英国では不具合続きの装甲戦闘車両「Ajax」プログラムに対する不信感が高まっており、遂に議会までも「プランB」の可能性に言及し始めた。
参考:Trials of Army’s new armoured vehicles halted again
プログラムを廃止してボクサーなどの装輪装甲車導入に切り替えるべきだと主張する国防特別委員会の委員長
ジェネラル・ダイナミクスUKが英陸軍向けに開発した装甲戦闘車両「Ajax」はスペイン陸軍とオーストリア陸軍向けに開発された装甲戦闘車両「ASCOD」の発展型(ASCOD SV)で、2014年に約35億ポンドで589輌(任務毎に複数のバリエーションがある)を供給する契約が結ばれ2017年に量産車輌の引き渡しが開始されるはずだったのだが、2021年までに引き渡された量産車輌はAjaxの兵員輸送タイプ「ARES/アレス」17輌のみに留まっている。
補足:Ajaxとは英国が独自に命名したASCOD SVの名称で40mm機関砲を搭載した砲塔を備える基本タイプのAjax/エイジャックス、兵員輸送タイプのARES/アレス、指揮統制車輌のAthena/アテナ、回収車輌のAtlas/アトラス、修理車輌のApollo/アポロで構成されており、Ajaxは全体の通称と砲塔を備える基本タイプにかかる名称なので非常にややこしい。あとASCODを開発したスペインとオーストリアの企業はジェネラル・ダイナミクスに買収されているのでASCODもAjaxもジェネラル・ダイナミクスが開発元になっている。
この遅れの主な原因は乗組員の健康に影響を及ぼすレベルの振動と騒音が走行中に発生するためで、とりあえず走行速度(時速32km以下)や1回の走行時間(90分以内)を制限、乗組員にはノイズキャンセリング機能を備えたヘッドフォンを装着させるなどの対策を実施してテストを続行したものの効果が不十分でテストを一旦中断、根本的な対策を施しテストを再開したもののジェレミー・クイン国防調達担当大臣がテストを視察した結果「振動と騒音の問題が緩和されるまでAjaxテストを再開させない」と言い出したためAjaxの振動と騒音問題は未だ解決していないことが発覚してしまう。
結局、英国防省はAjaxのテストを再び中止することになり調達スケジュールの遅延やプログラムコストの増加が懸念されている。
英国の影の内閣で国防相を務める労働党のジョン・ヒーリー議員は「何十億もの税金が無駄になるのを防ぐためAjaxプログラムの特別監査を実施しろ」と政府に要求しており、英下院(庶民院)の国防特別委員会で委員長を務めるトビアス・エルウッド議員(保守党)も「Ajaxの調達コストは1輌あたり700万ポンド/約10.7億円を越えており国防省は上限を設定すべきで、もし設定した上限を超過するならプログラムを廃止してボクサーなどの装輪装甲車導入に切り替えるべきだ」と主張しているためAjaxプログラムは徐々に追い詰められてきた。
NEW ARMY RECCE VEHICLE:
Cost now exceeding £7m per vehicle.
MOD should draw a line to resolve current issues, beyond which, the project should be scrapped.
