諸事情で任期延長が繰り返されるNATOのストルテンベルグ事務総長は「これ以上の延長はない」と昨年述べていたが、NATOは4日「ストルテンベルグ事務総長の任期を2024年10月1日まで1年間延長することで合意した」と発表した。
参考:North Atlantic Council extends mandate of the NATO Secretary General
参考:Joe Biden blocked Ben Wallace from top Nato role after F-16 row
個人的には「ストルテンベルグ氏が渋々任期の延長を受け入れた」と思っている
ノルウェーの首相を約10年間も務めたストルテンベルグ氏は2014年にNATO事務総長として働き始め、加盟国トルコで勃発した軍事クーデターに対する対処、時代遅れだと批判してNATO離脱を公言したトランプ政権への対応、GPDの2.0%を国防に投資する目標導入、ロシア国境に近い東欧加盟国でのプレゼンス強化、即応体制の再確認など多くの課題に挑み、加盟国はストルテンベルグ氏の手腕を評価し任期延長で合意。

出典:NATO
さらに2022年2月にウクライナ侵攻が勃発したため、NATO加盟国はストルテンベルグ事務総長の任期を1年間延長することで再び合意したが、事務総長本人は「これ以上の任期延長を求める気はない=もう辞めたい(ノルウェー中央銀行の総裁職就任を考えている)」と述べたため、新しい事務総長候補に複数の人物が手を上げたものの「最有力候補のウォレス国防相が事務総長を引き継ぐ可能性が高い」と見られていた。
事務総長職への選出には選挙といったプロセスは存在せず、非公式な外交ルートによって次の事務総長に選出する人物の調整を行い、水面下で加盟国間の合意を形成するのだが、米国、英国、フランス、ドイツから信頼を得られる人物でなければならない。

出典:UK Ministry of Defence
要するに「英国人のウォレス国防相なら米仏独の承認を得られやすい」という意味なのだが、同氏は6月末「次の事務総長に就任する予定はない」と明かして選出プロセスからの撤退=立候補の取り下げを行っていたが、NATOは4日「ストルテンベルグ事務総長の任期を2024年10月1日まで1年延長することで加盟国は合意した」と発表、これを受けて英国のTelegraph紙は「米国の同意なしにウクライナへのF-16移転を進めたため、バイデン大統領はウォレス国防相の事務総長就任を阻止した」と報じている。
ウクライナは「F-16」ではなく「第4世代の西側製戦闘機」を要求したのだが、英国はタイフーン提供に予防線を設けるため「F-16に限定した戦闘機連合」を主導、政府の報道官は「タイフーンをウクライナに提供する気はないのか」と記者に質問されると「絶対に出さない」と述べており、さらに「英国はF-16を保有していないので機体をウクライナに提供する立場にない。我々は機体を提供する国の支援やウクライナ人パイロットの訓練に取り組む」と述べているものの、英国にはウクライナ人パイロットに訓練を行う能力も余裕もない。

出典:Steve Lynes/CC BY 2.0 Grob Prefect T1
英空軍はF-16を保有していないため旧ソ連製戦闘機の操縦資格をもつウクライナ人パイロットの機種転換に関われる要素が少なく、西側製戦闘機を操縦するための基本的な初級飛行訓練(Grob Prefect T1を使用したプログラム)を提供予定なのだが、ホークはエンジン問題のため運用状況が厳しく「約280人のパイロット候補生」が訓練の開始を待っているためジェット機操縦に必要な訓練提供は困難だ。
つまり英国が主導する戦闘機連合の取り組みは全て他国頼みで、バイデン大統領も「戦闘機連合に参加する」と表明した際「F-16を含む第4世代戦闘機でウクライナ人パイロットを訓練する取り組みを支援する=提供機種はF-16に限定された訳でははない→英国も機体を出せ」と述べ、英国が主導する戦闘機連合のあり方に不満を漏らしている。

