欧州関連

ポーランド下院がトゥスク氏を首相に選出、安全保障政策にも変化の可能性

ポーランド下院は賛成多数で市民連合を率いるトゥスク氏を首相に選出、早ければ13日に新政権がスタートする見込みだが、新政権に参加する野党側は「10月15日以降に退陣政権が下した全ての決定を監査する」と述べており、ここには退陣前に駆け足で締結した武器調達契約が含まれる。

参考:Donald Tusk: dziękuję Polsko, to jest naprawdę wspaniały dzień

野党側は「10月15日以降に退陣政権が下した全ての決定を監査する」と述べており、ここには駆け足で締結した調達契約も含まれる

10月に実施されたポーランドの選挙で「法と正義(PiS)」は最も多くの票を獲得したものの下院での過半数を失い、市民連合を率いるトゥスク党首は「PiSを権力の座から排除することに成功した。他の野党と協力して新政権を樹立する」と主張していたが、ドゥダ大統領は「選挙で最も多くの票を獲得した政党が『政権樹立の機会を得る』という議会の伝統を継承することにした」と表明してモラヴィエツキ首相に新政権の樹立を命じた。

出典:Serwis Rzeczypospolitej Polskiej

しかし、モラヴィエツキ政権は下院からの信任(266対190)を得ることができず、下院は248対201でトゥスク氏を首相に選出、早ければ13日に新政権がスタートする見込みらしい。

首相に選出されたトゥスク氏は「今日は本当に素晴らしい日で歴史的な決断をした全ての人々に感謝したい。さらにPiS所属議員にも感謝したい。貴方のお陰で何百万人もの人々を目覚めさせることに成功した。多くのポーランド人が10月15日に目を覚ましたのは、貴方達が我々だけでなく民主主義に対して行おうとしたことのお陰なのだ」と述べ、PiSのカチンスキ党首は「あなたの祖父母が誰なのか知らないが、1つだけ確かなのは貴方がドイツのエージェントだということだ(トゥスク氏がEUやドイツと共謀して国有企業を海外の投資家に売り飛ばそうとしているという選挙中の中傷キャンペーンに由来)」と罵った。

出典:Mariusz Błaszczak

因みに新政権に参加する野党側は「10月15日以降に退陣政権が下した全ての決定を監査する」と述べており、ここには10月26日にスウェーデン(コングスベルグ)と締結した約19億ドルのNSM関連契約、11月7日に英国(MBDA.UK)と締結した49億ドルを越えるCAMM-MR開発契約、12月5日に韓国(ハンファ)と締結した約26億ドルのK9A1/K9PL調達契約、12月8日にPGZと締結した約25億ドルのKrab調達契約などが含まれ、既に米ディフェンスメディアは「新政権が旧政権の安全保障に関する契約を見直して米国から欧州に乗り換えるかもしれない」と懸念している。

今のところトゥスク政権の方針は不明が「米国や韓国に偏った安全保障上の関係性」を欧州に戻す場合、既存の契約は勿論、空軍強化の最終ピースと言われている戦闘機の追加調達もF-15EXやKF-21ではなくタイフーンになる可能性があり、政権交代によって何が変わるのかに注目したい。

関連記事:ポーランド新政権の行方、ドゥダ大統領は法と正義に政権樹立を命じる
関連記事:ポーランドがCAMMを発注、前例のない技術移転で英国が19億ポンドの契約を獲得
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関連記事:ポーランド空軍の+α需要、産業協力を提示してタイフーン導入を提案か
関連記事:ポーランド最大の防衛産業企業、KF-21プログラムに参加することを希望

 

※アイキャッチ画像の出典:Klub Lewicy/Public Domain

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コメント

    • イメージパース
    • 2023年 12月 12日

    oryxブログによればポーランドなどがウクライナに供与されたAHSクラブやM109などの装軌式自走榴弾砲は全滅した
    損害が半数近い上に損傷以上の撃破が目立つ
    重い、地雷に弱い、トランスポーターが必要など苛烈な戦地ではカエサルの様な軽量の装輪式自走榴弾砲よりも損害が遥かに多かった
    この戦果より、ズザナやイスラエルのシグマ自走榴弾砲やRCH155の様な装甲装輪自走榴弾砲が今後の主力なのではないかと思う

    15
      • rbmw
      • 2023年 12月 12日

      PzH2000はウクライナで28両運用されていますが、現状は1両損傷しているだけですので、AHSクラブやM109は苛烈な戦闘に投入され続けて損耗しただけかと。
      地雷に弱いのは装輪式も同様で装輪式は装軌式に比べて軽装甲ですし、野外機動性は装軌式の方が上です。
      装輪式と装軌式は相互に補完する関係だと思いますので、装輪式自走砲が今後の主力になるかは未知数ですね。

