
真面目に努力する方が報われるのはまともといえる
問題は中国が強くなると我が国が困ることだが
米国しっかりしてくれ
相当大変でしょうね。同じ額を突っ込むんだったら韓国か下手すりゃ日本にやらせたほうが、成果の出る確率が高いかもしれませんよ。
デジタルエンジニアリング自体、兵器開発の価格高騰に対するアイディアとして生まれているのであって、根本の費用高騰の原因である、第2次産業の消滅と物価•人件費の高騰、そしてこれらの原因である金融業への傾倒を今更止められないですから。
そりゃもちろん世界中から人間をかき集めてるから、知識レベルは日韓よりも高いでしょうけど、素材•部品の大半の大元が日中韓を初めとするアジア圏ですから、試行錯誤の効率はこちらのほうが良いわけで。
マッハ30って凄まじい。どうやってそんな風つくり出すんだろ。真面目に想像もつかない。
マッハ30風洞施設がアメリカにはなく、大した航空機開発も宇宙開発もしていないオーストラリアにあるのも想像できなかった。
NASAにあるじゃないんかーい
デジタルエンジニアリングって、過去の実験データから予想計算するものだろうに
それなら実験データが存在しないことなら、予想計算も出来ないわけで
それだと、やってることは「上手くいくはず」「上手くいくと良いな」というやつでは
中国に追いつくのを諦めたらもうそれで終わりです。
決して手遅れではないと思うので、日本も中国に追いつけ追い越せの精神で旧式化した兵器の近代化を今からでも頑張ってもらいたい
かつて高度成長期に西欧に日本が追いつくのは無理と思われていた中で、
追いつけた日本の底力を再び見たい
残念ながら高齢化が足を引っ張ります。
高度成長期は、敗戦によって高齢者層が力を失ったこと、はっきりと言えば高齢者層が死んで数が減ったことの影響が大きいです。その結果いわゆる社会規範が崩れて、良い言い方をすれば若者が自由に動けるようになったわけです。一方で命の価値も下がって死亡事故というのが当たり前のように起きてますね。
一方で現状では高齢者の社会保障が明らかに負担になってますし、社会が硬直化してます。良い言い方をすれば間違えなく安全にはなってます。幾多の死亡事故によって法令・規則ががっちりと整備されましたから。
言っちゃ悪いですが、向こう50年から100年は我慢の年が続くでしょうね。どっかで年齢分布が適正になれば、再び立ち上がれるんじゃないかとは思います。
「マッハ30」なんて、特撮ヒーローのスペックとかでしか見た事無い単語です…
そういや日本の高速滑空弾のテストってどこでやるんですかね
JAXAがM5,M7のノズル径0.5m、M10ノズル径1.27mの極超音速風洞を運用してます。
風洞模型試験はそれを使ってるでしょう。
ありがとうございます。
日米がよがり顔で宣う中国を封鎖する第一列島線、第ニ列島線というモノはもはや滑稽ですね。極超音速ミサイルが2分以内に到達できて空母でも固定目標でも直撃できるから「列島線」の概念はもはや存続が難しいですね。ICBMがハワイに到達し、潜水艦発射ミサイルがアメリカ全域をカバーする時代ももうすぐそこに。
これでもアメリカは本気で台湾煽動続けるのかな。ロシア追い詰めて核戦争起こしかけてるウクライナといい、破滅願望と無責任が組み合わさる宗教原理主義国家ほど怖いものはない。
その名前でそのコメントはなんかの皮肉かもしくは自虐ですか?
デジタルエンジニアリングの課題である「現実とデジタルシミュレーションのすり合わせ」の仕組みづくりができてなかった、ということですね。
アメリカがそれをできる仕組みを持ってなかったのは驚きでしたが、風洞設備などすり合わせるための設備投資やフィードバックに必要な仕組み、工程を作り直すエンジニアリングが必要になりそうです。
M30 っていうと、音速は気温によるけと大体秒速 10 km で、ちょっとした人工衛星の速度ですね。こんな速度で大気圏に突っ込んだら、あっという間に溶けちゃいます。航空機ではないですね。
多分、地球を周回できる最低速度 (7.9 km/s) より高い速度で大気圏高層を周回しながらうろちょろする宇宙機の開発に使用するのでしょうね。
オーストラリアには Mach 10 を超えるような風洞はないんじゃないかと思います。ウーメラの実験場を言っているのでは?
「極超音速兵器の開発競争で中国に米国が負けるのは、未成熟な技術を開発する過程のテストにおいて失敗を許さない官僚主義や議会に問題があるからだ。」
どっかの国のロケット開発と同様ですね。ねえ,JAXAさん。