Plan B could follow the US Marines’ example and move to a wheeled recce vehicle (with a Turret) such as BOXER. pic.twitter.com/gyvHgHLQWH
— Tobias Ellwood MP (@Tobias_Ellwood) June 30, 2021
エルウッド議員がプランBに挙げた装輪装甲車「ボクサー」は英陸軍が2022年から計523輌調達(4つのバリエーションで構成)する予定になっており、今のところ調達に向けた準備に躓きはないのでAjaxの代わりにボクサーの調達量を増やせという意味なのだが、これを実行すると不整地走破能力に優れる装甲車輌戦力は主力戦車のチャレンジャー2(アップグレードを受けてチャレンジャー3に生まれ変わる予定)と装甲兵員輸送車のFV430のみになるため戦力バランスに問題(Ajaxは輸送性に優れ緊急展開部隊で使用されているCVR/Tの後継なので装輪装甲車のボクサーで更新すると展開地域に制限がつく)が生じることになる。
さらにAjaxの開発と製造を請け負っている英国法人のジェネラル・ダイナミクスUKは多くの英国人労働者を雇用しているため、この辺りの問題を含めると簡単にプランBへ切り替えるという決断は出来ないと思われるがAjaxの調達スケジュールは本当に破綻しているので今後どのように議論が進んでいくのか全く予想がつかない。
まぁ国防省は今回のテスト中断を「一時的なもの」だと言っているので直ぐに修正が行われテストが再開されるかもしれないが、すでにAjaxの問題は議会に目をつけられているので「不具合は修正済みで何も問題はない」では切り抜けられないだろう。
関連記事:英陸軍の装甲戦闘車「Ajax」は健康な兵士を病人にする?ノイキャン機能のヘッドフォン必須?
関連記事:兵士を病気にさせる騒音問題が再発、英国は次期装甲戦闘車「Ajax」のテストを再び中断
※アイキャッチ画像の出典:Rheinmetall Defence / CC BY-SA 4.0 装輪装甲車「ボクサー」
元になったスペイン向けの車両では同じ問題は出てないんだろうか?
英国向けの改良で悪化した?
改良でなく改悪したんだよ(笑)
元になった奴の問題は調べてないけど、英国仕様への変更点を日本語含め調べてみなよ。自分は同じものだとは言えないと思う。
そのボクサー自体がFRESの一角からMIVに計画変更されての話なのでエイジャックスとボクサーのセットでCVR-tの後継は完結するもの。
なので単価10億超えてるエイジャックスを数減らしてボクサーの比率を高めろと議会が言い出すのも当然と言える。
搭載してるCTAIの発展型トーティタス砲塔は装輪向けのをVBCI2で搭載してるわけで無論ボクサーでも搭載可能だし元々そういう予定もあったと思う。
そもそも12tそこらのシミターmk2がここまでバケモンに至ったのはイラク統治戦の結果でもあるから、あれが終わって中露相手に装備体系が立ち返った今を考えるとFRESの予算削ってでもチャレ3整備優先しようぜって感もある。
騒音はヘッドホンで軽減できても、振動は構造が原因だったりするので、対策はなかなかでしょう。
意外と、ホルムアルデヒドみたいな化学物質だったりとか。
軍事じゃないけど、マツダはディーゼルエンジン特有のうるさい音をキャンセルする技術を開発したんですが、特定の周波数を減衰する振動子を追加する方法だったと思います。振動の計測とか大変だったようです。
改善のレベルを越えてるとは思いますが。
そのノウハウはイギリスに教えてやりたい案件だね
。今回の原因に気がついていても、大人の事情で知らん顔してる国ならばお先真っ暗だけど
乗員が耐えれない振動が出る時点で工業製品としてダメだろ。改悪したのかな。日本と次期装軌兵員車両を共同で作ればいいのに。
やる気のない生徒に何教えても無駄なのと一緒。イギリスじゃ陸軍なんて最初から菓子のオマケ程度の認識なんだろ。
騒音の原因なんてどのメーカーも使っている音カメラで視覚的に見つけられるはずだから…、本当はもっと別の問題点が有るのではと邪推してる。