      11
        • イメージパース
        • 2023年 12月 12日

        Pzh2000はかなり繊細、故障しやすいらしく積極的に戦場に出ていないとのこと
        逆にカエサルは快速性を活かしフレキシブルに運用されているようで損害は少ない
        地雷に関して言うとキャタピラ式は履帯を地雷で切断されると修理なしに自走困難になる
        タイヤ式なら車軸や車輪を地雷で一つ吹き飛ばされても自走して逃走可能
        地雷に強いと称される耐地雷・伏撃防護装甲車も全てタイヤ式
        装甲に関して言うとK9やAHSクラブは全周14ミリ機関銃に耐えられる程度で20ミリ以上の機関砲にも旧式な対戦車兵器にも耐えられない
        キャタピラ式の自走砲は戦車並の重量と図体が大きいために回収、牽引もタイヤ式より困難

        7
          • rbmw
          • 2023年 12月 13日

          耐地雷・伏撃防護装甲車と装輪式自走砲では耐地雷性能が異なると思います。
          装輪式自走砲は軽装甲なので対戦車地雷を踏んだら車体が破壊されるかと。
          装輪式は野外機動性能が装軌式より劣っているので、不整地で運用する際は装軌式の方が適しています。
          また、装軌式は全周式の密閉砲塔を搭載しているので、砲弾の破片が命中しても攻撃を継続することができます。
          K9自走砲は北朝鮮軍の砲弾・ロケット弾の破片が命中しても、砲兵は戦死せず反撃に参加できていました。
          装輪式は榴弾砲が外にあり砲兵も外に出て操作します。
          装輪式自走砲に砲弾の破片が命中したら即無力化される可能性が高いです。
          だから私は「装輪式と装軌式は相互に補完する関係」とコメントしました。

          1
            • rbmw
            • 2023年 12月 13日

            【追記】
            他に装輪式自走砲と装軌式自走砲の違いは搭載弾薬数ですね。
            カエサルの搭載弾薬数は18発ですがK9自走砲は48発搭載できます。
            継戦能力は装軌式自走砲の方が上ですので、装輪式自走砲の位置付けは牽引砲の後継兵器かと。

            1
    • ナノ猫
    • 2023年 12月 12日

    予想されたとおり、新政権樹立とほぼ同時に
    ポーランド警察がトラック業者による国境封鎖の解除をはじめました。
    リンク

    13
    • 無印
    • 2023年 12月 12日

    >追加調達もF-15EXやKF-21ではなくタイフーンになる可能性があり
    うーん、F-15EXとKF-21の方が戦力として高そうなのが…

    6
    • ido
    • 2023年 12月 12日

    これ見直すって言ってますがもし契約停止とかにする場合違約金が発生すると思うんです。既に締結した契約をそのまま続けるのか廃棄するのかどっちの方がいいんでしょうか。

    1
      • FF-X7
      • 2023年 12月 12日

      契約の内容とプロジェクトの進行度合いによりますね。

      オーストラリアの潜水艦みたいに遅れている上にしょうもない物しかできないなら破棄して違約金払った方が良いでしょう。

      今回のポーランドの件はプロジェクトが動き出すのはまだこれからみたいですし、契約内容に著しく不利な点があるとか、そもそもこの兵器役に立つのかとか、そういう点を検討するんじゃないですかね?

      個人的には継続したほうがよさそうに見えますがね…。

      2
      • ななし
      • 2023年 12月 12日

      違約金が発生すると契約書に書かれていればそうなるけど、書かれていなければポーランドは一銭も払わずに破棄できる。
      それとこの数十億ドルもの代金はどうも韓国が用意してポーランドに貸すという形になるそうだけど
      ところがその金を韓国側が用意するのに苦労してる状態なので(韓国の銀行は規模が小さいので資金調達が難しい)
      韓国としては契約が破棄されるのも続行されるのも大変なことには変わりはない状態みたいですね

      7
        • バーナーキング
        • 2023年 12月 13日

        >この数十億ドルもの代金はどうも韓国が用意してポーランドに貸すという形になるそうだけど
        ところがその金を韓国側が用意するのに苦労してる状態なので(韓国の銀行は規模が小さいので資金調達が難しい)

        それどころかこの報道通りなら「韓国側の瑕疵で契約履行ができない状態にある」様に見えるけど。
        「金を貸す」とは言っても装備購入のオフセットだから決して貸す側優位とは限らないんだよね。
        少なくともそれを理由に契約破棄されても文句は言えないかと。

    • 123
    • 2023年 12月 12日

    政治家ってストレス半端ないんだなと、サムネの写真の方々の毛量を見ながら改めて思った

    5
      • 匿名
      • 2023年 12月 12日

      また毛の話してる…😢

      11
      • Natto
      • 2023年 12月 12日

      髪の味噌汁

      1
      • トム
      • 2023年 12月 12日

      トランプ「せやろか?」

      1
    • DEEPBLUE
    • 2023年 12月 12日

    EU協調はともかくタイフーン?ラファールで良くない?