出典:首相官邸
因みにTelegraph紙は「米国を動かすため英国が大胆な行動に出たのはF-16だけに留まらない」とも指摘しているため、政治的調整をスキップしたチャレンジー2提供のことを示唆している可能性が高く、ドイツからも恨まれていたかもしれない。
英国は西側製戦車提供に関する政治的な流れを作り出すためチャレンジー2(14輌)提供を発表、これが突破口となってエイブラムスとレオパルト2の提供=西側製戦車のウクライナ移転容認が実現したのだが、供給される西側製戦車の主体はレオパルト2とレオパルト1で、これを提供して運用・維持に不可欠なインフラ構築はドイツの肩に掛かっており、英国はチャレンジー2の追加提供は勿論「製造施設の閉鎖で交換用砲身を用意することすら困難だ」と報じられている始末だ。

出典:Photo by Staff Sgt. Brandon Ames
米独からすれば「スナク首相やウォレス国防相は何の相談もなく政治的な提供議論だけを主導して世論のスポットライトを浴びているが、提供や運用・維持に関する面倒毎は全部こっちに押し付けてくる」と感じているかもしれない。
少々話が脱線がストルテンベルグ事務総長は任期延長を望んでいなかったが、米国、英国、フランス、ドイツから信頼を得られる有力候補者が登場せず、ウクライナ侵攻への対処が求められる事務総長を未知数な候補者と交代させるのもリスクがあるため、個人的には「ストルテンベルグ氏が渋々任期の延長を受け入れた」と思っている。
追記:英国は8月からウクライナ人パイロットの初級飛行訓練(最大20人)を開始すると明かした。
関連記事:NATO軍事委員長、ウクライナは反攻作戦後に戦闘機を受け取るだろう
関連記事:英国はウクライナ人に訓練機会を提供するが、戦闘機を提供するつもりはない
関連記事:ウクライナに提供したチャレンジャー2やAS-90、交換用砲身がない?
関連記事:英国がウクライナにチャレンジャー2提供を伝達、ドイツとの政治的な駆け引き
※アイキャッチ画像の出典:NATO
イギリスはロシアに強硬姿勢を示し続けてきたし、イギリスからだと支援に及び腰な国が難色示しそうだな
ストルテンベルグ事務総長は火中の栗を拾わされたということかしら。
仕事ができる人に仕事は来るよね。
ウクライナ問題は他人事というイギリスの立ち位置が明確になる記事ですね
しかし、チャレンジャー2の交換砲身すらないとか、いくらなんでもそれはないだろと思う
ライフル砲を採用してるからほかの砲身を乗せるという事も難しいだろうし
こんな国と次期戦闘機の共同開発して大丈夫なのかと心配になる
日本も人のことが言えないぐらい防衛装備品はガラパゴス且つ調達数が少ない。
大丈夫だとは思わないが、これでほかが組んでくれる国もないだろう。
休戦なり停戦なりして装備再編になった時、チャレンジャー2をCRARRVに改造するのが一番だなと思えてきた。
主力戦車やF-16の提供がイギリスの行動により前に進んだ事は確かだ
その点については評価したい
それは事実なんだがアメリカあたりはそもそも出したくないものを、なし崩し的に提供している感があるからその”なし崩し”の切っ掛けになった(と思われる)イギリスを立てたくはないというだけの話。
評価は全く別の話。
流石のイギリスと言った所、ドイツは可哀そう、アメリカは自業自得だが
チャレンジャーがあまり前線に出てこないのにも何かありそうやな、それとも性能面か、車体正面を歩兵のミサイルで抜かれるぐらい貧弱でポンコツだし、海老(チャレ2)で鯛(レオ2、M1)を釣った感
あんまりお近づきになりたくない国やな
チャレンジャー2が貧弱でポンコツって何言ってるんだ?
装甲には定評がある戦車なんだが。
あまり適当なことを言わない方がいいよ。
やっぱイラクでRPG‐29に車体正面下部を貫かれたエピソードが強すぎるw
装甲追加されたけど、一度ついたイメージはなかなかね…
車体設計がチーフンの流用で、正面装甲の一部が複合装甲で無いのはご存じ?
多少は強化されてるだろうけど、レオパルド2と比べると圧倒的に格下よ
なんせRHA換算、750mmのRPG-29に正面抜かれるぐらいだからな、CEとKEの違いはあれど単純計算レオパルド2の120mmL55砲で正面を抜けるのはマジで貧弱、実質重たい東側戦車やで
