インド太平洋関連

オーストラリア、NH90の運用再開が絶望的なので退役予定を前倒し

オーストラリアは運用開始から間もないNH90について「2024年末までに退役させUH-60Mに切り替える」と発表していたが、マールズ国防相は29日「もうNH90は退役予定の2024年12月末まで飛ぶことはない」と述べて注目を集めている。

参考:Australian Defence Force MRH-90 Taipan helicopters involved in Whitsundays crash retired early

退役予定の2024年12月末までにNH90の運用を再開するのは不可能で、事実上の早期退役が決まる

オーストラリアは2005年、S-70A、UH-1H、シーキングMk.50Bを更新するためNHインダストリーズ製のNH90を発注したが、導入したNH90に幾つかの不具合が見つかったため最終運用能力の獲得は2014年から2019年にずれ込み、運用上の不満を解決するためキャビンの床やフロントガラスの補強、懸垂下降フック、ドアガンナーポジションなどを再設計するハメになる。

出典:Duan Zhu / CC BY 3.0 オーストラリア陸軍のNH90

さらにスペアパーツの入手性が悪いためNH90の稼働率は非常に低調で、2021年6月にはスペアパーツが不足して飛行停止に追い込まれるなど「同機に対する豪軍の評価」は非常に悪く、当時のダットン国防相は「NH90を早期退役させUH-60Mを導入する」と発表したため大きな驚きをもたらした。

導入したばかりのNH90は最低でも2037年まで運用が予定されていたため「機体の耐用年数」はたっぷり残っていたのだが、ダットン国防相は「耐用年数を残すNH90を捨ててUH-60Mに切り替えると豪州の納税者は2037年まで18億ドルを節約することができる」と訴えて「2024年末までにNH90を退役させる」と説明していたが、マールズ国防相は29日「もう退役予定の2024年12月末まで飛ぶことはない」と発表して注目を集めている。

出典:Public Domain

豪軍のNH90は7月の演習(タリスマン・セイバー)で墜落して乗組員4人が死亡、直ぐに運用が停止されて事故原因の調査が行われているものの、調査結果の取りまとめやNH90のリスク評価に時間がかかるため「退役予定の2024年12月末までにNH90の運用を再開するのは不可能」という意味で、議会も全面的な運用停止を支持して「UH-60Mへの切り替えが急務だ」と述べており、現地メディアは「NH90の早期退役が決まった」と報じているのが興味深い。

因みにノルウェーも2022年6月「どれだけ時間を費やし整備をしても、どれだけスペアパーツを購入してもNH90はノルウェー軍の要求要件を満たせない。NH90を返品するので支払った約50億クローネに利息を乗せて返せ」と発表、NHインダストリーズ側は「ノルウェー国防省の決定には失望した。NH90を返品するので受け取った代金を返還しろという要求に法的な根拠は存在しない」と反論しており、この問題を話し合いで解決するのか、それとも法廷に持ち込むのかは不明だ。

関連記事:豪軍が導入して日が浅いNH90退役を決断、後継機としてUH-60M導入を発表
関連記事:ノルウェー国防相、要件を満たさないNH90を返品するので支払った金を返せ

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain

ナゴルノ・カラバフ地域に住むアルメニア系住民の脱出、9万人を突破前のページ

サーブ、契約締結から約2ヶ月でポーランド空軍向けのAEW&Cを披露次のページ

関連記事

  1. インド太平洋関連

    韓米ミサイル指針改正に成功、韓国メディアは米国がICBM開発を容認したと評価

    韓国政府は28日、固体燃料を使用した衛星打ち上げ用民生ロケット開発に制…

  2. インド太平洋関連

    F-21はお蔵入り? インド、海外製戦闘機調達を国産戦闘機「テジャス」に変更か

    複数の海外メディアは15日、インドは海外製戦闘機調達プログラムを中止し…

  3. インド太平洋関連

    完成した機体の引き渡しはいつ? 韓国空軍の戦闘機KF-16アップグレード作業に遅れ発生か

    先月、韓国政府が戦闘機KF-16のアップグレード事業で数千億ウォンの被…

  4. インド太平洋関連

    国産UCAVの開発が完了した韓国、量産を開始して2025年までに実戦投入

    韓国の大韓航空は主翼の氷結問題を解決して国産UCAV「MUAV」の開発…

  5. インド太平洋関連

    英印が戦闘機の技術開発で協力、テンペストプログラムへの参加?

    インドを訪問した英国のジョンソン首相は「戦闘機関連の技術開発を含む安全…

  6. インド太平洋関連

    韓国を訪問したウクライナ大統領夫人、尹大統領と防空システムについて協議

    ウクライナ大統領夫人のオレナ・ゼレンスカ氏がアジア・リーダーシップ・コ…

コメント

    • MAT
    • 2023年 9月 30日

    この問題詳しくはないですが、オーストラリアの場合はアフターサービスのサプライチェーンの長さが問題にありそうですね。
    オーストラリアは確かティーガー戦闘ヘリも早期退役になってた筈ですし、米国兵器に転換は色々メリットがありそうです。
    NH-90はニュージーランドやドイツ、フランス、イタリア海軍でも使用されているので、そこらへんの運用状況も気になりますね。固有の問題なのか、普遍的なのか。

