インド太平洋関連

ドローンが変えた陸上戦、ウクライナでは戦場の一部から兵士が居なくなる

徘徊型弾薬、自爆型無人機、FPVドローンといった無人戦力は陸上戦の形を確実に変えつつあり、ポーランド軍から1万発の徘徊型弾薬を受注したWB GROUPは「ウクライナではドローンの役割が拡大し、前線の一部から兵士が居なくなった」「ドローンは多くの命を守る可能性を秘めている」と指摘した。

参考:Australia aims for rapid procurement of loitering munitions
参考:Poland, Romania lead a drone bonanza in Eastern Europe
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豪陸軍は2026年末までに国産の徘徊型弾薬調達=Mission Talon Strikeの勝者を決定する予定

従来型の対地ミサイルは「位置が判明した目標」を攻撃する兵器だが、ウクライナとロシアの戦争で大きな効果を挙げている徘徊型弾薬は「交戦空域を長時間徘徊し、視覚的に目標を捉えて攻撃できる能力」が特徴で、交戦空域を長時間徘徊というコンセプトは1980年代に敵防空網制圧向けのシステムとして登場したAGM-136、Delilah、Harpyに起源があると、現在のような対地攻撃能力が追加されたのは2010年代だと言われているが、正直なところ現行の徘徊型弾薬を誰が発明したのかは不明だ。

出典:Michael Barera/CC BY-SA 4.0

但し、この分野でTop Tierに君臨しているのは間違いなくイスラエルで、これに米国、イラン、ロシア、中国、トルコ、ポーランドなどが続くものの、徘徊型弾薬のハードウェアは比較的開発の難易度が低いため国産化を試みる国は非常に多く、ここにはオーストラリアも含まれている。

オーストラリアはウクライナでの教訓が反映されたSwitchblade300の最新バージョン=Block20を2024年に700機以上も発注したが、2023年に開始した「先進的な戦略能力の獲得加速」に関する広範囲な取り組みには「陸上部隊の短距離から長距離までの火力ギャップをカバーする強化された作戦能力の国内解決」が含まれ、豪陸軍は既に現地企業=InnovaeroとBAEが共同開発したOWL-Bのデモンストレーショを行い、Avalon2025ではOWL-Bの派生型=OWL-XとOWL-Aを発表して注目を集めている。

OWL-BOWL-XOWL-A
全長1.8m1.2m0.6m
翼幅1.8m0.6m0.4m
航続距離250km45km
滞空時間95分50分
最大離陸重量33kg15kg5kg
弾頭重量7kg1kg
推進方式電動式ターボジェット電動式

OWL-XのサイズはSwitchblade600やLancetに近いもののターボジェットを搭載している点が異なり、OWL-AはOWLシリーズの中で最も小型な徘徊型弾薬だがSwitchblade300よりも大きく、サイズ感的にはWarmateやHero-30に近く、OWL-Bに至ってHero-400クラスの大型な徘徊型弾薬だ。

出典:Australian Defence Force/Cpl Michael Currie

豪陸軍は2026年末までに国産の徘徊型弾薬調達=Mission Talon Strikeの勝者を決定する予定で、これにInnovaeroはOWLシリーズを提案する可能性が高いが、ポーランドが発表した徘徊型弾薬1万発の調達については興味深い追加情報が登場している。

ポーランド軍は今月16日「WB GROUPと国産徘徊型弾薬=Warmate購入の枠組み協定に署名した」「この枠組みは約1万発のWarmate購入を対象としている」と発表、このWarmateとは徘徊型弾薬という言葉すら存在していなかった2010年代にWB GROUPが開発したシステムで、ウクライナ侵攻が始まるから海外輸出に成功し、ウクライナとロシアの戦争、インドとパキスタンの紛争で実戦を経験している信頼性の高い徘徊型弾薬の1つだ。

Warmateも段階的な改良が加えられ複数のバージョンが存在するものの、Defense Newsは23日「ポーランド軍は1万発の徘徊型弾薬を2035年までに取得する計画だ」「Warmateシリーズには最近、射程が数百kmに拡張されたWarmate20、これを超える射程距離を備えたWarmate50が追加されている」と報じ、この新しいバージョンは昨年のMSPOで披露されたもので、Warmate20は弾頭重量20kg、Warmate50は弾頭重量50kgで到達範囲は最大1,000kmと言われており、サイズ感的にはHero-1250か自爆型無人機のShahed-136に近い。

さらに昨年のMSPOでは成形炸薬弾を搭載(センサーの取り付け位置が独特)したWARMATE-Z、偵察向けWarmate-Rの後継機=ベース機体をチューブ発射対応に変更したWarmate-TL/R、徘徊型弾薬としても使用可能な回転翼バージョンのX-Fronterも発表しており、WB GROUPも「ポーランド軍が今後調達する徘徊型弾薬には最新の開発バージョンが含まれる」と明かし、今回の枠組みも大きなWARMATE-Zが印刷された垂れ幕の前で署名されているため、今回調達する1万発のWarmateは従来品と異なる=ウクライナでの教訓を色濃く反映されたものになると強く示唆している。

出典:Serwis Rzeczypospolitej Polskiej

因みにウクライナ軍の無人機部隊やウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏は「人的損害を抑制するにはドローンの数を増やす以外に手はない」「ドローンの供給量が兵士の生存性を左右する」と訴えてきたが、ウクライナ軍も今年2月「無人機を最前線の作戦に統合するドローンラインプロジェクトを開始した」と発表、このプロジェクトは陸軍と国境警備隊の精鋭部隊におけるドローン使用を拡大し、10km~15kmの深さに「無傷で移動できない殺傷ゾーン」を作り出すことが目的だ。