戦車供与の先鋒を務めるという一番目立つところを持っていったくせにドイツに頼りきりで、自国供与の交換用砲身すら用意出来ないという始末。ついでにチャレンジャー2は鹵獲を恐れて激戦地には出すなという虫の良さ。ウクライナ侵攻の影響が薄いからと言って協調性が無い。勿論ウクライナを支援したいという気概はよく伝わるけどEU離脱の時みたいな他のヨーロッパ諸国とは違うムーブが目立つ気がする。
一番目立つところってのは別に良いことではないですよ
要するに外交的な負担を担ったということですから
チャレンジャー2の件は完全に能力不足ですな、本国にすら交換用砲身がないとか
しかし、東側ジェット戦闘機飛ばしてたパイロットの機種転換にレシプロ機の訓練から始めるものなんでしょうか…。
パイロットの戦死報告も相当ありますから、ほぼ消滅したウクライナ空軍再建にはパイロット養成から始めなければというスキームなのかもしれません。
一から育てようとすればまともなパイロット育成には3年以上はかかるはずですが…
ウクライナ軍パイロットが多数戦死しているとすれば、新規若しくは民間パイロットから育成する必要があるのでしょう。反転攻勢を成功させるほど大量のF16を送り込むとなれば、現在いるパイロットでは絶対足りないはずだ。しかし新規から戦闘機パイロットを育成すると訓練期間は最低2年以上はかかる。 NATOもこの戦争があと数年続く長期戦になると覚悟しているのかもしれない。
大量のF-16は送り込まれないと思うなあ。
旧式をかき集めて20機位がせいぜいでは。
機体の減価償却が進んでいても、運用体制の構築·維持にも莫大な費用が発生するしね。
まあ、イギリスはイギリスで出せる物(最近だとストームシャドウとか)は先陣切って出してはいますし、
周囲を巻き込む手腕も含めて、ウクライナ支援に前のめりな姿勢は感じます。
記事にある通り、イギリスは政治的・イデオロギー的には先導するのに、実務的な部分ではEU諸国・NATO諸国任せなのを隠そうともしないのでふざけんなと言われる訳です
イギリスはNATO諸国に亀裂を入れたいんじゃないかと邪推してしまいます
>イギリスは政治的・イデオロギー的には先導するのに、実務的な部分ではEU諸国・NATO諸国任せなのを隠そうともしない
こうしてみるとスネ夫みたいな奴だなイギリス…
これでイギリスが批判されるのも可哀そうな気がするぞ…。
戦車の供与も戦闘機の供与も最初はロシアとの関係やエスカレーションを恐れて誰も先陣を切りたがらなくて、そこをイギリスがロシアの矛先が自国に向くことを買って出てエスカレーションの壁を突破したのでは。だからこそ今公然とどの国も戦車や戦闘機の供与を提案出来るようになったはず。
今はもう供与が決まってしまったから実際の兵器提供や維持コストの負担に目が行ってるけど、最初は誰もが「自国が強力な西側兵器供与の先陣を切る」ということを嫌がってたのを忘れてる気が…。
最近ではストームシャドーも、他の国が長距離兵器の提供を怖がっている中で一番先陣を切って供与し始めて実際に大きな効果を上げてるし、今はATACMSが供与されるかもという段階まで来たのもこれまたイギリスが先陣を切ったからだと思う。
黙って支援すればいい話、先陣を切るのは良いがその時ドイツ、フランス批判を無かった事には出来ない。
挙句の果てに供与した戦車の予備砲身が殆ど残ってないですとか卑劣以外の何物でも無い、まさに口先紳士
そもそもウクライナ支援は自国の利害を鑑みて、出来る範囲でやるべきもの、それをロシア憎しのあまり
煽ったのだから批判されてしかるべきではないか?
軍事上必要な以外で黙って支援した国なんてあったかな
後でロシアにバレるほうが不味かろう
自国の直接利害のみで判断すべきことでも無い
先を見据えない古い兵器の処分場とはさんざん言われていること
タイフーン供与は半年前に絶対にないと明言したからそれがどうしたという話ではある。
チャレ戦車が交換砲身もないのはコレまでの経緯の結果であって出し惜しんでるわけではない。
陰謀論の類のにおいしかしない論調の出元辿ればロシア人にぶち当たるのと大差ないかな。