欧州関連

和平協定の行方、アルメニアがアゼルバイジャンとの首脳会談を発表

アルメニアとアゼルバイジャンは10月5日に首脳会談を行う予定で、アルメニア議会のシモニャン議長は「この会談は和平協定を締結する歴史的なチャンスだと考えている。そのために必要な道路や鉄道を建設しても構わないとさえ思っている」と述べた。

参考:Armenia parliament speaker not ruling out signing of peace treaty with Azerbaijan in Granada

アゼルバイジャンとの紛争を終わらせようとすればイランとの紛争に発展するかもしれない

アルメニア安全保障理事会は23日「10月5日にスペインのグラナダでパシニャン首相とアリエフ大統領が会談する。この会談で両国は和平協定締結について話し合う予定だ。フランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相、フォンデアライエン欧州委員長も協議に参加する」と、アルメニア議会のシモニャン議長も25日「個人的にアルメニアとアゼルバイジャンの立場は接近しており、(グラナダの会談は)和平協定を締結する歴史的なチャンスだと考えている。そのために必要な道路や鉄道を建設しても構わないとさえ思っている」と述べた。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

さらにシモニャン議長は「我々はグラナダで歴史的な一歩を踏み出したいと強く望んでいる。永遠の戦争は誰の助けにもならない」と付け加え、領土の相互承認や国境策定を含む和平協定を締結して「一刻も早くアゼルバイジャンとの紛争を終わらせたい」と訴えている。

シモニャン議長が言及した「道路や鉄道の建設」とはナヒチェヴァン自治共和国とアゼルバイジャン本領を繋ぐ交通手段=ザンゲズール回廊を示唆しており、これが和平協定の提供に不可欠である認識している現れといえるが、ザンゲズール回廊が実現するとトルコとアゼルバイジャンは検問なしの陸路で接続されるため南コーカサスの力学に大きな影響を与える可能性が高い。

出典:Hossein Razaqnejad/CC BY 4.0

イランは「検問がなくアゼルバイジャンとトルコが自由に行き来できるザンゲズール回廊は事実上の国境の変更だ」と、最高指導者ハメネイ師も「ザンゲズール回廊が設置されると非友好国のトルコとアゼルバイジャンに囲まれる」と難色を示し、ライシ大統領も最近「同地域の如何なる変化もイランのレッドラインを超える」と発言しているため、ザンゲズール回廊の実現は新たな紛争の火種になる恐れがある。

ただアゼルバイジャンもトルコも再三「2020年の停戦協定に含まれるザンゲズール回廊の実現」を迫っているため、この問題を棚上げしたままアルメニアとの和平協定に応じる可能性は低く、10月5日の会談でどのような結果が示されるのか注目したい。

関連記事:アゼルバイジャン大統領、不介入のアルメニアを評価し和平協定締結を示唆
関連記事:緊張が高まる南コーカサス、イラン大統領は如何なる変化も容認しない
関連記事:イランがアゼルバイジャンとの国境で大規模な軍事演習、焦点はザンゲズール回廊

 

※アイキャッチ画像の出典:Հայաստանի Հանրապետության վարչապետ

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コメント

    • class
    • 2023年 9月 25日

    >イランは「検問がなくアゼルバイジャンとトルコが自由に行き来できるザンゲズール回廊は事実上の国境の変更だ」

    アゼルバイジャンがザンゲズール回廊に拘るのってナヒチェバンと接続したいからだけだと思ってましたけど、
    世界地図を見てみたらナヒチェバンの一部がトルコと接しているからという理由もあったんですね
    だからザンゲズールはバクーとトルコが自由に繋がる上での唯一の障壁だったみたいです
    地政学って面白い

    17
      •  
      • 2023年 9月 26日

      さらにいえばタブリーズはアゼリー人にとっての京都でイラン北部はアゼリー人問題を抱えてる
      だから第一次ナゴルノカラバフ紛争の時はアゼルバイジャンはイランと敵対していたし、トルコの影響力拡大を嫌うロシアとイランにアルメニアは支援されていた

      1
        • 古銭
        • 2023年 9月 26日

        90年代の紛争においてアゼルバイジャンの対イラン関係が著しく悪化したのは、反露・反イラン・極度の親トルコで外交と戦局を決定的に悪化させたエルチベイ政権時のみでは。

        イランは国際法に基づく和平仲介を諦めたエルチベイ政権期ですら、アルメニアによる国境変更は認めないと声明を出しています。20年の紛争時もアルメニアに実効支配地域の放棄を勧めていました。
        ロシアもソ連時代はアゼルバイジャン側での軍事作戦まで実行していますし、それ以降も(エルチベイ政権時以外)アゼルバイジャン側か中立で、戦後の各種外交でもナゴルノ・カラバフ地域におけるアゼルバイジャンの主権をアルメニアに認めさせています。

        両国をアルメニア側とするのは特定時期のみを重く見過ぎていると思います。

        6
    • 古銭
    • 2023年 9月 25日

    アリエフ家の過去の外交を考慮すれば、回廊の設置によりナヒチェヴァンへの物資供給路としての役割及びアゼルバイジャンへの影響力が低下したイランを邪険に扱うようなことは無いでしょうが、イランとしては歓迎できないことに変わりないですからね。
    メグリ経由のガスパイプラインにも潜在的なものを含めた悪影響が多いですし、長期的に見ればエネルギー政策にまで不安要素を抱えることになるザンゲズル回廊をアルメニアが(履行まで含めて)受けれるのかどうかは非常に気になります。

    3
    • 無能
    • 2023年 9月 25日

    イランは回廊設置が本当に嫌で今後武力介入するのなら、何でナゴルノカラバフ紛争の時点で介入しなかったのか不思議
    アゼルバイジャンとアルメニアが和平締結した後じゃ介入のコストが段違いだろうに

    7
      • 古銭
      • 2023年 9月 25日

      アルメニア側が名実ともに不利なナゴルノ・カラバフ問題を名目に介入するのはリスクが大き過ぎるからではないかと。
      国内のアゼリー人問題や、アゼルバイジャンと関係が悪い訳ではないというのもありますし、そもそもイランも90年代の紛争を含めてナゴルノ・カラバフ地域問題でアルメニアに積極的に味方している訳ではないですからね。20年の紛争時でも放棄した方がいいとアルメニアに対して公言していますし。

      あくまでザンゲズル回廊だけが問題で、それはアルメニアが何度も合意した筈のナゴルノ・カラバフ地域における平和的解決を履行していれば強要されるようなものではありません。
      敗戦後の今であってもアルメニア本国への本格侵攻となると国際社会の反応は変わるため、突っぱねたり履行を放置しようと思えば出来なくもないものですし、ここだけ介入するというのは理にかなっているとは思います。

      14
      • れんちゃ
      • 2023年 9月 25日

      イランはアルメニアを使ってこの地域の南北を通ってるんだそうな。だからアゼルバイジャンがアルメニア南部を封鎖すると大変困るんだね。ちなみにイランはカスピ海での海上国境紛争でアゼルバイジャンと対立しているし、アゼルバイジャンがイスラエルとの国交を持っている事にも反発してるので…スムーズな関係ではないよ。
      アゼルバイジャンもイランがアルメニアと友好関係を結んで経済的に結びついている事を快く思っていない。

      そしてアゼルバイジャンは何よりトルコの盟友関係にあるので…世俗主義のトルコがこの区域で地続きとなり、更に勢力を強める事にも警戒感がある。
      アゼルバイジャン内の争いは正直どうでも良いかも知れないが、こっちの問題は完全に別だね。