    3
      •  さ
      • 2023年 12月 12日

      性能などを考えるとおそらくそう
      ただラファールは注文が殺到していて今からだと順番待ちが長そうな感じが

      4
    • general
    • 2023年 12月 12日

    明らかに身の丈にあってない軍備増強もこれで止まるのかね
    法の支配と少数者の権利を軽視するロシア式統治が終わりそうで何より

    10
    • あばばばば
    • 2023年 12月 12日

    事業仕分けをするとしても、あのぐっちゃぐちゃな戦車配備状況はどうするのだろうか
    T-72系はウクライナにあげちゃったし、レオパルト2は老朽化しているけどまだ残っているし、韓国に無理言って緊急調達したK2とか、たぶんまだが試作車両がないK2PLとか、M1A1とM1A2の混在とか、イギリスからもらったチャレンジャー2とか

    K2PLを白紙にして、改めてコンペを開くようにするくらいか?

    6
    • たむごん
    • 2023年 12月 12日

    ウクライナは戦時中であり、非常に難しい局面が続きますが、上手に隣国関係の修復を行うべきですね。
    新政権が、外交的にどのような対応を行っていくのか、注目したいと思っています。

    インフレが続くと、政権の支持率は低下していき、政権交代が発生しやすくなります。
    外交力も、支持率低下・政権交代の可能性が高まれば、外国からの優先順位が下がっていきます。

    岸田首相が、外交に力を入れていますが、低支持率の政権ではお金を撒く以外に相手にされないでしょうね(外交のリーダーも忙しいため、そのうちいなくなる人に使う時間は勿体ないからです)。
    ポーランドの例を見ても、政権交代すれば大きい揺り戻しの可能性は常々ありますから、海外に税金・円借款などの国家資源を投入するのであれば検証が不可欠ですね。

    1
      •  
      • 2023年 12月 12日

      返済可能な支援を提示する日本と、返済不可能な支援を提示する中国では、ぱっと見だけでは中国のほうが魅力に見える
      そして返済不可能だって気づいてから日本に擦り寄ってくるいつものパターンですね
      モルディブとソロモン諸島がスリランカの仲間に加わるようです

      「もっと経済支援してくれそうな国に宗主国を変える」が政争になる国は信用できませんね
      スリランカもモルディブもソロモン諸島やウクライナも全部これです
      それまでの長年の支援なんて忘れてすぐ裏切る

      支援しないと中国の属国になる国って、どのみち支援額次第で中国になびく国なわけですから無駄としか思えない
      中国を上回る支援を永続的に続けるってのも非現実的だと思います
      経済支援の比較を政争にする国とは関わらないでいいのでは

      16
        • たむごん
        • 2023年 12月 12日

        仰る通りです。
        日本が困った時に助けてもらうために、海外援助という論理を、たまに見掛けるのですが…。

        日本の経済力は、相対的に激減しており(1995年17.6%→2020年5.3%)、いつまでも昔のような規模で喜捨(経済援助)を続けるのは不可能な訳です。
        外国の経済援助に頼る国は、汚職だらけの国が多く、独裁者や政治家がブクブク蓄財に励んでいる国が多いですから効果が小さいです。

        海外のライバルを育てて、日本の産業を地盤沈下させている事例が、あまりにも多すぎです(港湾・空港も非常に分かりやすい事例です)。
        日本は、日本国民のリターンに繋がる、国富に繋がるような使い方をもっと追求すべきでしたね…。

        日本政府は、国際平和という美名で誤魔化していますが、投資のやり方が本当に下手糞です。

        14
    •  さ
    • 2023年 12月 12日

    性能とかそういうのは置いておくとして、調達先が偏ってるのはあんまりよくないのも確かだしねぇ
    ポーランド自体は親西側路線ではあるにせよ、外交的に米と欧州の間での距離感とか政権時代で変わるだろうし
    韓国も政権次第ではあまりロシアを刺激しすぎるのは…ってなるかもしれないのだし

    3
    • 朴秀
    • 2023年 12月 12日

    ロシアが怖いのは分かるけど
    あの量の新型兵器を全て揃えて維持するのは国の規模からして無理があるのでは
    何割かはキャンセルじゃないかな

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