つまりドローンラインを設定することで「前線維持に投入される歩兵の損失を軽減する」という意味なり、この取り組みについてロシア人ミルブロガーが運営するRYBARも2月段階で「既に前線では変化が観測されている」「ウクライナ軍のドローン使用が増加し、影響を及ぼす範囲も最大30kmの深さまで拡張されている」「これはドローンの戦術的・技術的特性が向上し、より遠距離の攻撃が可能になっていることを示している」「ウクライナ軍は組織の再編を進め、特に無人機部隊の近代化に力を入れており、敵が新たな無人機技術を開発しているようにロシアも同分野で発展を遂げて欲しい」と指摘。

WB GROUPもDefense Newsの取材に「もはやドローンは兵士にとって重要な保護手段となっている」「ウクライナとロシアの戦いでも前線の一部から兵士が居なくなり、ドローンが広大な領域を監視し、動くもの全てを攻撃する体制が整えられている」「兵士をドローンに置き換えて前線から遠ざければ遠ざけるほど人的損失のリスクを軽減することができる」「ドローンは多くの命を守る可能性を秘めており、この事実をポーランド軍は今まで以上に高く評価している」と述べているのが興味深い。

さらに米陸軍は「大規模な機械化部隊がFPVドローンにとって格好の標的である」という事実を受け入れ、第1旅団戦闘団はFPVドローンを使用する新戦術を大規模にテストする予定で、同旅団のアームストロング大佐は今月20日の会見で以下のように述べている。

出典:U.S. Army photos by Elena Baladelli

“FPVドローンを取り入れた部隊は「もっと規模の大きな部隊」よりも強力な効果を発揮すると考えている。現時点では我々の仮説に過ぎないが、これを明日の演習でテストするつもりだ。大半の旅団には電子戦小隊が1つしかないが、我々の旅団には2つ目の電子戦小隊が組み込まれており、敵の通信やドローン攻撃を妨害するのに役立つだろう。そして歩兵小隊の第3分隊が無人機部隊で、歩兵大隊レベルでは戦場に4つのFPVドローン部隊を投入できる”

第25歩兵師団も将来の戦場=インド太平洋地域特有の地形や気候で軍用車輌や無人機がどれだけ機能するのか調査を行っており、特に降雨量が多く険しい未舗装の地域ではハンヴィーやJLTVでの移動が困難になり、新しく導入するInfantry Squad Vehicles=M1301 ISVや電動式の手押し車=STEEDをテスト中だが、まだ密林の中をISVやSTEEDがどれだけの装備を運搬できるのか模索中で、湿度の高い環境が低高度を飛行する無人機のセンサーにどのような影響を及ぼすかも結論が出ていない。

出典:U.S. Army photos by Sgt. Collin Mackall

今のところ激しい雨の中でも無人機は飛行可能だが航続距離が短くなり、光学センサーは雨と湿度の影響を受けて一部の性能が低下、晴天時よりも偵察・監視能力が制限されると判明しているが、ウクライナ軍も「ドローンの性能は地域特有の条件に大きく左右されるため、ザポリージャ方面で効果的だったドローンのセッティングをドネツク方面に持ち込んだけでは機能しない」と述べていたため、作戦地域の天候や地形といった伝統的な条件を軽視すると酷い目に遭うのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Australian Defence Force/Cpl Michael Currie

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コメント

  • コメント (5)

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    • 2025年 5月 25日

    ナゴルノ・カラバフの時にこれからはドローン戦争の時代だってハッキリ分かってたのに
    本邦は「正規戦でドローンは通用しない」とか言って頬かむりして時間を空費したのが痛過ぎる

    4
      • 樺太庁
      • 2025年 5月 25日

      「ドローン」と一言でまとめているのは雑すぎるのでは無かろうか

      ナゴルノ・カラバフで大々的に投入されていたドローンは主に中高度滞空UAVのバイラクタルTB2くらいだが、開戦から4年目となり戦場を各種UAV、UGV、USV、UUVが埋め尽くしている現状のウクライナ戦争とでは種類も量も運用法も異次元であろう

      それを単に「ドローン」でまとめるのは「無敵!バイラクタルTB2」と言っているに等しいくらいの乱暴な主張に思う

      3
        • Xッター
        • 2025年 5月 25日

        日本の島嶼防衛を考えればむしろナゴルノ・カラバフ流のドローンの方が合ってる
        巡洋艦モスクワ撃沈の時もTB2の哨戒機能が役に立ってたし

        1
    • 無印
    • 2025年 5月 25日

    >10km~15kmの深さに「無傷で移動できない殺傷ゾーン」
    新種の地雷原って感じでしょうか
    ドローンの数があれば、ゾーンの構築撤収は簡単だけど、地雷ほどほったらかしには出来ないですが
    対人地雷を、面倒な思想のせいで廃止してしまった日本には、ドローンによるゾーンは対人地雷の代わりになりえるのかな…?

    3
      • ネコ歩き
      • 2025年 5月 25日

      地雷は被害を与える相手を選びませんが、徘徊型含め攻撃ドローンはオペレーターが選べます。
      だから自衛隊でも現防衛力整備計画期間中の装備化・部隊配備を前提に、海外製既存攻撃型ドローンのサンプル導入/評価試験を実施中なわけでして。

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