紅茶を飲めないとか。
イギリスだし、「午後に静かに紅茶を飲めること」って、要求仕様にあるかもしれない。
難度が高そうだ。
カチューシャ 『こらぁぁぁぁー』
車両振動の原因は普通に考えたら重量配分のミスだろうなぁ…。
Ajaxの側面のごっつい追加装甲みたいなのって標準装備なんだろうか。プーマや10式みたいにどうしても必要な時だけ載せますってんなら分かるけど、スーパーパーシングみたいな車体規模に似合わない増加装甲つけるくらいなら最初からワンサイズ大きいベース車体を選べばいいのに。
多分ライセンス費用とかベース車体費用だけ見て決めたんだろうなぁ。議会による予算掌握はいいけど、素人に額面だけ見せて選ばせると時々こういうことになるのが怖い。
西側でより強力なIFV車体と言えばプーマだけどあれは特殊過ぎ高価すぎで端から対象外だったはず。
選択肢は事実上BAEのCV90とGDLSのアスコッドの二択だがベース車体自体が別に悪いとは思わない。
だが何れも90年代設計で精々30t限度なのに側面付加装甲はトレッド外に荷重掛けつつ40tで全速70kmってのはプーマと同等要求だな。
つまり始めからかなり無茶な計画なのはプーマがどうなってるか考えりゃ分かるしいよいよダメならプーマ買えって話じゃないかな。
議会が(軍事調達先方面で)ちゃんと仕事をする国は良いなぁ。
日本にも、軍事装備と資金配分をを良い方向にブラッシュアップさせるために全力で自民を攻撃する野党がいてほしいぜ。
なんでもかんでも調達中止の方向に頑張る野党じゃなくてさ。
ブラボゥ
馬鹿の考え休みに似たりと言う格言もあるので、意見を言う、行動する奴が有益とは限らん。
むしろ、有害なのも多い
そこはほら、なんでもかんでもJOINTさせようとしてこないだけマシと思うべきでは・・・
イギリスの工業力、韓国よりひどくね(禁句)
これが金欠を理由に生産を途絶えさせてしまった国の結末か
利息での生活と高い通貨価値。これが伝統ですからあの国。兵器なんて手下に作らせときゃいいって思ってそう。
装甲戦闘車両というとなんとなく戦車とかに比べて開発が簡単そうな印象を持っていたけど、プーマといいコレといい、実際にはなかなか難しいのねえ
タイフーンのユニオンジャック塗装はカッコ良いけど陸戦兵器はイマイチやね
防御力やFCS、BMS、攻撃力の能力が要求に満たないから大改造しているのだろうけれども、正直CV90かASCOD2の最新モデルをそのまま輸入 or 現地生産でよかったのではないか説。
英も米と同じですね
新規導入で折角だからと、あれもこれも追加してドボンするっていう
あまりにもコスト重視だとそもそも更新する意義がなくなってしまうので、要求される性能のハードルが上がっていくのはわかりますけど、誇大妄想的なスペックを要求してコケるケースが多すぎですね。
アメリカも国防予算の削減で、最近は兵器を更新しないケースが増えたので、メーカーも開発機会を逸し、技術力の低下が著しいのでしょうか。以前は控え目に応札して、度重なる設計変更して追加請求しても、支払われたと思われれますが、今は開発費が炎上すると、検査院や議会で 計画中止になり、量産に至らない。また軍も、調達失敗を恐れるあまりに他国製のライセンスしているケース多いような気がします。そう意味で言えば。最新型の現物を多数所有する日本は、輸出管理の問題もありますが、陸上装備は輸出出来そうな感じがします。
輸出しようにも、三菱重工の生産能力だけでは国内需要を満たすだけでギリギリなのではという観測が……
今は機動戦闘車の生産に全振りで、近い将来にはそれが共通装輪に振替になるから……(96WAPCは2015年年度以降調達なしなので)
トランスミッションがまずいんだろうね
コンベンショナルな機械式で戦闘車両動かすのむずかしいのは当然な話で
普通こういうヘビーデューティな機械式変速機が使われるのは
重機とかみたいなあまり変速が激しくない用途だし
一方農機みたいな加減速が頻繁に起きる用途だと無段変速が増えてきている
10式戦車はその無段変速だからエンジン回転数変動が少なく
音が静かだし機動力そのものも高い
結局基礎的なエンジニアリングをアップデートしないからこういうことになるんだな