      4
    • 名無し
    • 2023年 9月 25日

    つぎつぎと「ニャン」氏が登場して、ワイ、困惑するw

    30
      • 2023年 9月 25日

      「夕焼けにゃんにゃん」はアルメニア人だった…?(おっさん感

      3
      • たびたび
      • 2023年 9月 25日

      次に登場して欲しいのは一端ニャン
      お目汚し失礼しました

      3
    • ジュディ
    • 2023年 9月 25日

    アゼルバイジャンはイランに対して強気になれる要素がある
    イスラエルの後押しに加えて、イラン国内のアゼリー人の人口構成などが理由
    アゼルバイジャンとイランが揉めればこれ幸いとイスラエルが空爆を始める可能性すらある
    トルコに関しては現在とても良好
    しかし、アルメニアが弱体化したらずっと良好な関係でいられるかは不確定要素がある

    1
      • hiroさん
      • 2023年 9月 25日

      アゼルバイジャンのためにイスラエルがイランを空爆?
      イスラエルがそこまで愚かな国とは思えない。

      15
        • 匿名
        • 2023年 9月 26日

        イスラエルとイランの関係は元々最悪だから、アゼルバイジャンという大義名分で付け加えて攻撃することはありそう。
        どちらの国家も相手の国家認めていないから、イスラエルがトルコを味方にするための大義名分としては使える。アゼルバイジャン援護理由だとトルコはイスラエル攻めにくい。

    • 横田
    • 2023年 9月 25日

    ザンゲズール回廊に連絡線が作られるとイランが困る気持ちはわかるが
    あくまでもアルメニア領内で建設するならイランが口を出すのは内政干渉じゃないの?
    イランが言うべき相手はアゼルバイジャンであってアルメニアじゃないでしょう

    9
      • 名無し
      • 2023年 9月 25日

      いやなんでよ?
      外野のイランがアゼルバイジャンに言うのは完全に筋違いでしょ

      15
        • 2023年 9月 25日

        周辺国に影響力を行使出来る国が即ち大国と呼ばれるものです
        国力の増大競争負ければ自国の権益が侵されるのは古今東西変わらぬ原則です
        イランはこの地域に限れば大国と振る舞えるので地域大国と言えましょう

        自国内に引き篭もる事を「普通」と教育された今の日本人には理解出来ないでしょうが

        9
    • たむごん
    • 2023年 9月 25日

    アルメニアは、現実路線にシフトですか。
    南コーカサスは、アルメニアをパッシングする形で、主要パイプラインが敷設されているため、アルメニアに経済的な存在感はありません。

    アルメニアは外資の大型投資も、紛争地帯であるため、全く期待できないのが現状です。
    小国は、外交を丁寧に行っていく方が、長期的にも得策な事例ですね。

    11
      • 青年トルコ党
      • 2023年 9月 25日

      どこの国にも存在しますが国内の愛国的な過激派をどうコントロールできるかでしょうね。

      12
        • たむごん
        • 2023年 9月 25日

        青年トルコ党さんの仰る通りと思います。
        亡国に繋がらない事を願っています。

        3
    • 2023年 9月 25日

    ついにコーカサスの和平はロシア抜きで話し合われることになったか

    20
      • 名無し
      • 2023年 9月 26日

      かつての盟主ロシアでさえ今はこの程度の扱いなんだから、今さらイランが口先介入したところで何かが動くとは思えんな
      国境付近の環境が変わるのは嫌だろうが、そんなのもう後の祭りよ

      17
    • 名無し
    • 2023年 9月 25日

    いちおう、平和維持部隊が武装解除を行っているようですが、ロシアの影響力は微々たるものでしょうね。
    改修した武器弾薬はどこにいくのやら・・

    9
    • 今日は涼しかった
    • 2023年 9月 25日

    アルメニアはコストかかってもこの紛争を終結させて、次はNATO加入狙いかもな。

    5
    • 匿名
    • 2023年 9月 26日

    思えばアメリカが領土紛争を解決すれば後ろ盾になれるみたいな発言をしてたのはフラグだったな
    いい方向に進んでる気はするけど、トップ同士の話し合いだけで進んでいった場合だと反発する人間もいそうだから、
    それをまたロシアが利用しそう

    2
    • 匿名
    • 2023年 9月 26日

    重要っぽいコメントだからいいね押しといた

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