    一つ幸いだったのは、我が国の哨戒ヘリがこれにならなかった事ですかね。サイズや重量問題で脱落しましたが、これが採用されてたら同様の悩みを抱えてた可能性はあります。

    23
      • ユーリ
      • 2023年 9月 30日

      SH-60K開発時にサイズで脱落したのはEH101やS-92でNH-90はパワー面の問題だったようです

      3
        • MAT
        • 2023年 9月 30日

        ありがとうございます。
        やはり、記憶で書くと適当になってしまいます。

        S-92は背が高い印象があるので艦載よりは陸上向けかもしれませんね。

        1
      • hogehoge
      • 2023年 9月 30日

      採用国がパーツ供給要求したら納入までが年単位らしく、
      エアバスヘリコプターやレオナルドヘリコプターなど多国籍合弁企業であるNHIが仕事できないヤベーやつなんだと思われます。

      たぶん、ライセンス保有国は地元のエアバスやレオナルドに委託整備してるんでしょうけれど、外様はNHIを経由しなきゃならないとかそういうことな気がしますね。

      19
      • ともろう
      • 2023年 9月 30日

      哨戒ヘリではないが、CH-101は苦労しましたよ。
      ギアボックスが壊れた際には、受注生産のため修理に3年かかると言われた事例もあります。

      15
    • チェンバレン
    • 2023年 9月 30日

    UH-1、UH-60、AH-64、MH-53、V-22
    こうしてみると米軍のヘリラインナップ強いな
    運用実績つんで安定感がある

    28
    • ジュディ
    • 2023年 9月 30日

    カタログスペックは優れているが、実際には運用すると問題が多発
    アメリカ兵器はマネーパワーでこういった問題を回避しているらしい
    実際にはモノにより次第だが、運用上問題が起きてもアメリカマネーで解決可能な問題は多い
    ヨーロッパ製兵器の評判が実運用上カタログスペックほど釣り合わないことがあり、空自はKC46やベル製ヘリコプターなどを好むと聞いた気がする

    8
      • 牛丼チーズ
      • 2023年 9月 30日

      まぁKC-46に関しては問題が多いんですけどね…

      4
    • 名無し
    • 2023年 9月 30日

    NH-90で以前某軍事評論家がなんで日本はSH-60系を導入するんだ
    NH-90のほうが優れて安いじゃないか
    といつものように書かれていた記事がある

    NH-90の運用面とか丸で見ていなかった
    ヘリの着陸法がsh-60とNH-90で違うことも無視していた

    ヨーロッパの兵器はサポートが悪いからな
    自衛隊は嫌うよね

    32
      • ブルーピーコック
      • 2023年 9月 30日

      彼の中では自衛隊には戦車もステルス戦闘機も哨戒艦艇も必要ないらしいので、飛べないヘリが増えたところで「無駄金を使わずに済んだ」くらいの感想でしょう。

      まあ彼の一番の嘘はプロフィール欄の写真なんですけどね。いつまで若い頃の写真を貼ってるんだか。

      37
      • AH-X
      • 2023年 9月 30日

      彼はF-35の時もC型導入しろとか書いてましたね。
      運用経費とか知らねーのかよ、と思いました。

      12
    • ブルーピーコック
    • 2023年 9月 30日

    スウェーデン空軍もヘリコプターの稼働率が低いと主張して、18 年に購入した90機のHKP14(NH90)をブラックホークに置き換えたいとしているらしく、整備面などカタログに載らない部分に問題あるんだろうな。
    まあ『安全性・信頼性・整備性・実用性に重点を置いて設計され、自動操縦可能。複合材料製の胴体は耐腐食性も高くNBC兵器に対しても高い防御力を持ち、ステルス性も備える』とか見たら、清谷でなくとも「これを買うべき」と考える人は少なくないだろうし。

    27
    •  
    • 2023年 9月 30日

    F-3の未来にならなきゃいいんだがな

    2
      • ボブ3
      • 2023年 9月 30日

      西側兵器をDISりたいだけならここじゃなくても出来るし他所でやった方が共感得られると思うよ

      27
    • Bak.
    • 2023年 9月 30日

    ノルウェーにせよオーストラリアにせよ、検収してしまってるのがちょっと不思議。
    台湾の潜水艦も、引き渡しの前に海上試験するわけで…
    それとも仕様の時点で甘かったのだろうか。

    6
      • hoge
      • 2023年 9月 30日

      台湾の潜水艦なんか関係あるんすか?

      5
        • Bak.
        • 2023年 10月 01日

        受けとるのに試験するよね、実際には駄目なものを何で受け取ってるんだろう、という話。
        台湾の潜水艦なのは、同時期で確認しやすかったからです。

    • タイガー攻撃ヘリ返品
    • 2023年 9月 30日

    サポート体制の距離が近いNATO諸国へ売却すればよいのでは?
    と行きそうにならないノールウエーのゴタゴタ…

    9
    • はひふへ~ほ~
    • 2023年 9月 30日

    たしか1990年ぐらいには配備が開始している予定が冷戦崩壊を筆頭にトラブルなどなどでなかなか飛ばない、飛んでも新たなトラブルでなかなかものにならなかった機体だから驚くほどでもないのでは?
    イギリス軍もさっさと手を引いていたし。

    5
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  2. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP